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対価  作者: 小鳥歌唄
6/13

 盛大なため息が、山中に響き渡る。ため息の主は、妖だ。

「またか…。」

 妖はそうぼやくと、再び深いため息を吐き、つまらなさそうな顔をした。

「何故人間はそんなにも金が好きなんだ?馬鹿め。どいつもこいつも金金と、くだらん…。」

 呆れた様子で、力無くさい銭箱の上へと、ふわりと体を浮かせ、座る。そして又、ため息。又ため息。その繰り返しだ。五郎丸は、そんな妖の姿を、口をぽっかりと開け、見つめていた。

 意外な反応だった。先程までの禍々しい波動からすると、とてつもなく恐ろしい表情でもされるかと思っていた。だが実際は、呆れられてしまっている。その上、また気の抜けた妖へと戻ってしまっている。

「そ…そんなにも多いのか?金…を願う者は?」

 恐る恐る問うてみると、妖からは又もや深いため息が漏れる。

「まぁな。お前以外にも、沢山いた。どうした?借金でもこしらえたか?」

「いや…そう言う訳では…。」

「では何故金が欲しい?」

「それは…。」

 五郎丸は口ごもってしまう。働かぬして暮らしたい、その様な事を言えば、更に呆れられてしまいそうだ。

「どうせロクな理由ではないだろ?さっさと言え、馬鹿め。」

 妖に促され、五郎丸はコクリと小さく頷くと、意を決して答えた。

「一生働かなくとも、金に困らず生活がしたい。つまりは、働かなくして生活が出来る金が欲しい。一生分のだ。それがわたしの願い…なのだが…。」

 五郎丸の答えを聞き、案の定妖の表情は、呆れ返ってしまっていた。そして再び、深いため息が山中に響き渡る。

「お前、どうしようもないろくでなしだな。」

 妖にそう言われてしまうと、言い返す言葉も無い。ごもっともだ。

「それで?どの程度の生活がしたい?」

「どの程度…とは…?」

 五郎丸の質問に、妖は面倒臭そうに答える。

「色々あるだろ。豪遊して暮らしたいだの、質素でいいだの。それにより対価も異なる。馬鹿め。」

 「あぁ…。」と五郎丸は納得をすると、自分がどの程度の生活を求めているのか、しばしその場で考え込んだ。だが、程度によって対価が違うのであれば、まずは対価を聞いてから決めるのも良し、とも思い、妖に問うてみる事にする。

「豪遊だと、対価は如何程のモノになるのだ?」

「死後魂を食わせてもらう。」

「死後…。食われた魂は、どうなるのだ?」

「転生も出来ず、無をわしの命が尽きるまで彷徨い続ける。補足だが、わしは既に数千年は生きている。まだまだ長い生きをする。」

「数千…年…。」

 思わず想像をし、生唾をゴクリと飲み込む。数千年も無を彷徨う、想像を絶する想像だ。

「でっでは、質素な暮らしだと如何なるモノだ?」

「記憶を頂く。人間の記憶はわしにとって娯楽だからな。様々な人間の今まで見た物、経験した感情、思い出と言う物か?それが楽しい。わしはずっとここに居るから、退屈しなくていい。」

「…記憶か…。」

 五郎丸は少し考え込んだ。記憶ならまだ良いかもしれない。だが、今までの物全てを忘れてしまうとなると、武士としての誇りまで失ってしまう。それはいささか好ましくない。だが、魂に比べれば、数倍マシではある。どうしたものか…。

 悩み出してしまい、頭を抱える五郎丸に、「キシシ…。」と又あの奇妙な妖の笑い声が聞こえた。

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