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チェコスロヴァキア使節団

オランダ軍が満州に進駐します。





1937年4月上旬 吉林省扶余県郊外 オランダ軍駐屯地 ゴッドフリート中将



春先には大連港に我が軍の第一陣が到着していたのだが、漸く今月になって駐屯予定地に駐屯地を開設することが出来た。


駐屯地は吉林省にある扶余県という街の郊外に設置されている。


この扶余県の郊外には我が国の石油開発企業が試掘調査を行っている地域が存在する為、この街にその企業の関係者が多く移り住んでいるので、街並みが東洋風な物から我が国風の街並みへと作り変えられていて、それが完成しつつある。


我が国としては、特にこの石油開発会社が現在試掘中の新たな油田を一番重視しており、その油田から程近いこの場所が駐屯地に選ばれたという訳だ。


欧米など海外から満州国に進出する企業の多くは、満州国建国以前から栄えている工業地帯を有する大連、新京、奉天等に進出しているが、新たに建設中の港湾都市である大東港や、大連の隣にある安東にも進出が始まっている。


我が国の企業もこれらの都市にその多くが進出中であり、このまま発展が続けば、これらの地区に移り住んだ欧州からの居留民達の街が〝東の果てのヨーロッパ〟と呼ばれる日が来るかも知れぬな。



我々は満州国に到着すると、早速部隊に配備する装備の調査に入ったのであるが、首相閣下が話されていた通り、満州国には多くの欧米企業が進出済みで、しかも現地に工場を持っていた。また我が国と馴染みの深い日本はここ満州国の隣国であり、日本からの調達も可能だ。


特に日本には、我が国からフィリップス社が進出して現地工場も建設している、と以前新聞で読んだことがあったが、日本軍の装備としてフィリップス社の製品が広く採用されている他、民生家電なども日本国内で多く販売されており、それなりのシェアを持っているという話を聞くと、少々誇らしく感じるものだ。


日本はここ数年来、欧米から積極的に企業誘致を行っている事もあり、満州国と同じ様に日本に進出した欧米企業が数多く存在する。


そのため、満州国と日本では、本国での状況が嘘のように、容易に装備の調達が可能になっているのだ。


しかも我が国のフィリップス社製品を含め、本国で調達するより満州国や日本の現地工場で生産した物を調達した方が安価に調達が可能なので、より調達が早く進む事が予想される。


全く、これすら意図していたのだとしたら、首相閣下の慧眼には恐れ入るばかりだ。



まずは手始めに米国製のトラックや乗用車の調達から開始しているが、装備する兵器に関しては将兵の命にかかわる事でもある。


それなりに吟味してからが良いだろう。



我々が満州国に駐屯したのと時を同じくして、チェコスロヴァキアから満州国に使節団がやって来た。一種の産業使節団で、チェコスロヴァキア製の工業製品などを広く展示紹介し、商談も出来るらしい。展示される工業製品には兵器も含まれているそうだから、部下達と出向くことにした。


展示会場は大連港の倉庫街の近くの空き地にあり、そこに大型のテントを設営して小さな物から大きな物まで様々な物品が展示されていて、多くの人でごった返していた。


チェコスロヴァキアと言えばオーストリア=ハンガリー二重帝国を支えた先進工業国、その名は我が国でも知られている。



我が国は先の欧州大戦を中立で乗り切り、その恩恵を多分に受けた事もあって国防に関する国民の意識が低い。その為我が軍の増強については、ドイツやフランス、イギリスなどは勿論の事、隣国のベルギーですら装備の更新や増強を進めているというのに、殆ど何も進んではいない。


ヘルメットは数年前に漸く更新したが、歩兵用の小銃等銃器類は勿論の事、軍服や背嚢などの軍装品も古いままだ。


装備に関しては今や植民地軍の方が充実しているというのは皮肉な話だ。



会場でまず目についたのは、中国軍や日本軍が装備しているZB-26機関銃の改良型であるZB-30機関銃であった。

我が軍の装備する軽機関銃は、英国製のルイス機銃を我が軍の小銃実包である6.5mmマンリッヒャー弾を使用出来るようにしたM20軽機関銃であり、1917年に採用されて以降我が軍で広く使われている。


