63話 翌日‐2
ルイはまた別のページを開き、王国の冒険者について書かれている中でも、ランクについて書かれているページを開く。
『王国の冒険者ランクについて。
王国の冒険者ランクは四つの区分に分けられ、さらにその中でも四段階に分けられている。その全部で合計十六段階の中でも、ランクの中にも実力差はあるが、各ランクの間にはかなりの実力差が存在しており、ちょっとのことでは上のランクに上がることはできないようになっている。
ランクブロンズ:基本的には冒険者になったばかりの駆け出しか、シルバーに上がれる実力を持たない冒険者がそのほとんどを占めている。遺跡に入ることは許可されていないため、基本的にはそれ以外の依頼をこなす必要がある。ブロンズ1からシルバー4に上がるためにはそれなりの時間を要する。
ランクシルバー:冒険者になってからそれなりに経っている者がほとんどで、実力がある程度認められた者がほとんど。遺跡に入ることが許可されてはいるが、シルバーになってからすぐに遺跡に潜った者は、死んでしまうことが多い。冒険者は、このランクシルバーが一番多く存在している。
ランクゴールド:ベテラン冒険者。かなりの実力を持っており、そのほとんどが冒険者として活動してから年数が経っており、知識も多く持っている。熟練冒険者が多いため、平均年齢はブロンズやシルバーに比べると高くなる。ゴールドになってからはより危険な依頼を受けることができ、遺跡への一人での探索も認められるようになる。
ランクプラチナ:冒険者ランク最高の称号。ゴールドのベテラン冒険者でも、プラチナの一番底辺の者に歯が立たないくらいの実力差がある。一人一人がとても強い実力を持っており、その戦闘力は王国の騎士よりも高い。その数は少なく、王国に百人程度しか存在しておらず、その中でも冒険者最高峰であるプラチナ1を冠するパーティーは四組しか存在していない。ただ、パーティーとしてプラチナ1を与えられているだけであり、個人でプラチナ1まで到達した者は過去に数えられるほどしか存在していない
冒険者ランクを上げるにはその実力を示す必要がある。
通常、依頼は各ランクごとに分けられており、自分のランク帯の依頼しか受けることができない。
しかし、ランクを上げる時は、ギルド側が用意したランクごとの依頼をこなす必要があり、現在の自分のランク以上の依頼を受けることが出来る。
ギルド側で用意した依頼を達成することで、その依頼のランクと同程度の実力を持っていると見なされ、ランクを上げることが出来る。
また、ランクにはソロランクとパーティーランクの二つが存在しており、それぞれ別のランクとして与えられる。
大体はソロランクよりもパーティーランクの方が高い場合が多い。
ソロランクで受けられない依頼でもパーティーランクでは受けることが出来るなどの利点がある。
どちらのランクも上げる場合は、別々の依頼をこなす必要がある。』
やはり凄い。随分と冒険者ランクについて詳しく書かれてあるな。
再度感心しながらページをめくる。
次のページには『王国冒険者史上初めての冒険者ランク』のことについて書かれていた。
これが、俺が考えていなかったのに追加されていた部分か。
『王国冒険者史上初めての冒険者ランク。
冒険者のランク帯は四段階あるが、過去にその四段階を越えるランクが一度だけ追加されたことがある。
その時のランク区分はプラチナを越える、ランクダイヤというランクが新たに追加された。
そのランクダイヤに到達したパーティーが一つだけ存在しており、とてつもない実力を持ち、様々な依頼をこなした。
実力的には、パーティーで一国と同等の強さを持ち、そのパーティーを越える冒険者パーティーは過去にもその後にも存在していない。
ダイヤパーティーのメンバーの個々の実力も高く、それぞれ個々の強さだけで過去に数えるほどしか存在していないプラチナ1に到達していたほどだと言われている。
王国史上最強と言われるランクダイヤのパーティーは――』
「――ディアマンテ―ル。これが王国史上最強の冒険者パーティーの名前か……」
「――!!」
読んでいた本に書かれていた内容をつい口にしたルイ。
つい口からこぼれ出てしまうほど、この内容は魅力的なものだった。
男なら最強という存在に憧れを持つものだから、精神年齢三十代を過ぎた今でもこのようなものを見ると、心からワクワクしてしまう。
男なら年齢に関わらず、誰だってそうなるだろう?
つい口に出てしまったことはしょうがないが、その言葉に反応したのか、俺が急に声を出して驚いたのか分からないが、セシリアが驚いた表情をしていたのが気になる。
けれど、今はそんなことはどうでもいい。
この続きにはどんなことが書いてあるんだろうか?
『冒険者の中で最強の称号を得た彼らだったが、その時代の王国では最強で、国で一番の実力を持つ騎士団全てが束になっても彼らには勝てないほどだと言われていた。
しかし、時とともにパーティーは解散し、彼ら以外にランクダイヤのような実力を持った者は存在しなかったため、現在の最高ランクはプラチナへと戻っている。』
時とともに解散したため?
最強と呼ばれるような存在でも、寄る年波には勝てなかったのだろうか?
