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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

追放する身にもなってくれ

作者: 十字たぬき

 



「このパーティーから出て行け」

「え! なんで!? 僕は皆の為にーーーー」

「最後まで分からず屋か。よく聞け、俺はお前をこのパーティーから追放する」










 ――――二時間程(さかのぼ)る。


「洗濯しておきました!」


 そう言って、エクスは笑顔で俺に報告をしてきた。

 受け取ってみれば、渡された俺の衣服には汚れの一つも見当たらない。泥や血の汚れだってあるのに大した物だ。


「確かに綺麗だ」

「ありがとうございます!」


 しかし――――


「誰がやれと言った?」

「え?」

「まだ洗濯する必要はない筈だ」

「あの、女の方がいらっしゃるから……」

「アイツも汚い生活を理解した上でここにいるんだ」


 その女であるホリィが気にして指示を出したなら、それはそれでいい。それでも、この冒険者パーティーのリーダーである俺に『これから洗濯に取り掛かります』と事前報告をするべきだった。


「不満そうな顔だな?」

「……!」


 エクスの気持ちもわかる。良かれと思ってやったのだろう。しかし、人外を相手に戦い、野宿も多い冒険者としては(れい)点の行動だ。

 報告・相談・連絡もなしに個人が勝手な行動を取るのが当たり前になると、ちょっとした事がパーティーの崩壊に繋がりだってする。ただのパーティーの解散ならいいが、戦闘中の崩壊は命を危険に晒す。例えば――


「お前が不要な洗濯をしたせいで寝不足となり、足手纏いになった時は誰がフォローをする?」

「僕は大丈夫です!」

「大丈夫だなんてどの口で言える。お前は半人前なんだ」


 言葉通りの半人前。エクスは、パーティーの戦闘員としてこの場にいる訳ではない。いずれ冒険者となるため経験を積みに加入したサポート役なのだ。


「実績も無ければ経験もない。お前の言葉には信用がないんだ、分かれ」

「…………わかりました。すいませんでした」


 不貞腐れながらエクスは言った。

 全く心の伴っていない謝罪だが、まあいい。エクスは確か十六歳だったか。まだ若いから目の前の事しか見えない事も多いし、それを学ぶ為にここにいるのだ。

 今は感情的になっていて難しいだろうが、そのうち分かってくれるだろう。


「よし。この話は終わりだ。今回の依頼(クエスト)の最終確認に入るから、皆を呼んでくれ」


 いつも通りに確認を終え、標的(モンスター)の元へ俺達は向かった。






 事前情報の通り敵のオークは四体。そのうち一体はハイオークで、奴の全長はニメートルを越える。


陣形(フォーメーション)・青だ。作戦を開始する」


 俺が指示を出すと、パーティーメンバー達は頷いて即座に行動に入る。


 聖魔導士のホリィが短く祈りを唱えると、メンバー全員に加護がかかる。

 魔導士である俺が(タンク)のシルドに身体強化、防御強化の付与魔法を重ねがけると、シルドは立ち上がり盾に拳をぶつけて打ち鳴らした。


 鎧の拳からガンガンという音が鳴り響けば戦いの合図。シルドに気づいたオーク達が一目散へこちらへ向かってくる。


 シルドはハイオークに向かっていき、大きな盾を構えて的となった(タゲをとった)


 その間に三体のオークも目立つ(タゲをとる)ジールドを叩きのめそうと向かっていくが、そこをつかさず剣士のソードスと槍使いのランスロットが残りの三体を引きつけた。ランスロットが槍で距離を取りつつ、タイミングを見てソードスが剣でダメージを与えていく。


 俺は魔法障壁の詠唱を唱え、回復役である白魔導士のホリィが襲われたり詠唱が途絶えたりする事のないように後衛である俺達の場所を確保する。魔法障壁の効果範囲に、見学者であるエクスも入ってる事を確認してから俺は青い光を空へと打ち上げた。俺も攻撃に参加する合図だ。


