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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
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7話 歩く方法

 ルイは村の中なら自由に歩き回れるようになった。

 まだ一歳児ではあるが、喋れて会話できるようになった時点でそのような自由が与えられる決まりらしく、どんなに幼かったとしても本人の意思が優先されるらしい。

 もちろんルイは自分の意志があるため、自由に外へと出ることを選んでいる。

 だが、まだ幼いため体力がなく、村中すべてを歩き回れるわけではないという問題がある。

 自由に家から出ることができても今の状況ではあまり意味がない。

 

 前回村を見て回ろうと思ったときは、隣の家まで行って力尽き、そのまま隣の家のおばさんに拾われて家に強制送還された。

 なぜ、こんなにも短い距離歩くだけで体力が尽きてしまうのだろうかと考えた所、そういえば小さい子はいきなり立って歩かないということに気が付いた。

 普通はハイハイから始まり、徐々に立ち始めるものだが、前世では何十年も立ち上がり歩いていた経験があったことから忘れていた。

 このことに気が付いたのならハイハイをすれば良いと思うだろう。

 しかし、中身30歳のおっさんが地面を這いつくばって移動するのはメンタル的にくるものがあるためそれはしたくはない。

 前世の自分よりも若いかもしれない女性の母乳を吸うメンタルがあるなら、ハイハイくらい余裕だと思われるかもしれないが、自身の生命活動に関わってくる問題とそうではない問題とではまた異なるのだ。

 どうしようか解決策を考えていたところ、



 「どうしたのルイ?何か困ってる?」


 いつの間にか部屋に来ていた姉のリズが声をかけてきた。

 いきなり話すようになったとはいえ、流石に子どものルイがいきなり大人のように流暢な喋り方をするのは違和感が強いため、幼い子供の話し方を想像しながら話す。


 「あ、リズお姉ちゃん!実は村を歩き回りたいんだけど、隣の家まで行ったら疲れちゃって歩き回れないんだ」

 「う〜ん。それは確かに困りましたねぇ……」


 リズは名探偵のような口調でルイの話に乗っかってくる。


 「でも、ルイはまだ小さいからしょうがないよ!」

 「えぇ〜」


 リズにどうこうできる問題ではないことは分かっていたが、ルイは分かりやすく落ちこみを露わにしてみる。

 そんなルイの様子を見たリズは、悩む素振りを見せながら何かつぶやいている。



 「……う〜ん。あのことはまだルイに教えたらだめだよね?けど、ルイはもう話すこともできるし、もしかしたらいいのかもしれない?」


 少し考えた後、考えが決まったのかリズは笑顔を見せながらルイに向かって小声で囁く。


 「じゃあ特別にお姉ちゃんが村を歩き回れるようになるとっておきのことを教えてあげる!」

 「え?なになに?」

 「まあ、いいからお姉ちゃんについて来て!」



 リズはそう言うと、まだ小さいルイの手をそれより少し大きい手で掴み、家の外へと引っ張っていく。


 どこに連れて行かれるのかと思ったら、連れていかれた場所はフーリエ家が住む家のすぐ後ろにある小さな庭だった。

 庭は、四方が木の柵で囲まれており、中心には一本の大きな木が生えている。

 柵が周囲からの視線を妨げ、中心に生えている木からは枝が360度伸びているため、上からの視線も遮られる。

 家からも庭の方へと開く窓は無いため周囲から見られることは一切無いだろう。

 

 周囲からの視線を気にせずゆっくりできるような庭に連れてこられたが、リズは一体なぜここへ連れてきたのだろうか。

 とっておきのことを教えてくれるということだが、この庭で寝ころぶのが気持ちいいとかそう言うことだろうか。

 

 「お姉ちゃん、庭に連れてきて何するの?僕、村を歩き回りたいんだけど」

 「村を歩きたいけど体力が無いんでしょ?だからお姉ちゃんが体力を補える方法をここで教えてあげるよ」

 「体力を補える方法?僕は今すぐにでも村を歩き回れるようになりたいのにそんな方法があるの?」

 「う~ん。すぐに歩けるようになるかはルイ次第だけど、きっとルイなら大丈夫でしょ」


 自信満々な様子のリズはそう言うと、何やら目を瞑り集中し始める。


 「ルイ、お姉ちゃんをよく見ててよ」


 リズがそう言った次の瞬間――




 ――リズの全身が淡い光に覆われる。

 淡い光がリズの全身を覆ったと思ったらルイが瞬きをした次の瞬間にはその淡い光は消え去っていた。

 ルイは自分が今見た光景に目を疑った。


 「……ふう。どうだったルイ?ちゃんとお姉ちゃんのこと見てた?」

 「見てたよ?ただ、リズお姉ちゃんの体が光ってたように見えたんだけど……僕の見間違い?」

 