いつの時代に彼らが存在していたのかは分からないが、俺も彼らのような新しいランクを作ってしまうほどの強さを手に入れてみたいな。
一国を敵に回せるほどの強さを持つなんて、相当な強さじゃないか?
ランクダイヤが一国を相手にできるとなると、それ以外のランクの強さはどのくらいなのだろうか?
ダイヤパーティーが何人構成だったのか分からないが、四人ほどだとすると、現在のプラチナ1のパーティーが全て集まってようやく国を相手どれるというわけか。
いや、一国を相手にするというのがどこの国を指しているのか分からないが、もしもアークドラン王国ならば、その一国の中には他の冒険者も含まれているということのはずだから、プラチナ1パーティーが他にいようとも勝てるということになる。
つまり、一国を相手にすることができるなら、プラチナ1パーティーが四っつではだめだということだ。
ダイヤパーティーの個々の強さはプラチナ1とあるが、それよりも強かったのだろう。
そんな強さを持つダイヤパーティーが今では存在しないのが悲しく思える。
もし、存在していたのなら一度は会って、その実力を間近で感じてみたかった。
せめて、そのパーティーの資料があれば、色々と調べることはできるだろうが、本などに文字で残している可能性はあっても、それが大切にされない世界のため、情報を集めることは難しいだろう。
いくらマジックアイテムのこの本でも、個人の情報までは出てこない。
このパーティーが存在していた時代も分からない。
調べようがないのだ。
ただ、冒険者だったということだから冒険者ギルドに行けば何か分かるかもしれないので、次に行った時にでも聞いてみることにするか。
そっと本を閉じ、本棚の元にあった位置に戻す。
やはり、この本はとても有用な存在だ。
こうやって暇も潰せるし、何より王国のことなら知りたいと思ったことを考えるだけで知ることができる。
まさに、王国内だけの情報検索システムのようだ。
一冊の本だけで何冊分もの価値がある。
いや、マジックアイテムだから、それだけでそれ以上の価値を持っているか。
こんなにマジックアイテムが使える物だと分かると、俺も冒険者として活動して遺跡の探索をし、マジックアイテムを探し出したい気もするが、そんなに簡単に見つかるものじゃないのと、命を失う危険性が高いというので、今の実力ではやる気にはならない。
そもそも体が大きくならないと全体的に不便なため、後十数年くらいは冒険者としては活動しないだろう。
俺が無事に当主になれれば当主兼冒険者として活動してもいいかもしれないが、それも今の困難を乗り越えないと無理な話だ。
いっそのこと早く決闘当日にならないかと考えていると、突然、部屋にいるリチャードとハンスが何かを察したのか、扉に向かって戦闘態勢に入る。
それと同時に扉が無理矢理こじ開けられ、部屋に十人ほどの兵士が入ってくる。
どの兵士もフーリエ家の紋章の付いた鎧を身に付けており、この家の兵士だと言うことが分かる。
そしてこじ開けられた扉の向こうにも大勢の兵士の姿が確認できる。
な、なんなんだ急に!?
どうしてこんなに大勢の兵士が俺の部屋に無理矢理入ってきたんだ?
俺が状況を理解できていないと、セシリアが俺に声をかけてくる。
「ルイ様!こいつらはライアン様とリアム様の配下の者達です!この様子だとどうやら二人はルイ様を先に仕留めるため、手を組んだようでございます!」
セシリアの言葉を聞き、扉の奥にいる兵士達の先をよく見てみると、以前食事会の時に見た、ライアンとリアムの背後で護衛をしていた人物がそれぞれ立っていた。
部屋に入りきらないほどの数の兵士も厄介だが、その後ろにいるリアムが外部から雇ったと思われる凶悪な顔のあの男はかなりの実力のはずなのでもっと厄介だ。
ライアンの配下のあの男も何やら他の兵士に指示していることから、リアムの配下の男と同じくらいの実力を持っていると考えていいだろう。
突然、この大勢の兵士が俺の部屋に攻めてきたということは、男爵は何か騒ぎにならないような手を打ったということで間違いなさそうだ。
そして、それを兄達に伝えたのだろう。
俺に伝えなかったのは、俺が大勢の兵士を持たないからだ。
だとしても、なぜ兄達は俺を真っ先に狙ったのだろうか。
兄達二人は俺が転生する前から争っていたほど仲が悪かったはずなのに、なぜここに来て急に手を組んだのだろうか。
俺の勢力が一番小さいから早めに潰しておこうという考えかもしれないが、それならわざわざ手を組まなくとも、兵士の多さで勝っているのだからこれは違うだろう。
俺が考えられる内で一番それらしい考えは、俺という新たな当主候補が出来たことによって、俺を敵とみなした元々敵同士の二人が手を組んだということだ。
なんとなくこれが一番あの兄達の考えに近い気がする。
どうでもいいことを色々と考えて現実逃避していたが、この絶体絶命のピンチをどう切り抜けるかしっかり考えないとな……。
そう思った次の瞬間――
目の前で戦いの火ぶたが切られた。




