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3.不穏な夜

 あっという間に昼休みになり、僕と陸斗は購買へ飲み物を買いに行った。


 まだ視線を感じる。学内だというのに。


「うぅ~何処から見てるんだろ?」


「それらしき人影はいないぞ。勘違いじゃないよな?」


「勘違いだったらこんな感覚は味わえないよ」


 勘違いでも被害妄想でもない。確かにこの生温かい感覚は僕の背中を支配している。


 ほら今なんかピタリと背中全体に引っ付かれる感覚が……。


「き・た・の・君」

 ふっ

「ひゃっ!」


 艶っぽい声に悪戯な吐息が僕の耳を襲い、情けない声が漏れてしまった。


 これは本物だ!


「み……翠野先輩!?」


「ふふっごめんなさい北野君。こんにちは」


 僕に後ろから話しかけてくれたのは、先輩の翠野さんだった。


「お取り込み中だったかしら?」


「友達と購買へ行こうかと。僕は弁当あるので飲み物を買いに」


「そう、なら残念。いつものカフェオレはもう無くなってたわよ」


「えっ!残念……」


「購買にはね。でもここには二本あります」


「あっズルい!いいなぁ」


「いいでしょ。あげる」

 

 翠野先輩は僕の好きなカフェオレを手渡してくれた。

 

「えっ良いんですか!?」


「そのかわり……ねぇあの事考えてくれた?」


「え……いややっぱり部活動はちょっと」


「あら残念。せっかくそれ渡したのに」


「えっ買収ですか!?」


「ふふっ、冗談。購買行ったらカフェオレが2つだけでね。無くなってたら可愛そうだから買っておいたの。迷惑かしら?」


「とんでもない、むしろなんか嬉しいな……遠慮なくいただきます」


「喜んで貰えて何より。それじゃね」


 翠野先輩が引き返して教室の方へ向う。だが数歩進んだ後僕の方へ振り返った。

 

 「貴方には才能と魅力がある。私と組めば絶対に退屈させない。だから考え直してくれた時は……いつでもWelcome(歓迎するわ)よ」


 そう僕に言い残して去っていった。


「買い被り過ぎだと思うけどな」


 僕が陸斗の方へ改めて顔を向けると


「おい……なぜお前が西高四大美女の一人に話しかけられてるんだ!ボン!キュッ!ボン!セクシーな翠野先輩から!」


 凄い勢いで捲し立てられた。

 

「いや……変な事じゃなくて、管弦楽部に勧誘されてるんだ!。少し前から!」


「しかもプレゼント貰ってたな!手を握ってもらってたなぁ!柔らかかったろ!チクショウ!」


  経緯を説明するも陸斗は凄い目で睨み付け、聞いてくれない。しかもこれを見ていた他の男子からも睨み付けられている。熱烈なファンを敵に回したようで背中へ突き刺さる視線がいくつも僕を貫いていく。


 翠野先輩は、長く美しい黒髪と影森さん以上のスタイルで男子人気がトップクラスの美人さんだ。おまけに管弦楽学部の部長で将来を期待されるバイオリニスト。


 僕の音楽の授業の様子を見ていたらしく、何処に目をつけたのかは知らないけど自身が所属する管弦楽部へ勧誘してくる。僕には才能があるだとか。でも部活はあまりしたくないので断っている。


 でも翠野先輩は粘り強く話しかけてくる。美人で優しい先輩だから断り続けるのも心痛いよ。


 あと心なしか、背中の視線も刺すように痛く感じる。ストーカーさんも怒らせてしまったのだろうか。


 この痛みを感じさせる視線は放課後まで続いた。


 放課後、帰りのホームルームを終え帰路に着く。陸斗は部活だから一緒ではない。


 帰り際に彼から「いいか!。危なかったらすぐ交番へはしれ!」と言われた。まるでお母さんみたいな心配されている。


 確かに今も視線を感じているが何が起きるでもないし大丈夫だろう。怪しい人影もないし、保育園帰りの親子しか見当たらないし。仲良くお話して長閑だなぁ。

 

