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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
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81話 戦いの始まり‐3

 アランの背中に兵士の剣が振るわれ、誰の目にもアランは助からないと思われた瞬間――


「ガキンッッ!!」


 ――鈍い硬質な音を響かせ、兵士の振り下ろした剣は何かにぶつかる。

 

 兵士は自分の剣がぶつかった物を見ると、それは先程まで目の前に存在していなかった、訓練などに使う太い丸太が存在していた。正確に言うと、太い丸太ではなく、木の枝が丸太ほどの太さまで巨大化したものだった。

 こんなものが突然現れた理由は一つしかない。


「うおっと、危ない危ないっ!!少しばかり惜しかったな!?」


 右手で自分の武器の木の棒で敵からの攻撃を防ぎながら、左手でアランのいる方へ何かを投げたような姿でハンスが言う。

 その言葉と同時に丸太のような木の棒から、アランに斬りかかった兵士に向かって勢いよく太い枝が一本飛び出る。

 兵士は咄嗟にきた予想外の攻撃に、剣が丸太に突き刺さって飛び退くことが出来ず、その攻撃をまともに喰らってしまう。

 そして攻撃を受けた兵士はよろめきながら、後ろにいた他の兵士達を巻き込んで転倒する。

 

 その間にアランはリンダを兵士達の手の届かない所まで運んで行く。そして再び戦線へと戻って行く。


「アランっ!!突然敵に背中を見せるなんて危ないじゃないか!?いくらリンダが突然倒れたからといって、目の前の敵を放置してリンダの下に行くなんて!!ハンスさんがいたから何とかなったものの、もしかしたら敵の攻撃でアランは死んでたかもしれないんだよ!!」


 戦線へと戻ったアランにクラリスは注意する。

 アランはクラリスの言葉に申し訳なさそうにしながら


「ごめんごめん!けど、リンダが今までに戦闘中に突然倒れたことなんてなかったから、仲間として心配するのは当然だろ?もしかしたら敵の攻撃を受けたのかもしれないって思ったら、体が勝手に動いてたんだよ」


 アランはクラリスに申し訳なさそうに謝るが、それでも自分の判断は間違っていなかったと主張する。

 それとクラリスの言うことも理解はできている。ただ、それでもリンダを心配する気持ちが勝ってしまったのだ。

 本当はクラリスもリンダを心配していただろうが、それでも状況が状況のため、リンダに駆け寄りたい気持ちを必死に抑えながらアランに注意をしたことも分かっている。

 


「それとリンダの様子を確認したけど、倒れた原因は敵の攻撃を受けて傷を負ったとかではなくて、スキルを発動しすぎて魔力が切れただけのようだから安心して」


 クラリスの言葉にリンダが無事だと知って安心したアランは、先程までの険しかった表情を緩めた。

 


「それじゃあリンダが無事だったことも分かったし説教は後でしっかりするとして、僕達もリンダが倒れるまで頑張ってくれたんだから頑張ろうよ!!」



 クラリスの言葉にアランは頷き、自分の両頬を叩いて気合を入れ直すと、リンダが抜けた分を補うためか今まで以上にやる気を見せる。

 しかし、やる気だけで実力が上がるわけでもないため、敵を倒すペースはそれほど変わってはいない。

 それどころか、スキルで大勢の敵をまとめて倒していたリンダがいなくなったため、むしろ敵が倒れていくペースは落ちている。


 そんな状態の二人の前に、鎧と兜の色が普通の兵士とは異なった兵士が現れる。ハンスも戦っていた、一般の兵士よりも強い兵士長だ。

 

 しかし、そんなことは知らないアランとクラリスは、普通の兵士と同じように相手をしようとする。

 

 まず、アランが兵士長と剣を交差させた。通常の兵士との場合は剣を交差させたとしても、アランの方が実力的に勝っているため、その状態から簡単に敵を倒すことができた。

 しかし、アランは交差させた状態から中々敵の隙が見えないことで相手の実力が、通常の兵士とは異なることに気が付く。

 そして、剣を交差させたままの状態では武器が使えず、他の兵士の攻撃を防ぐことができないため、ひとまず兵士長の剣を弾き返し、その場を飛び退く。



「くそっ……!!クラリス、気を付けろ!!鎧と兜の色が違う奴はさっきまでの兵士と実力が段違いだぞ!!冒険者ランクで言うとシルバー3級くらいだ!!」


 

 飛び退いてすぐに、大声で自分が戦った相手の情報をクラリスに共有すると、再び兵士長へと斬りかかる。

 兵士長の実力を体感したアランは、兵士長が自分達個人の冒険者ランクより一つ下のシルバー3級だと判断した。

 これが一対一の状況ならば、実力的にはアランが勝つだろう。しかし現状では、兵士長だけでなく、他の兵士も襲い掛かってくる状況のため、一対一では格下である兵士長相手でも簡単に勝つことが出来ない。


 兵士長は斬りかかってくるアランの攻撃を再び受け止めるため、剣で防ぐ構えをとっている。

 アランは兵士長の防御の姿勢を見ながらも、攻撃する場所も変えずにそのまま斬りかかっていく。


「ガンッッ!!!」



 火花を散らしそうなほど激しい勢いで剣と剣がぶつかり合い、その場に硬質な音が響き渡る。

 アランの攻撃が兵士長に止められると、武器が使えない状態を狙っていた周りの兵士達が一斉に構えていたそれぞれの剣を、アランに対して振り下ろし、アランを仕留める――


 


 ――と誰もが思ったその瞬間、アランが剣を握っている片手を離すと、スキルを発動させる。

 


火剣(ファイアーソード)



