新型戦車試作車完成
開発中の新型戦車の試作車両が完成です。
1938年9月上旬、開発中の新型戦車の試作車両が完成した。
従来の戦車とは比較にならない大きさの砲塔を載せた先進的で未来の世界からやって来た様な独特のフォルムは見るものすべてを圧倒した。
決戦兵器と位置付けられたハ号戦車の時も驚きをもって受け止められたが、今度の新型戦車もまた軍関係者が一目で惚れ込みこれこそ決戦兵器であると、そう認める程の賞賛を受けた。
俺が直接関わる戦車はこれで最後になるかもしれないが、最後に良い仕事が出来たのではないだろうか。
この新型戦車であるが、高い防御力と機動力を兼ね備え、高次元にバランスがとれた戦車であるが、八十九式戦車改と搭載する砲が同じであり、この部分だけは些か物足りなさがある。
恐らく現時点で最強の戦車であろうと自負するが、ソ連やドイツの事を考えると、前面装甲が100mmを超え、それに見合う主砲を備えた戦車を既に開発中であっても何の不思議でも無い。
近年経済成長著しい我が国であるが、ソ連の様に戦車を使い捨てにする様な用兵をしては国が傾いてしまう。
何しろ高価な代物だ。我が軍の軍馬としてよく働いてくれていると思うハ号戦車がこの戦車一両で何両も揃える事が出来るのだ。そう簡単にやられてしまっては困るのだ。
そう考えれば、この戦車の防御力に見合う火砲となると、やはり75mmではなく、もう一ランク上の砲が必要だろう。
そして、この戦車の砲塔はそれを十分に搭載できるだけの余裕がある。
こうして新たな戦車砲の選定に入った訳だが…。
75mmの一ランク上となると90mmクラスかそれ以上となる。
そのクラスの火砲は我が陸軍には適当な火砲が無く、海軍の物は大きく重すぎて新型戦車の戦車砲に転用できそうなものは無い。
ハ号改の75mm戦車砲の供給元のボフォース社に問い合わせてみたが、条件に合い転用可能な火砲は無く、スケールアップするにしても実質的に新規開発になる為時間が掛かる事が予想され、またコストも掛かる為調達費用も跳ね上がるだろうという話であった。
我が軍がボフォース社より調達している75mm高射砲は実はドイツが採用しているクルップ社製の88mm高射砲の原型であるらしく、これを開発したチームの多くは既にドイツのクルップ社に戻り、ドイツで88mm高射砲を完成させドイツ軍に提案したらしい。
確かにドイツ軍の88mm高射砲であれば、性能的に75mm高射砲をスケールアップした物と考えれば、要求仕様に適合するし既にある物だから新規に開発するよりはコストを抑える事が出来そうであるが、現在我が国とドイツはお世辞にも友好関係とはいえない。
ところがだ、思わぬところから戦車砲に流用できそうな高射砲の売り込みがあった。
高射砲を売り込んできたのはイタリアのアンサルド社だった。
アンサルド社といえば、イタリアの有名な機械製造会社であり重工業に強い所であるが、満州国に製鉄施設や鐵工所を建設し、機関車や鉄道レールなどを製造供給する傍ら、軍用艦の売り込みにこそ失敗したが軍重企業として満州軍に歩兵砲を採用されたり、ソ満国境に建設している要塞に要塞砲を納入したりと満州国でも知名度を獲得している企業だ。
その、アンサルド社が我が国の装備に90mmクラスの高射砲が無い事に気が付いたのか、本国で開発中だった新型の90mm高射砲を売り込みに来たのだ。
評価用の試作品は急げば来春には日本に持ち込めるとの事で、満州国に火砲の製造施設も建設した為、満州国からの供給も可能であるし、希望すればライセンス生産も認めるとの事だ。
ライセンス生産を我が国でした場合の技術供与もしてくれる様で、我が軍としては渡りに船という訳だ。
アンサルド社の営業はクルップの88mm砲よりも性能が良い筈だと、胸を張るが果たしてどうなんだろうな。
ただ、概算だがコストはボフォースが提示した新規開発による価格よりははるかに安く、我が国でもライセンス生産に技術供与も受けられるとなると、真剣に導入を検討せねばなるまい。
