我が軍の銃器事情
チェコスロヴァキア製のZB-53採用にまつわる話。
1937年4月中旬頃、チェコ製の新型機関銃であるZB-53、それに新たに持ち込まれたZB-60の技術本部試験、そして陸軍の試験が終わった。
ZB-53に関しては、期待通りの性能であると評価され、現在使用しているFN30機関銃と同等であると判断された。
ただ、この機関銃には難点があって、銃の構造上戦車の車体機銃として搭載する場合、どうしてもより大きな開口部分を必要とする。現在の車体や防盾の開口部はFN30機関銃に合わせて作ってあるため、どちらの開口部もシンプルで最小限にとどめられており、その分防御力と生産性に優れている事を考えると、これをZB-53に変更する場合、明らかに問題だ。
イ号戦車とロ号戦車には車体機銃が搭載されているが、車体機銃は防御力と生産性の面からマイナス面が大きく、ハ号戦車に至っては搭載していない。またこれから開発される新型戦車にも搭載しない方針だ。
それを考え合わせると、車載機銃という意味では既に前線での評価も高いFN30のままの方が好ましいだろう。
当初の計画の通りZB-53を新たな車載機銃として採用するのであれば、車体や防盾の形を変更する必要があり、再設計が必要。つまりは戦車を改修し再配備するまでかなりの時間がかかってしまうので、残念ながらZB-53は不採用という話になったのだが、別の方面からZB-53採用の声が掛かった。
我が軍の現在の主力軽機関銃はチェッコ機銃ことZB-26な訳だが、中華民国製のコピー品ではなく我が国で技術指導を受けて正式にライセンス生産している正規品だ。
その智式軽機関銃だが、どうも生産元のブルーノ兵器廠が日本国内に進出して工場を建てた関係で、ライセンス生産品に併せてブルーノ日本工場からの直接購入品も加わるかもしれない。
今も中華民国で大量に使われているZB-26だが、最初は正規輸入していたらしいが、大量に調達するために中国国内でコピー生産をしていた事がブルーノ側に発覚。現在ちょっと揉めているという話を聞いた。
これは国際商取引の信用問題に発展するから、恐らくコピー品に関してライセンス料を支払う事になるのだろう。そんな事があったのでブルーノ日本工場を建てることにしたと、そういう事らしい。
それは兎も角、我が国の前線兵士達のチェッコ機銃に対する信頼は信仰の域に達していて、チェッコ機銃のライセンス生産が始まった事で、開発中だった新型軽機関銃の開発は研究に留めるという事で生産されなかった。
開発していた新型軽機関銃は二つのモデルがあったが、残念ながらどちらもチェッコ機銃の模倣若しくはコピーであるという評価で、既にオリジナルをライセンス生産しているのだからそんな物は不要、という事なのだ。
また、中華民国軍が使用していたモーゼル弾に苦しめられた経緯から、この銃弾への信頼度も同じくらい高く、開発を検討されていた新型銃弾も、結局モーゼル弾を採用する事で立ち消えとなってしまった。
九二式重機関銃は良い重機関銃だったと思うが、無故障機銃を知ってしまった後では、我が国の国産銃器の中では故障しにくく信頼性が高い、と言われても説得力が無い。
それに信頼性が高いと云っても、チェッコ機銃に比べて小まめな整備を行った上でなければ故障しにくい状態を維持できないし、その小まめな整備を行うためには20Kgもある整備用具を常に携行しなければならない、というのは兵にとって大きな負担になる。
また6.5mm実包に比べれば、確かに九二式7.7mm実包は威力があるが、他国の実包、特にモーゼル実包と比較すると非力である感が否めない。
利点としては高い命中精度というのがあるが、これに関してもFN社の12.7mm重機関銃が狙撃銃の代わりになる程の射程距離と命中精度があるし、しかもこの機関銃は重たい整備用具が無くともそう簡単には故障しない。
それに九二式重機関銃は発射速度が遅く、発射速度が遅いという事は命中精度を高める反面、重機関銃に本来求められる面制圧力に乏しいという事になる。
九二式重機関銃は、我が陸軍が車載機銃として既に採用し、海軍でも陸戦隊で採用しているFN30機関銃という比較対象があると、どうしても見劣りしてしまうのだ。
そこで、新型重機関銃と新型小銃を、という話だったのだが、そこに丁度やって来たのがチェコ製のZB-53機関銃という訳だ。
あの、無故障機銃、チェッコ機銃の重機関銃がやって来たと。
そして試験の結果、ZB-26並みに故障しにくく、命中精度は九二式重機関銃と比べても遜色なく、しかもセミオート、フルオート射撃で低速射撃と高速射撃を切り替えることが出来る。更には、これが特に重要の様だが、重量が九二式重機関銃の半分しか無く、故障に強いので整備用具を常に携行する必要がない。
