水晶の夜
ユダヤ人に対する迫害が本格化した事件が発生します。
1938年11月上旬頃からドイツで反ユダヤ主義暴動が発生し、ユダヤ人の住む住宅地や商店、ユダヤ教の宗教施設などが次々と襲撃されたり放火されたりした様だ。
以前からユダヤ人排斥の傾向はみられ、既にドイツの勢力圏から離脱するユダヤ人も出ていたと新聞で読んでいたが、今度の事件は決定的だった様だ。
あくまで、ドイツの民間人による暴動という事になって居るが、ナチが裏で仕組んだ可能性があるとも言われている。
この事件の問題点は民間人の暴動という事ではなく、ドイツの官憲や政府が暴動を止める事もなく目の前の明らかな犯罪を放置したという事だ。
つまり、ドイツ国民である筈のユダヤ系ドイツ人はもはやドイツの法では守られない。
今後、白昼堂々と暴行を受けようと店に強盗に入られようと、官憲は見て見ぬふりをする。そんな光景がドイツの日常となるという事だ。
今のドイツに並ぶ反ユダヤ主義国家というとポーランドであるが、ポーランド政府は先月全てのポーランド旅券に対して検査済みの認印が必要であるとする新しい旅券法を布告した。
これはどういうとかというと、外国に住むポーランド系ユダヤ人の旅券と国籍が無効とされるという事だ。
つまり、ユダヤ人に対する露骨な迫害を行っているドイツから国籍のあるポーランドへ帰国しようにも、もはやポーランドへは帰国出来ないという事だ。
この決定にドイツ政府は歓迎に意思を示し、ポーランド系ユダヤ人に対しポーランドへの帰国を禁じ、旅券無しの無国籍者として国外へ退去する様に命じた。
行き場を失ったユダヤ人たちや、ドイツでの生活に限界を感じ国外脱出をはじめたユダヤ人たちはある者は伝手を頼ってオランダやスウェーデンなどの隣国に退避するか、バルフォア宣言以降シオニスト運動とユダヤ人の故地である中東パレスチナの地への帰還運動にしたがってパレスチナの地へと行くかという選択肢の他、移民の国とも言えるアメリカへの移住、或いは移民を積極的に受け入れている中南米へと移住するといった道があったが、それらはビザが必要であったり、厳しい審査があったり、或いはパレスチナの様に大規模なアラブ人暴動の最中であったりと国外脱出を果しても受け入れて貰えず立ち往生したり戦火に巻き込まれる可能性があった。
そんな中、人道的見地より我が国と満州国はビザ無しでの受け入れを表明し、到底渡航希望者の人数には足りないが、ユダヤ人受け入れの為に船を出した事が国際社会で評価されるに至った。
実際のところは、満州国は教育水準が高く西欧流のビジネスに長けた人材を纏めて手に入れたかったという事情があったし、我が国もかつて日露戦争の時にユダヤ資本に助けられたという経緯もあり、彼らの力を取り入れたかったという下心があった訳だが…。
特に、日本への移住を希望するユダヤ人は多く、その理由は日ユ同祖論、つまりは日本人はかつてイスラエルの地を追われた古代ユダヤ人の末裔だという説だが、どうせ移り住むなら遠い親戚が沢山住んでいる政情の安定した国が良いという事らしい。
日ユ同祖論の真偽について俺は正直眉唾じゃないかとも感じるのだが、ユダヤ人の有効活用を主張する軍人などが以前から居たのは確かだ。
しかしながら、言葉も通じずビザ無し旅券無しの言ってしまえば氏素性も知れないユダヤ人が直ちに日本国内を自由に行動する事を認める事は治安上も許容できる訳もなく、日本が受け入れたユダヤ人は科学者や技術者などの知識人や企業家以外は一律南樺太へと送られた。
勿論、なんの支援も無く裸で放り出す様なせず、日本の在留許可証を得た後は、南樺太内であれば自由に行動が出来るし、当面は生活の面倒を見る他、新たな居留地の建設の手助けも行われる。