しかし、流石に旧式感は否めず、そろそろ更新が必要であろうと思われる。


ZB-26は高い信頼性と性能を持ちながら低価格で知られた軽機関銃であり、その改良型であるZB-30では更に信頼性が増しているという説明だ。


ZB-30であればすぐに調達が可能だとのことで、他に良さそうな軽機関銃がすぐには見当たらない為、我が部隊でサンプルを購入して試験してみる事になった。



我々がZB-30に興味を示したことで、我が軍の担当に付いた外商担当者が、新しい重機関銃もあると紹介してくれたのが、ZB-53とZB-60という二種類の重機関銃であった。


ZB-53は日本陸軍で採用されたとの事で、既に他国で採用された実績があるならば一考の価値があると思われた。


デモンストレーション射撃でも中々の高性能ぶりを発揮しており、我が軍の主力重機関銃であるMG08スパンダウや、M07シュワルツロゼを更新するのに最適に思えた。


ZB-60は口径が15mmという大口径の重機関銃であり、既存のトラック等の自動車は勿論の事、装甲車程度であれば簡単に撃破可能である他、対空用としても有用との事だ。


これらの機銃は顧客の要望に応じて変更や改良を受け付けるとの事で、例えばこの15mm重機関銃を本格的に対空射撃用として使うために、連装機関銃として運用できるように改造するとか、対空射撃を行いやすい様な専用のマウントを製作する事にも対応するなど、熱心に売り込んで来た。


我が軍にはボフォース社の40mm対空機関砲やクルップ社の37mm機関砲が装備されているが全く数が足りておらず、20mm機関砲を調達する計画はあるが、早期導入の目途はたっていない。


この15mm重機関銃があれば、機関砲と比較すれば十分な性能とは言えないが、対人対車両用としてだけでなく対空機銃としての運用も可能で、しかも使いやすく、車載も簡単であろうと思われる。


この二つの機銃も、サンプル購入して試験してみる事にした。


他にも火砲など色々と展示されていたが、今回は機関銃を更新する目途が付いたことで良しとしよう。


そう考え、会場を後にしようとしたのであるが。


ひと際人だかりが出来ている大きなテントが目についた。


気になったので我々も覗いてみると、展示されているのは戦車であった。


展示されていた戦車は三台あり、軽戦車が二台、それに一回り大きな中戦車が一台であった。


二台の軽戦車は、現在チェコスロヴァキア陸軍が採用しているLTvz.34軽戦車、そして新型戦車らしいTNH-S軽戦車の二車種。この二車種は武装も同じ37mm砲搭載で、同じくらいの大きさの戦車であるが、サスペンションの方式が異なるとの事だ。


中戦車はV-8-H中戦車と云う名前で、この戦車は軽戦車より一回り大きく、貫徹力に優れる新しい47mm戦車砲を搭載しており、エンジン出力が260馬力で40km/hを超える速度が出るそうだ。


今、我が軍は戦車を必要としており、一先ず訓練の為にも数を揃える必要がある為、直ぐに調達が可能だというLTvz.34軽戦車と、新型だというTNH-S軽戦車のサンプルを調達して、まずは満州の我が部隊で試験してみる事にした。


一先ずこれで戦車という物に習熟し、必要があれば中戦車の導入も検討するとしよう。



我々の満州国進駐と時を同じくしてチェコスロヴァキアの使節団がやって来て、新型兵器の展示会を開催しているというのは、幸運としか言えぬだろう。


これは幸先が良い。




一先ずチェコスロヴァキア製の装備を揃えました。


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― 新着の感想 ―
[一言] すごいやりがいありそうな仕事だけど他の国調達できそうな兵器を見ずにテストでも即決で購入するのはなんなんだろうか チェコスロヴァキアがそれだけ商機を掴むのが上手いんでしょうけど
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