出会い 4月9日
雨が降り注いでいる。
駅を出ると、懐かしさを伴う木の匂いを感じた。
それを吸い込むと、自然にため息がもれた。
バサッ
痛てぇ、何かが当たった。
下を向くと、濡れた紙飛行機が落ちていた。
それを拾って開いてみると、
救ってください
と小さな文字で書かれていた。
困った。
俺はそれを見つめることしか出来なかった。
正義感のある人ならば、
持ち主を探して救っていたかもしれないが、
生憎拾ったのは自分だ。
とても申し訳ないが、やはり僕には…
そう思って前を向くと、
同じ学校らしい女子と目が合った。
全ての眼球が彼女の全身を捉え、
圧倒的可愛さがよぎる1コンマ後には思った。
気まずい、というかまずい。
そう言えば俺は道のど真ん中で、
紙飛行機をまじまじと眺めている変人なのだ。
こんなことで何か問題になってもらっては困る。
学ランのポケットに
紙飛行機をくしゃくしゃに詰め、
得意の作り笑顔と軽い会釈の二連コンボで、
その場を後にした。
はぁ…
俺はまたしてもため息をもらした。
今日は始業式らしい。
俺の誕生日でもあるらしい。
いつもと何かが異なっている訳でも無いのだが。
つまり窓際族の自分に相応しい修行式な訳だ。
なんて煮詰まらないことを考えていたら、
学校に着いていた。
靴箱を抜けると掲示板の前に人集りがあった。
騒々しい。
彼らの目の前には
クラス替えの表が貼り出されいた。
遠目に眼鏡で覗くと、
俺の名前は1組ですぐ見つかった。
奥のクラスで面倒臭いとも思ったが、
人が集まりにくいと思ったら、
少し良く思えた。
新しいクラスは、やはり騒がしかった。
俺の席は幸いなことに窓際であったが、
周りもやはり誰1人知らなかった。
有るもの無いものの整理で時間に弄ばれていると、新しい担任から体育館に集まるように指示された。
こちらはいっそう煩かった。
大体、人が多すぎる。
これだから中高一貫校は。
中3になっても威張れないではないか。
しばらくすると校長の挨拶が始まった。
正直、放送で良いのではないだろうか。
本も読めるし。
話の終わりに顔を上げると
校長の隣にさっきの女子に似た人がいた。
最後に目が合った気がするけど
あれは気のせいだろう。
目をつけられては困る。
教室に戻ると彼女が担任に連れられて
教室に入ってきた。
「新しい転校生がうちらのクラスに入ってきたぞ。
ほら、自己紹介。」
「な、なきりひゆりです。よろしくお願いします。」
凄く小さな可愛らしい声で
1番前の席の俺ですらギリギリ聞こえる位だった。
徐々に拍手の音が広がり、
それが止むと担任は俺の方に顔を向け
「日野の隣の席だから、よろしくな。」
と言った。
困った。
39分の1を見事に当ててしまった。
どうして、よりにもよって俺の隣なのだ。
目の保養になるのはいいとして。
こんなことになるならば
あの紙飛行機を拾わなければ良かった。
きっと彼女の心の中では
「さっきの変人の隣じゃん、
マヂ最悪なんですけど〜(笑)」
と思っているのだろう。間違いない。
俺が冷静になった頃には彼女は隣でバッグの整理を始めていた。
気づいたら眠っていた。
もう3時ではないか。
それにしても、
間違って持ってきた飯を一人食べていたら
知らない間に寝ているなんて相当疲れている。
もしくは歳か。
早く帰ろう。
そう思って物を片付けていると
見知らぬノートが机に入っていた。
中身を見ると
-4月9日-
誰とも話さず、昼ごはんを食べたら寝てしまった。
と書かれていた。
よく分かっているじゃないか。
ついでに帰る前に書き加えておこう。
ノートは机の中に
-4月9日-
誰とも話さず、昼ごはんを食べたら寝てしまった。
ついでに隣の席に
とんでもなくかわいい転校生
が来てしまった。
申し訳ない。