また九二式重機関銃の大きな欠点として、銃身を交換するのに整備用具を使用してかなり分解する必要があり、前線での戦闘中に銃身交換などとてもでは無いが出来ない。その点ZB-53であれば、ZB-26の様に容易に、しかも短時間で銃身交換が可能だ。
しかも、これは生産数にもよるが我が軍の必要数であれば、ブルーノ日本工場からの直接購入価格は九二式重機関銃と同等か、より安い価格での納入が可能だという。
この性能でしかも低価格なら、当然ながら新たなチェッコ機銃を要求する声が上がる訳だが、国内メーカーではなく海外メーカーばかりに頼るのは危険ではないか、という声もまた上がる訳だ。
だが、日本国内に工場があり日本国内で直接調達できるのだから問題無いのではないか、という意見が大半で、それならばと我が国の新型重機関銃として採用されることになった。
陸軍は既に仕様書を提示し、九二式重機関銃の装備として用意されていた照準眼鏡を装備出来るようにする等、我が軍向けの改修を依頼した。
これで、軽機関銃と重機関銃の銃弾がモーゼル弾一本で行くことになり、補給面でも非常に助かるというわけだ。何しろモーゼル弾は、既に日本国内でチェッコ機銃用に生産している。それに、我が国は今のところ輸入はしていないが、中華民国でも大量に生産されているし、満州国でも生産されている。これなら非常時でも補給に困る事は無いだろう。
そうなると、現在検討中の三八式歩兵銃に代わる新型小銃で使用する実包もモーゼル弾で、という流れになってくる。
モーゼル弾を使用する小銃に関しては、中華民国軍が使用していたモーゼルライフルを鹵獲した時に既に試験しており、反動が強い銃弾である事が判明している。もしモーゼル弾を採用した場合、威力は確実に増すが、その分反動の強い少々扱い辛い小銃になる事は確実だろう。
それとは別に、自動小銃の導入も我が陸軍は早い時期から検討しており、俺は関わっていないが、1932年から1934年にかけて幾つかの自動小銃の試作を行っている。
結局、どの案も色々と問題があり採用までには至らなかったようだが、自動小銃を導入する事を諦めた訳では無い。
特にアメリカ軍が、現在の主力小銃に代わる次期小銃として、M1ガーランド自動小銃を採用する事がわかった時、我が国は勿論他国でも俄かに自動小銃採用の動きが再燃したわけであるが、現時点で自動小銃が何処かの国の主力小銃として採用されている、という話は聞いた事が無い。
以前幾つか試作した自動小銃の一つに、ZH-29という自動小銃のコピー品があった。この自動小銃は中華民国との戦闘で鹵獲した物だが、調査の結果チェコスロヴァキアのチェスカー・ズブロヨフカ社製である事が分かった。後に、チェッコ機銃を開発したホレクが来日した時に彼が開発者だと判明したのだが、この銃は当時としては完成度の高い自動小銃であったのでコピーしてみた訳だが、試作品は一点の問題点を除いては他の自動小銃案に比べて優れていた。
ただ、問題となったその一点というのが、命中精度が従来のボルトアクションライフルに比べて劣る、という事だ。命中精度の問題に関しては、当時製作した他の自動小銃案全てに共通する問題点だった。
それにZH-29自動小銃は価格の面でも旧来のボルトアクションライフルに比べ高価だったので、命中精度が現行銃に劣り、しかも高価なZH-29自動小銃はチェコスロヴァキア軍でも採用されておらず、輸出もそれ程振るわなかったとの事で、製品としては失敗作であったらしい。
ホレクはその後も改良を進め、ZH-37という自動小銃が開発したばかりの最新モデルとの事だった。構造を簡略化してコストダウンを図り、それと同時に命中精度も向上させたという事で、現在チェコスロヴァキア陸軍のトライアルに提出しているそうだ。
今回の訪日にもサンプルを持参していたそうで、我が軍でもテストしてみたのだが、価格が三八式歩兵銃より高いのは勿論の事、やはり命中精度が劣り、そして致命的なのはその重さだった。
確かに最大25発入りの弾倉を使えて、しかもそれがチェッコ機銃の弾倉と共用出来るのは大きな利点であるが、それでも弾薬弾倉抜きの状態で5キロというのは重すぎるだろう。
陸軍は、このままでは自動小銃の導入が困難であると判断し、国産に拘らず他国のメーカーも入れた上で、再度自動小銃のコンペを行う事にした様だ。
ZB-53はチェッコ機銃大好きな歩兵部隊で採用。
そして陸軍は自動小銃をコンペに出す事にしました。




