表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/72

車載機関銃

上海での戦闘詳報が主人公の下へと届きます。





1932年4月、俺は陸軍少将へと昇進した。


兵器開発に携わる為に軍人を志したが、まさか将官にまで昇進するとは想像もしなかったぞ。


技本の部長は大佐でもなれるが、本来は少将が就くポストらしく、これで名実ともに技本第四部の部長になったという訳だ。


そう言えば、例の試製一号戦車の開発に携わった原少佐は欧州を視察後、現在アメリカを視察している真っ最中だと小耳に挟んだ。


当初はアメリカには帰国途上に軽く立ち寄る程度の視察を予定していたらしいが、実際に見た内情には学ぶことが多いらしく、原少佐はじっくり視察する事に切り替えたらしい。俺は行った事が無いが、アメリカは前世の祖国の様に広い国土を持つし、都市の規模も技術力、工業力共に我が国とは比較にならない水準らしいから、彼にはこの機会にしっかり視察して十分吸収してから無事に帰国して欲しいな。


彼はこれ迄は技本付けの立場だったが、帰国後は本部員になる事が決まっているそうだ。



上海に救援に行った戦車第二中隊の重見大尉から上がって来た戦闘詳報の写しが俺の所まで届いた。ハ号戦車はまだ実戦投入してから日が浅く、また我が軍としても新兵器であるので、後から露見した不具合や改善点などを把握する為に詳報を送って貰えるように頼んでおいたのだ。


詳報を見てみると、20mm機関砲装備の乙型の評判が良い様だ。甲型が搭載している57mm砲も勿論扱いやすく、20mm機関砲に比べると一発の威力が大きいが、当然ながら一発撃つと装填する必要がある。


しかし、20mm機関砲の場合、弾倉のカートリッジを撃ち尽くすまで連続して射撃する事が出来る為、一撃必中を期す必要が無く、機関銃の様に撃ちまくれるところが良いらしい。

また、トラックなど動いている車両に対しても、追従性が高く確実に仕留められる、と高評価の理由が書かれてあるな。


敵にも大口径の機関砲はある様だが、装甲車などに車載されている物は無く、地上に固定して対空機関砲として設置運用されている事が殆どとの事で、今回の詳報迄では戦闘での損失車両が無い所を見ると、第二中隊の運用が上手いのか、或いはハ号戦車の防御力が十分なのかのどちらかなのだろう。


乙型の20mm機関砲の通常弾は、トラックや装甲車などに対しては障子に穴をあける様に簡単に撃ち抜いて仕留めるし、建物の中に籠る敵兵に対しても土塀や壁を撃ち抜いて攻撃する事が出来る。更には炸裂弾の威力は相当な物で、敵兵を一掃するのに重宝している、と書かれてあるな。


特に、機動力と防御力を活かして敵陣地に強行突入して血路を拓いた時などは、炸裂弾を撃ちまくって守備する敵兵を一掃するのに威力を発揮したそうだ。


この様に機動力と防御力に関しても好評価で、実戦での運用評価は概ね高い様で安心した。



他方、評価の低い点もあった。どうも車載機銃が不評の様だ。


車載機銃は陸軍が用意した保弾板給弾方式の改造三年式機関銃を搭載していたのだが、この機関銃は第一次世界大戦前の採用で旧式感は否めないが信頼性が高く、実際に使用する歩兵部隊の兵士達の評判は悪くない。


ただ戦車用の車載機銃にするとなると、三八式歩兵銃と共用の6.5mm弾という小口径弾では、人間相手なら兎も角、車両や建物などに対しては威力不足が目立った様だ。


確かに20mm機関砲を使えばその辺りを補えるかもしれないが、機関銃で片が付く目標に対しては機関銃で対処すべきだろう。


弾丸という意味では我が軍には八九式実包という7.7mm弾がある。


八九式実包は航空機搭載機銃用に開発された弾丸で、金属製の軍用機の機体は勿論、エンジン、燃料タンクを貫通破壊する事を目的に開発されているから威力は十分だといえる。


ただ、この弾丸はセミリムドの薬莢なので動作不良しやすいという欠点がある。その為、機関銃で使用する弾丸の薬莢はリムレスであるべきだ。


車載機関銃といえば、前世で関わっていたBT戦車に搭載していたのはDT車載機銃という、元々は丸いドラム弾倉を使用する歩兵用の軽機関銃だった。


DT車載機銃は、万が一戦車が行動不能になった時でも、ボールマウントから引き抜けばそのまま歩兵用の軽機関銃として携行できた筈で、戦車から簡単に取り外して使える車載機銃というのは、戦車が行動不能になり乗員が脱出した際には、彼等の心強い支援火器となっただろう。


