第7話 一つ屋根の下で
「半分は私のせいやし!うち、泊まっていかん?」
由香子が発した言葉は想定外だった。
「ちょ、おま……」
さすがに、俺でも凍りつく。何を言ってるんだ。
「え、ええと……」
こいつも、何を言ったのか、だんだん理解したのか、言葉が出ず、動揺している。
目があちこちをきょろきょろしているし、挙動不審もいいところだ。
でも、まあ。ここで断ったら、罪悪感持ちそうやしなあ。
「やったら、泊めてもらおうかな」
「は、はい……」
何やら妙に縮こまってしまった、由香子。
これは、動じないと言われてる俺でも、色々動じる。
「……」
「……」
大阪城公園からさらに数駅。JR鶴橋駅近くにあるらしい、彼女の家。
大学以降、一人暮らしをしたとは聞いたけど、まさかお泊りになるとは。
「……」
「……」
どちらも、一言も言葉を発しない。
たぶん、勢い任せの言葉だったんだろう。
とはいえ、取り消すのも気まずいし、断るのも気まずい。
つまり、泊めてもらうしかないという消去法。
一つ屋根の下で男女がお泊りだというのに、色気のかけらもない。
結局、一言も言葉を発しないまま、彼女の1DKの部屋に到着。
「と、とりあえず、来客用布団準備するから。風呂入っといて!」
「お、おう」
そもそも、風呂場の使い方とか、タオルはとか色々聞きたいことはあったが。
いったん、距離を取らないと気が休まりそうにない。
なんとかかんとか、シャワーを浴びながら。
「ええと、どうすればええんや?こういうときは」
こういう距離感覚が思いっきり狂うシチュエーションは初体験。
しかも、由香子もそんな提案をするくらいには俺の事を良く思ってる。
少し冷静になれば、結局、お互いの関係の問題だ。
これは、関係をいったんはっきりさせた方がいいかもしれない。
どうなるかは、由香子次第だけど。
よし。もう、腹をくくった。
風呂を出ると、由香子はパジャマに着替えていた。
少しでもリラックス出来る格好を、ということだろうか。
しかし、そのチョイスはむしろ危ないぞ。
どしっと、由香子の前に腰を下ろす。
「なあ、もう、この際、関係はっきりさせへん?」
「う、うん。私も、なんか、そう思っとった」
やはりか。このお見合い状態も色々勘弁して欲しい。
「俺が思うに、由香子とはかなーり気が合うと思う」
「う、うん。私も」
その先に待ち構えている言葉に気がついたのだろう。
彼女の顔が酒以外で朱に染まるというレアな状態。
「でや。由香子は可愛ええし、好意も持っとる」
「う、うん。私も、そんな感じ」
「というわけで、付き合わん?もうグダグダやけど」
「そうしよ。私も、急に体力消耗してもうたわ」
そう言って、布団に倒れ伏す由香子。
関係をはっきりさせたせいか、俺も安堵感で疲労が押し寄せてくる。
「ところで、どういう風に付き合う?」
「頭パンクしそうやから。明日にして?」
なるべく、こっちを向かないようにしているらしい由香子。
「ま、そうやな。明日からやな」
「きっと、なんとかなるよ。なんとか」
「そやね」
疲労困憊での告白を終えた俺たち。
たぶん、なんとかなる、よな?
というわけで、勢いで突っ走って恋人になってしまった二人でした。
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