62話 翌日
「はいっ!実は遺跡から王都に戻ってきた時に私のスキル、『《調査》』に反応があったんです」
「スキルに反応?」
団長イザベルはメアリーの言っていることを理解できていない様子だ。
そこにすかさず副団長のウォルターが説明を入れる。
「団長、以前お話したではないですか。メアリーのスキル・『《調査》』は、メアリーが調べたいと思ったものにスキルを発動すると、その対象の情報を調べることができるという効果があります。そしてその他にも効果があって、今回のは、その対象となるものに関わりのある人が近くにいると、メアリーは知ることができるというものです」
「……ウォルター、お前そんなこと前に言ってたか?」
「言いましたって!団長が聞いてなかったんじゃないですか!?」
そこまで言われてもまだ納得していない様子の団長イザベル。
しかし最早そこはどうでもよくなったのだろう。話を先に進めろとメアリーに促す。
「その反応だったんですが、ティリオ村では生存者どころか死者の反応さえ何も無かったのですが、王都に戻ってきてつい先ほど、この王都にティリオ村の生存者がいるという反応があったんです!しかも二人分!」
その言葉を聞いた瞬間、イザベルは今にもメアリーの胸ぐらを掴みそうな勢いで詰め寄る。
「その場所はどこだ!」
イザベルのあまりの勢いに驚き、後ずさりしながらそれに答える。
「お、王都の東の冒険者ギルドです……」
生き残った村人の場所を聞いた途端、イザベルは持っていた巨大な剣をウォルターへと突き出す。
「ウォルター、これを片付けておけ。メアリー、冒険者ギルドに行くぞ」
そう一言だけ告げると、メアリーを連れ、準備をしに王城の中にある騎士団の詰所へと歩いていく。
巨大な剣を渡され、訓練用の庭に残されたウォルターはポツンと一人寂しそうに立ち尽くしていたが、ふと我に返る。
「え?僕は連れていかれないんですか?」
周りにいる騎士達に聞こえないような小さい声でウォルターは呟いた。
◇
屋敷へと戻り、その日はすぐに休んだルイは、暗殺者に邪魔されて目覚めることなく次の日を迎えていた。
いつものように朝の支度を済ませ、今日は何をしようかと考えていると、部屋にハンスが訪れて来た。
ハンスが来たことでルイの配下三人が揃い、言わなければいけないことがあったことを思い出す。
「そうだ三人とも。そういえば三人に話さなければならないことがあるんだ」
ルイは三人を自分の近くに来るよう手招きし、ラッセル食堂や冒険者ギルドで話していたこと、自分の前世の記憶について、スキルのことを除いて語り始める。
ハンスとセシリアには転生したことは伝えていたから、驚きなどは無かったが、初めて聞くハンスはとても驚いていた。
そして一人で、「前世の記憶があるってことは、神童じゃないのか?いや、前世も同じくらいの年齢でこんな感じだったってことはやっぱり神童なのか?」と呟いている。
ハンスとセシリアには嘘をついていたことになるが、二人は説明した後も、何か事情があったのだろうと、こちらの意を汲んで、納得してくれた。
転生したことと、前世の記憶を持っていることに全員驚きつつも一切疑わないのは、やはりスキルやモンスターなど、会社員時代の俺がいた頃の世界とは全く別物の世界だからだろうか。
とにかく、俺は一人で抱えていたこの話を三人に説明したことにより、少し気が晴れた。
それでもまだ言っていないこともあるが、これは流石に誰にも言えない秘密なので、心の奥底にしまっておく。
全ての説明を聞き終えた三人は、俺がなぜ村について知りたがっていたか、そして急に心変わりしてフーリエ男爵家の当主を目指そうとしたかの理由を知った。
ハンスなどは、現在の腐敗しきった貴族社会をまともに戻そうとするために、少しでもまともな俺を当主にしようと考えていたので、俺はそのために当主を目指すのではないということを知り、失望するかと思っていたが、そうでも無かった。
逆にハンスは、
「俺は、腐った貴族社会に少しでもまともな人材を増やしたいだけだから、坊ちゃんが当主になろうという目的なんて何だっていいんだよ!俺は坊ちゃんの人間性を見込んだんだからな!」
と、俺の目的を知った後の方がより、協力的な雰囲気を見せた。
リチャードも概ね何の問題も無いような雰囲気で、話を聞いた後もそのまま俺に仕えてくれると言ってくれた。
ただ、話を聞いた中で一人、セシリアだけがどこか浮かない顔をしていた。
俺の話したことで何か問題でもあったのかと不安になったが、セシリアもこれまでと変わらずに俺に仕えてくれると言ってくれ、先程、話の途中で見せた浮かない顔は気のせいだったのかもしれない。
冒険者ギルドでティリオ村から無事に生き残っていたジェイクとリズに会った話をした時のことだったが、俺の見間違いだろうか。
ひとまず説明を終え、三人に俺の目的などを伝えることができたことで、より様々な行動を取りやすくなった。
今までのように黙っておく必要が無いからな。
後は、今俺にできるのは、冒険者ギルドから依頼を受ける人が来たという連絡を待ちながら、決闘当日まで生き残るだけだ。
俺も当主を目指すなら、兄達を決闘当日まで戦闘不能に追い込むのが確実だろうが、そもそも兄達の代理人が決闘に出るかもしれないから意味が無いし、それ以前に、ただでさえ少ない俺の陣営をさらに割くような行為は無策だろう。
まあ、フーリエ男爵の考え通りにはなりたくないというのも理由の一つだが。
それに待っていれば、勝手に向こうから暗殺者が送られてくるのだから、それと戦えば、俺の実戦の腕前も上がり、相手の陣営もどんどん人が減っていくという一石二鳥になる。
流石にある程度まで返り討ちにしていけば、相手も人を送って来なくなるだろうが、それはそれで面倒くさいものが無くなり助かるだけだ。
そのため俺は決闘当日までただ待つことにする。
その間にできることをしながら、なんとか耐え忍ぼうと思う。
この考えを三人に伝えると、三人も納得してくれる。
これで当分の予定は決まったが、これから何をしようか。
今すぐにできることは何もないことに気が付く。
屋敷の中を見回ろうにも、今うかつに部屋の外に出るのは危険だからできないし、だからといって部屋の中にある本を読もうとも全て読み終わったものばかりだ。
現在の村のことについて何か知っているであろう翡翠騎士団のことも今すぐにどうにかできるわけではないし、ジェイクとリズにある程度話も聞けたので、村についても今の所は何も調べるようなことは無い。
そうだ!昨日ラッセル食堂や冒険者ギルドに行ったことだし、そこで気になったことをあの本で探すことにするか!
