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明朝、五郎丸はまだ眠っている子猫を風呂敷に包み、前で抱く様に肩に掛けた。
「さて、行くか…。」
まだ日が昇ってもいないが、着く頃には朝日も射すだろう。余り一目に付きたくは無い。茶屋でも誰かに会うのは避けたい。そう思い、日が昇る前に、出発をした。
早速再び山寺を目指し、歩き始めるが、とても空気が冷たく、寒い。そう言えばまだ言っていなかったが、今は冬の時期だ。山寺は、更に寒いだろう。
五郎丸は白い息を吐きながら、只ひたすら歩く。心中は不安もあったが、どこか穏やかでもあった。
一度目と違い、あれやこれやと思案しながら向かった時に比べ、今回は何故だか足が軽く、初めよりも早々に茶屋までは着いてしまう。寒いので温かい茶でも飲んで一息入れたかったが、茶屋の店主にも余り会いたくなく、素通りをして、そのまま山寺まで向かった。
山の頂上まで来ると、あれだけ探し回って見付けた寺が、今回は何故かすんなりと行く事が出来た。まるで妖に導かれている様だ。迷う事無く山寺へと到着をすると、更に吐く息は白く、とても冷たい空気が体中を纏う。
五郎丸は大きく息を吸うと、又大声で叫んだ。
「たのもう‼妖よ‼約束の品を献上しに来たぞ‼」
すると祠の戸が、ギギギ…と鈍い音を鳴らしながら、ゆっくりと開いた。
「五月蠅い。こんな早くから来るな、馬鹿め。」
戸の中から、まだ眠そうに目を擦りながら、妖がゆっくりと姿を現す。その姿は、最初に会った時と同じ姿だ。
「すっ…すまぬ。だが人に見られたくは無かったゆえ…。」
慌てて五郎丸は謝るも、そんな事はどうでもよさそうに、妖は鼻をひくひくとさせ、匂いを嗅いでいた。
「ん?お前、その風呂敷の中の生き物は、まだ生きている。死体を持って来いと言った。」
「あ、あぁ…いかにも。しかしながら、死体が見つからなく、仕方なく、今にも死にそうな子猫を連れて来たのだ。どうすればよいのか、わたしにも分からず…。」
困った表情を見せる五郎丸に、妖も少し困った様子で首を傾げた。
「ん~まぁいい。」
そう言うと、ふわりと体を浮かせ、五郎丸が抱く風呂敷の中の子猫を取り出す。
「確かに死にそうだな。まぁこいつの魂は命を奪う対価とし、天界へと送ってやろう。」
妖の言葉に、五郎丸はほっと肩を撫で下ろした。これで自分も、この子猫も救われる。そう思ったのだ。
「では早速。」
そう言うと、妖は手にした子猫に、息をふぅーと吹きかける。その後、子猫の体の中から、薄い水色の火の玉が浮かび上がり、天へと昇って行った。
「これで準備はよし。こいつの命は終わった。」
五郎丸は、目をまん丸くして驚いた。今見た水色の物体が、魂と言う物なのか。初めて目にし、なんとも美しいと感じた。
「さて、次はお前の番だ。」
そう言うと、妖は子猫をそっと地面に置き、「キシシ…。」と笑う。五郎丸は思わず、生唾を飲み込んだ。
いよいよだ。いよいよ猫の体になる時が来たのだ。




