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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
75/82

75話 依頼主として‐3

 冒険者達が無事に依頼を受けてくれることが決まった後、ルイは冒険者パーティー二組に詳しい内容を伝え、その場は解散することになった。

 

「それでは早速明日から僕の護衛をよろしくお願いします」


 そう言ってルイ達は部屋から出て行った。

 


 部屋を出て冒険者ギルドからも出た後、ルイ達はリチャードの待つ馬車へと戻る。

 馬車へ乗り込むと、ルイは先程気になったことをセシリアとハンスに聞いてみる。


「ねえ二人とも、さっき少し気になったことがあるんだけど、僕のことを貴族と知っている『ファスターズ』はまだしも、どうして知らないはずの『ジェイド』の二人は、僕が貴族だと言った時に驚いた様子が無かったのかな?」

「さあな?俺と坊ちゃんはこんな格好をしているが、メイドちゃんはいかにもメイドだと分かるような格好をしてたからじゃないか?」


 ルイの質問に対し、ハンスが答える。

 ハンスの返答にルイは納得しかけたが、セシリアがその考えを一刀両断する。


「いえ、それは違うでしょう」

「え?違うの?」


 納得しかけてたのだが、冒険者に詳しいセシリアが違うというのなら違うのだろう。


「そもそもメイドを雇っているのは貴族だけではありません。商人なども雇っている所が御座います。なので、ハンスの考えだとそれで貴族だと判断したことにはなりません」


 セシリアは言いながらハンスの方を見る。

 自分の考えが間違っていると言われ、ハンスは悔しそうにしている。


「答えはルイ様がお持ちの依頼書に御座います」


 セシリアがルイの持っている依頼の紙を指さす。

 ルイは自分が持っている紙に答えがあると言われ紙を隅々まで見るが、ルイがギルド職員に伝えた通り、どこにもルイが貴族だということは書かれていない。

 

「ルイ様はもしかすると、貴族だということを依頼の紙に書かないでくれとギルド職員におっしゃいましたか?」

「うん。貴族だと知られて勝手に色々な想像をされたくないから、貴族だということは書かないで欲しいと言ったんだ」

「そうでしたか……。ルイ様が知らなかったのは仕方がないことですが、ギルドは依頼を受ける冒険者のために、依頼をした相手が何者なのかある程度分かるように依頼書に細工がされてあるのです。ルイ様の持っている紙をお貸しください」


 ルイはセシリアに依頼の紙を渡す。


「ご覧ください。こちらに判子が御座いますよね?実はこれが依頼主が貴族だという証拠の判になります。なので貴族の方が依頼主が分からないようにしろと言っても、こうして冒険者には分かるような仕組みになっているのです」


 ルイはセシリアから紙を受け取ると、確かに紙には俺が貴族だということは書かれてはいないが、何やら判が押してある。

 この判がどんなものか気にしていなかったが、これが貴族だと分かるためのものなら、貴族だと書かないよう伝えたことは何の意味も無かったということになる。

 あの時ルイがそう伝えたギルド職員はそのことを教えてくれてもよかったのに、無駄なことだとなぜ教えてくれなかったのだろう。

 恥ずかしい思いをすることは無かったが、それを知っていれば、東側の冒険者ギルドでも同じことを言わなかったのに……。


 ルイが落ち込んでいると、ハンスが笑いながらルイを慰めるように話しかけてくる。


「まあまあ坊ちゃん!そんなこともあるって!俺だってそのことは知らなかったから坊ちゃんに教えられなかったが、別に貴族だと分かっていても分かってなくても依頼を受けに来た冒険者がいたからいいじゃないか?」

「……確かにハンスの言う通りだよ!とにかく冒険者を護衛として雇えたからそれでいいや!気持ちを切り替えていくことにしよう!」



 そうして気持ちを切り替えたルイは、護衛が増えたことで兄達との戦闘も少しは楽になることを期待しながら、馬車の中で揺られていくのだった。





 王国のために働く王国三騎士団には、寮や食堂、それ以外にも武器や鎧を整備する場など、騎士団に必要な設備が備え付けられている拠点が、各騎士団ごと王城近くに与えられている。

 王国三騎士団に所属している騎士は、既婚者などを除いて、ほとんどが普段からその拠点で過ごしている。


 そんな王国三騎士団の一つである翡翠騎士団の拠点の前に、ウォルターとメアリーが普段の鎧と兜という騎士の格好とは異なった、普段着のような格好で立っていた。

 二人はその格好のまま、拠点の中へと入って行く。


 中に入ると、そこは騎士達の休憩所のようになっており、入って来たウォルターとメアリーにそこにいた大勢の騎士達の視線が集まる。


「「「副団長お疲れ様です!!!」」」


 入って来たのが自分たちの騎士団の副団長だと気付くと、全員が揃って挨拶する。

 挨拶されたウォルターはまんざらでもない表情で、手を振って騎士達の集まる休憩所を後にする。


「副団長はやっぱり人望がありますね!」

「まあ僕は団長と違ってあまり才能はないけど、人望だけはあったのが唯一の救いだね……」


 そう言ってウォルターは苦笑いをする。

 実際、ウォルターは戦闘面においての才能は、それほど無かった。

 それは、翡翠騎士団があまり戦闘に長けているわけではないということも関係しているが、それだけが理由では無かった。

 それでも他の騎士団員と同じくらいの強さは持っているから十分だと思われるが、他の団の副団長と比べると戦闘面では劣っている。

 通常、騎士団の副団長という役職を任せられるのには、戦闘における実力も重要な点の一つとなる。

 それなのに戦闘の面であまり優れているとは言えないウォルターが副団長になれているのは、その人望と団長のサポートが上手いという面で優れているからだ。

 

