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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
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79話 戦いの始まり

 

 雇った冒険者たちが来て、ライアンからの宣戦布告ともとれるような手紙が届いた翌日。

 冒険者たちは早朝から前日に練った作戦を元に、それぞれの配置に付いていた。

 作戦と言っても、それほどしっかりとしたものではなく、強そうな相手が来たら冒険者たちはその相手をせずにリチャードとハンスに任せるというような内容だ。

 その内容を冒険者たちに伝えた時は、騎士であるハンスはともかく、なぜ執事であるリチャードを戦わせ、さらに強い相手と戦わせるのか疑問に感じている様子だった。

 しかし、騎士であるハンスの一言で冒険者たちの疑問も解けたようだった。


「なんでって?そりゃあこの方が冒険者ランクで言うと、ランクゴールド1の冒険者と同じ実力を持っているからだ」


 このハンスの言葉に『ファスターズ』の三人も『ジェイド』の二人も驚いていたが、特に『ジェイド』の二人の内、ウォルターと名乗っていた男が誰よりも驚愕していた。

 きっと、執事であるリチャードがそれほどの実力を持っていることに驚いたのだろう。


 前日には様々な懸念をしていた冒険者たちだが、依頼を受けたという冒険者としてのプロ意識なのか、このように逃げ出さずにきちんとこの屋敷へと来ていた。

 ルイは、依頼とはいえ自分の命がかかっているのに、他人であるルイの命を守るために来てくれるとは、冒険者という職業についている者達の心構えも侮れないものだと感じた。

 そんなことを考えていると、執事のリチャードから声をかけられる。


「ルイ様、準備が終わりました。後は敵が来るのを待つだけです」


 準備とは言っても、またこの部屋で敵を迎えるだけなので、ただ事前に考えた各自の配置場所に付いたりするだけだ。

 配置場所は全員部屋の中で、冒険者達は各パーティーごとの方が戦いやすいと考えたので、各パーティーごとに配置している。

 その冒険者達五人とハンスには扉とルイの間に立つように立っていてもらい、今回リチャードにはルイを守ってもらうようにセシリアと共にすぐ近くにいてもらう。

 前回、唯一取り逃してしまった敵ゲオルクが窓から逃げ出したこともあり、リチャードには窓側にも注意を向けてもらいつつ、ルイの護衛をしてもらうような配置だ。

 リチャードがルイの近くにずっといるのは、戦力的にはこちらの戦力は大幅に下がってしまうが、もし、リチャードにしか対応できないような強者が来た場合には、ルイの護衛を離れ、リチャードにはその強者の相手をしてもらうように言ってある。

 ルイが先に殺されてしまっても終わりだが、ルイが殺される前にこちらの戦力がほとんど倒されてしまっても、結局はルイの死に繋がってしまうので避けなければならないからだ。

 このように全員に配置場所に移動してもらったので、後は敵が来るのを待つだけとなった。

 

 もし、ライアンの手紙の内容が真実だとすると、今日中に敵は来ることになっているため、誰もが常に周囲に気を配り、集中力を切らさないようにしている。

 ライアンが嘘をついていたとしても、戦わないで済めばそれはそれでいいので構わない。

 ただ、その嘘が日時が少し違ったりしたような嘘だった場合、こちらの精神力だけが削られてしまうが、リチャードが手紙の内容は真実だと言った以上、信じることにしている。


 ルイと冒険者達は敵がいつ来るか身構えているが、ハンスだけはそのようには見えなかった。むしろ敵が来るのを待ちわびているようにも見える。

 以前、ハンスは敵が来なければ来ない方がいいとか言っていたはずだが、今は敵を待ちわびているようにしか見えない。

 もしかすると、セシリアにゲオルクに勝てないと言われたことを気にしているのだろうか?


 ルイが敵を待っている最中にそんなことを考えていると、前回同様リチャードとハンスが部屋の外に何か気配を感じたのか、瞬時に扉の方を向く。

 ただ、今回はリチャードとハンスだけでなく、ウォルターも扉に注意を向けていた。

 

「ウォルターももしかしたら、リチャードとハンス並みの実力を持っているのかな?」


 リチャードとハンスが扉に注意を向けているため、敵が来たということをルイも察していたが、度重なる命を狙われる経験からか、呑気にそんなことを考える余裕が身に付いていた。

 もちろんそれだけでなく、自分を守ってくれる人達が絶対に勝つという信頼もあっての余裕だ。


 そう考えている間に、ライアンとリアムの配下が来ているであろう鎧や武器がこすれ合うような音が聞こえてきた。

 その音が扉の奥から絶え間なく聞こえてくるので、扉の奥には確実に大勢の兵士がひしめき合っているのが分かる。

 

 ルイが気づいたように、他の者達も敵が来たことに気が付いており、まだ敵が部屋に入って来る前の段階だが、既にそれぞれの武器を構えたりし、戦闘態勢に入っている。

 リチャードとハンスがどのようにして戦うのかは知っているため、その戦闘態勢も既に見たことはあるものだが、護衛をしてもらう冒険者達の戦闘態勢は、ルイにとって目新しいものだった。



 『ファスターズ』の三人のうちリーダーであるアランは、真っ赤な鎧を身に纏い、腰にぶら下げていた飾りの無い実用性を求めたような剣を両手で握りしめ、腰を低い位置に落とし、すぐにでも斬りかかれるように構えている。

 身に付けている装備が手甲くらいで、その身軽な装備から格闘術を使うと思っていたクラリスは、やはり格闘術を使用するようで、両手の拳を握りしめ構えを取っている。

 ただ、その構えがどこかで見たことのあるような構えだと思って見ていると、普段リチャードがしている構えと酷似していることに気付く。

 リチャードと同じ構えということは、クラリスの格闘術はアーク流なのか?

