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4.波乱の後の幸運


 翌日。


「おい!お前んちの近所で事件があったって本当か!?」


「事件か事故かは分かんないけど災難だったよ」


 昨夜の事は直ぐ様学校で話題の一面を飾った。


「もしかしてお前が第一発見者か?怪我は無いのか?」


「手に臭いがついた位。怖かったよ」


「お前でさえ怖いってんなら相当だな」


「お前でさえってどういう意味だよ」


 あの後、初期消火をしたり事情聴取を受けたりと大忙しだった。軽く警察の人に話を聞けたけど、炎上した車の持ち主は特定できていないらしい。また、近辺で怪我をしたり死亡した人はいないため、あの現場にあった血液の主はわかっていない。


「南様は聞きましたか?この事件に裏があるって噂を」


 女子たちの周りでも話の中心となっているが、何やら尾ひれがついている様子。


「同時刻に近くの公園で人ならざる者がいたという目撃情報があって、なんでも全身が鋼の様にテカっていて両手が大きな刃物になった怪物がいるとか……ああ恐ろしい……南様の家の近所でもあるのでお気を付け下さい!」


「馬鹿ね〜酔っ払いの見間違いに決まってんじゃない」


「なによ!」


「ああ!?」


「まあまあ、有益な情報だありがとう。皆も心配してくれてありがとう。君達も下校の時は怪我なく気をつけて帰るんだよ」


「「「「はい!南様!」」」」


 今日も爽やかだ。影森さんも僕の家に比較的近い近所であるが、得体のしれない事件が起きているというのに動揺も見せずむしろ周りへの気配りもしている。凄いなぁ。


「光太郎君」


「影森さん」


 すると、影森さんが僕の所へ話しかけて来た。教室で久しぶりに声をかけられたので、少しびっくりしている。


「君の家の裏で起こったらしいね。大丈夫だったかい?怪我はない?」


「うん、僕には直接の危害は無かったよ」


「本当?本当に大丈夫?」


 すると影森さんが僕の手をギュッと握って来たのだ。そして心配した様子な目で僕を真っすぐ見つめている。ぐっ……なんだか照れるというか直視できない!


「本当に大丈夫!でも手がまだ鉄臭いからあんまり触ると臭い移っちゃうよ!」


「血の匂いだけ……大したことはないんだね。なら良かった……旧友の君に何かあったら私は悲しい。もし協力や相談できることがあったら言ってくれ」


「うん、ありがとう影森さん。君も近所だから気をつけて」


「うふふ……君は相変わらず優しいね。ありがとう光太郎君」


  そう言って彼女は笑顔を見せた。いつもの爽やかな微笑みではなくニコッとした可愛いらしい笑顔。彼女からこの笑顔はあまり見たことがない。その笑顔のお陰で僕の心が安心でほぐされた気がする。


 まあ、話し中羨望と妬みの混ざった取り巻きの視線が少し痛かったけど。


「影森に心配してもらえるなんてやるじゃないか」


 休み時間、廊下で陸斗と朝の話を振り返っていた。


「影森さんは誰にだって優しくて心配してくれるんだよ」


「でも手を握るわ、あんな笑顔をみせるわ。気があるように見えるけどなぁ」


「妄想飛躍し過ぎだよ」


 彼女は優しいからあれぐらいはする。とはいえ僕の手を握って確認する程心配してくれるとは思わなかったけど。

 

「北野君」


「あ、翠野先輩!」


「事故に巻き込まれたって聞いたわ。無事?」


 翠野先輩にまで心配して駆け寄ってもらえるなんて、今日はなんだか忙しいな。


「巻き込まれたというほどじゃないです」


「フフッなら良かったわ」


 今日も高校生離れした妖艶さが周りの男子を魅力しているのが分かる。


「怖くなかった?」


「っ!大丈夫……です」


 そんな彼女が僕の顔にズイッと自らの顔を近づけてきた。そして上目遣いで僕の顔を覗いている。


 改めて、凄い美人さんだ……近くてドキドキする……!


