表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/72

タウラン事件

中将に昇進しました。





1936年3月10日、中将へ昇進した。俺が中将といのは今一つ現実味にかけるが、優等組は落ち度が無くそれなりに功績がある場合、殆どが中将までは昇進する様だ。


流石に大将はあり得ないだろう。



陸軍人事の慣例であれば中将昇進後、俺は別の部署の上職、例えばどこかの造兵廠の廠長とか、或いは軍学校の校長とかに異動になるのが普通であるが、〝余人に代えがたし〟という有り難い評価を上層部から得ているのか、このまま第四部長を続けて居られるそうだ。


俺としても、いずれ後進に席を譲る日も来るだろうが、まだしばらくは今の立場で仕事をしたい。


そう言えば、試製一号戦車を開発した原乙未生中佐だが、米国視察後に帰国する筈が、そのまま再び渡欧して、去年の秋頃からドイツに派遣されていた大島陸軍少将率いる軍事視察団に合流し、ドイツの再軍備の状況を視察しているそうだ。


案外、ドイツが公開展示した多砲塔戦車の視察資料を送って来たのは、原中佐なのかもしれないな。

原中佐の米国滞在時の報告書は随分評判が良く、色んな部署で参考として役立てられている様だ。


俺も早く本人に会ってみたいと帰国を心待ちにして居るのだが、一体いつ帰ってくるんだ。

なんだか俺の長すぎた欧州駐在に通じるものがあるな。





1936年3月29日、外蒙赤軍による度重なる越境、不法占拠が多発する事に業を煮やした満州国軍は、これ迄は防御に徹していたが、以後は力には力で対抗する方針を固めた。


満州国軍は関東軍に支援を要請し、関東軍は再び独立混成第一旅団から渋谷安秋大佐を司令官とする渋谷支隊を派遣した。

今回は機械化歩兵一個大隊を基幹に、自走砲兵一個小隊とハ号戦車を装備した戦車一個中隊を伴った機械化部隊を派遣した様だ。



そう云えば、前回の外蒙赤軍の装甲車との戦闘で、敵側の小銃弾すら防ぐ事が出来なかった九十四式軽装甲車は、その後〝装甲車〟という車種から外されて、本来の名称である〝九十四式装甲牽引車〟に戻され〝牽引車〟の車種に戻ったのだが、そこから更に〝装甲〟の名称も削られて〝九十四式牽引車〟と改称された。


小銃弾すら防げない車両は今後装甲車とは呼ばず、その車両に搭載されている武装もあくまで自衛用なので今後は直接戦闘に使用する事を禁ずる、という通達も併せて出された。


俺はこの牽引車の事を知らなかったのだが、どうやら九十二式重装甲車と同じく軍が民間企業に丸投げして作らせた車両の様だ。


また、同じく敵の機銃弾を防ぐ事が出来なかったその九二式重装甲車も、車両としては使い勝手が良く優れていたのだが前線の戦力としては頼りにならないので、前線部隊から引き揚げて後方警備任務で使用されることになった。



今回の渋谷支隊の派遣に際し、前回の外蒙赤軍越境時に軽爆撃機を投入してきた事から、ハイラルに松村黄次郎中佐の指揮する戦闘機隊を同時に進出させた。





1936年3月上旬頃、外蒙側に満州国の警察官が拉致されるという事件が発生し、満州国軍が出動して救助に向かった。警官が拉致されて居るらしいアッスル廟に進出すると、そこには外蒙赤軍が待ち構えていて戦闘が発生した。


3月29日、満州国軍は関東軍に支援を要請し、関東軍は渋谷支隊から機械化歩兵一個中隊を派遣したところ、外蒙赤軍の戦闘機二機から機銃掃射を受けた。


攻撃を受けた機械化歩兵は、新たに配備されて居た新型重機関銃を含む各種機関銃で対空射撃を行い、敵の一機から煙を吐かせるなど損傷せしめて撃退するという戦果を挙げた。


これに対して外蒙赤軍は、関東軍が国境より50kmも外蒙側に越境してアジクドロン国境監視所を攻撃し、同時にボルンデルス監視所も攻撃した、と言い張った。


3月31日、タウラン地区へ偵察に向かう満州国軍に対し、渋谷支隊は機械化歩兵一個中隊と対空戦車を組み入れた戦車一個小隊を同行させた。


すると十二機の外蒙赤軍軽爆撃機が飛来し、偵察部隊に対し爆撃を行い、機銃掃射を繰り返した。


これに対して渋谷支隊は対空射撃戦闘を行い、結果五機を撃墜、三機を不時着させ、多くを損傷せしめて撃退した。


対空戦車を対空戦闘で本格的に使うのは今回が初めてであったが、搭載する連装二十ミリ機関砲は十二分にその任務を果せた様だ。


空襲の後、外蒙赤軍は騎兵三百騎、自動車化歩兵一個中隊、更にはBA-3装甲車十両からなる本格的な機械化部隊を投入してきた。


兵力的には渋谷支隊と満州国軍を併せて互角で、満州国軍の騎兵部隊が偵察任務に出たが、湿地帯に侵入したところを外蒙赤軍装甲車部隊に包囲攻撃された。


この攻撃で騎兵部隊の指揮官を含む少なからぬ死傷者が発生し、脱出に失敗した者は外蒙赤軍の捕虜となった。


救援連絡を受けた渋谷支隊は直ちに現場に急行し、戦車隊による攻撃で外蒙赤軍の装甲車全車を破壊もしくは行動不能とし、敵装甲車を鹵獲した。戦車隊のハ号戦車に損害は無かったが、捕虜は既に連れ去られた後であった。


