オランダ軍のその後 新型中戦車 (改稿しました)
混成旅団の機械化再編成を進めていたオランダ軍も最後の旅団に手を付けました。
1939年4月上旬 吉林省扶余県郊外 オランダ軍駐屯地 ゴッドフリート中将
陸軍大臣閣下より与えられた任務である、六個旅団の混成旅団の機械化は当初どうなる事かと不安であったが既に最後の旅団の再編成中であり無事達成できそうな目途が立った。
危惧されていた歩兵連隊を機械化する上で危惧していた運転技術の習得に関しても、軍で自動車のライセンスが獲れるとなると、兵士達は意欲的で、カリキュラムを組んでしまえば、運転技術の優劣は兎も角全員にライセンスを取得させる事が出来た。
六月には最後の旅団の再編成も終わり、この旅団を送りだせば、本国に帰還する予定であったのだが、どうも雲行きが怪しくなってきたのだ。
外蒙赤軍及びソ連との国境紛争の頻度は前年の張鼓峰事件以来、満州国政府が安易な戦闘拡大は避けるべきであるが、万一衝突した場合は断固たる姿勢で必勝を期すと強硬路線を打ち出した結果、国境紛争は激化の一途を辿っている。
年が明けてまだ三月と少しだというのに、幸い大規模な物は発生していないが、満州国軍の国境警備隊のみで対処した事件まで含めれば早くも百にも届くという頻発ぶりだ。
我が軍が満州国国境警備隊の要請に応じて出動し対応する相手は担当軍管区の関係から外蒙赤軍である。
外蒙赤軍は当初は偵察部隊らしく騎馬部隊に装甲車で編制されていたが、今やソ連製の戦車を装備しトラックに乗車した機械化歩兵を随伴させた本格的な機械化部隊を配備するに至ったのか、兵力こそ小部隊であるが戦車を伴った機械化部隊が越境してくることもあり、我が軍が派遣した部隊と戦車戦になる事もある。
我が軍の装備するチェコ製の軽戦車であるTNH-Sは外蒙赤軍の装備するT-26と互角の火力と防御力を持つが、TNH-Sには半自動装填機能を持った戦車砲が搭載されており、主砲の発射速度が早い。それもあって今の所同戦力であっても我が軍の方がより少ない損傷数で敵部隊の撃退に成功している。
恐らく、機械化部隊を度々越境させているのは威力偵察であろう事を考えると、この先大規模な侵攻作戦があっても不思議では無かろう。
事実、防共協定の会合でソ連極東軍と外蒙赤軍の大幅な増強が報告されており、満州国政府も従来の一個旅団より更なる駐留軍の増派を要請してきており、本国政府も今満州にある二個旅団をそのまま本国に送らず、満州国に留め置いてこれに対応せよと命令が下る事になった。
先月の十六日、チェコスロバキアが事実上解体され消滅した。
我が軍の装備の多くはここ満州国で生産されたチェコのメーカー製の装備が多く無関係というわけにはいかない。
チェコ製の装備を多く採用した理由は他国では調達不能な性能の良い最新鋭の装備が格安で調達出来たからである。
調達価格を当初の想定よりかなり安価で調達出来た事により、一個旅団を編成する為に掛かる費用をかなり抑える事が出来たのだ。
この事は軍事予算増額に頭を悩ましていた本国政府を喜ばせる事になったのだが、まさか消滅してしまうとは…。
勿論、いきなり消滅したという訳ではなく、去年の三月にドイツによるズデーデン地方の割譲要求が端を発したのであるが、フランスもイギリスもヒトラーの硬軟織り交ぜた巧みな口車にのせられてドイツによる要求を認めてしまったのだ。
主権国家たるチェコの領土を大国とはいえ他国が勝手に領有を認めるという事態にチェコ政府の苦渋は想像を絶する。
これが認められた事に気を良くしたヒトラーはポーランドやハンガリーを巻き込み、まんまとチェコスロバキアという国を解体し、併呑してしまう事に成功したのだ。
ドイツの介入によって去年のオーストリアに続きチェコスロヴァキアまで消滅し、我が国が兵器を調達していた主要国が二つも無くなったのだ。
不幸中の幸いといって良いのか悩ましい所ではあるが、チェコが積極的に満州国や日本に進出していた事が幸いし、ドイツを忌避した企業は祖国が解体されている企業は生き残りを掛けて進出先の満洲や日本へと設備や人、資本を逃がした。
最終的に本社はドイツ企業に強制的に買収されてしまったが、その頃には満州国や日本で再出発を果した企業もあり、全てがドイツ企業の買収を受け入れ新たな本社の命令に従ったわけではなかった。
我が軍や日本軍に銃器を供給していたブルーノは日本に進出していたが、日本法人は日本の中央工業の資本を入れて日本企業として再出発を果す事になった。
その結果、ブルーノの日本工場は我が軍の他、日本軍、満州軍、中国軍など積極的に輸出をしていたが、引き続き供給を受ける事が出来る様になった。
満州でトラックや自動車の販売を行っていたタトラは本社の指示を受けて満州法人を米国企業に売却し、満州での営業を終えた。
チェコの最大手であったシュコダは満州国に工場を持っていたが、本社の指示を受けてドイツ企業として中国への輸出に力を入れる事になったらしい。
シュコダからは我が軍は火砲の供給を受けていた。
シュコダの担当者によれば当面は従来通り供給が可能との事だ。しかしながら、シュコダの担当者は今後はドイツ当局の指導を受ける立場になった為、先行きは不透明だと表情を曇らせていた。
火砲に関しては、幸いイタリア企業やフランス企業、スウェーデン企業からも提案を受けており、将来的に供給が受けられなくなる場合を想定し装備を見直す必要があるだろう。