 すると、剣から離した手の上に、燃え盛る炎でできた剣が柄の方から刀身にかけてあらわれた。

 柄まで火でできているその剣をアランは空いている方の手で握りしめる。全て火でできているはずだが、その火がアランの手を焼くことは無い。

 握りしめた火剣で、アランは兵士長に剣の上から斬りつける。

 通常の剣同士なら確実にぶつかり合いアランの剣は兵士長に届くことはないだろう。しかし、スキルを発動し出現した火剣は、兵士長の持つ剣を透過し、そのまま兵士長の体まで到達する。


 兵士長は自分の剣を透過して来た攻撃になすすべもなく肩から真っ二つに斬られ倒れる。

 そしてアランは兵士長に斬りつけた火剣を、重さを感じさせないほどの軽やかさで翻すと、自分に斬りかかってきた兵士達の攻撃を一蹴する。


 瞬く間に危機的状況を乗り越え、周囲にいた兵士達を片付けると、その勢いのまま他の兵士にも突っ込んで倒してゆく。

 相手にスキルを発動させる余裕も与えずに、素早い身のこなしで火剣を持って斬りかかってゆくその姿は、まるで先程までのアランとは別人のようだった。

 しかし、クラリスはアランのその様子に違和感を感じていた。



「アランっ!!そんなに飛ばすと後半戦えなくなるよ!?もっとペースを落とさないと!!」


 心配するクラリスはアランの後ろから声をかける。


「クラリス!!心配するのも分かるけど、今の俺なぜか分からないけど、とても調子がいいんだ!!体はさっきより軽く感じるし、疲れも少し取れているみたいなんだ!!」


 アランはそう言って周囲の敵を纏めて薙ぎ払ってゆく。リンダがいた時以上にその場には敵が大勢倒れており、アランが火剣で斬りつけた敵の体が焼けているためか、周囲には焼け焦げた匂いが充満している。

 クラリスはその状況の中、目の前の敵の相手をしながら、確かにアランが言っていることを自分も理解できるような気がしていた。

 

 リンダが倒れ、アランと二人だけになった状況から、アランの言う通り身体能力が普段よりも上がっている感じがするのだ。先程から相手をしている兵士は、どの兵士もさほど実力に差は無かったものの、今現在は明らかに敵を倒すのが楽になっている。

 クラリスはアドレナリンにより、一時的にそのように感じているだけだと思っていたが、明らかにアドレナリンだけでこのようになっているわけではないことをアランの様子を見て理解した。



 それは、アランのスキル『火剣(ファイアーソード)』がいつも以上に力を発揮しているということだ。

 アランは敵を倒すのに夢中で気づいていないかもしれないが、敵を倒している様子を見ていたクラリスには分かる。

 アランのスキル『火剣(ファイアーソード)』は、火でできた剣を生成することができ、アランが発動し続けている時間により魔力をどんどんと消費していくというものだ。

 その『火剣(ファイアーソード)』だが、スキルの階級はノーマルであり、アランがこれを発動してもただ少し切れやすく、自分は燃えない剣が瞬時に使えるというだけであった。

 さらに敵に斬りつけても軽い火傷を負わせるくらいの温度であるため、相手の防御をすり抜けること以外にはあまり使えなかった。


 しかし、普段『火剣(ファイアーソード)』で斬りつけた敵は、傷口が燃え続けていることなどなかったはすだが、現在のアランの『火剣(ファイアーソード)』は、スキルの能力が向上しているような様子を見せる。

 身体能力が向上するだけならアドレナリンが出ているという可能性が高かったが、アドレナリンが出ていることでスキルの能力が上がるなど聞いたことが無い。

 

 クラリスは自分達の身に起きていることを気にしながらも、今は戦闘に集中することだけを考えることにする。

 

 


 クラリスが戦いながらそんなことを考えている姿を、同じく戦いながら余裕のあるウォルターが横目に見ていた。


「どうやら彼女は気付いたようですねぇ……」


 ウォルターはクラリスを見ながらポツリと口から言葉を漏らす。その間にも交戦している敵を軽々とあしらっており、まともに相手をしていない。

 そんなウォルターの様子に気付いたのか、メアリーがウォルターに声をかける。


「ちょっと!!副団……ウォルター!!ちゃんと集中して戦って下さいよ!!……うわっ危ない!!」


 ウォルターに声をかけようとするも、メアリーが相手をしているのは兵士長であり、翡翠騎士団の中でその戦闘力は最底辺であるとはいえ、一応騎士であるメアリーでもよそ見をしながらでは相手をするのは厳しい。

 そのため、焦ってウォルターのことを副団長と呼びそうになったり、敵に斬りかかられそうになったりと危なっかしい状態に陥っている。


「これじゃあ私だけ負担が多いじゃないですか!!」


 最終的に目を離すのは危険だと思ったのか、メアリーは兵士長の相手をしたままウォルターに声をかける。


 ウォルターはメアリーの言葉を聞くと、あしらっていた目の前の敵を瞬時に倒し、即座に移動してメアリーが相手をしていた兵士長を斬り捨てる。


 

 メアリーはウォルターに助けられたことを感謝をする。


「ありがとうございます!!……けど、こんなにすぐに倒せるならもっと早くから本気を出してくださいよ!!やっぱり今の感謝は無しで!!」


 だが、そもそもウォルターがそれほど働いていなかったことを思い出し、感謝の言葉を取り下げる。

 ウォルターはメアリーの言葉に苦笑いをしながら呟く。


「メアリーの能力も向上しているから、この兵士長も本当なら簡単に倒せるはずなんだけどなぁ……」


 ウォルターの呟きにメアリーが反応する。


「何か言いましたか?」

「いや、何でもない。それより敵に集中するんだ」



 メアリーはウォルターの言葉に渋々ながら従うと、次の敵へと向かって行った。

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