 そのことを知っているため、メアリーも他の騎士団員と同様、副団長であるウォルターのことを尊敬している。

 

「僕のことはいいから、早く今日のことを団長に伝えに行かないとね!」


 ウォルターは少し歩くスピードを上げる。

 

 普段歩きなれた建物内を通り、ウォルターとメアリーは建物の最上階に位置する一室に辿り着く。

 二人はその部屋の前に立ち、ウォルターが代表して扉をノックする。


「……入れ」


 すると部屋の中から、返事があった。


「団長、失礼します」 「し、失礼しま~す」


 二人は挨拶しながら恐る恐る部屋の扉を開ける。

 

 扉を開けると、椅子に座り、執務机を前にした団長イザベルがいた。

 ウォルターとメアリーは部屋に入ると、イザベルに机の前にある椅子に座るよう指示され、二人はその指示に従う。

 

 二人が座ったのを見計らい、イザベルが話を振る。


「お前たちがここに来たということは何か報告があるということなんだろ?依頼についてか?」

「はい、それもありますが、今日分かったことを色々とお伝えしておきたくてですね……」


 そしてウォルターは今日冒険者ギルドであったことを話す。

 

「まずは僕達が依頼を受けた依頼主、ルイ・フーリエですが、まだ彼がティリオ村に関係しているかどうかは分かりませんでした。ただ……」

「ただ、なんだ?」

 

 何かを言おうとして言葉が詰まるウォルター。それを見て、イザベルは話を続けるよう促す。


「ただ、今日短い時間でしたが、同じ空間にいてあの少年の異質さを感じました」

「あの少年が異質だと?なぜだ?ただの貴族では無かったのか?」

「はい。ルイ・フーリエがフーリエ男爵家の人物という情報を手に入れてから、ルイ・フーリエがフーリエ男爵家の三男で、まだ二歳だという情報は調べましたよね?その彼が僕達の待つ部屋に入って来た時は、普通の二歳児のように見えたので何も思っていませんでしたが、我々に挨拶をして話始めた途端、その異質さを感じました」



「あの少年はまだ二歳にも関わらず、他の二歳児と違い、まるで大人のような丁寧な話し方や対応をしており、違和感を覚えるようなものでした。彼とティリオ村との関係は分からないですが、もしかすると、彼は二歳児の姿をしている何か別なものでは無いのかという考えが頭をよぎったのです」


 ウォルターの言葉にイザベルは黙って顎に手を添え考えている。

 何かを考えている様子のイザベルにさらに説明しようとすると、隣に座っているメアリーが口を開く。


「副団長!けど、それってあのルイ・フーリエって子が貴族だからってことでは無いんですか?小さい頃から英才教育を施されている貴族なら、それもあると思うんですが?それか、メイドとか他の人がそういう風に言えって事前にセリフを覚えさせていたとかはどうですか?」


 メアリーのこの質問にウォルターが答えようとすると、イザベルが口を開く。


「メアリーの言う可能性も否定はできない。だから現時点でルイ・フーリエを疑うのは間違っている。それにそもそもあの少年は、ティリオ村の事件が起こった時にはまだ生まれていない。だから、私の勘が彼の依頼が怪しいと告げたのは、彼の関係者にティリオ村に関係する者がいるということだと思う」


 イザベルはそう言うと、冒険者ギルドであった他のことをウォルターに話すよう促す。



「そうですね……。後は依頼についてのご報告なのですが、僕達は無事にルイ・フーリエに護衛として雇われることに決まりました。これで一ヵ月ほど僕とメアリーは騎士団としての仕事はできません」

「ああ、それは大丈夫だ」

「……それと、ルイ・フーリエから聞いたフーリエ男爵家の事情なのですが、フーリエ男爵家の現当主の子ども達三人は現在、フーリエ男爵家の跡継ぎとして争い合っているようで、この護衛依頼もその戦闘のためでした。本来こうした跡継ぎの決め方は王国では禁止されているはずですよね?これはティリオ村とは関係ないことですが、我々国を守る騎士団としては、周囲に被害が及ぶ前に介入した方がいいのではないでしょうか?」


 ウォルターの提案にイザベルは首を振る。


「ダメだ。お前たちはティリオ村のことについての情報を得るため、ルイ・フーリエの護衛依頼を優先しろ」

「なぜですか!?なぜ団長はそれほどティリオ村のことについて知りたがっているのですか!?ティリオ村に何かあるのですか!?」


 イザベルの命令に納得できないのか、ウォルターはイザベルに対し立ち上がり、ティリオ村についてなぜそれほど知りたがるのかを聞き出そうと詰め寄る。


「いいからお前は気にするな。話が以上なら明日からの一ヵ月ほどの任務に備えて今日は休め」


 

 ウォルターが詰め寄っても一切話す気は無いイザベルに、ウォルターは諦めてメアリーを連れて部屋を出る。



 一人部屋へ残ったイザベルは天井を見上げると、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。



「陛下……。ティリオ村で起こった悲劇についてなぜこれほど私達に調べろとおっしゃるのですか……。ティリオ村に一体どんな秘密が……」


 

 イザベルの人知れず流れ出た呟きは、暗い夜の闇に飲み込まれていった。

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