59話 再会‐3
「さっきの話について詳しくか?」
先程の話を聞き、さらに聞きたいことがたくさん出てきた。
分かったこともたくさんあるが、それ以上に疑問となる内容が多かった。
残りの家族の行方や、村人の死体の行方、なぜ遺跡にしかいないはずのモンスターが村に現れたのか、ジェイクのスキルは一体どんなものなのか、村を襲ったものの正体はモンスターだったのか。
疑問に思ったことを頭の中で整理していると、ジェイクが話し出す。
「まあ、詳しく話すと長いから手短に伝えるが、俺達はゴブリンとケルベロスを倒した後、森を抜け、近くの都市までどうにか辿り着き、そして色々あって現在こうしてお前さんと出会ったんだ」
詳しいことは全て省かれたが、きっと今に至るまでたくさんの苦労をし、この場だけでは全て語れないほどのことがあったのだろう。
実際に、ジェイクとリズの雰囲気は俺が転生する前と大きく変わってしまっているように感じる。
先程は感動の再会で良く分からなかったが、ジェイクは右腕を失っただけでなく、以前は優しく豪快だった雰囲気の中に、どこか慎重で鋭いような雰囲気を感じる。
しかし、一番変わったのはリズだろう。
以前までのリズは、明るく活発な少女という印象だったが、村でのことが原因なのか、今では目つきも鋭く、心に暗い影を落としているのが雰囲気から察することができる。
そんな二人の今に至るまでの経緯をもっと知りたいが、二人のトラウマを刺激しないよう、これ以上の質問はやめておく。
その代わり、二人の現状を聞くことにする。
現状のことなら聞いても何の問題もないだろう。
「ところで二人は何で王都の冒険者ギルドにいるの?」
村の近くにある都市からこの王都まではかなりの距離があるはずだ。
二人が王都にいるのも何か理由があるのだろうが、それも冒険者ギルドにいることと関わっているのだろうか?
ジェイクがルイの質問に答えるため、口を開く。
「俺達が冒険者ギルドにいる理由か?それは今、俺と嬢ちゃんが冒険者として活動しながら日々生活しているからだな。村を出た後、生活しようにも全てを失ったから、俺にできることと言ったら冒険者しかなかったんだ。それと長い道のりをかけ王都にまで来たのは、古い知り合いに会うためだぜ」
ジェイクは言いながら自分の右腕を見る。
ジェイクとリズが現在、冒険者になっていたことに驚く。
ジェイクは元々冒険者として活動していたのを以前、話を聞いていたから驚かないが、リズが冒険者として働いている姿は想像もつかない。
それに、リズはまだ十二歳なのに……と思ったが、この世界ではそのくらいから仕事をしているのはごく当たり前なことだったのを思い出す。
そういえばレンスも十歳でスキルを手に入れてからすぐに、父親のラルバートと森へ狩りに行っていたな……。
そう考えると、リズが現在その歳で冒険者をやっているのも不思議ではないのだろう。
「ところで神童、お前さんはどうして王都にいるんだ?どうやって村から逃げ出すことが出来たんだ?」
ジェイクから聞かれたくない質問をされてしまう。
村が襲われた後のことは、こちらから一方的にしか聞いていなかったが、流石にジェイクも俺がどうやって王都まで来たのか疑問に思ったのだろう。
しかもリズから死んだとまで聞かされていれば、どうやってあの場から逃げ出すことが出来たのか気になるのは仕方がない。
……どのように答えようか。
流石に真実を全て話すことはできない。
俺がこの場にいるのはスキルのお陰だが、いくらジェイクでもそれを話すことはできない。
今後の俺の安全に関わってくるからだ。
しかし、何も話さないのも逆に疑わしいだろう。
それなら真実の中に嘘を交えながら話すしかない。
「ジェイク、実はリズお姉ちゃんが言った話の全てが間違いっていう訳ではないんだ」
「どういうことだ?嬢ちゃんが話したのは間違いじゃないって?」
「僕は教会で見えない何かに吹き飛ばされて意識を失ったんだ。その時、リズお姉ちゃんはそれを見て、僕が死んだと思ったんでしょう。そしてどのくらい意識を失っていたのか分からないけど、僕は気付いたら王都のある男爵家の屋敷のベッドの上にいたんだ」
これは事実だ。
気を失ったというところは実際には、死んでしまい意識が無くなったということだろうが、その後の男爵家のベッドにいたというところなど、何も間違ってはいない。
ほとんど真実と言って過言はないだろう。
「そして、今はその男爵家のお世話になっているんだけど、色々とあって今は大変な状況なんだ」
ジェイクは今の説明で納得してくれたのか、俺の言葉に頷いてくれている。
リズもいつの間にか震えていた状態から戻っており、ルイの話を聞いていたようだ。
「それじゃあルイは今、その男爵家のお世話になってるから何の不自由もなく生活できてるのね?」
リズの質問に対し、頷くルイ。
「……っ、良かった~!ルイが今無事ならそれでいいの。私もジェイクと一緒に冒険者として生活できてるから、ルイはお姉ちゃんのことは気にしなくていいからね?」
「俺も初めは、後ろに怪しいその男を連れていたから、無理矢理引きはがしてでもリズと一緒にいさせた方がいいと思ったが、リズがそう言うなら今のままでいいんだろう」
俺の後ろに立っているハンスのことを指さす。
ハンスはジェイクにそう言われ、愛想笑いをしている。
騎士であるハンスを、筋骨隆々とはいえ元冒険者のジェイクが引きはがせるとは思えないが、なぜかジェイクが言うと、実現できてしまいそうなのはその見た目からなのだろうか。
いや、ジェイクはもしかするとハンスよりも強いのか?
