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ハ号丙型と突撃砲

熱河作戦の結果を受けて開発が進みます。





1933年8月24日、去年の五月に発生した通称〝五・一五事件〟と呼ばれる海軍将校によるクーデター事件の首謀者らに対し、減刑嘆願書が七万通も殺到したと新聞が報じていた。


軍というのは厳しく律しなければ必ず遺恨を残す。今回厳しく罰しなければ必ずまたクーデターを起こす奴が現れるだろう。


首相が殺されて居るのだ。首謀者は全員処刑せねば示しがつかないだろう。なのに減刑を許せば、この国は軍人が気に入らなければいつでも首相の首を獲れる国になってしまう。


だが、結局誰一人死刑になる事無く、禁固刑などという軽い刑罰で済ませてしまった。

国民感情を意識した判決らしいが、これで必ずまたクーデターが起きるだろう。


先月の神兵隊事件といい、去年カルトが起こしたテロルやこの五・一五事件もそうだが、誰一人死刑になって居ない。


どの事件も誰かが殺されているにも拘らずだ。


ボルシェビキなら拘った人間全てを粛清するだろう。


なんとも甘い事だ。





先月の熱河作戦での戦訓を受けての諸々の仕事だが。


先ず工兵車両に関しては、従軍経験がある工兵出身の技本の部員を交えて仕様を決定して作った事もあり、元々実用性が高かった。


そのため今作戦後の工兵からの要望には大きな変更を伴うものは無く、斜度板の取り付け方の変更や作業灯の取り付けなど装備追加の要望が多く、これは良い道具が手に入ったから更にこう云うのも付けて欲しい…と欲が出たという事なのかもしれんな。


他にも、起重機はもっと本格的な物を付けてほしいとか、ウインチを追加して欲しいとか。

要望を聞きだすときりが無いが、工兵出身の技本の部員が工兵から意見を聞く事として、後は部下に任せた。


あと工兵車両には特に武装を施していなかったのだが、実戦を経験すると流石に何もついていないのは不安だという事で、試験結果が良好だったので既に追加購入が決まっているFN30機銃を、防盾付の銃架に搭載して装備する事になった。




砲兵関連では、150mmクラスの自走砲に関しては、搭載火砲をどうするのかという問題がある。

国産の火砲で性能の良さそうな物は今のところ開発中なので、こんなものを採用すれば量産まで五年は掛かるだろう。


対ソ戦を考えると、そんな悠長な話は言っていられんだろう。それに、あの国を相手にするならば射程の短いのはダメだ。


それらを考え合わせると、仏軍の155mmカノン砲を搭載するのが一番良いだろう。フランスには先の欧州大戦での余剰兵器が未だ大量にあり、それら兵器の我が国への導入や技術移転を行っている実績が豊富にある。また現在フランス軍は装備の更新を図っている事もあり、我が国がこの砲を導入する際の条件は悪くなかった。


この155mmカノン砲は、既に我が国でもライセンス生産が始まっているが、このクラスの自走砲は大量生産する様な物では無いので、短期間で数を揃えるのならば、一先ずフランスにある在庫品を購入するのが良いのではないだろうか。


取り敢えず自走砲試作用に陸軍から一門回してもらったのだが、最大射程19500mを誇るこのカノン砲は、砲身長が6mもある。


しかも重量は13000kgもあり、軽戦車と変わらない重さだ。


このクラスを載せるとなると、ロ号重戦車の車体を使うしかないだろうな。


基本的には105mm自走砲で採った構造を踏襲する。しかしそのままでは車内が狭くなってしまう為、射撃時の砲の操作は、下車して車体後部から行う形にする方が良いかもしれないな。

つまりは、基本的には〝自分で移動することが出来る大砲〟と言う考え方だ。


迅速に移動して射撃を行い再び迅速に陣地移動を行う、と云う事を第一に考えるのが良いだろう。


無線機を搭載した指揮車と弾薬運搬車を随伴させれば、移動と展開と砲撃を迅速に行うことが出来る筈だ。




九二式十五糎自走砲を直接戦闘が可能な自走砲にしたい、と云う要望に関してだが、装甲を厚くすると当然車重が増して機動力が悪くなる。


機動力を上げるならエンジンの換装が必要になるが、自走砲の基になったハ号戦車の車体ではエンジンの換装は厳しく、もしエンジンをイ号戦車のV型12気筒ディーゼルエンジンに変更する場合、車体長を延長するしかない。


