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険しき道は獣道。そう想像する者達は多いだろう。この世に容易い道等無いと。だがあれやこれやと考えながら進んで行くと、意外と容易く行ける道もある。
五郎丸は道中ずっと妖の事を考えながら、山を登っていた。
どれ程恐ろしい姿なのか、どの様な恐ろしい代価を要求されるのだろうか、本当に食われてしまうのではないか。等々。
ふと気付けば、いつの間にやら山の頂上へと到着をしていた。
「何と…もう着いてしまったのか…。」
五郎丸自信も驚いた。考えながら登っていたお陰か、道中どの様な道のりだったのかが、余り覚えていない上、そう疲労もしていない。確かに足は少し疲れを感じるが、まるで一瞬で頂上へと移動した感覚だ。
そっと来た道を振り返ってみると、緩やかに見えるが、長い長い坂道が延々と続いているのが見えた。その上道は土と石でデコボコしている。足の疲れに納得がいく。
「さて…寺は何処に…。」
五郎丸は周りを見渡した。
山の頂上は木々に囲まれた平地が広がっている。普通はとんがり頭を想像するかもしれないが、この山の頂上は、とんがってはいない。
致し方ないと、五郎丸は木々の間を潜り抜けながら、ウロウロと寺を探した。
と、ふと瓦屋根が見える。
「もしやあれか?」
五郎丸は見えた瓦屋根を目指し、木々の間をスルスルと抜け向かって行った。大きな木や、小さな木と、沢山生えており、道と言う道は無い。
段々と近づくに連れ、木は大きくなっていた。その大きな木々の間を潜り抜けると、突然開けた円形の場所に出た。そこは邪魔な木々も無く、草も無く、土だけが広がっている。。その真ん中に、古びた寺が建っていた。
「何と…これが妖の住む寺…。これは意外と…。」
小さかった。
寺は高さはあるものの、横幅は狭く、縦長の形をしている。途中見えた瓦屋根はやたら大きく、高さもあるが、下に行くにつれ、細くなっている。長方形と言うよりは、台形だ。地震でも来たら、すぐに崩れ落ちそうな、バランスの悪い形の寺だった。
寺の前にはボロボロのさい銭箱が置かれており、五郎丸はそっとさい銭箱を覗いて見ると、沢山の小銭が入っていた。確かに皆、この寺で参りに来ている。この寺が妖の寺で間違いないだろう。
「ふむ、どうしたものか…。」
五郎丸は未だに悩んでいた。妖を呼ぶべきか、呼ばぬべきか。
寺をじっと見つめる。寺には扉が付いている。この中に妖が居るのかもしれない。呼んでみるか?だが恐ろしさもある。五郎丸は生唾をゴクリと飲み込んだ。
「何を恐れる事があるか‼幾度の戦を生き抜いて来た、この五郎丸だぞ‼恐れるモノ等無し‼」
自分にカツを入れるかの様に叫ぶと、両頬を両手で、力強く二度叩いた。両頬が痺れる。
いざ行かん。妖を呼び出そうと、大きく息を吸い込み、声を吐き出そうとした瞬間、「もし…。」と後ろから、若い女性の声が聞こえた。五郎丸はその声に驚き、吐き出そうとした声を思わず飲み込み、軽く咽てしまう。
慌てて後ろを振る返ると、そこには上等な着物を着た、若い女子が立っていた。
「お侍様、もうお済でしょうか?」
若い女子が問うと、五郎丸はコホンと軽く咳を吐き、「うむ…。」とだけ答える。
「では、失礼致します。」
若い女子は五郎丸に一礼すると、さい銭箱へと近づく。慌てて五郎丸は、さい銭箱から離れ、そっと二歩後ろに下がった。そして若い女子がさい銭箱の前へと立つと、信じ難い物を目の辺りにする。