そういえば、ジェイクの冒険者ランクはどのくらいなのだろうか?
以前見たモンスターについて載っている本で、ケルベロスはランクゴールドの冒険者達が何パーティーか束になってようやく倒せるような存在だというのを見たことがある気がする。
そのランクゴールドが四段階のうちどのランクゴールドを指しているか分からないが、ジェイクは単独でケルベロスを倒していることから、その実力はランクゴールドの上位か、プラチナほどの実力ということになる。
ジェイクがそんな実力を持っていたことに驚きを隠せないが、それほどの実力者と騎士であるハンス、どちらの方が強いのだろうか。
「まあ、そういうことで感動の再会だったが、俺達はこれから依頼に行かないといけない。もっとゆっくりと話していたかったが、依頼があるためそうもいかないんだ。ただ、俺達の居場所は教えておくから、いつでもここに来てくれ」
ジェイクは唐突に別れを切り出すと、ルイに一枚の文字が書かれている紙を渡してきた。
もらった紙を見ると、そこには二人が今いるであろう宿の名前とその場所が書かれている。
「こんなところで再会できて、互いに色々と聞いたり話したいことはあるだろうが、今度また会った時に話すことにしよう」
ジェイクは立ち上がり、リズに声をかける。
リズは名残惜しそうにこちらを見る。
「とにかくルイが生きていてくれただけで良かったよ。それじゃあまた会おうねルイ」
そう言い残し席を立つと、ジェイクと共にギルドから出て行ってしまった。
残されたルイとハンス。
そこで言いづらそうにハンスが口を開く。
「……坊ちゃん、後で説明頼むぜ?」
これまでの話を全てハンスに聞かれたため、説明しないわけにはいかないだろう。
ハンスは何も分からないまま、この話に付き合わされていたが、流石に誤魔化すことはできない。
家に戻ったらリチャードとセシリアもいる場で、全てを話すことにするか……。
「大丈夫、ちゃんと説明するよ。ひとまず馬車に戻ろうか」
ルイはハンスを連れ、完全に用を済ませた冒険者ギルドを後にする。
何度目かの馬車への乗り込みを済ませ、リチャードに家へ帰るよう伝える。
そして、馬車が走り出すと共に、冒険者ギルドでのことやこれからのことについて考える。
東側の冒険者ギルドで、行方が分かっていなかった家族のうち、リズに出会えたことは本当に幸運だった。
そしてジェイクも生きて、村からここまでリズを助けてくれていたと知り、ひとまず二人のことは大丈夫だと安心することができた。
それに二人とも冒険者として安定していそうで、十分な生活が出来ていそうだった。
最初、二人とも屋敷に連れて帰ろうと考えていたがその必要はなさそうで、むしろ連れていったほうが二人を危険に巻き込んでしまうことになる。
二人とも冒険者をやっているということを知った時も、護衛として雇う提案をしようとしたが、同じく危険な目に合ってしまうため、その提案はしなかった。
ケルベロスを一人で倒せるジェイクがいるなら護衛として申し分ないが、護衛として雇ったら、そもそも俺が転生したということもバレてしまうため、この考えは無かったことにした。
先程、ジェイクに聞けなかったが、ジェイクは冒険者ランクとしてはどのくらいなのだろうか?
話を聞く限りだと、現役時代ならかなりその名を馳せていたほどの強さを持っていそうだったが、ジェイクは何者なのだろうか?
それに王都にいる知り合いに会いに来たと言っていたが、一体誰なのだろうか。
そう言った時、自分の右腕を見ていたから、もしかすると右腕を治すためにその人物を尋ねてやってきたのかもしれない。
それならジェイクがその人物を探せるように手伝ってあげたい気もするが、俺は今それどころではなかった。
ジェイクとリズに会えたことで、冒険者ギルドに依頼を出した目的を忘れかけていたが、兄達がいつ大勢で攻めてくるか分からないから、人数を揃えるために護衛を雇おうとしていたんだった。
二人に会えたことでフーリエ男爵家の跡取りなんてもっとどうでもよくなったが、そんなことは向こうには関係ないだろう。
いつでもこちらの命を狙ってくるはずだ。
いや、待てよ?
ジェイクとリズが生きていることが分かったのなら、残りの家族を探すためにも俺がフーリエ男爵家の当主になった方がいいのか?
当初の考えと違って、フーリエ男爵家の財産を今は自由に使えないが、当主になればそれも解決するはずだ。
となると、俺の今までの行動は間違っていたのか?
自由が奪われると思い、当主を目指さなかったが、俺が男爵家の跡取りになれば、その財産を自由にできるだけでなく、村の行方を知る翡翠騎士団にも直接会うこともできるはずだ。
こんなことに今更ながら気づく。
馬車が走る中、ルイはハンスに向け宣言する。
「ハンス、突然かもしれないけど決めたよ。ハンスの言う通り、僕がフーリエ男爵家の跡を継ぐよ」
その突然すぎる宣言に、ハンスもセシリアも驚きの表情のまま固まってしまった。
「だから僕に協力してくれ」
 