 目の前で起こった一瞬の出来事が現実で起こったことなのか信じられず、自分の目がおかしかったのかを疑う。


 「ふふ~ん。安心してルイ、見間違いじゃないから。これこそがお姉ちゃんがルイに教えてあげたいって言ってた方法だよ!!」

 「やっぱり見間違いじゃなかったんだ!?それは一体なんなの?」

 「これはね~魔鎧まがいっていうんだよ!今から詳しく説明してあげるよ!」

 

 リズの説明によると、先程の体が光った現象は魔鎧まがいという自身の体を強化できる技術のようだ。

 魔力を使用して自分の体をコーティングすることによって身体能力全体が向上し、体力もあまり消費しなくなる。

 そして、使用している間は魔力を消費しているからなのか分からないが、自然と体がほのかに光るようだ。

 

 リズはこれをルイに教えることによって体力不足を解決しようとしたのだろう。



 「魔力で自分の体をコーティングすると、いつもよりも速く走れたり、走った後も疲れなかったり、いつも以上に重いものを持てたり色々といいことがあるんだよ!」

 「へぇ~。魔鎧って凄いんだね」


 まさここんなところで魔鎧というこの世界でのスキル以外の新たな要素を知ることができた。

 もしかしてこの世界ではごく当たり前のように使われているものなのだろうか?



 「ねえ、お姉ちゃん?」

 「なになにルイ?」


 ここで少し魔鎧について気になったことをリズに質問する。



 「魔鎧って皆当たり前のように使っているものなんだよね?」


 ルイの質問に対しリズは少し返答まで間があった上で、何故か周囲を警戒しながら答えてくる。


 「……う~んと、お姉ちゃん含めて皆が使っているものではあるんだけど――」



 そこで一度言葉を区切るとそこからより周囲を見渡し、周りに人がいないことを確認できた後、小声で続ける。



 「――実はお父さんとお母さんにはまだルイに教えちゃだめって言われてるものなんだよね」


 と、衝撃の事実を告白される。

 これって魔鎧を発動するには何歳からとか決まってるとか、何か問題が生じる可能性があるから両親からそう言われたんじゃないだろうか。

 まだ魔鎧を使用した訳ではないから副作用的なものがあるかは分からないが、両親がまだ教えちゃだめと言ったものをリズは教えて来たのか。


 少し心配になりながら考えるルイにリズが話しかける。



 「けど、ルイは神童って言われてるくらいだからきっと大丈夫だと思って教えたんだ!」

 「あ、ありがとうお姉ちゃん」

 「まだ魔鎧を使えるかは分からないけど、もし使えるようになっても魔鎧を使ってる所をお父さんとお母さんにバレないようには気を付けてね?」


 リズはそう言うと、人助けをして気持ちのいい気分になったのか、晴れやかな顔で庭から出て行こうとする。

 しかし、ルイは魔鎧の説明を聞いただけで、どうやったら魔力を自分の体にコーティングすればいいのかなどはさっぱり分かっていない。

 そのため、庭から出て行こうとするリズを引き留め、コツを聞こうとするが、



 「あっ!!」


 突然リズが何かに気づいたような声を上げる。


 「どうしたのリズお姉ちゃん?」


 「よく考えたらルイ、魔力の操り方まだわからないよね?自由に操れるようにならないと体に纏わせることができないから、今日から毎日魔力の操り方を練習してみてね!後、魔力の量は人それぞれだから気を付けないと魔力が切れて、途中で倒れちゃうことになるから!」

 「待ってよ、リズお姉ちゃん。魔力の操り方僕知って……」

 「お姉ちゃん魔力の操り方は感覚でやってて、教えるの下手だからルイは自分で頑張ってみて!」


 リズはそのまま俺を置いて庭から出て行こうとする。

 ただ、出る間際にこちらを振り向き、



 「もちろんさっきの話はお父さんとお母さんに内緒だから言わないでね!?」


 と、一言だけを残して足早に去って行ってしまった。

 

 

 一人庭に取り残されたルイは、。仕方なく、独学で学んだ魔力の操り方で、魔鎧を発動できるか試してみる。

 目を瞑りながら、まるで魔力の鎧が着こまれていくかのような姿をイメージしていく――

 


 ――すると、すぐに目を瞑っていても分かるくらいルイの体が光り始めた。


 光り方がリズの光の時とは尋常じゃないほど明るく光っていることが目を瞑っていても分かったため、どうにか光らないように脳内で光が収まるようにをイメージすると、光は簡単に収まった。

 魔力の操り方はルイが以前からやっていたやり方でも良かったようだ。

 

 輝きが収まってから恐る恐る目を開いてみたが、ルイの手や体や足を見てみても何ら変わった所はない。

 

 もしかして体が光っただけで失敗したのではないかと思いながらも一歩踏み出してみると、いつもよりも足取りが軽くなっているように感じた。

 もしかしてと思い、その場でジャンプをしてみると、


 しかし、いつも通り歩を進めることができるだけで何も変わった様子はない。

 歩くのだと変化が分からないのかもしれないと思い、次はジャンプをしてみる。

 ジャンプしようと足に力を込め、そのまま飛び上がろうとした次の瞬間――



 ――急に頭に何か当たったような感じがした。

 

