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それは何とも言えぬ、異形な姿だった。
真っ白な短い髪。真っ赤に光る眼。銀色に輝く狐の様な耳。お尻からは三毛猫模様の尻尾の様な物が三本生えており、巫女服を着ている、小さな男の子の姿。
五郎丸は何度も目をパチリパチリと瞬きをする。そしてジッと、その異形な姿を見つめた。
「はて?子供?…だが動物の耳やら尻尾が生えている…。子供の…妖か…?」
先程までの悪寒やら何らやは、すっかりと消え失せてしまっていた。もっと恐ろしい姿を想像していたが、思いの外可愛らしい。むしろ愛着が沸いてしまう。
「人間は相変わらず馬鹿め。すぐに見た目で騙される。」
そう言うと、妖はキョロキョロと周りを見渡した。
「雌は何処だ?確か厄を食わせて貰った雌が居た筈だ。」
「雌?」
五郎丸は少し首を傾けると、あぁ…と思い出す。
「もしや先程の女子の事か?ならばもう帰ったぞ。やはり厄を食ったと言う事は、お主が妖なのだな。」
「わしが妖だ。帰った?お前達は夫婦と言う物ではないのか?」
「夫婦?いや…奇遇にもこの場で出会った者で、夫婦では無いし、初対面であったのだが…。」
五郎丸の言葉を聞き、妖はハァ~と大きくため息を吐いた。
「わしの勘違いか…。ならば雄の貴様だけと言う事か?」
五郎丸は無言で頷く。
「ならば子の姿ではなく、大人の雌の姿をすればよかった。馬鹿め…わし…。」
又も妖は、大きくため息を吐く。
「大人の雌…?」
五郎丸が不思議そうに尋ねるが、妖は自分の失敗に結構なショックを受けている様子で、座り込んでいじけてしまっている。仕方ないと、五郎丸は自分で考えてみた。
夫婦と思ったから、子の姿で現れた。と言う事は、妖は姿を自在に変える事が出来るのか。ならば、本来の姿はいかなる物か?耳や尻尾が生えている事を考えると、人間と言う形はしていないのだろう。
「ふむ…。」
一人納得をすると、大人の雌の姿と言う言葉にも、自然と納得が行く。どうやらこの妖は、対象事に、姿を変え現れるのだろう。目的は多分…騙す為ではなかろうか。確か『見た目ですぐ騙される』と言っていた。
「うむ。」
又しても、一人納得をする。納得をした所で、五郎丸は落ち込んでいる妖を、元気づけるかの様に言った。
「妖よ。その姿も中々良いぞ。わたしは愛らしいと思う。うむ、とても愛らしい。」
五郎丸の言葉に、妖は垂れ下がっていた耳を、ピンと立たせ、嬉しそうに瞳を輝かせながら顔を上げる。
「本当か?そうか‼ならば成功か‼」
「うむうむ。成功だ。」
「そうか‼」
妖は笑顔で立ち上がると、小さくガッツポーズをとる。なんともゲンキンな妖だ…五郎丸は心の中でそう思うと、これは容易く願いを叶えて貰えるかもしれぬと、期待をした。