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チェコスロヴァキアより使節団来訪す

年が明けて1937年です。

いよいよ主人公にとっては節目ともいえる年が到来です。





年が明けて、遂に1937年になった。


前世だと、ギアボックス、つまりはトランスミッション不調の責任を問われて設計局の長を解任され、問題を解決するのに必死になって居た頃か。


後になってみれば、そもそもそのトランスミッションを開発したのは俺では無かったし、同じく銃殺を言い渡された同僚に聞いた話だと、海外留学組を粛清する為の方便で言いがかりに過ぎないのではないかという話だったが…。


海外留学組が実際に粛清されたのかどうかはわからないが、そろそろこの世界のソ連でも何らかの粛清が始まる時期なのではないか。


いずれにせよ今の俺にとっては他人事。自国の有能な人材を殺してしまって後から困るのはソ連であり、我が国からすれば寧ろ都合がいいので大いにやればいい。


それは兎も角、あの時にトランスミッションの改良と新規開発に関わったのが、今世で役に立っている。


俺が前世で処刑される前に開発したトランスミッションはそんなに酷くは無かったと思うのだが、俺が解任される原因になった前任者の開発したトランスミッションは、前線部隊の兵士がギアチェンジにハンマーが必要な程重すぎる、なんて苦情があったらしい。


そんな過去を踏まえて開発したので、今世で俺が手掛けた戦車に関しては、全くそれが無いと自信を持って言える。


後輪駆動のエンジンとトランスミッション一体型のパワーパックはメンテナンスが容易で、シンクロメッシュ方式を採用し油圧サーボを導入したお陰で操作レバーが軽くなった結果、自在な運転が可能な事で機動力を存分に活かすことが出来る、と運用側の評判も悪くない。


フランス滞在中にイギリスやスイス、ドイツといった先進技術国で新しい技術を学ぶことが出来たし、色々な繋がりも出来た。その結果、新しい物を開発する時にその時の技術習得や様々な繋がりが大いに役に立った訳で、以前は俺にとっては長すぎたと感じた欧州滞在も決して無駄ではなかった、と今は思えるな。


やはり、情報というのは極めて重要で、そこに優れた技術があったとしても、それを知らなければそれを活用する事は出来ないからな。


次の新型戦車では米国の自動車メーカーが開発したオートマチックトランスミッションを採用しようかと検討しているから、不具合なく動けば更に操作性は良くなるだろう。


ちなみに、このオートマチックトランスミッションの技術情報を送ってくれたのは、例の原中佐だ。彼のお陰で米国企業の持つ新技術の情報などを大いに知ることが出来た。




1937年1月下旬頃、例のスイスから来日して造兵廠で新たな兵器を開発していたモハウプトだが、彼が我が国に持ち込んだ研究が一先ず形になったので、関係者立ち合いで実験を行った。


実験は爆発物の試験を行う専用の区画で行われ、見学に参加する関係者は掩蔽壕の様な所に入って見学する。視察窓には安全の為に分厚い防弾ガラスが取り付けられているから、何かあっても大丈夫だろう。


モハウプトが用意した実験装置は3cm径の漏斗の様な形の器具に炸薬を敷き詰め、それに銅で出来た円筒形のライナーを張り付ける。今回使用する炸薬は膠質ダイナマイトとの事だ。


実験の為に用意された厚さ50mmの鋼板の上に、先ほどの漏斗の様な器具を載せ、発火用のケーブルを取り付ける。


俺も論文を読んだことがあるが、あの器具がモンローノイマン効果を利用した兵器の実証モデルという事なのだろう。


関係者が掩蔽壕の中に退避すると、早速発火装置を起爆させた。


爆発音と同時に白煙が立ち込め、煙が晴れてくると鋼板が姿を現した。


既に実験装置は影も形も無かったが、器具が置かれて居たあたりの鋼板が激しく焦げていて、しかも熔けて穿孔が開いていた。


モハウプトの計算ではこの穿孔は鋼板を貫通している筈だという事なので、早速鋼板を持ち上げて鋼板の底面が見られる台座に載せてみた。


そして、モハウプト自ら30cm程の長さの金属製の細い棒を手にすると、その穿孔に差し入れてみた。


するとモハウプトの計算通り、孔は見事に鋼板を貫通していたのだった。


モハウプトの話では、穿孔は小さいが鋼板を貫通して穿たれた孔より高温のメタルジェットが戦車内に猛烈に噴き出して搭乗員を殺傷するだろう、との事だ。


後日、新たに実験室を設け、穿孔した向こう側にどの程度のメタルジェットが噴き出すのか検証実験したところ、モハウプトの想像以上の事が起きており、もしそこに人がいたならば生存する事は困難だろうという事が判明した。


モハウプトはこの新しい兵器を日本語で成形炸薬弾と名付けた。彼はこれを小銃に取り付ける擲弾発射装置用の弾として考えていた様だ。


確かに、5cmの鋼板を歩兵の携帯装備兵器で破壊出来るのであれば、現状火炎瓶や対戦車ライフルくらいしかない歩兵用対戦車兵器の事を考えれば、有力な兵器になるだろう。


他にも、現時点では成形炸薬弾はその構造上高初速砲には向かないそうだが、低初速砲で使用可能な砲弾なら作れるだろう、との事。

しかも成形炸薬弾は、飛距離に関わらず有効に命中すれば同じ威力を発揮するという。


それを考えると、以前使用していた短砲身の57mm戦車砲にも使用可能なのではないか。


当然ながら成形炸薬弾も、弾頭が大きくなれば穿孔できる厚さも増すので、恐らく57mm砲であれば100mm程度の鋼板の穿孔が可能かも知れない、という事だった。もしそうであれば、中々画期的な事である。