 頭に何かが当たったかもしれないと思ったのも一瞬で、次はお尻に軽い着地の衝撃のようなものが来たため、そちらに気を取られる。

 何が起こったのか理解が追いつかないまま自分の状況を確認すると、ジャンプしようとしたはずの俺は何故かお尻を地面につけて座っていた。

 

 ジャンプをしようとしてバランスを崩し転んでしまったのだと思ったが、何やら頭上からミシミシと音が聞こえてきたため、ゆっくりと上を見る。

 

 するとそこには太い枝が折れ、根元の部分だけが何とか木の幹の部分に繋がっている状態でぶらぶらと揺れ、今にも落ちそうになっている。

 ルイは頭上にいつ落ちて来るかも分からない枝を見て、その場から離れようと立ち上がり、クラウチングスタートのように地面を蹴る。

 


 再び頭に何かが当たったような衝撃と同時にルイは周囲を見渡す。

 すると、先ほどまで座っていたはずの地面には予想通りぶら下がっていた木の枝が落ちていた。

 そこまでは予想通りであった。

 しかし、その地面には太い枝が落ちた衝撃では絶対に空かないような小さなクレーターのようなものができていた。

 

 


 驚きの連発だったが、ここまで起こったことを自分なりに整理することにした。

 俺は魔鎧を発動するのには成功したのだろう。

 それは庭の現状を見て理解した。


 まず、最初に歩いた時には魔鎧を発動するのは失敗したものだと思ったが実は成功していて、気づかずにそのままジャンプしたため、ジャンプ力が強すぎて上の枝にぶつかってしまったのだろう。

 魔鎧で身体能力が向上しているため、有り余った力でジャンプしたその力はそのまま太い枝を折るところまで行ってしまったようだ。

 そしてそれほどまで高いところにジャンプできるとは思っていなかった俺は着地ができずに尻もちをついてしまった。

 頭に衝撃も少しあったがあまりにも弱い衝撃のせいで、その次の瞬間のお尻への衝撃へと意識が引っ張られたが、あの頭への衝撃は枝にぶつけていたからだと考えることができる。


 次に、地面にできた小さなクレーターみたいなものは、地面を強く蹴り過ぎたために作られたものだと考えられる。

 俺のこの小さな足から空けられた穴だとは考えたくはないが、流石にそれ以外に理由が見当たらないため、きっと当たっているはずだ。


 この結果から俺は、魔鎧を発動することができるということと魔鎧の想像以上の効果を確認することができた。

 ただ、魔鎧を発動できたのはいいが、これほどの効果だと村を散歩するにはかなり訓練が必要だと思われるため、すぐには村を歩き回るのは難しいだろう。

 少しでも扱いを間違ってしまえば簡単に人を殺しかねないほどの身体能力になってしまう訳だからな。

 木の枝を折り、地面にはクレーターを作り、しかも骨格がしっかりしておらずまだ柔らかいはずの頭蓋骨は、軽い衝撃を受けるほどで無傷というほどだからただの頭突きでも凶器になりかねない。

 そんな結果になるほど魔鎧まがいは強力だということだ。

 


 とりあえず今日は魔鎧まがいのコントロールができるようになりたいため、訓練するにはまずは周囲の片づけをするか。

 魔鎧まがいは発動したままのため、先程折ってしまった木の枝を持てないかと持とうとしたら、思った以上に軽々と持つことができてしまった。

 その木の枝を箒のように使い、クラウチングスタートを決めて飛び散った土を掃いて穴を埋めていく。

 ある程度埋まったら木の枝も一緒に埋め、最後は小さな手で砂遊びをするように、残った土を盛って証拠隠滅を図る。

 折れた太い枝を一緒に埋めたため、庭に来た時より少し根元が盛り上がって、まるで木の傍に死体でも埋まっているかのようになっているが細かいことは気にしない。

 


 掃除が終わり、予定通り魔鎧まがいの訓練をすることにする。

 

 



 魔鎧の訓練中、ふと周囲を見渡すといつの間にか昼のような明るさはなくなり、木の枝の隙間から空を見上げると空は徐々に赤みがかってきている。

 

 「魔鎧の訓練をしていたらもうこんな時間か。早く家に入らないと母さんに怒られるな」


 ルイは立ち上がり、いつの間にか土で汚れた衣服から付いている土をはらい落とす。

 

 庭は魔鎧を使い慣れていなかった最初とは異なり、短時間の訓練でうまくコントロールできるようになったため、穴が空いたり枝が折れたりはしていなかった。


 土を払い落とすと、その様子を見ていたかのように家の中からリズの声が聞こえてくる。


 「ルイ~!!まだ庭にいるの?早く家の中に入りなさいってお母さんが言ってるよ!」

 「分かったよリズお姉ちゃん。今行くよ!!」


 ルイは声を張り、リズにそう答えると急いで庭を後にした。

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