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九〇式軽戦車と多用途車両

ハ号のその後です。





年が明けて1931年。


去年から、世は〝昭和恐慌〟といわれる深刻な経済危機にある。

軍人などやっていると世の動きに疎くなりがちだが、新聞を見れば悲壮な話ばかりが目につく。なんとか回復してくれればいいが。




軽戦車は九〇式軽戦車と型番が割り付けられた。


〝九〇式〟と型番が割り付けられた兵器は他にも、九〇式野砲がある。


これはフランス製のM1897野砲の近代改修版とも言える日本軍向け野砲で、最初の三十門は既に受け取り済みで、それ以降は今年から国内でライセンス生産が始まる。


このモデルは、日本向けモデルそのままでは無いが、同様の改修版をフランス軍も採用したそうで、フランス軍に大量に配備されている第一次世界大戦型のこの野砲を、現在順次改修しているそうだ。


他にも臼砲やらフランスから砲身だけ買って来て作っているらしい列車砲の情報とか。前世と違って俺は軍人であり大砲屋でもあるから、色々と知る事が出来る立場にある。


大砲と言えば、俺が探して来たフランス製の105mmと155mm榴弾砲、それに155mm加農砲も恐らく今年か来年辺りにライセンス生産が始まる筈だ。


フランスで作られたそれらの日本向けモデルが、既に去年入って来ていて、二種の榴弾砲は部隊に先行配備が始まっている。

何処に配備されているかまでは知らないが、実際に使ってみた部隊でも好評と聞く。


ライセンス生産の武器が多いが、しかしながら我が国に開発能力がないのかというと勿論そんな事は無い。射程距離と炸薬量は劣るが、独自の150mm加農砲は八九式十五糎加農砲があるし、現在150mm榴弾砲も独自の物を開発中だ。


何故、二系統も持つのかはわからない。俺は命令通り探して来ただけで、なにをいつどれだけ揃えるのかを考えるのは別の部署だからな。


どうも今の時期に戦力を揃える必要があったのではないかと俺は見ている。



九〇式軽戦車は扱いやすいと評判が良く、俺が提示した、この車両の車体を多用途に活用する、というアイディアも受け入れられた。


それは良いのだが、105mm自走砲の砲弾搭載量が一般的な野砲陣地に置かれてある弾薬数に比べると少ないから何とかならないか、という陸軍上層部からの要望に対して、俺は自走砲用の砲弾運搬車として自走砲が牽引できるようなトレーラーを拵えたのだ。


それを陸軍が気に入り、戦車や戦闘車両には牽引用の装置を標準装備する事になったのだ。


つまり、戦闘時には切り離すが、行軍時は各車両がトレーラーを引く様にすれば、随伴させるトラックの数を減らせるではないか、という陸軍の思惑だ。


お陰で、軽戦車用の各種用途のトレーラーを沢山拵えることになった。まあ、どれも単に牽引するだけだから比較的構造が簡単で、それこそ町工場でも安価で作れるような代物も有る訳だが…。


極めつけは兵員輸送用ワゴン車だ。


乗車戦闘は勿論想定して居ないし、接敵の段階で原則切り離されるのだが、ドイツのモーゼル7.92mmライフル弾を防ぐ事の出来る装甲板を持ち、十名程乗車することが出来る。


歩兵が携行する装備も併せて載せることが出来るから、徒歩で行軍するよりは遥かに早く、しかも楽だろう。


だがライフル弾は兎も角、それ以上の威力の火器で攻撃されると、こんなワゴン車なんか簡単に破壊されてしまう。俺は、それならもうちょっとちゃんとした兵員輸送車を開発するからもう少し待ってほしい、と言ったのだが、それはそれで必要だが今はこれが必要だ、との返答だった。


結局、そのまま押し切られてしまった。


俺は想像したね。多種多様なトレーラーを牽引しながら荒野の一本道を行軍する、俺が作った軽戦車の列を。



六気筒ディーゼルエンジンの鋳鉄版の方は、当たり前だがやはりアルミ合金製のディーゼルエンジンより重量がある。熱の問題は思ったほどではなかったが、それでも鋳鉄製はアルミ合金製に比べて放熱性が劣るため、冷却装置を別に開発する必要があった。

これが空冷だと、もっと厳しかったかもしれない。


陸軍としては、俺が作ったディーゼルエンジンを非常に評価しているようで、いろんな車種に使いたいと考えているようだ。特に、この重たいがアルミニウムを使わない鋳鉄版の六気筒ディーゼルエンジンを活用したいようだ。


また、九〇式軽戦車の車体も使い勝手に優れており、その車体に鋳鉄製六気筒ディーゼルエンジンを搭載して、その重量増加分を軽戦車の砲塔などを省く事で最高速度の低下を補い、多用途車両として幅広く使って行きたい、と考えている様だ。


勿論、色々と開発したトレーラーもそのまま使えるし、色々と都合が良いのかもな。


この多用途車両を活用して、まだ我が軍には無いが、欧米諸国が配備を進めているような、例えば工兵用の様々な工作用具を組み込んだ専用車両とか、戦闘指揮車両とか、様々な用途の車両を現在調査研究中とのことだ。


そういう車両を我が軍に配備する検討がされていると言うことは、本格的な機甲部隊の創設を考えているのかもしれない。


いずれにせよ今年一杯は、これらの車両の開発や生産支援で手一杯になりそうだ。




1931年6月、俺が出していた本を読んだ若手将校らの希望で、週に一回都内で勉強会を開くことになった。参加者は殆どが尉官で最上位でも少佐だ。


俺はこの中から、将来の優秀な戦車指揮官が育てば良いなと、そのくらいの気持ちで受けたのだ。

実際この勉強会は、将来機甲部隊をどのように運用するかとか、どのような作戦を考えるかとか、そういう純粋な勉強会としての会合で終わることが殆どだった。


だがどうも、何処かで聞いて来た何ともきな臭い話を、俺の耳に入れようとする事がある。あくまでこんな話を小耳に挟んだとか、そういう程度の話ではあるのだが。


俺は確かに軍人だが、陸軍技術本部といういわば研究機関で研究と開発の仕事をやっている、いわば技官の立場の方が遥かに大きい。そんな俺に何かを期待しても無駄だと思うぞ。


どうにも、世の中が不況で不満が溜まっているのもあるのだろうが、今の軍はきな臭い様だ。




1931年9月、満州の柳条湖で爆発事件が起きた。




使い勝手の良さからユーティリティビーグルに化けました。

そして、満州事変勃発です。


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