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コホンッと、五郎丸は軽く咳を吐いた。
「して、妖よ。わたしの願いを叶えて欲しいのだが…。」
そう言うと、妖は不思議そうに、首を横に傾ける。
「?何だ?お前は願いを叶えて貰いに来たのか?」
不思議そうな顔をする妖に、五郎丸も不思議そうな顔をした。
「いや…先程そう叫び、呼び出したではないか。」
「あぁ…。あれは呼び出したのか。わしは起こされたのかと思った。」
「起こされた?」
更に不思議そうな顔ををする五郎丸に、妖は淡々と軽く説明をする。
「わしは普段は寝ている。厄は匂いで分かる。雄か雌かも。起こされた時お前が見えた。だが食った厄は雌の物だった。だから夫婦と思った。だがお前は一人だと言う。わしは何か問題があり起こされたと思った。厄に関して。」
「ふむ…。」
「実際はお前はわしに、願いを叶えて貰いに来たのだな?厄に問題は無いのだな?まぁ見た所、お前は厄を纏ってはいないし。」
「まぁ…そうだ。厄…とやらは、人にも見える物なのか?」
妖の説明を聞きながらも、疑問をぶつけてみる。なんせ先程の女子の黒い物体が、未だに頭から離れない。あれが厄なのだと言う事は確かなのだろうが、何故自分には見えたのかが、いささか疑問だった。
「見える。だが、さい銭箱の前に立った時だけ見える。消えると消えるのも見える。」
あっさりとした答えを出した妖に、五郎丸は先程の女子の言葉を思い出し、納得をする。
確か女子は、『もうお済ですか?』と問うて来た。普通ならば、立ち去るまで無言で待つだろう。妖の言う通り、さい銭箱の前に立っている時に、人にも厄が見えるのであれば、最初から厄など纏っていない五郎丸は、何時間立とうと厄等見えはしない。女子は五郎丸から厄が見えなかったから、もう済んだと思い、声を掛けたのか。
どうも喉に詰まっていた物が取れると、自然とスッキリした。
「ふむ、よく分かった。して、願いはどうなる?」
再び五郎丸が尋ねると、妖は不敵な笑みを浮かべ、又「キシシ…。」と奇妙な笑い声をあげる。
「叶えてやる。だが対価は頂く。馬鹿め、対価は安くないぞ。」
先程までの気の抜けた妖とは違い、禍々しい波動を感じた。五郎丸はその波動が脳ミソまで届き、一瞬背筋に悪寒が走る。ゴクリと生唾を飲み込むと、自然と冷や汗まで出て来た。
「して、お前の願いは何だ?」
問われる五郎丸。声を震わせながら、小声で答えようとした。
「か…か…金が…。」
だが、上手く言葉が出て来ない。もう一度ゴクリと生唾を飲み込むと、震えた声で、呟く。
「金が…欲しい…。」