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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
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9話 行商人

 今日は村の誰もが待ちに待った行商人が村へと来る日だ。


 村の最近の話題は、行商人が来る日はいつになるのか、今回は何を持って来てくれるのか、一体何を買おうかなどと、誰もが行商人が来るのを待ち望んでいた。

 もちろん我が家でも、リズやレンスがいつ来るかも分からない行商人を毎日待ち焦がれていた。

 行商人が来るのがこの村にとってどれほどのイベントであるかが、みんなの反応からよく伝わってくる。

 周りの反応を見ていると、こちらまで楽しみに思えて来るくらいだ。


 村に行商人が来るときは毎回隊列を組んでやってくるそうだが、村へと来る前にはその行商人の隊列から村へと先行して、いつ頃到着するかを教えてくれる役目の人がいるそうだ。

 村も行商人を出迎える準備ができるし、行商人側も事前に知らせることで、村の人達のお金の準備に余裕ができることからそういことを行っているのだろう。

 今回も事前に知らされたお陰で、村中が行商人の話で一杯なのだろう。


 リズは、行商人がそろそろ来る季節だと感じ取ってから毎日のようにうずうずしていたが、行商人が来る日が分かってからは、それ以上に常にそわそわしていた。

 今日も俺が起きてから朝食を食べに行くと、既にリズは食事も着替えも済ませ、椅子に腰かけながら時折、窓から村の入口の方を眺め、また視線を戻すということを繰り返しており、落ち着かない様子であった。

 

 レンスもリズと同じく全ての準備を済ませてはいたが、こちらは財布を握りしめながら、玄関で陸上選手のスタートダッシュ並みに真剣な面持ちで待機している。


 そんな二人を横目に、ルイが起きてくるのを待っていた母ローズと一緒に朝食をとる。

 一緒に食事をとりながら、ルイはローズに話題の行商人についての話を振る。

 

 「ねえお母さん。今日は村に行商人が来る日だけど、行商人さんって具体的には何を持ってきてくれるの?」

 「そうねぇ……。持ってきてくれるのは前にお父さんが言っていた通り、森では手に入れることが難しいようなものね。具体的に言うと、塩とか鉄製の農具や料理器具とかの消耗品は村の人達が必ず毎回買っていくから、大量に持ってきてくれるわね」

 「じゃあ、村では手に入らない都市でしか売っていないような珍しいものはどんなものを持って来てくれるの?」

 「前回だと、主に王都で流行していた服とかアクセサリーとかを持ってきてくれてたわね。あと、うち以外に滅多に買う人はいないけれど本も持って来てくれるわよ?」

 「えっ、行商人さんって本も持って来てくれるの!?」

 「持って来てくれるわよ?ただ、ルイも知っているように村の人たちは本を読んだりすることが無いからそんなに数は持って来てくれないけれどね」

 

 ルイは、行商人が本を持って来てくれることを知って驚きつつも喜んだ。

 なぜルイが行商人が本を持って来てくれるだけで喜んだかと言うと、実はこの村には本がフーリエ家にしか存在しないのだ。

 

 村には本を読むという習慣もなければ、そもそも各家庭に本が置いてすらなかった。

 本を読んでいる暇すらないということか、紙が高いなどの理由があるのかは分からないが、誰一人として本を持っていないのだ。

 本もないため、もちろん村の住人の識字率などは低かった。

 そんな村の中でも幸運にもフーリエ家にはなぜか本棚一つ程度の本があったため、ルイは動けるようになってからは、家にある本を読んで文字を覚えたりすることができたり、少しだけだが情報を得たりすることができた。

 だが、本の数に限りがあるため、新しい知識を本から得ることが出来なくなっていた。

 そんな時に新たな本を得ることが出来る機会がきたのだ。

 新しい本を買えるかもしれないことを知って喜ばないはずがない。



 行商人から何を買うかは全然決めていなかったが、これで今日買いたいものは決まった。

 目的ができてからは、リズやレンスに負けないくらい行商人が来るのを待ち望む気持ちを抑えながら、ルイはさらに行商人についての話を続ける。



 「ところでお母さんは何か買いたいものとかあるの?」


 ルイはローズに聞いたはずだが、ローズが答えるよりも先に一切聞いていないはずのレンスとリズから答えが返ってきた。



 「そうだな~!俺はあれが欲しいな!狩りに使う用の新しいナイフ!前回行商人が来た時に、メチャクチャかっこいいナイフがあったんだけど、その時はお金が足りなくて買えなかったんだよ!だから次こそはお金を貯めて新しいかっこいいナイフを買おうって決めてたんだ!」