月が替わって4月1日、関東軍は満州国軍の要請を受けて、タウラン方面に戦闘機と偵察機それぞれ一個中隊を出撃させた。航空部隊はタウランに向けて行軍中の、装甲車を含む60両もの外蒙軍車列を発見。


直ちに襲撃を敢行し、外蒙赤軍は追い散らされた。


その後、5月下旬にタウランにおける戦闘での捕虜交換が行われ、捕虜になっていた満州兵12名と、外蒙赤軍兵捕虜12名の等価交換が実施され、同時に遺体も返還された。


渋谷大佐は今回の出動における戦功を高く評価され、独立混成第一旅団に対する上層部の評価がさらに上がった。



満州での戦闘詳報は俺の所にも回してもらえる様に頼んであるので、こうやって戦闘の詳細を知ることが出来るという訳だ。



しかし、先頃採用が決まったばかりのFN社の12.7mm機銃、正式名称九四式十三粍機関銃が既に満州の部隊にまで配備されてるとはな。


この機銃を、陸軍も海軍も航空機にまで搭載しているという話だが、余程気に入った様だ。





1936年4月上旬、俺が前に出した意見書や満州での外蒙赤軍との戦闘報告を受けて危機感を強くした上層部は、中戦車であるイ号戦車はハ号戦車、ロ号戦車と比較して性能が中途半端であると判断してこれの生産中止を決定。既に生産済みの車両に関しては増加装甲を付ける事で対応し、今後の状況により戦力外と判断した場合は、車体を突撃砲や自走砲などに活用する事が決められた。


そしてロ号戦車こと八十九式重戦車は、ドイツの基準に合わせて八十九式中戦車と改称し、今後は25頓を超える戦車を中戦車とする事が決まった。


また技本に対し、ハ号戦車のエンジン出力の向上と防御力の強化を求められた。


つまり、装甲車如きの主砲で簡単にやられない戦車にせよという事だ。


それとロ号戦車に関しても、開発して既に年数が経っている事から攻撃力や守備力の向上を図るとともに、ロ号戦車を超える新型戦車の開発に着手することが指示された。


以前問題となって居た満州への戦車輸送に関しては、既に鉄道車両など重量物を運ぶ専用船が就航して居るなどインフラが整備されて居る事から、あくまで欧州の基準に合わせるが、以前ほど重量に関しては制約が無くなった様だ。


満州国内のインフラに関しても、欧米が資本投下して急速に整備されて居る事から問題無いと判断されている。それどころか、下手すると日本よりインフラが整う可能性があるらしい…。



様々な指示を受けた俺は、直ちに第四部の部員や実際の生産にあたる三菱の関係者を集めると、まずは現行戦車の性能向上に着手した。


新型戦車については、今しばらくは情報収集などに努め、じっくり構想を練るとしよう。





1936年4月下旬、スウェーデンのボフォース社から新型対空機関砲の売り込みがあった。


以前から話を聞いていた60口径の40mm機関砲で、高度な照準システムが搭載されて居るそうだ。


陸軍は、以前採用した75mm対空砲と20mm機関砲の中間に位置する対空砲を検討していたらしく、早速少数導入して試験してみる事になった。


また、海軍にも売り込みが行われたらしく、先頃フランスのオチキス社の25mm機関砲を採用したばかりではあるが、この機関砲自体の性能は優れているものの、弾丸の威力に物足りなさが指摘されており、海軍でもテスト購入する事になった。


ただ、このボフォース40mm機関砲は単純な機関砲では無いので、技本の見立てではライセンス生産を行うにはそれなりの技術指導を受ける事が必要だろう、との話だ。





1936年5月上旬頃、満州に滞在中のフランス人技術者夫妻が馬賊に拉致される事件が発生した。




主人公の過大評価で日本では一足先に25頓級戦車を中戦車と呼ぶことに。

ちなみに、死ななかった永田鉄山も中将に同じ時期に昇進しています。

そして予定通りボフォース40mm採用。


ちなみに、九四式軽装甲車は戦車の父は関わって居らず、本当に民間企業丸投げの参考にせよと言われたガーデンロイドに準拠した装甲牽引車で別物です。ただ、モーゼル弾を防げなかったのは同じです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 民間の力も上手く引き出していかんとね。 史実じゃ其辺全然出来てなかったからなぁ。
[一言] ボフォース40mmは本当に化け物なんですよね...アメリカには他にもシカゴピアノとかがあったけど性能の全ての面で勝負にならなかったみたいですね...
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