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五郎丸の決断に、妖は又「キシシ…。」と笑う。
「いいだろう、いいだろう。ならばわしの言う事をよく聞け。長生きしたくば、なるべく歳の若い猫の新鮮は死体をつれて来い。野良猫でも構わない。わしが金持ちの飼い主へと導いてやる。」
ふむふむ、と五郎丸は真剣に耳を傾ける。
「死体を連れて来たら、すぐにお前の魂を、猫の体に移してやる。お前は人間の頃の記憶を持ったまま、猫になる。」
「承知した。新鮮な子猫の死体を見付けて、再びこの場に参上すればよいのだな。」
五郎丸は大きく頷くと、鼻息を荒くし、「よしっ‼」と意気込む。
「では、早速死体探しへと出向こう‼誠に、金持ちの飼い主へと導いてくれるのだな?」
「二度も言わせるな。」
妖は一言だけ言うと、さっさと五郎丸に子猫の死体を探しに行く様、出口を指さした。
「そこから出られる。一本道だ。早く行け、馬鹿め。」
「承知した‼」
五郎丸は妖に促されるまま、指を刺された方を、歩み始めた。一瞬チラリと後ろを振り返ると、妖はにやけ顔をしている。まぁいい、と思い、来た道を戻るべく、山道を歩き始める。
行きと比べ、帰るは差ほど道のりは苦難では無い。足も軽く、すいすいと山を下りて行く。気づけば、あっと言う間に、途中の休憩所、茶屋に辿り着いた。だが差ほど疲れていなかった為、茶屋は素通りをし、江戸の町へと向かう。心なしか、足も弾むが心も弾む。これからの生活に、希望を抱いていた。だが真の苦難が待ち受けている事を、五郎丸は今はまだ知らない。
江戸の町へと辿り着いた五郎丸は、早速子猫の新鮮な死体を探した。容易く見つかるモノかと思いきや、それはさぞかし苦労する事となる。
探せど探せど、中々見つからない。見つかるのは、腐敗した死体か、カラスに喰われたボロボロの死体、尚且つ年老いた猫ばかりだった。町中のあちこちを歩き回り、探し歩くが、糸も容易く、都合よく見つかる筈も無い。どうした物か…と、五郎丸の頭を悩ませた。頭を悩ませると共に、歩き疲れ、足が棒の様になってしまっていた。
「むむむ…子猫の死体はどこで手に入る物なのか…。」
頭を抱え、悩み続ける五郎丸に、一つの名案が浮かぶ。
「そうだ‼尋ね猫として、張り紙を出そう‼」
五郎丸は家へと帰宅すると、早速和紙に、筆で「新鮮な子猫の死体を所望する。手厚く葬ってしんぜよう。」と書き出し、目立つ場所に張り付けた。