 「私は今都市で流行っている服とかアクセサリーとか買うんだ!行商人さんが持って来てくれるものは、村で手に入らない流行りのものが多いから、ライバルの村の女の子達に負けないように買って見せるの!あと、おいしそうなお菓子とかもあったら買うって決めてるんだ~」


 二人ともルイが突っ込む余裕が無いほど凄まじい勢いで話始めると、どちらも欲しいものへの願望が溢れ出しているのか、いつまでも話が止まる気配が無いほど話続けている。

 いつまでも話していられるほど行商人が来る今日という日を待ち望んでいたのだろう。


 そんな二人の様子を見ていた母ローズは少し呆れた顔を浮かべると、二人に向かって口出しする。



 「二人とも!楽しみなのはよく伝わったけど、お母さんとルイはまだ食事をしている最中なんだから少し静かにしていてちょうだい!じゃないとお小遣い没収するわよ。それに行商人さんが来るまでまだ時間があるんだから、二人ともそんなに元気を持て余しているなら庭で薪割りでもして待ってなさい」

 「「は~い……」」


 二人はローズにそう言われるとマシンガントークを止め、しぶしぶと庭に薪割りをしに行った。

 有り余ってる元気と体力を薪割りに使わせることで、少しでも二人の元気と体力を消耗させて、ついでに予備の薪もついでに用意できるということなのだろう。

 流石、三人の子どもを育てている母親なだけあって、子供の扱いには慣れているな。

 ただ、ルイとローズが食事を再開している家の中まで、薪割りをしていても嬉しそうな二人の声が庭から聞こえてくるため、二人のテンションは下がることは無い気がする。


 薪を割っている二人の楽しそうな声を聞きながら、ルイとローズは朝食を食べ進める。

 レンスとリズのせいでローズに聞いた質問は答えを聞けないままだが、食事もほとんど食べ終わりかけているため、もう一度聞く前に先に食べ終わることを優先する。


 そろそろ食べ終わりそうという時になってようやく、父のラルバートがあくびをしながらまだ眠そうな様子で起きてきた。


 「おはよう、ローズ、ルイ。俺が最後に起きたのか?」

 「おはようあなた?珍しくもうみんな起きているわよ。ご飯の用意するから座って少し待っててね」


 ローズはそう言うと自分の食べ終わった食器を片付け、ラルバートの朝食の用意をし始める。

 ラルバートは両腕を上にあげて伸びをした後、ルイの隣の席へと座る。



 「ルイ、今日は行商人が来る日だろう?お前は何を買うつもりなんだ?」

 「う~ん。さっきお母さんに聞いて考えたんだけど、今のところは本を買おうかなって思ってるんだ」

 「本!?そんなの買ってどうすんだ?もっと子どもっぽい好きな物買ってもいいんだぞ?」

 「いいんだよ。もう決めたからね」

 「本を買うなんてやっぱり神童の考えはお父さんには分からないな」


 誰になんと言われようと俺は本を買うって決めたんだ!!

 本が無かったり、本以外にも惹かれそうそうなものがあったりすれば買うかもしれないが、それはこれからもらうお小遣いの金額と、行商人の持ってくるもの次第で決まる。

 本以外にもこの世界にしかない珍しいものとかがあれば、買い物をもっと楽しむことができるんだろうが、あまり期待はしないでおく。



 「そういえば、レンスとリズはどこに行った……ああ、二人とも庭にいるのか。二人は今回もはしゃぎすぎているのか。まあ、はしゃぐ気持ちは分からないこともないけどな」

 「そうねぇ、私達が小さい頃も行商人が来ると分かった日はあんな感じになってたものね」

 「最近だと、俺らの頃には持ってこなかったような都市の流行りものも持ってくるから、俺らの世代も楽しみにしてるが、そのせいで二人がそのうち都市の方に移り住むとか言い出したらどうする?」