 そんな疑問が頭をよぎるが、これは戦闘が始まればすぐにわかることだろう。

 

 そして『ファスターズ』のリンダは、他のメンバー二人と違い、一切敵に向かって構えたりはしていない。

 さらにそれだけでなく、一見攻撃手段となりそうな武器らしい武器や、鎧や兜のような自分の身を守るものもほとんど身に付けておらず、攻撃手段も防御手段もなく、一体どのようにして戦うのか予想もつかない。

 もしかしたら同じパーティーのアランとクラリスが、主に攻撃の役割を担っていると考えられるので、リンダはその二人のサポートのような役割かもしれないが、実際に見てみるまで何とも言えない。


 『ファスターズ』の三人ともそれぞれ異なる戦闘態勢を取っていたが、『ジェイド』の二人は逆に二人とも整った構えを取っていた。

 どちらも剣を構える姿とその姿勢が綺麗なものであり、剣を構えるその姿はまるでルイの想像していた騎士のようにも見える。

 騎士などハンスしか見たことがないから分からないが、ハンスは剣も使わないので、騎士としては異色だと思われる。

 そのため、この世界の他の騎士は彼らのように綺麗に剣を構えていると信じたい。

 彼らは冒険者だが、もしかすると騎士から剣術などを学んだことのある冒険者なのかもしれないな。

 

 

 ルイが冒険者五人のそれぞれの戦闘態勢をまじまじと見ていると、敵が部屋のすぐそばで止まったのか、鎧や武器がこすれ合う音が小さくなり、今度は扉の向こうにいると思われる大勢の兵士の荒い息遣いが聞こえてくる。

 その音を聞いていると、まるでこれから軍と軍が衝突する、巨大な戦争が始まるような感覚に陥る。これであとは馬が嘶く声でも聞こえてきたら完全に戦争だろう。

 それほど多くの敵がこの壁の向こうにおり、その全員がルイ一人を殺すためだけにいるのだ。

 そう考えると普通なら恐怖を感じてしまうだろうが、ルイには頼れる配下がいるためそのような状態になることはない。

 前回、二人だけで敵をほとんど全滅にまで追い込んだ二人の後ろ姿を見る。

 二人の後ろ姿は、大勢の敵が攻めて来ているとは思わせないほど、頼もしい姿を見せている。今回も二人で全員倒してしまいそうなくらい頼もしい背中だが、流石の二人でも今回は無理だろう。


 

 「ルイ様っ!ご注意を!!」


 突如、すぐ傍にいるリチャードが大声でルイに注意を促すと同時に、ルイを守るようにその前へと立ちはだかる。

 リチャードが叫んだ直後、この部屋の扉が付いている方向の壁が、まるで長い年月をかけて風化していくものが、瞬時に風化していくかのようにみるみるうちに崩れ去っていく。

 ボロボロと大きな音を立て崩れ去っていき、壁があった場所には巨大な壁だったもののがれきが散乱し、壁が細かくなった粉塵がルイの部屋の内部にも舞い上がる。

 


「ゴホッゴホッ!!」


 舞い上がった粉塵のせいで周囲も見えなくなるが、味方の位置は咳が聞こえてくる方向で把握できる。


「「ルイ様!ご無事ですか!?」」


 壁が破壊された直後、リチャードとセシリアはルイのすぐ近くにいたため無事が確認でき、二人もルイのことを心配した様子だったが、一目見てどこにも異常が無いことを確認し、安堵の表情を浮かべた。


「リチャードが咄嗟に前に出て僕を守ってくれたから大丈夫だよ」

 

 ルイが二人に言い、リチャードとセシリア以外の人の無事も確認しようとするが、粉塵が思っている以上に舞い上がっているため、咳き込む音は聞こえても誰の姿も確認できない。


 

 周囲に立ち込めていた粉塵が収まり、ルイは味方の無事を確認しようと辺りを見回すが、全員せき込んではいるものの、誰一人かけておらず、怪我を負った様子もない。

 全員無事だったことに安堵したのも束の間、ルイは粉塵が収まった先を見て驚愕する。



 既に壊されてしまったルイの部屋の壁の向こうには、ルイの部屋に今にも攻め入って来そうな大勢の敵が、廊下の端の方までずらっと整列していた。

 ルイは先程、軍と軍が衝突する戦争のような感覚に陥っていたが、目の前に広がる光景を見て、その感覚は間違っていなかったことを知る。

 ただ異なるのは、相手は軍でもこちらはせいぜい小規模な隊くらいの人数しかいないということだ。

 


「これは流石にまずいんじゃないか!?」


 この状況に陥って、ルイは今自分の置かれている状況を理解する。

 大人数を相手にして勝っていたリチャードとハンスがいるから大丈夫だという自信があったが、この人数差を見ると、その自身も失われていく。

 冒険者を数人雇ったからといって、この人数の差は覆せないものだった。

 さらに、人数の差を埋めるための唯一の希望であった、大人数が入れない狭い室内での戦闘も、壁が壊されてしまったため相手の土俵に立たされてしまっている状況だ。


 この状況に弱気になりかけた時、誰よりも前線にいて、その人数の重圧を受けているはずのハンスが大声で叫ぶ。



「坊ちゃん任せろ!!俺達が必ず坊ちゃんを守ってこの家の当主にしてやる!!」


 

 ハンスがそう叫んだ次の瞬間、その叫びを引き金にするかのようにライアンとリアムの配下達がルイ達に向かって攻め入った。

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