 ソードスは剣での攻撃を控え、ランスロットが槍を使ってより距離を取っていく。先程までは後方にいる俺達を守る形で背を見せていたが二人だが、上手く位置を変えてオーク達が俺から見て左手に来るよう誘導する。


 完全にオークと仲間達との距離が空いた時、俺は炎系中級魔法を三発放った。


 二体は突然の炎に身を焼かれ瀕死の状態、一体は最後の力を振り絞るように暴れ始める。ソードスとランスロットは、深刻なダメージを受けたオークに苦労する事なく三体を仕留めた。


 残すはハイオーク一体である。


 隣では細やかに回復の祈りが聞こえるが、誰も怪我という怪我はしていない。よし、いいぞ。だが最後まで気を抜いてはいけない。


 作戦の進行をシルドに伝えるため、俺が黄色い光を打ち上げた時だった――――


 俺の横を(かす)めるようにして、大きな熱が通り過ぎた。


『炎系上級魔法』


 咄嗟にシルドに防御強化の魔法をかけるが、それが届いたかわからない。


 放たれた上級魔法は前衛の三人を巻き込む事なく、ハイオークに直撃しその命を仕留めた。


 目を閉じて細くゆっくりと息を吐く。


 再度開いた時に、前衛全員の無事をもう一度確認したところで俺は振り返ると、


 自信満々なエクスの顔を見た。


「皆さん苦戦なさっているようだったので、僕もお力になれたらと思って――」


 全力でその顔を殴りつける。


 殴られた勢いのままエクスは後方へ倒れた。咄嗟に身を起こして、エクスは俺を睨みつける。


「誰が許可した?」

「だって、あんなの僕だけで倒せる!」

「そんな事は聞いていない。味方を巻き込む危険を考えなかったのか?」

「あんな魔法くらいでミスする訳ないじゃないですか。僕にはちゃんと見えていました」


 一度目だったら、説教をして許した。

 二度目だったら、もう一発殴ってから説教をして許した。


 しかし、三度目どころではないのだ。エクスは善意のつもりで行動し、自信過剰でルールを勝手に破り行動する。

 今回は、誰にも相談していない魔法を放った事で味方を巻き込む危険性があった。命は失えば二度と戻ってこない。なんでわかってくれないんだ。


「もう無理だ。お前に冒険者は向いてないよ」


 確かに、勘違いしてしまう程に魔導士の攻撃力(かりょく)は高い。だけどそれだけでは駄目なのだ。依頼が素材目的であれば高攻撃力(かりょく)の魔法で仕留められないし、より高攻撃力(かりょく)の魔法を打とうと思えば詠唱の時間がかなりかかる。その間、俺達魔導士は完全に無防備になるのだ。

