37.臭いの出処
次の日の土曜日
僕らは待ち合わせし、調査を開始した。彼女な白のレースが着いたお嬢様ファッションを身に纏っている。非常に似合っているが今はお仕事モードだ。
「くん……くん……こっちだね」
「端からみたらすっごく面白いわ。犬ってより放課後に好きな子の所持品嗅ぐ男子みたい」
絵面的にはまさにその通りなのだが、そう言われると恥ずかしい。しかも街中で言われると視線が気になってくる。
「流さんあまり茶々入れられると恥ずかしいんだけど」
「冗談よ、あなたはワンちゃん。かわいいかわいいワンちゃんよ」
「そこを訂正されても……」
こんな調子でハンカチのにおいを追っている。
でも成果はありそうだ。鼻に感覚を集中させる。かすかにだが同じにおいが線のように続いている。それに沿って僕らは進んでいった。
「本当にこっちなの?街中だけどこの周囲に秘密の拠点なんて建てられないわよ?」
「案外ビルの一室とかだったりして」
「だったらたいした秘密の一族ね」
においを頼りに僕らがたどり着いたのはある高層ビルだ。
「おっきなビルだね〜」
「《スズカジュエリー》。女子の間では有名なアクセサリー会社ね」
名前だけなら聞いたことがある。高級ジュエリーや低価格のアクセサリーまで取り揃える大企業だ。なぜここからこのにおいが?。
「本当にここなの?」
「間違いないよ。しかもにおいは建物内からだよ」
「なら入ってみましょうか」
「え!? 流石に門前払いじゃないかな?」
「考えてたってしょうがない。もしここを隠れ蓑にしてるならもう逃げ場はないわ」
企業をバックにして行動しているって筋も考えられる。だったらスポンサーをなんとかして抑えれば包帯剣士も現れるだろう。
少し不安だけど彼女の後ろに着いていった。
「いらっしゃいませ」
身なりの綺麗な受付さんがお出迎えしてくれた。さてどうやってにおいのもとへ行こうか。
「…………お客様こちらへ」
「へ?」
「あら〜準備が良いですわね」
なんと僕らの顔を見るなり受付さんはエレベーターへ誘導する。なにも要件を言っていないのに。それにしても流さんのお姫様モードへの切り替えが早い。
僕ら二人はエレベーターに入った。
「社長がお待ちです」
受付さんはそう言い残し定位置へ戻っていった。問い返す前にエレベーターは閉まり社長室のある40階に向け上がった。
「なんか手際早いわね」
「なにか怪しいね」
「でもそのハンカチからのにおいでしょ? 」
「うん。包帯剣士から貰った物だから彼女のにおいのはずなんだけど……」
エレベーターが上に行くにつれにおいはより強くなる。おそらく最上階に彼はいるはず。
だがなぜ僕らが招待されているのだろう。
そして僕らの顔をわかるってことはどこかであっている可能性がある。流さんが目星がいるならその人かもしれない。
そうしているうちに最上階に着いた。
そして社長室の扉の前にたつ。
「来て早々大企業の社長さんに会うことってあるかしら?」
「でもこの扉の奥はにおいが強いから包帯剣士の手がかりはあるはずなんだ」
色々と疑問を流さんと話していると
「お入り下さい」
扉の奥から女性の声が聞こえた。声にしたがい僕らは扉を開ける。
「失礼します……」
「失礼しますわ〜」
そこには社長椅子に座った、女性がいた。若々しく見えるが30〜40代か、それ相応の年期が見える。
「お待ちしておりましたよ」
そう言って笑顔を見せた女社長は僕らを待っていた口振りを見せる。
「あ……貴方は一体」
「それはこちらの台詞です」
「へ?」
女社長は一転険しい顔となった。そして声に怒りを感じる。
「なにか……この短時間で失礼なことでもしましたか?」
「なぜアメリカの犬をつれてきたのですか……王!」
耳を疑う台詞とともに彼女は右手を僕らに向けた。そこから鋭い殺気を感じる!
「流さんしゃがんで!」
「言われなくとも!」
僕らはとっさにしゃがんで迫りくる殺気をかわした。その飛んできたものは……大きな円錐形の針。
これは包帯剣士を狙った針だ。
それにこの針……まさか。
「あなた……もしかしてだけど」
「う……うん」
「ハンカチのにおいじゃなくて、針のにおいを追ってたってこと?」
僕はばつの悪い顔をしながら、無言で頷いた。
「このっ馬鹿!」
「ごめんなさい!」
「私は鈴加!貴方たちは逃がさないわ! 《我々》の名に懸けて!」
味方を探すどころか敵の基地に突入してしまった。