「お母さん、あれなに?」


「あれはドローンていうのよ。でもこんなところで誰が飛ばしているのかしら」


「もしかして、公園にでるお化けの手下かな?」


「ふふっ、そうかもしれないわね」

 

 でもひとつだけ気になるものがある。それは僕の家の近所にある。


「あの黒い車……また止まってる」


 閑静な住宅街には不釣り合いな黒の高級セダンが停車している。最近ずっとだ。この辺りにはこんな高級車を乗り回す家庭はいないはずなのに。


 一応停車禁止のところなのだがレッカーされたところは見たことがない。


 明らかに怪しいため近所では、普通の一軒家をヤクザが隠れ蓑にしており警察は喧騒を避けるためレッカーしないと噂されてる。最近では、近頃多発している失踪事件に関与していると話が飛躍している。


 流石に僕もその説は支持していないが、確かに気になっている。とはいえ車に近づいて調べるなんて真似はできない。なんだか不気味で怖い。ストーカーさんの視線のほうが安心するまである。なので僕は素通りしてそのまま家に帰宅した。


 家の中まで来ればストーカーさんの視線もしない。


 それからは夜ご飯を食べてから、今はお風呂に入っている。


 温かいお湯に浸かっていると一日の疲れが溶け出すような感覚だ。この至福の一時に、ふと僕はストーカーさんの事について考えてみた。一体どんな人が僕を四六時中視ていたり、お世話してくれたりするんだろう。なぜ、そんな事をしようと考えたんだろう。良い人なのかな?、そもそも男なのか女なのか……。


 解決しない自問自答を抱えこのあと風呂から上がり服を着てベットに入って明日へ。それで僕の一日は終わり。

 そのはずだった。


 突然、浴室の窓ガラスが割れた。


「わああああ!なんだぁ!?」


 僕は咄嗟に飛び交う窓ガラスの破片を避け、怪我はない。


 でも何があったのか分からなかった。ガラスがわれた瞬間に衝撃のようなものが響いたのはまちがいない。


「外が……明るい!もしかして火事?」


 割れた窓を見ると外から赤くぼんやりとした光が立っているのがわかった。炎による光だと直ぐにわかった。窓の外側は道路だ。事故かもしれない。僕は確認しようと浴槽から出ようとした。その時に、ふと浴室を見ると見慣れない物があった。それをそっと拾い上げた。


「なにこれ?金属の部品かな?」


 見慣れない金属の塊だ。外から飛び入った物に違いないが、どんな物に使われているのか検討のつかない。切断面があって少し熱い。外の火事に関係あるのかも。その部品を握り、僕はガラスを踏まないように急いで浴室から出て服を纏った。そして炎が上がっている現場に駆け出した。


「これは……!あの黒い高級車!」


 なんと炎を上げていたのは近所に停車していた黒い高級車だ。黒く綺麗な車体はベコベコに凹み、火で溶けかかっていた。


「あの!誰かいますか!?返事してください!」


 もしかしたらまだ中に人が残されているかもしれない。僕は声を上げジリジリと近づいて行った。


 次の瞬間、車は爆発した。


 ガソリンタンクに引火したのか。


 僕はその熱風に押し倒され尻餅をついた。


 そのとき


「いたたっ、お尻が冷たい」


 ぴちゃん、と音がした。冷たい感覚も。水たまりに飛び込んでしまったのかも知れない。だけども、なんだか水の様子がおかしい。なんだかヌルヌルするような。まて、雨は近頃降っていない。ならこの水たまりは車から漏れ出したガソリンか?。


 確認するために、水を軽く手ですくってみた。


 すると炎に照らされて分かったその色は水やガソリンのような透き通った色ではなかった。


「真っ赤だ……これは……血!?」


 真っ赤であった。


 間違いなく、人間の血液だった。


 お巡りさんが到着するまで、僕は揺らめく炎と滴る血を呆然と見つめるしかなかった。

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