 「そんなこと言わないでちょうだいあなた!?いつかはあるかもしれないことだけど、そんなことはきっとないって信じてるんだから!ルイも大きくなったら都市に移り住んだりしないもんね~?」

 「ごめんごめん、冗談だよ。さっ、冷めないうちに食べるかな」


 ラルバートとローズはこんなことを言い合ってはいるが、二人も行商人が来るのを楽しみにしているのが分かる。

 

 「ごちそうさまでした。今日もおいしかったよお母さん」

 「ありがとうねルイ。食器はそこに置いておいてちょうだい」


 二人のやり取りを聞いているうちに食べ終わったルイは、椅子から降りて食器を片付ける。


 「ルイ、食器を置いたらこっちに来てちょうだい?」



 食器を片付けていると、ローズに呼ばれる。

 片付け終わり、ローズに呼ばれた方向へと向かうと、ローズが手に何かを持ちながら立っていた。

 ローズはルイが目の前まで来ると、持っていたものをルイへと渡す。


 「はい、今日買い物できるようにお小遣いを渡しておくから無くさないようにね?」

 「ありがとうお母さん!無くさないように気を付けるよ!」


 そう言ってルイはお金が入っている革袋を手で受け取ろうとするが、ローズは革袋をルイに手渡すのではなく、ルイの頭へと持って行き、革袋についていた紐を首へと下げる。

 ローズはお金を無くす心配から革袋を首へと下げたのだろうが、元々大きい革袋は、ルイの小さな体にぶら下がっているのも相まって、より大きく見え、子供のお遣い感が溢れ出してしまっている。

 


 お小遣いももらったため、ルイは行商人が来るまでのんびりと過ごそうと思ったが、1つやらなければならないことがあったことを思い出す。

 ルイは首に下げてもらったお小遣いを持ちながら、食事をしながら話しているラルバートとローズを置いて玄関へと向かう。


 「行商人さん来るまでちょっと散歩してくるからね。行ってきま~す」

 

 一応両親にそう伝え家の外に出ると、ルイは魔鎧を発動させて身体能力を向上させる。

 魔鎧を修得してから家の中ではよく発動させたまま歩いていたが、発動させたまま外を歩くのは今日が初めてで、慣れるためにも行商人が来るまでの間に少し村の中を歩いて見て回ろうと思っていたのだ。

 身体能力が向上しているため、余裕で村全体を歩き回れるとは思うが、とりあえず前回歩こうとした時にギブアップしてしまった隣の家まで行くことにする。


 ルイは一歩ずつ隣の家まで歩き始め、徐々に歩みを進めていくが、歩幅の小ささ以外には特に気になることはなく、疲れたりする気配もなかった。

 一歩ずつ着実に進んで行った結果、ひとまずの目標である隣の家の玄関前辺りまで辿り着くことに成功した。

 やはり、魔鎧の存在を知る前にここまで歩いてきた時と比べて、魔鎧を発動している今は力尽きるどころか、疲労感すら一切なかった。

 


 「ようやくここまで歩けるようになったか……」


 ルイは隣の家まで完歩できたことに自分のことだが感動を覚える。

 この感動を共に誰かと祝いたい気持ちになり、前回出てきた隣の家のおばさんがちょうど家から出てこないかとも思ったが、出て来る様子は無かった。

 おばさんに感動を共有するのは諦め、さらにここから自分の足で歩いたことが無い、道の領域へと歩みを進めることにする。


 歩いているときに周囲を見渡すが、両親に抱きかかえられながら村の中を移動した時にも思った通り、慣れないと家の見分けがつかないくらいどの家も同じような形の木製の家ばかりだ。

 