 そもそも狩り場に移動するまで寝ずに移動する訳にもいかない。探索も得意ではないし、回復魔法は聖魔導士に比べて魔力消費が激し過ぎる。


 他の職業にも言えるが、適材適所で集まったお決まり(テンプレート)の配職には意味があるのだ。


 そして、俺は冒頭の言葉をエクスに告げた。












「俺が間違ってたんだろうな」


 エクスをパーティーから除外して三日後。(タンク)のシルドと酒場に来ていた。

 日が経つにつれ頭も冷え、後悔がふつふつと湧き上がってくる。


「お前が悔やむ事はないよ。俺達もお前にアイツの事任せっきりにしたのもいけなかったしな」


 そう言ってシルドは俺の背中を励ますように叩く。あまりに勢いが良すぎて酒を吹き出しそうになった。

 力加減の間違ったシルドの不器用な優しさは有難い。しかし――――


「年長者として、先輩として、もっときちんと教えてやれた筈だ。エクスのやる気は人一倍あったんだから」


 サポートの立場としてエクスは、細やかに周りへ目を向け積極的に行動していた。経験の不足から『今すぐ必要』か『今必要ではない』かの判断が下手だっただけなのだ。


「叱りつける前に、出来た事をもっと褒めてやれば良かった。理解出来てない部分を、嫌がられても根気強く教えてやれば良かった」


 後悔しても意味はない。これは俺の選んだ決断なのだ。それでも、この忌々しい気持ちを整理する為に俺は酒の力に任せて愚痴を垂れ流す。


 言いたいだけ、聞いて欲しいだけ。肯定も否定もいらない。


「ちょっとアンタ!!」


 背後から甲高い声が聞こえた。

 振り向くと、赤毛の長髪を高い位置で一括り(ポニーテール)にした少女が仁王立ちでこちらを睨みつけている。


「嬢ちゃん、こんな時間に酒場に一人で来るのは危ないぜ?」

「待て」


 その顔は見た事があった。最年少にして、高難易度の依頼(クエスト)をこなす孤高の冒険者(ソロプレイヤー)。どこかの有名な剣士の秘蔵っ子だと風の噂で聞いた。


「何の用だ?」

「アンタがエクスを追い出したんでしょ!? アンタなんかケンタウロスに蹴られて死んじゃえばいいのよ」


 まるで癇癪(かんしゃく)を起こした子どものようだ。いや、実際に癇癪を起こしているのか。きっとエクスと友達なのだろう。実力と比べるといささか違和感があるが、年齢的にはおかしくない発言か。


「でもね、エクスは私とパーティー組んだから! 今さら返してって言っても、もう遅いんだからね! 精々逃したフライフィッシュ(さかな)が大きかった事を後悔するといいわ!」


 そう言うだけ言って彼女は去った。


「なんだったんだ今の?」

「エクスがイジメられたと思ったから、代わりに文句を言いに来たんだろ」

「あの二人が組むって? それは――――」

「いい、それ以上言うな。言わないでくれ」


 冒険者を続けていれば分かる。

 この職業は、ああいう考えなしの未来ある若者から死んでいく。


 冒険者にとって個人の強さは二の次だ。

 チームワークと徹底した攻略計画。それが出来なければ、いつか(ほころ)びが出てパーティーは全滅する。


 あのような追い出し方をしたのだから、エクスが遅かれ早かれ自分に都合の良いパーティーをつくるだろう事は予想していた。


 しかし、俺は今のパーティーメンバーの安全を選んだのだ。


 未来のエクスを見殺しにして。


 その考えとは裏腹に、俺はタラレバを語る。


「でもさ、もしかしたらエクスは成り上がるかもしれない。化け物みたいな魔力をエクスは突然授かるんだ。さっきの女の子は御伽噺(おとぎばなし)に出てくるような魔剣を手に入れて、依頼(クエスト)の途中で出会った聖魔導士は禁忌の蘇生魔法を使ったりする。そんな三人がいれば、この国最強のパーティーとなるだろう。

 そしてさ、俺達では手も足も出ないような伝説級の龍を討伐して、王様から爵位を貰って貴族になるんだよ」


 有りもしない妄想。大きく描いた空想。シルドも、俺に合わせて話を広げる。


「ああ、そうだよな。でももしかしたら冒険者なんてすぐに辞めるかもしれねぇぞ? すげぇ閃きの連続でどっかの貧しい村をこの国一番の街へと発展させちまうんだ。さっきの嬢ちゃんは将来美人になるだろうが、他にも美人な女にエクスわんさか言い寄られるかもしれない。ちくしょう、なんて羨ましい!」


 そう言い合って、俺達は声を上げて笑った。


 大事なものは自分と身内。俺達の両腕は短い。目に見える全てを抱え込めないんだ。だから選別する。例え未来ある若者の命が絶えることになろうとも。


 それでも俺達は弱いから、酒と妄想で現実を曖昧にしながら生き永らえる。


 この夜、俺達の妄想の中でエクスは英雄となった。


最後までお読みくださりありがとうございました。


短編長編問わず、ブクマ・評価・感想は活動の励みとなっております。反応くださる方ありがとうございます。


お読みくださった方と、また他作品でもご縁がある事を願って。

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