だが、それでは〝車体の共用化による生産性の向上〟と云う大きな利点が失われる。


そこで我々は、上層部の要望とは異なるが、イ号戦車の車体を使った直接戦闘可能な自走砲についても検討する事にした。


生産性を高めるには余計な工程が発生しない様にするのが一番であり、また装甲強度的にも幾つもの鋼板で構成されるよりは一枚板が一番強度がある。


そこで、車体前面の傾斜装甲をそのまま延長させて十五糎砲のおさまりが良い形にし、車体側面形状に関しては戦闘室が狭くなることを防ぐために、装甲はやや傾斜させる程度に留めた箱型の戦闘室とした。

勿論、側面装甲も一枚鋼板にして箱型の戦闘室はエンジンルーム手前迄とし、エンジンルームはイ号戦車の物を極力流用できるようにした。


前面装甲は取り敢えず45mmで、側面装甲は25mm。


必要に応じて増やせばいい。


V型12気筒ディーゼルエンジンの出力向上に関しては、三菱技術陣の尽力もあって既に目途が立っていて、500馬力級の物はもうすぐ供給が開始されるし、過給機付きで550馬力迄出力を上げた物も、試作段階ではあるが、動いている。


いずれ600馬力にも手が届くだろうが、まずは信頼性が第一だ。


一先ずイ号戦車の車体を使った新しい自走砲の図面を引き終えて木製の模型を作らせたが、中々に性能の良さそうな自走砲になった…と思うのだが、十五糎砲の太い短砲身がなんとも中世の攻城兵器の破城槌の様な印象を受ける。


上層部には、九二式十五糎自走砲のセミオープン式戦闘室に装甲を追加して密閉式の箱型戦闘室にして戦闘室上部には防盾付機銃を搭載したオーダー通りの改良型自走砲と、このイ号戦車の車体をベースにした新型自走砲の、二通りの案を提案した。



戦車関連では、主砲を47mm砲に変更したハ号戦車丙型の先行試作品だが、実は既に作ってある。


ボフォースの47mm戦車砲は、イ号戦車開発の時にボフォース社の技術支援で既に搭載されているからな。


しかし、これでイ号とハ号が同じ火砲を搭載することになる。


俺はてっきり上層部としては、イ号戦車より車重が軽くてしかもコストが安いのに同じ47mm砲搭載のハ号戦車丙型を大量生産せよ、という話になると思ったのだが、意外とそういう事にはならなかった。


なぜかと言えば、イ号戦車はハ号戦車より車体が大きく、しかもエンジン出力にも余裕がある。つまり、ここから発展させる余地が大いにある。


一方ハ号戦車は、六気筒エンジン搭載を前提に開発した軽戦車なので、これ以上の大きな性能向上は望めない。エンジン出力向上もまだ多少は可能だろうが、V型12気筒並みの出力には到底ならないし、そもそも車体が軽戦車としては大きめの車体ではあるが、決して本当に大きいわけではないからだ。


例えば、このハ号戦車に75mm砲クラスの戦車砲が載るかと言われれば、砲塔の無い固定砲としての戦車なら可能だろうが、回転砲塔に搭載するのは無理だろう。


将来、それこそ航空機に載る位のコンパクトな75mm砲が開発されれば、また話は変わってくるが、少なくとも今はそんなもの存在していないからな。


ハ号丙型の砲塔は、そもそも将来の47mm砲搭載を前提にして作られた57mm戦車砲搭載の甲型の砲塔と同じ物である為、砲塔その物は変わらない。しかし、戦車砲の形状がそれぞれ異なる為、防盾の形状が47mm戦車砲専用になっている。


つまり、この防盾部分を入れ替えるだけで既存の甲型を丙型に更新する事が可能なのだ。勿論、砲弾の形状や大きさが異なる為、砲弾ラックの形状や位置も変更する必要があるが。


