5.激動の公園
放心状態ながらも授業をやり通し、家に戻る事ができた。
「ブクブク……ふうっ。腹を括るしかないな」
桶に張った水へ顔を突っ込んでクールダウンし、ようやく冷静になり覚悟も決める事ができた。
直ぐ様、シャワーを浴びその後できるだけお洒落な服を用意した。
僕も男だ。先輩が意を決して呼んでくれたんだ。答えを伝える義務がある。
でも、髪は大丈夫かな?服に皺はないかな?
駄目だ駄目だ、弱気になっちゃ!
頬をバンバン叩き自分に活を入れてやる。
「あっ……そうだっ!」
頬を叩いたショックであることを思いついた。もしものために用意していた物がある。
少々荷物になるが持っていこう。この決断が僕の癖を変えてくれるかもしれない。
僕はそれを期待と共にバックに詰めて抱える。
そろそろ行かなくちゃ。ドアノブを握る力がどこか強めになる。深呼吸だ、心を整えろ。
意を決し僕は家を出た。
覚悟を決めた体は思いの他軽かった。早く公園に行きたい、その気持ちが僕を走らせた。いつぶりかな、こんなに走るのは。
2分もしない内に公園へ着いてしまった。
翠野先輩は来ているのだろうか。
僕は大木の方を覗いた。
そこには既に翠野先輩がいた。
だが
「誰だ?あの人たち?」
彼女一人では無かった。
「西高の子でしょ君?かわぃ~ねぇ~」
「こんな時間にどうしたの?いけない事かな?それなら俺らと楽しいことしようぜ!」
「ほら、ちょうど公衆トイレもあるし」
「きたねぇとこだけど美人な姉ちゃんいるからwinwinだな!ギャハハハハ!」
彼女をとり囲むように男が3人いた。発言に品もなく、見た目は粗暴。柄の悪い男達が翠野先輩に絡んでいるんだ。
翠野先輩は無言で俯いている。大人びた先輩だって女の子だ。あんな人たちに囲まれたら怖いに決まっている。
助けなくちゃ!
「やめてください!」
僕は彼等の前に阻まった。
「うおっ!ガキどこから来やがった!?瞬間移動か!?」
「先輩が怖がっています!」
「おっ、坊やこの子の彼氏?彼女の為にかっこいいねぇ~でもね……白けさせるんじゃねぇ!」
そう言うと男達は凶器を取り出した。
それぞれナイフに特殊警棒、スタンガンだ。
まさかこの人たちは、先輩が抵抗したらそれを使おうと……許せない!
でも、どうする?どうやって彼等を追い払おう。
僕も力で抵抗できれば良いが、多分できない。勝てる勝てないの前に、できないんだこんなときでさえ……自分の癖に腹が立つ。
せめて囮や盾になるしかない。僕はどうなってもいいから「『なにがなんでも翠野先輩はにがさないと』って考えてるでしょ?」
え?
僕は驚いた。翠野先輩が僕の考えていたことを一言一句読んでみせた。
そして、僕に向かい合い
「貴方は本当に優しいわね……」
「先輩……っ!?」
「っ……だからこそふさわしい」
「ぷはっ……はぁはぁ……」
キスをした。
何が起きたか一瞬分からなかった。彼女の妖艶な香りと心地よい暖かさ、豊潤な柔らかさを感じ我に帰った。
このキスは何かを確かめるような熱いキスだった。
彼女のこの行動に驚きよりも呆気にとられたと言ったほうがいい。憧れの人から貰った初めては嬉しさや高揚感に包まれたが、何故この状況でという疑問も混ざり心は大いに混沌とした。
彼女は僕にゆっくりと歩み出し、男達へ近づいていく。
「大胆だねぇ!俺達も交ぜてくれんのかい!」
そして先輩はナイフを持った男の前に。彼の顎に指を絡めていく。
僕にあんな事をした後に、なぜ男達の方に?
「ひゅ〜ノリノリだねぇ!」
「先輩?なんで?」
「ごめんなさい。緊張しちゃって私……喉からからで」
彼女は男の顎を鷲掴みに。
次の瞬間、男の頭から鮮血が吹き出した。