自動小銃
日本軍の自動小銃導入のトライアルの話です。
チェコスロヴァキアのZB-53機関銃は陸軍で採用され、新型主力重機関銃として使われる事になった。もう一つのZB-60機関銃は15mm口径という事もあり、威力は7.92mm~12.7mm弾より強く、20mm機関砲よりは取り回し良く使える機関銃であるが、口径はより小さいがモーゼル弾使用の軽機関銃と重機関銃が既に採用されている事もあり、一先ず我が軍では不採用となった。
ブルノ兵器廠は、引き続きこの重機関銃の売り込みを続けるようだ。
我が軍の自動小銃をコンペで選定する事を決定した技術本部は、国内外の主要メーカーに参加を打診した。
その結果応じたのは、国内メーカーでは南部麒次郎中将の中央工業のみだった。
結局日本のメーカーは、基本的に一から自動小銃を新規開発した経験がなく、例えば、結局採用されなかった以前の試作自動小銃にしても、ペダーセン式自動小銃やZH-29自動小銃の模倣であったり参考にしたりと、我が軍独自の物という訳では無いのだ。
新型自動小銃の選定は国内メーカーからだけ、というのであれば別の話であったのかも知れないが、開発した銃の模倣元が出てくる可能性もある海外メーカーも含めてのコンペという事になると、及び腰になった様だ。
我が国は、既にあるものを改良してより良い物を作り上げるという能力には長けていると思うのだが、やはりどうも先頃の自動小銃開発で全ての案を不採用にした事も、国内メーカーを及び腰にさせてしまった一因なのかもしれないな。
その結果が、国内で応札したメーカーは銃器デザイナーとして著名な南部麒次郎中将を擁する中央工業だけであった、という訳なのであろう。
ただ、今回参加しなかった国内メーカーも、新型小銃の大量調達という事になれば、ライセンス生産に参加して調達の一翼を担う可能性があるからな。わざわざ多額の開発費を掛けてまで新型自動小銃の開発に挑む、というリスクを回避するというのも経営判断としては正しいのだろう。
そして海外メーカーで参加したのは、ホレクが開発したZH-29のチェスカー・ズブロヨフカ社、そしてFN社の二社だった。
ペダーセン式のレミントン社に関しては、我が国でこれを参考にして自動小銃を開発していく途中に構造上の欠点が見えて来た為、今回は打診しなかったようだ。
コンペが始まり、まずチェスカー・ズブロヨフカ社のホレクが、ZH-29の改良型自動小銃とは別の、現在新しく開発しているというモーゼル弾を使用する新型自動小銃を提出してきた。この自動小銃は来年チェコスロヴァキア陸軍のトライアルに追加で提出を予定していたモデルらしく、以前のZH-29とは全く異なる自動小銃だった。
ZH-29に比べると銃握の厚みもなくすっきりしており、重量も4.3kgと軽くなっていた。
射撃場での試験射撃では、流石チェコスロヴァキア製らしく特に問題も無く、焼き付いたり装填不良が起きる事も無く、滑らかな連続射撃を行うことが出来た。
問題は、この自動小銃の部品点数は以前のZH-29に比べてかなり減ったものの、複雑な加工を要する部品が多く、一丁のコストはやはりボルトアクションライフルとは比較にならないほど高価になる事が予想された。
更には精密な銃であり、射撃場という最良の環境で射撃したからこそ問題は出てこなかったが、過酷な環境である最前線で使用した場合、砂埃や汚泥等のゴミを噛みこんで動作不良を起こす可能性が指摘された。
ホレクの話では、ZB-26機関銃が現在何の問題も無いように、この自動小銃も開発が進めばその辺りは改善していくはずだし、コストに関しても、量産を進める過程で部品の合理化効率化が進むだろうから価格は必ず下がる筈だ、との事だが、ボルトアクションライフルの様な価格になる事は無いだろう、とも話していた。
一方のFN社であるが、実はFN社には既に開発中の自動小銃があり、今年に入って完成したばかりの試作品が存在していたのだ。但し、この銃に関しては未だFN社内部での試作品であり、更なる改良を要するとの事だが、今回試作品の内の一丁をサンプルとして日本に運んで来た。
もし話が進むようなら、開発者のデュドネ・セイヴを来日させて開発させる、とも言って来た。
これ程にFN社が熱心なのは、FN社にとっても自動小銃は、各国にニーズはあれど実際に採用され量産に漕ぎつけるまでには大きな壁があり、日本がファーストユーザーになる可能性があるのであれば主任火器設計者を来日させてでも開発を成功させたいらしい。
それだけこの新型自動小銃に自信があり、将来の主力製品の一つになると考えている様だ。
この銃に関しては、早速というか、FN社の製品を色々と採用している海軍陸戦隊が興味を示した。今採用しているFN社製小銃に代わる新型小銃に、と考えた様だ。