ドイツは確かMG34というベルト給弾とドラム弾倉給弾両用の機関銃を使って居て、イギリスはビッカース機関銃でこちらはベルト給弾。そして米国はM1919機関銃を使って居て、これもベルト給弾。

主要国の車載機関銃は、どの国も概ねベルト給弾方式で7.62mm~7.92mmの弾丸を使って居て、その威力は車載機銃として十分だったと記憶する。


いずれにせよ、発射速度が高い機関銃の給弾方式が弾倉式だと、頻繁に行う弾倉の交換が狭い車内では面倒で、しかも弾倉の装弾数が少ないと更に手間が増える。当然ながらベルト給弾方式に比べたら格段に射撃能力が落ちる事は確実だろう。


そう考えると、我が国の車両へ搭載する機銃も、まだ黎明期だからこそ安易な解決によらず、適した物を装備すべきでは無いのか。


車載機銃は、戦車だけ考えてもそれなりの配備数となるだろうし、装甲車やその他の車両など軍全体で考えれば相当な数が必要なはずだ。


弾丸は7.7mmの八九式実包を使えば良いとして、機関銃本体は一から独自開発すべきか、或いは一先ず海外の性能の良い機関銃をライセンス生産して技術導入し、その後に独自開発すべきか。


しかし現在の我が国は、日露戦争の戦費支払いと軍備増強のために、ただでさえ国民に重い税負担を強いているので、安く済ませられるものは安く済ませるべきだし、色々な物を沢山開発して装備するよりは、これぞという物を開発して装備するべきだな。


現状海外への武器輸出に力を入れている国で、性能の良い銃器や火砲を開発している国となると、FN社のベルギー、それにブルーノ社のチェコスロバキアが知られている。


どちらの会社も欧州滞在中に資料を取り寄せた事がある。


そう云う縁もあって、未だに新製品の売り込みの資料が届く事があるのだが、最近もブルーノ社から資料を送って来ていた筈だ。


ブルーノ社の機関銃というと、この度の満州そして上海での事変で中国軍が装備していたブルーノ社の軽機関銃が非常に高性能で、我が軍の装備する重機関銃が撃ち負ける程の威力を発揮した、との報告が多数あったらしい。


中には敵軍が装備していた、そのブルーノ社製軽機関銃を鹵獲して実際に使ってみた兵士も居たようだが、使った兵士達には非常に好評で、我が軍の装備にも是非欲しい、という意見があったほどだ。


そのブルーノ社の機銃は、我が軍での通称は『チェッコ機銃』だった。一方我が軍の将兵達が鹵獲したその機銃を戦場で使ってみて付けた渾名が『無故障機関銃』だ。


無故障機銃と渾名された理由は、我が軍の歩兵部隊が装備している軽機関銃は十一年式軽機関銃なのだが、この機関銃は開口部が多い構造で、とくにこの機関銃の独創的な給弾機構であるホッパー式給弾機構は密閉されておらず、装填された挿弾子が露出していて保護されていなかった。


そのため戦場の過酷な環境下では開口部から砂塵や泥が侵入してしまい、送弾不良や機関部の故障が頻発して使い物にならなかった様だ。それに対してチェッコ機銃は故障知らずで、軽機関銃どうしの射撃戦では日本軍は圧倒された為、前線でチェッコ機銃を鹵獲したら新鋭装備としてそのまま装備化して使用する部隊が続出したらしい。


その為、異例ではあるが、軍の方も後付けで〝智式七粍九軽機関銃〟という名で採用したそうだ。


俺は資料を整理して綴じてある引き出しから、この前届いていたブルーノ社のファイルを取り出す。


〝ZB26軽機関銃〟、これがチェッコ機銃だろう。


ファイルにはもう一つ機関銃が載っているが、これは今年あたりに生産が開始される予定となって居るZB-50重機関銃か。


俺は早速チェコスロバキア大使館に部下をやって、ブルーノ社のZB-50重機関銃の開発がその後どうなっているのかと、サンプル購入が可能かを問い合わせた。


恐らく本国に電報を使って問合せたのだろう、チェコスロバキア大使館から直ぐに返事が来て、ZB-50重機関銃はチェコスロバキア軍では採用されず少量生産に留まったとの事で、現在改良した新しい機銃を開発中との事で、これが完成すればこの新型機関銃を提供可能だ、と返事があった。