 それに凄く良い臭いがする……香水の臭いかな?。


「なら良かったわ。あと、貴方にお誘いがあって」


「と……言うと?」


「今日の昼休み一緒にlunch(お弁当)食べない?」


「え!僕は良いんですけど……」


 僕は陸斗の方を恐る恐る向いた。いつも昼食は彼と食べているんだけど。


「俺に構うな親友。楽しんでこい」


 僕に向かって笑顔でサムズアップしている。だがその額には青筋が立っていた。立っている親指も心なしか震えている。


 ごめんよ親友。


  そして昼休み。


 僕と翠野先輩は校舎屋上にいる。大きな敷地を持つ高校だが、ここは案外空いており僕らだけだった。


「わぁ!先輩のお弁当凄いですね」


 先輩の重箱のような漆塗りの弁当には高級感のある料理が沢山入っていた。


「美味しそうでしょ。はい、あーん」


「えっ!?あっ、あ〜ん」


 つい言われるがままにあーんと口を開けてしまった。


 多分ローストビーフかもしれないが、なんだかドキドキしてしまって味がわからない。


「美味しい?」


「お……美味しいです」


「やった!良かったわ」


 いつも知的なイメージの彼女が無邪気な笑顔で喜んでいる。これがギャップ萌ってやつか、破壊力抜群だ。


「貴方のお弁当も美味しそう。卵焼き一ついい?」


「いいですよ」


「じゃ、あーん」


「えっ?」


 翠野先輩は目を閉じ口を開けている。無防備な表情の彼女も初めて見る。


 僕もやれということなの?


「ほら早く。結構恥ずかしいのよ」


「は……はいっ!あっ……あ〜ん」


 僕は恐る恐るだが、彼女の口に卵焼きを入れてあげた。


「んっ……んん。好きよ」


「えっ!へえっ!?」


「この卵焼きの味。好み」


 びっくりしたぁ!


 てっきり僕に対しての好意的な言葉かと思った……自意識過剰だな僕。


 それからは、好きな音楽の話や贔屓してるプロ野球チームの話、よく行くラーメン屋の話など時折からかわれたりしながら沢山の話をした。


 お昼の時間を先輩と笑いを絶やさず、ゆっくりと過ごした。

 幸せな時間だ。


 弁当を食べ終わり、翠野先輩は真面目な表情で僕を見つめ


「北野君にお願いがあるの」


 藪から棒に切り出した。


「なんですか?もしかして入部の話?」


「いえ。別の話よ」


「別?一体何事です?」


 あまりに先程と違う表情に僕はどんな大事を彼女が切り出すのだろうと身構えた。


「ここで話すのは……夜の7時空いてる?来てほしい所があるの」


「空いてますけど、どこに?」


「貴方の家の近く、月陽公園。その大木の下」


「月陽公園の……大木!? それって!」


「待ってるわ」


 そうして先輩は弁当を纏め、先に階段を下って行った。


 僕の住む住宅地の近くにある月陽公園。そこは遊具が適度にあり花壇も整備されている普通の公園。しかし、そこにある一本の大木にはある言い伝えが錘関市に代々残されている。


 それは、この大木の下で思いを伝えた二人は


「永遠に一緒になれる……!」


 恋愛ゲームチックな迷信ではあるが、そこについてどうこう言うつもりはない。でも翠野先輩がわざわざそこに来いというのは……まさかのまさかの!


「こくは……!うわあああ!」


 いや!そんな訳!でも……うわあああ!


 誰もいない屋上で僕は混乱して転げまわった!


 あの翠野先輩が、僕に告白しようとしてるのか?ありえない!けど……!


 僕はそのまま悶え続けた。


「光太郎!だめだ、心ここに有らずだ」


「…………」


 陸斗の声も聞こえないほどに、それからは放心状態となった。背中に感じている視線もいつもと違ってチクタク痛かったけど今の僕にはなんともなかった。

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