ボフォースにはどうせ期間を掛けて新規開発するならば、その次。105mm砲クラスで貫徹力が1000mで弾着角60度で200mmを超えるような戦車砲を開発して欲しい物だ。
ただ、恐らくすぐには出てこないだろうがいずれ遠からずドイツやフランス、それにイギリスやソ連が開発して出してくるだろうし、我が国だって彼らほどの技術的蓄積は無いが火砲の開発能力はそれなりにある。
予算が下りるなら我が国で他国が度肝を抜く様な性能の火砲を作って見せるというのも面白いかもしれぬ。
だが現実問題、軍事予算の問題は重要でありどこにカネをかけるかというのは重要だ。
そうなると、例えば戦車となると車体は流石に自前で作らねば完成品を輸入するなりライセンス生産するしかなくなる、そしてエンジンに関しては自国でそれなりに技術蓄積が無ければライセンス生産は勿論、維持運用すら困難となる。
それで、俺が戦車に関しては前世と今世の二度の人生で培った知識とノウハウを注ぎ込んでディーゼルエンジンを独自開発したのだ。
ディーゼルエンジンに関しては今は未だ輸出したり民生利用していない為、あまり知名度は無いが三菱は世界最高クラスの技術を誇ると言っても過言では無かろう。
結局、そうなると比較的他国から調達が可能な戦車砲や機関銃などの装備を調達しその部分だけでもコストを削減するというのか現実的であろう。
実際問題、火砲の開発にはカネと期間が掛かる物であり、我が国が開発すべきものこそ我が国が独自開発すべきであり、そこに予算を投じるべきなのだ。
兎も角、新型戦車の搭載砲に関しては、アンサルド社製の新型高射砲の評価を行い、良好であれば戦車砲に改修して採用するのが良いだろう。
1938年10月上旬、頼んでおいた先の張鼓峰での国境紛争で戦ったフランス軍の戦闘詳報が届いた。
幸いフランス語はそのまま読めるので早速中身を確認したのであるが、フランス軍の装甲旅団は中々精強のようだな。
フランス軍だけの戦果ではないだろうが、ソ連軍は夥しい損害を出し、破壊された戦車の数だけで一個連隊分を優に超えるのではないか。
フランス軍の戦車の性能は中々のようで、45mm砲装備のソ連戦車の攻撃によく耐え、特に新型の中戦車は損害が殆どなかったようだ。しかも、ソ連の大型の重戦車も撃破したと書かれてあったが、フランス軍の47mm砲も中々の性能なのかもしれぬ。
ハ号戦車に搭載している47mm砲も中々の性能だと思うが、大型の重戦車を撃破するほどの貫徹力を持つとなると、かなり強力な砲なのであろう。
イ号やロ号程ではないとしても、ハ号と互角の性能を持つ戦車を本国から遠く離れた満州で運用していることを考えれば、本国にはイ号やロ号と互角の性能を持つ戦車を持っていても不思議ではあるまい。さすが大国フランスというべきか。
正史だと第二次世界大戦後期程度の性能を持つ新型戦車は備砲が75mm砲のままでこのままだと性能に見合わないと考えた主人公は一ランク上の主砲の搭載を考えました。
ちょうどその時90mmクラスの高射砲がラインナップにないことに気が付いたアンサルド社が新型の高射砲の売り込みにやってきます。
史実だと、ドイツ海軍の88mmを中国戦線で鹵獲してコピーしたりしているのですが、そもそも中国戦線から撤退し、鹵獲する機会もなかったため、日本軍のこの時点での主力高射砲は史実でもコピーして採用したボフォース製75mm高射砲正規ライセンス品。
クルップのチームが開発した88mm砲をボフォースが日本に提供する事が出来ないため、ちょうどここに商機があったというわけです。
そして、主人公はまたソ連の重戦車を過大評価し、それを撃破したフランス戦車を過大評価し、本国の戦車はもっと強いはずだと思いこんでしまいました。
まあ確かにこの時点で満州にあるD2よりS35やB1のほうが性能は良いわけですが、それでも主人公が想像するようなT34ほどの性能はないと思います。