とはいえ対戦車戦闘は、敵戦車をその射程外か一方的に破壊できるのが一番好ましく、命中精度や射程距離から考えて、高初速砲に劣る低初速砲を戦車の主兵装にするというのは考えられない。


だが、使い勝手の良い75mm級の低初速砲を搭載した歩兵支援戦車の開発要求が現在来ている事を考えれば、その種の車両に成形炸薬弾を装備するのは良いのではないか。



歩兵科出身で歩兵用の装備などを開発している技本第一部の部員が、この新しい弾頭を使って何とか歩兵二人程度で運用可能な強力な対戦車兵器が開発出来ないか検討する、と言っていた。




1937年2月上旬、本命の車載機関銃として想定していた新型機関銃であるZB-53機関銃導入の為、チェコスロヴァキアから開発者のヴァーツラフ・ホレクがZB-53機関銃のサンプル一式と共に来日した。


チェコスロヴァキアはナチスドイツの脅威に晒されている事もあり、更なる外貨を必要としており、特に自国の有力産業の一つである兵器産業が輸出に力を入れているそうだ。


今回のZB-53機関銃にしても我が国だけでなく中華民国と満州国にも売り込みを掛けており、ZB-26機関銃の実績もあって中華民国軍には採用が決まっているそうだ。


その為、今回のホレクの来日は中華民国と日本でのライセンス生産の技術指導を兼ねており、他にも新しく開発したZB-60という口径15mmの重機関銃のサンプルを持参しているそうだ。


今回チェコスロヴァキアから来日したのは銃器関係のホレクだけでなく、戦車や火砲、自動車などを開発しているシュコダ社、CKD社、タトラ社などの関係者と共にチェコスロヴァキア商工省の役人も随行しており、それに在日チェコスロヴァキア大使館員が加わって一種の通商使節団の様相を呈している。特にCKD社は発明家にして経営者であるエミール・コルベン自らが来日しているという力の入れようだ。


歓迎会でコルベンは、インフラの整っているヨーロッパより、これからインフラを整備する満州国は勿論の事、日本や中国でも自分の培った技術が大いに役立つだろう、とスピーチしていた。


聞けば彼は中々の人物で、機械関係ばかりか発電施設や電気機関車も手掛けた事があり、小国なれど技術先進国と言われて居るチェコスロヴァキアに電気工学を伝搬させたキーマンの一人だという話だ。


我が国も発電施設に関しては米国やドイツなど海外に頼る事が多く、彼の持つ技術を是非伝授して欲しい所だ。


そんなチェコスロヴァキア使節団が今回持参した各種兵器や電気機関車、発電施設の模型など、多くの工業製品を展示する展示会を日本と満州で開いた所、多くの関係者が商談に訪れた様だ。


特に、チェコスロヴァキアで開発されたばかりのLTvz.38型軽戦車と、チェコスロヴァキア陸軍が採用しているLTvz.35軽戦車には中華民国軍が飛びつき、早速採用を決めていた。


なんでも中国共産党軍が最近ソ連製の戦車を少量ではあるが実戦投入してきており、中華民国としてもまともな戦車が欲しかったらしい。


中華民国から戦車購入の要望は度々出されていたが、我が国は敢えて彼らには売らなかったから、現在中華民国軍が装備している戦車は、ドイツ製の一号戦車と呼ばれて居る機銃しか装備していない軽戦車とイタリア製の豆戦車しか無いらしい。


対戦車装備はドイツ製のラインメタル37mm対戦車砲だけで、それも数がある訳では無く、運搬牽引は馬匹が主力を任う中華民国軍では運用に苦慮している、とも聞く。


発電施設と云えば、満州国でもこれの迄は米国企業の大型発電所がある位で、地方で使える小型の発電設備が欲しかったところ、CKD社が小型の発電所を得意とする企業だったりと、今回の使節団の商談はかなり良い具合に纏まったのではないだろうか。


俺は俺で、日本陸軍がボフォース社やフランスのシュナイダー社と懇意にしている、という話を聞きつけたのか、チェコスロヴァキア製の先進的な火砲というものの売り込みを受けた。


実際、例えば最新鋭のチェコスロヴァキア製21糎カノン砲は射程距離が33kmもあり、こういうのがあれば満州国の国境要塞を守る強力な守護神になるだろうな。


陸軍の上層部もかなり関心を持ったようで、案外採用するかも知れない。


正直、我が陸軍で超重砲と呼べるような、口径が20糎を超えて20kmを超える様な長射程を誇る装備は25糎列車砲しかなく、しかも一両しかないのだ。



チェコスロヴァキアからの使節団は本国と連絡を取りつつ、一年から二年位の間、日本と満州国に滞在して商談を続ける予定らしい。


契約に関しては、多くの場合チェコスロヴァキアからの直接の輸出ではなく、技術指導によるライセンス生産契約が多い様に聞いている。


これはチェコスロヴァキアが地球の裏側の、しかも海の無い内陸部の国という事を考えると致し方ない事なのかもしれない。


海がある国の強みという物を、改めて実感できたぞ。









史実には無かったチェコからの商業使節団が来訪です。

ある意味少し前の中国みたいなものです。

日満中という大きな新規市場目指して、色んな国から売り込みにやってきます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この頃のチェコスロバキアの工業力はピカイチですからねえ。ナチスドイツが併合したのはその工業力を求めてとも言われてますし。二次大戦の時にターボプロップエンジン作ってたとか。 シュコダは自動装…
2022/09/09 04:03 ケーニヒツ
[良い点] チェコスロバキアの兵器に光が当たったこと。 [気になる点] この当時のチェコとスロバキアの技術力の高さは、第一次世界大戦前の二重帝国の工業生産を賄ってた事も関係していますが。 チェコスロバ…
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