真説 賽の河原の鬼は、実は猫だった!
このように思ったのには訳がある。
本を積んで片付けをしていたときのことだ。
猫が「あ・そ・ん・でーー!」と突進して積み上げた本の山を崩されたからだ。何度も。
◇
六月下旬。暑くなり、毛皮を着ている猫にとっては夏毛に着替える季節。
大きな毛玉(ウチの猫)から小さな毛玉がパージされていく。抜け毛だ。長毛種であるウチの猫は毛玉毎抜け毛が発生している。
部屋の隅、ベランダ、そこにあるザルの中、カーテンの裏の窓の枠、などなど。
小さな毛玉がある場所がその日ウチの猫がいたという証拠として残っている。
はぁ、と溜息が漏れた。さすがに拾わないと目立つ。
猫の抜け毛である毛玉を拾っていると、寝転がっている猫は気を使うのか、その場から立ち去る。
ここで猫は他の居場所として、ちょうどいい空間を見つけた。
何を隠そう、本棚に並んでいる本の上の隙間。
狭い隙間が好きな猫はそこへと至り、身体を捻じ込む。その際、本が蹴り飛ばされる。
すると詰まっていたがために安定していた本が傾き、より空間が確保されるのだ。
そして居心地が良い様に動き回り、それで本がさらに崩れて邪魔なものは蹴り出される。
知らぬ間に本が床に散乱しているという状況が出来上がった。
それを見た私が本を種類毎に並べて、積んでいく。
「はぁあああ~」
先程よりも長い溜息が口から溢れる。
そしてまた本棚へと近づいていくに従い、猫が威圧されたのか、再度移動を開始した。
それは隣の本棚だった。繰り返される悪夢。再び零れ落ちる本の山。
こちらの気力も精神力も削られていく。
「ハァアアアアアア~~」
三度放たれる特大の溜息。
それでも私は諦観にも似た感情で続きを片付けるのだった。
それを見ていた猫の狩猟本能が素早く動く手の動きの先の本に反応を示す。
つまりは興味津々。
猫パンチっ! バンッ!!
叩き落とされる本。
「……」
落ちた本を拾う私。
再び繰り出される猫パンチ。
「‥‥‥」
拾う私。バシンっ!!
「・・・・・・」
そぅ~と本を掴み、持ち上げる。バッ‼
「● ● ● ● ● ●」
私は両手を使って持ち上げて部屋を出る。二階から下へ降りて玄関から出て、持っていたものを地面に置いて部屋へと戻った。
こういう時の猫は何故か戻って来る。
庭にある木に登り、枝を伝って物置の屋根に上がり、そのまま家の屋根からベランダにいき、開きっ放しの階段の小窓から部屋へと。
私が自分の周りに並べた本の山。その隙間から猫の目と視線が絡み合う。
突撃する猫。
「あ・そ・ん・でー!」
声を当てるなら、そんな感じ。
当然その道中の左右にある本の山の間の谷には猫が通れるほどの隙間は存在しない。
崩れる山。だが、それだけではない。ドミノ倒しのように他の本の山も連鎖して崩れていく。雪崩だ。
本棚へと戻そうという段階になって巻き散らかされる本たち。
鬼か、悪魔か。
賽の河原の鬼は積み上げた石を崩すという。ループ、エンドレス。
なのにウチの猫は円らな瞳で見上げてくる顔は小悪魔のよう。
【解決策】
猫を抱き上げて、別の場所にあるエサ場でエサを与えて満腹にしてから寝かしつける。
その隙に片付けるのだ!! 結果:寝ない……
※ウチの猫は放し飼いです。