だからこそ、先行試作品を用意する事も容易だったという訳だ。


ちなみにハ号戦車の砲塔リングは、BT-7の砲塔リングより大きくしてある。BT-7はBT-2の砲塔より大型化しているが、それでもBT-7の砲塔は狭いと不評だったからだ。


それもあってハ号戦車の砲塔は、大きめにとってある砲塔リングの径一杯の大きさにデザインしてあり、これはBT-7Mの砲塔形状を基本に、それにイ号戦車で採用した砲塔形状を取り入れて更に改良した砲塔形状になって居る。


ただ、車格がイ号戦車に比べると小さい為、傾斜装甲を取り入れすぎると砲塔内が狭くなってしまう為、イ号戦車の砲塔形状も取り入れた、と云うよりは、BT-7Mの砲塔を改良した様な形状、というのが正しい云い方かもしれない。


とはいえ、大人が三人入っても広々と使える、とはいかないのは致し方ない。


場合によっては装填手を削減して砲塔内には乗員二人の方が良いのかもしれないのだが、装填手が居た方が砲手は射撃に専念できるし、戦車長も車両指揮に専念できるから戦闘力が上がる事は間違いない。


そもそも戦闘中の戦車長には、例えば歩兵が近寄ってきたらピストルポートを使って対応する必要があるなど、色々とやる事が有って忙しいのだ。


最も今の所は、砲塔の狭さに関しては特に何も要望は上がって来ていないから、出来るだけ広めにとった砲塔の大きさに意味はあったのだろう。





1933年12月26日、日本の自動車メーカー二社が合併して新たに「自動車工業株式会社」という自動車メーカーが誕生した。


日本の自動車産業は欧米の、例えば米国から進出してきたフォードやゼネラルモータースなどに比べるとかなり立ち遅れており、まだまだこれからの状態である感は否めない。


とはいえ、技術蓄積は確実に進んでいる筈であり、いずれ日本の自動車が今度は欧米に輸出される日が来るかもしれないな。


そんな1933年も、諸々の仕事を進めていたらあっという間に終わってしまった。



結局、ハ号戦車は丙型に一本化することになり、甲型は直ちに全数を、乙型は前線での評判が良い事から段階的に丙型に更新していくことになった。



また、九二式十五糎自走砲の装甲強化型とイ号戦車から新たに作った自走砲に関しては、どちらも捨てがたい面があり、一先ず両方共に少量生産して使ってみる事になった。


上層部は誤認を防ぐためと士気高揚の意味も含め、この『歩兵の友』と呼ぶべき直接戦闘可能な自走砲の事を『突撃砲』という新たな名称で分類する事にした。


歩兵の盾として強固な装甲で兵達を護りながら共に前進し、歩兵の前進の妨げになる障害をその強力な火力で粉砕する自走兵器。我が軍の敢闘精神を体現した様なこの兵器の新たな名称『突撃砲』を、歩兵科出身者が大半を占める軍上層部はいたく気に入った様だ。


ちなみに、この言葉は俺の言葉ではなく上層部が俺に語った言葉だ。


この突撃砲のお陰で、歩兵直掩の任務から戦車は開放されるかもしれないな。



そして155mm自走カノン砲であるが、意外に上層部の評価は悪くなかった。


長射程のカノン砲が迅速に展開して直ちに必要な場所へ大量の火力投射が可能になるという事は、戦術的に大きな意味合いがあるとの事で、これも一先ず少量作って使い勝手を見てみるという事になった。


勿論、使い勝手を見るのは満州にて、という事になるのだが、馬賊相手に使用するのだろうか?


こうして今年も一年が過ぎ、俺の前世の命日迄後三年と迫った。


歩兵の守護神、突撃砲誕生。

ちなみにハ号ベースのモデルは33Bみたいな形しています。

イ号ベースの新型はカノーネンヤクトパンツァーみたいな形状です。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほんと、日本は戦前から国民感情を優先したがる。 物事の分別ができてないから頻発にクーデターが起きるんですよね。
[良い点] 読み始めたばっかりですが、とっても面白いです!! 主人公が歴史を完全に知らないのが良くある未来からの転生者と違っていて、結果的に初期ブーストの割合が大きいというのが良いですね。 [気にな…
[気になる点] M110みたいな自走式砲架なのかな。 突撃砲が日本で生まれた。どうなるガルパンw
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