ルイは本棚へと歩いていき、一冊の本を取り出す。
「王国について」
この本に気になったことを考えていれば、新たな項目が追加されているはずだ。
今回は、王国の遺跡についてと、冒険者のランクについて、それと最後にこの本の効果を試すために、ジェイクの情報が出てくるかどうかを頭に思い浮かべてみる。
この本がマジックアイテムなのは確実だが、その効果は未だ不明のままだ。
ただ、俺の予想ではこの本の名前が指すように、王国についてのことが書かれてはいるが、王国の中の重要事項だけが書かれており、個人の情報などは出てこないと思う。
この本を何度か読んでみて気が付いたが、新たな項目が追加されればされるほど、本の厚さは増えていくと思っていたが、そんなことはなく、やはりマジックアイテムだからか、本の厚さはそのままで、中身だけが増えていくという仕組みだった。
まだこのマジックアイテムの効果を全て理解できているわけではないが、この本は本棚に入れておいていいような本ではないことは分かる。
俺の持つマジックアイテム、通称(腕輪だと普通すぎるので俺が呼んでるだけ)マジックリングに入れておきたいくらいだが、ここには既に冒険者プレートが入っているため、入らない。
貴重さ的にはこの本を入れておいた方が本当はいいのだろうが、冒険者プレートも紛失してはいけないものなのでそちらを入れたままにしている。
マジックリングは常に身に付けているので、冒険者プレートをいつでも出せるという利点もあるのだが。
それに、いくらマジックアイテムだからといっても、ここは本にあまり興味がない世界なので、本棚に入れておいても誰も触りもしないだろう。
こんなことを考えている間に、本の内容が追加されているだろうから確認する。
常に新品に保つ効果でもあるのか、いつでも綺麗な表紙を開くとまず、目次を確認する。
そこには先程まで考えていた項目が追加されていた。
王国の遺跡について、冒険者ランクについて、そして予想通りジェイクについては書かれていなかったが、なぜか冒険者ランクについての項目で、考えていなかったことが追加されていた。
『王国冒険者史上初めての冒険者ランク』
こんなことは考えていなかったはずなのに、なぜ本に追加されているのだろうか不思議に思ったが、今回考えていたことに何か関わりのある物なのだろうか?
それはこの部分の内容を読めば分かることだろう。
とりあえず今回追加されたところを読み進めていくか。
まずは王国の遺跡についてから読んでいくことにする。
『そもそも遺跡には、地上には無い未知の世界が広がっている。
この遺跡は世界中に存在し、その中でも、アークドラン王国に存在する遺跡は全部で7つある。
王国では国によって、遺跡に潜ることのできるのは騎士や兵士か冒険者のランクシルバー以上の人材だけだと決められ、それ以外の人は遺跡に潜ることが出来ないよう、遺跡の入り口は厳重に完備されている。
遺跡には、様々なモンスターと呼ばれる別の種族が存在し、それらは人族とは姿かたちが全く異なっており、言葉も通じることは無く、人族を見つけると襲ってくるため、別の種族とは言われているが完全に敵対している存在だ。
そんなモンスターだが、地上には無い様々な特徴を持っているので、素材として重宝されている。
また、遺跡で採取できるものは様々で、それらを持ち帰ることで、日々の生活や技術の発展に繋がっているため、遺跡を探索するものは後を絶たない。
だが、それと同時に様々な危険も伴うため、遺跡で命を落とす者も後を絶たない。』
う~ん。遺跡についてはこの程度だった。
セシリアが説明してくれた通りのことがほとんどだったが、ある程度どんなものかは知ることができたな。
それじゃあ次は、冒険者ランクについて見てみるか。