恐らく二、三年中には開発が終了し、その翌年にはチェコスロバキアで生産が始まる。ライセンス生産の為の技術提供も同時期に可能だろうという事らしいな。


弾丸は標準が7.92mmのモーゼル弾だが、各種弾薬に対応する事も可能だとか。


併せて、ZB26軽機関銃をライセンス生産で提供する事も可能なので是非検討して欲しい、と売り込みがあった。


チェコスロバキア大使館の職員によると、ZB26軽機関銃は既に中国がライセンス生産権を獲て中国国内で生産中との事だった。


という事は、今後もZB26軽機関銃が中国軍との戦闘に出てくるという事だ。


俺は大使館職員に対し、実は現時点で既に鹵獲品だが我が軍でZB26軽機関銃を採用している事と、前線の将兵から我が軍でもこの軽機関銃の装備化を熱望されているという話をし、もし我が軍でZB26軽機関銃を正式に採用する場合、我が軍の要求仕様に改変してもらう必要があるが大丈夫だろうか、との質問をした。


そしてまた、現在提案してもらっている新型重機関銃でも同じことだが、改変とライセンス生産の技術指導の為に技術者を派遣してもらう事は可能だろうか、との質問もしてみた。


彼は、この場では直ぐには返事できない、という事で後日の返事となった。


後日大使館職員から回答が来て、簡単な修正なら兎も角、本格的な改変になると開発を主導した人物でなければ対応できない可能性がある、との事だった。


そして、現時点では新型重機関銃の開発に掛かっている為直ぐに返事は出来ないが、これの開発後であれば、ZB26軽機関銃と新型重機関銃を日本用に改変する為に来日する事が可能かもしれない、と。


そういう返答だった。


その旨を上司経由で陸軍上層部に話を上げたところ、上層部でもZB26軽機関銃をコピーするか、それともこれを基に新しい軽機関銃を開発するかの検討を始めて居た所らしく、これを作った本人が我が軍の仕様に沿ったZB26軽機関銃の開発をしてくれ、更に技術移転が為されるのならそれは願ったりだ、という事らしい。


陸軍としても、車載機関銃に関しては、そもそも車両を開発している所が技本であり、技本がこの機関銃が相応しいと判断したなら陸軍でもテストしてその採用を検討するし、手直しや改変が必要ならその旨の指示をするから話を進めてくれて構わない、との事だった。


俺はチェコスロバキア大使館の職員に上層部の結論を伝えると、彼は現在のブルーノ社での開発が済み次第技術者がいつ頃来日が可能か、判明次第また返答する、との事だった。


実は、他国でもブルーノ社の機関銃の採用の話が進んでいるらしいが、殆どがブルーノ社が生産した物を輸入する場合が多く、ライセンス生産を行う場合に関しても、技術的蓄積がまだ乏しい我が国とは異なり、自国で何とかする場合が多いという話だ。


兎も角、これで不満点として上がっていた車載機関銃に関して、将来的には何とかなりそうではある。


とはいえ強力な車載機銃は今直ぐに必要な事もあり、繋ぎで輸入品としてベルギーのFN社製のFN30軽機関銃、つまりはアメリカ陸軍も採用しているブローニングM1919A4軽機関銃をFN社が改変してライセンス生産した物を、試しに50丁ほど輸入してハ号戦車に搭載し実戦で使ってみて試験することになった。


我が軍としては、欧米で主流になって居るベルト給弾方式の重機関銃を装備した場合、現状とどの程度違うのか調査する必要があったのだ。


FN30軽機関銃は在庫が十分にあった様で、必要であれば1000丁単位で販売する事も可能だ、とのFN社からの回答と共に、一月半程後に本体50丁と併せて輸入した弾薬が我が国に届いた。


これをハ号戦車に搭載出来るように修正してから新規生産分のハ号戦車の車載機銃とし、前線にある旧来のハ号戦車と入れ替える。


戦闘を経たハ号戦車に関しては、日本で色々と調査をする必要があるからな。





将官になった主人公ですが、史実でも苦労したらしい車載機関銃を一気に解決する意向です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 旧式だけど信頼性は高いってやつですね
[気になる点] 日本もペサ機関銃を採用かな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