既にドイツからは発注している装備がのらりくらりとはぐらかされて一向に届かないという事態が発生しいているのだ。
ドイツ企業の一部となった旧チェコ企業は以前の様に自由な企業活動が出来なくなってしまった事もあり、その殆どがドイツ企業として中国へと軸足を移し、中国へ移った企業も出た様だ。
チェコ企業の中で我が軍とブルーノと並び関りが強かったのが、軽戦車を調達しているCKDであるが、満州国に支社と工場立ち上げに訪れていたCKDを率いるエミールコルベンはユダヤ人であった為、ユダヤ人を弾圧しているドイツに解体されつつある祖国に危機感を感じてもはや戻る事叶わずと判断し、親族や満州国に行くことを希望する従業員を満州に呼び寄せ、併せて資本や設備の移動まで行った上で、満州国の企業として再出発する事になった。
満州国政府としては外国の技術力をもった有力な企業が満州国に来るという事で、大変な歓迎ぶりで色々な便宜を受ける事が出来た様だ。
当然ながら、CKDからは継続して装備を調達する事が可能だ。
従って、現在進行中の装甲とエンジンを強化するプログラムはそのまま予定通り進める事が出来そうである。
CKDといえば、去年の秋頃に以前の産業施設団が催していた展示会で展示していたV-8-H中戦車の流れをくむ新たな中戦車の提案があった。
以前展示会でみた見たV-8-Hとはガラリと印象が変わっていて、ここまで変わっていると実質新規開発と変わらないのではないか。
CKDの担当者に話を聞いたところ、以前のV-8-Hはチェコの国内メーカーが開発したコンポーネントを採用しており、今後調達が困難になるコンポーネントがいくつもあり、このままでは生産が不能だったというのが理由のようだ。
そこで、満州国で調達可能なコンポーネントに変更し、満州国での生産を可能にしたわけであるが、一番大きな変更点がエンジン、そして戦車砲だったとのこと。
元々搭載していたチェコのブラガが開発した230馬力エンジンが調達困難になった為、新たにエンジンを選定する事になった。しかしながらこのクラスで調達可能なエンジンがなかったため、調達が容易な米国資本の自動車工場が生産しているトラック用の150馬力エンジン、これを2台搭載して300馬力とすることとした。
これを搭載する為には車体を再設計する必要があったため、この機会にフランス戦車や日本の軽戦車などの車体形状を参考に、それ以前のフラットな形状から避弾経始が考慮された傾斜した前面装甲を持つ戦車へと変化していた。
全長は中戦車らしく6m弱もあり、TNH-S戦車の特徴にもなっていたリーフスプリング方式ボギー型の二枚ペア二組で4枚構成だった大型転輪は二つ増えて6枚に増えた。
そして、戦車砲もシュコダの47mm砲が今後調達困難になる事が予測されたため、日本で生産されているボフォース製47mm戦車砲へと変更した。
そうだ。
その結果、砲塔も再設計する必要が出てきたため、フランスの中戦車の砲塔形状を参考に新たに開発したとのことだ。
フランス戦車とというと一人乗りの小型砲塔が特徴だが、新たに設計した砲塔は車格にあったサイズになっており、こちらの方は二人用砲塔になっていた。
この中戦車に搭載する砲は日本軍の90式軽戦車に搭載されている戦車砲と同じ物とのことだ。
搭載している機銃は満州国で生産されているブルーノVz.37重機関銃であり、この機銃は日本陸軍が採用しているものだ。同軸機銃と車体機銃と二丁搭載されている。
搭乗員は戦車長兼砲手、装填手、操縦手、機銃手兼無線手の四名。
最大装甲厚は50mで、ソ連の45mm砲にも耐えられる様になっているとの事だ。
総重量は21トンで最高速度は48km/hと中々の快速ぶりだ。
CKDの説明ではCKDの新たな門出に相応しい意欲的な戦車であり、外蒙赤軍やソ連との戦闘データを基に性能を強化し拡張性を持たせた良い戦車になって居るとの事だ。
早速テストする事になった。
4月になってから戦車に関しては、以前より要望を出していたのだが、本国政府の交渉により日本よりハゴこと90式軽戦車が調達出来ることになった。
習熟訓練の為、日本の戦車学校で訓練を受けられることになったので早速戦車兵を送り込んだ。
90式軽戦車に搭乗した戦車兵の報告では性能は想像以上であると中々に高評価で、本国に動いてもらったかいがあった。
供給される90式軽戦車は我が軍向け仕様に改修された物で、これから半年掛けて百両ほどを調達する予定で、最初の20両が来月に引き渡される事になって居る。
去年からテスト中のCKDの新型中戦車より小型ではあるが、性能的には互角であり、火砲や装甲の強化を経てはいるそうだが、10年も前に開発された戦車だとはとても信じられない。
CKDの新型中戦車もテストの評価はまずまずであり、現在編成中の最後の旅団はCKDの新型中戦車とこの90式軽戦車を装備する事になるだろう。
CKDの新型中戦車はエンジンがネックになっていたらしく、採用が遅れた最大の理由だったそうです。それを信頼性の高いアメリカ製のトラック用のエンジンを連結して搭載した事で、大幅パワーアップの上、信頼性も高まることになりました。
とはいえ今のままだと戦車砲は47mm砲でT34ショック起こす程の性能はありません。