いずれ日本語での会話が不自由なく、日本国内に生活基盤を築き身を落ち着けたる後は、日本国内への移動も段階的に許可されていくのではないか。
ある意味彼らは新たな国民であると同時に欧米社会、特に米国社会で影響力を持つ、ユダヤ人コミュニティに影響力を及ぼす為の客であるから、疎かに扱う訳にはいかないのだ。
12月に入ってから、中国での戦争を取材していた米国の新聞社が中国特集を掲載した。
その記事を手に入れたので早速読んでみたのだが、中国は中々大変な様だ。
中国共産党軍と上海租界に権益を持つ欧米列強軍との戦闘が続く上海は、既に民間人は租界から脱出し、現地には政府や官憲、軍関係者しか残っておらず、写真に写るかつての華やいだ街並みは今や瓦礫だ。
欧米列強は上海に部隊を増派しているみたいだが、今の所守備に徹している様で、波状的に数にものをいわせて攻勢を掛けてくる共産党軍を撃退しても、内陸まで追撃するという事はしていない様だ。
共産党軍を叩くのは中華民国軍の仕事という事なのだが、一向に共産党軍の攻勢が止まない様だな。
しかし、いくら中国が広いからといって、中華民国の敵である共産党軍が行動の自由を得ているどころか、軍備を増強しているというのはどういうことなのであろうか。
国民党軍の主力は、夏ごろから中国共産党の首脳陣が立て篭もっているらしい、延安を攻めているのだが、未だ陥落していない。
中国共産党軍は延安に大規模な要塞陣地を築いているのだが、その堅牢さから恐らく共産党側もソ連から有能な軍事顧問団を受け入れていると思われる。
国民党軍も、ドイツから軍事顧問を招聘し、ドイツ製の兵器を多数揃え、格段に軍事力を整えた筈であり、この要塞陣地に当たる迄はこれ迄とは比較にならない程の快進撃だったと聞くが、ソ連からの援助は相当な物の様だ。
新聞にはそこ迄の記事は載っていなかったが、軍の会合で聞いた話だと、蒋介石というのは中国人に人気のある政治家という訳でなく、必要があれば民間人を巻き込むような事も平気でやるらしい。
その為、国民党政府の民政を担う汪兆銘の方が腐心して国民の不満を抑え込んでいる様だがそれも都市部に限られ内陸の村落部まで行き届いてはいないとも聞く。
つまり、中華民国政府は中国全土を完全に掌握している訳ではなく、その支配が及んでいるのは都市部だけという事なのかもしれないな。
これが共産党軍が自由に行動出来ている理由であろう。
汪兆銘は知日派として知られる人物で、日本とも関り深い人物だが、愛国者であり共産党の危険性を早くから認識していた人物でもあり中々の人物なのだが、1935年に共産党シンパだと思われる人物に暗殺されかかった事がある。
その後も幾度となく狙われている様だが、共産党の浸透力は相当なものだ。
1938年12月頃から中華民国から再度の要請を受けたアメリカが重爆撃機による爆撃を再開した。
目標は延安の他、上海に攻勢を掛けてきている共産党軍の拠点の様だ。これで共産党が大人しくなると良いが。
アメリカの新型重爆撃機の写真を見たが四発の巨大な爆撃機であり、ソ連の巨人機に勝るとも劣らない。
我軍が開発中の重爆撃機と並べたら大人と子供ほどの差があるだろう。
まだ十機程度での爆撃の様だが、対空砲の有効射程の上を悠々と飛んで帰ってこれるという話であり、本当の話ならたいした性能だ。
史実と異なり上海は戦場となって瓦礫化しており、とてもユダヤ人を受け入れることはできません。
人材の欲しい満州とユダヤ人の影響力を取り込みたい日本がユダヤ人を囲い込みにかかった結果、ドイツ系ポーランド系のユダヤ人がそれなりの人数、日本に移り住むことになりました。