 そうして色々と村を見ながら歩いていると、いつの間にか村を一周しており、魔鎧を発動して無事に外を歩き回れることが確認できた。

 村を一周しても体力が持つことが分かったところで、自分の足で村を一周歩いてみて気づいたことをいくつかまとめておく。


 まず、この村の全体的な形としては歪んだ横長の長方形のようになっており、村の中心には教会と村の人々が共同で使う井戸があった。

 そして村の周囲には木で柵が張り巡らされており、その柵の外には、柵の隙間から見える限りは畑のようなものが広がり、その畑の奥にたくさんの木々が生い茂っている。

 村の四方に張り巡らされている柵の中心部分には、村の中と外を行き来するための簡単な木で作られた扉があり、ここから村の人々は出入りしていることが分かった。

 ちなみにフーリエ家は長方形で考えると村の東側にあり、東側の出入口に近いためラルバートとレンスは森へと行きやすいようになっているのだろう。

 村全体の家の数は五十軒ほどあるが、村人の正確な人数はまだよく分からなかった。

 ただ、挨拶回りの時には結構な人数がいたはずなので、辺境の森の中にある村にしては村と呼んでいいのか分からないくらい人がいるように思える。


 村全体を自分の目でしっかりと見て気づいたことはこんなものだが、村を歩き回っているとすれ違う人に必ず言われる言葉があった。

 それが――



 「フーリエ家の神童じゃないか。おはよう」

 「フーリエさんとこの神童か!もう歩き回れるのか!すごいな!?」



 ――この神童という呼び名だ。

 やはり、まだ幼いのに喋ったりしたのがいけなかったのだろうか。すっかり俺は神童というイメージが村中に定着しているようだった。

 しかし、早く喋れたりしたほうが会話ができて便利だし、自分の意思を伝えられないのは苦だったため、神童と言われるようになろうが、早く喋り始めたことについて俺は後悔してない。

 

 先ほど村を歩き回っていて気付いたが、今日は行商人が来る日だからなのか、それともこれが普段通りなのかわからないが、随分多くの人がもう家の外に出ている気がした。

 多分、会う人会う人の雰囲気が何かそわそわしていたため前者だとは思うが、こんなに多くの人が外に出ている景色を見るのは久しぶりなので違和感を感じる。

 


 ルイは村を一通り歩き回った後、村の中心にある教会へと向かい、その階段に座って一休みしていると、我が家の隣の家のおばさんが教会の通りを歩いてきた。

 おばさんは通りすがりに教会の階段に座っていたルイを見つけると、声をかけながら近づいてきた。

 

 「フーリエさんとこの神童じゃないか!今日はこんなところで何をしてるんだい?」

 「おはようございます隣の家のおばさん!今日はここまで自分の足で歩いてきたんですよ!」

 「お~、すごいね!最近まで我が家の前でぶっ倒れてたのにここまで歩けるようになったんだ!やっぱり神童は違うね!」


 そう言うとおばさんが急にルイの頭を撫でてきたのでルイはびっくりしながらもお礼を言う。


 「あ……、ありがとうございます」


 ルイは急に撫でられてびっくりしたが、自分は子供だから周りの人にかわいがられることもあることを思い出す。

 おばさんも精神年齢31歳のおじさんではなく、子供のルイだからこそ頭を撫でているのだろう。

 家族に子供として扱われるのには慣れたが、村の人達に子供扱いされるのはまだ慣れない。

 だが、もっと外を歩くようになればこれも変わっていくだろうと考える。


 おばさんは頭を撫で終わると、何かを思い出したかのように手のひらを叩く。


 「そうだ!そういえばあたしがここに来るまでに周りの人達が、村の南側の出入口に行商人が到着したって言ってはしゃいでたけど、あんたは行かなくていいのかい?」

 「本当ですか?僕も行きますよ!」

 「一人でもちゃんと行けるかい?」

 「はい、行けます!お気遣いありがとうございます!」


 村を散歩している間に行商人は既に村へと来ていたらしい。これは急いで行かないと。

 教えてくれたおばさんにお礼を言い、階段から立ち上がると魔鎧によって強化された体を急いで南へと向ける。

 本当は全速力で向かいたいが、全力で走ってしまうと魔鎧を発動していると周りにばれて、両親へと伝わってしまうかもしれないので、子供の早歩き程度にとどめておく。

 周りから見ると、小さな子供が精一杯、両手足を動かして走ろうとしていてかわいいなと思う程度の速さしか出ていないだろう。

 怪しまれない程度の全速力ではるが、それでも走ることもできない体力だった以前と比べると十分速いと感じる。

 

 「あっ、神童だ!」

 「頑張って小さな腕と足を動かしててかわいい~!」


 そんな周囲の人々の声と視線は気にしないようにしながらルイは魔鎧を駆使し、できるだけ速く南の出入り口に向かった。

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