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張り紙をして二週間程経つ。全くもって誰も訪れなかった。その間五郎丸自信も死体を探してはいたが、見つかってもいない。
「えぇーい‼こんな物‼役に立つかっ‼」
五郎丸は張り紙を乱暴に剥がすと、その場でビリビリと破り捨てた。
よくよく考えれば、子猫のうちに死んでしまう等、余程の病等にならなければ、飼い猫等死なないだろう。かと言い、野良猫の死体を葬りたいと言いに来る者等、尚更いない。皆放置だ。完全に失敗だ。これは計画を変えなければ…と、五郎丸は再び思案し始めた。
「そうだっ‼」と、一つ良い案を思い付く。家の前で毎朝焼き立ての魚を置けば、野良猫が集まって来る。いや、しかしそれでは只の餌やりとなり、野良猫は死ぬ所か健康になってしまう。この案も駄目だ。さて、どうしたものか…。再び再び思案する。
「こうなったら…心苦しいが…。」
苦難の決断。最終手段とし、まだ生きているが、痩せ細った子猫を連れて行こう。そう決めた。
痩せ細った子猫ならば、沢山目にして来た。どこにいるのかは、すぐに分かる。この二週間で、野良猫の溜まり場は、殆ど把握している。
五郎丸は、早速子猫が沢山いた、野良猫の溜まり場へと向かった。そして到着をすると、案の定、沢山の子猫が「ミャーミャー」と、腹を空かせた様子で鳴いている。その中から、一番小さい子猫を選び、怯えない様そっと優しく掌で掬い上げた。
「よしよし。すまぬな…わたしを許せとは言わぬ。だが、お前の体がどうしても必要なのだ。最後に美味い魚を食わせてやろう。」
五郎丸は子猫を家へと連れて帰ると、ほくほくの焼き立て魚を、最後の晩餐と称し、子猫に与えてやった。
心苦しい…そう思ったが、いずれは餓死し、カラスの餌になってしまう。それならばと、自分に言い聞かせる様に、美味い物を最後に食べ、満たされた心と腹で旅立った方が良い、と思った。
子猫は美味そうに、ガツガツと魚を食っている。その姿を見て、五郎丸の目からは、自然と涙が溢れ出て来てしまっていた。
「すまぬ…すまぬ…。」
何度も泣きながら、子猫に謝る。自分の勝手な願いの為に、小さき命を奪うのだ。これも又、対価なのかもしれない。子猫にとっては、美味い魚と引き換えに、命を奪われるのだ。
気づけばもう夕暮れ。今から山に行くのは、暗くて危険だと思い、明日の明朝出発する事とした。そして又も子猫の最後の至福の時とし、暖かい布団で寝かせてやる事にした。