海軍陸戦隊は、任務の内容として強力な火力を特に必要としているらしく、陸軍の物とは別に独自に短機関銃を採用している事からも、それが窺える。
まだ正規の提出品ではないという事なので、技本一部でテストしたところ、銃としての完成度は今の状態でも十分高く、重量は4.3kg、ボルトアクションライフルに比べれば部品点数は当然多いが、分解清掃し易い構造になっており、前線で一般兵士が清掃整備の為に簡易分解するのは全く問題無さそうだ。
流石に完全分解ともなれば、自動小銃だけにボルトアクションライフルには無い様な部品も多く、確実に部品点数が多いことで、前線で日常的に行えないのは間違いない。
しかし、何よりこの銃の素晴らしい所は、その命中精度だ。このまま照準眼鏡を取り付ければ狙撃銃としても使えるくらいの命中精度を持っていた。
しかもこの自動小銃の大きな特徴は、部品を交換する事で複数の弾丸に対応出来る事であり、今の時点でも日本製の6.5mm弾、7.65mmモーゼル弾、7.92mmモーゼル弾、イギリスのブリティッシュ弾の四種類が使用可能となっている。これは大きな利点だ。
また弾倉も、10発と20発を選択可能との事で、最初から我が軍の主力小銃の実包を使用可能にしていると云う事は、明らかに我が軍での採用を見越しての事なのだろう。
但し、この銃で6.5mm実包を使用する場合、現在のセミリムドからリムレスに変更した方がより動作が確実だろうとの事で、いずれにせよ自動小銃を導入するのであれば弾丸の更新が必要だろう。
そうなると、旧来の三八式歩兵銃用の実包と分ける必要があるが、もし前線に二つの小銃が配備された場合、同口径でよく似た実包が存在する事になり混乱は避けられそうにない為、その場合は小銃そのものを混用しない等運用面で対応するしかないだろう。
今回のコンペの最終結果は、中央工業はFN社の自動小銃の完成度の高さを見て途中で手を引いた事で、FN社の自動小銃が選ばれた。問題の調達価格は、一丁の自動小銃で数丁のボルトアクションライフルを調達できるほどの価格差があるが、実際の所、最も重要な点はその火力差だろう。
実際ボルトアクションライフルで射撃する場合、一発発砲する度に手動での再装填作業が必要で、その際には必ず一度頭を動かす必要があり、照準が外れてしまう。
しかし自動小銃は、弾丸を撃ち尽くすまで手動での再装填作業が無いのでその必要が無い。照準はそのままで連続して射撃することが出来るのだ。
その為照準眼鏡との親和性も高く、本格的な狙撃銃用の照準眼鏡程で無くとも、低倍率の廉価な照準眼鏡を標準装備とすれば、広い戦場で高い命中率を期待できるだろう。
また別の問題点として、自動小銃はボルトアクションライフルに比べ弾を大量に消費するため、補給が膨大になると危惧されている。しかしその点に関しても、現在一般の歩兵部隊であっても輜重部隊も含め急速に機械化が進んでいる我が軍の補給能力は大きく向上しており、また南洋の島嶼で戦争するならいざ知らず、現在の主戦場である満州など大陸であれば日本本土からも近く、そこまで補給に苦労するという事は無いだろう、との判断もあった。
実際に使用する実包を6.5mm弾にするのか、それともモーゼル弾にするのかに関しては、前線での評価を見てからという事になった様だ。
陸軍では、一先ず機械化部隊に試験的に配備して使ってみた結果次第、という事になるだろう。
海軍陸戦隊は、実包は既に使用しているモーゼル弾一本にし、現行小銃を全面的に刷新する計画にしている様だ。
現在の海軍陸戦隊は、港湾都市や千島列島などでの戦闘を想定して装備を整えていると聞くが、もしソ連と事を構えるとなれば、彼等も忙しいことになるだろう。
FN社は約束通り、本国から新型自動小銃の開発者であるデュドネ・セイヴをFN社の日本工場に呼び寄せ、技本一部と協力して完成させる事となった。またその開発作業には、ライセンス生産を予定している中央工業の南部麒次郎中将も関わることになった。
ホレクが提案していた自動小銃は、中華民国が導入することになった様だな。
1937年7月に入ってから、中華民国の租界に軍隊を駐留させている欧米列強に対する攻撃が相次ぐ。
一気にきな臭くなってきたな。
結局、FNの自動小銃が採用されました。
この銃は史実だとFN-49と呼ばれ戦後に開発が完了した自動小銃です。
開発自体は1930年代前半から進んでいたのですが、1937年に試作品が完成、途中ドイツ占領で開発が中座し完成したのは戦後でした。
当初から完成度の高い自動小銃でした。
この場合の自動小銃はセミオートマチックライフルの事を指します。
正しくは半自動小銃です。




