57話 再会
俺が転生してから二年が経過している間に少し容姿も変わっているが、見間違えではないだろう。
この世界に転生して初めて関わった人達だから、少し姿が変わっていても間違う訳がない。
自分の名前を呼ばれ、ルイの方を振り向く二人。
二人ともなぜ自分の名前が呼ばれたか分かっていない表情だったが、ルイの顔を見ると、その表情が変わる。
「おいっ、嬢ちゃん!あの時、俺に話したのは噓だったのか?俺達の目の前に神童がいるぞ?」
「そんな……嘘よ!だってあの時ルイは、確かに死んでしまったはずなのに……!」
そう言いながら二人とも席を立つと、ルイに近づいて行く。
「本物なの?本物のルイなの?私が最後に見た姿と全く同じ姿をしているけど、私達亡霊でも見てるのかしら?」
「そんなことあるのか?二人そろって同じ亡霊を見るなんて……」
そんな二人にルイは本物だとアピールする。
「二人とも僕は本物のルイだよ!確かにティリオ村にいたフーリエ家の三男のルイだよ!」
ルイがそう言った途端、リズはルイに飛びついてその身を抱きしめる。
「本当に本物のルイなのね!生きててくれて良かった……!」
抱きしめられているのでリズの顔は見えないが、抱きしめている体の震えとその声から、泣いていることを察する。
そんなリズを慰めるように、ルイは優しい声をかけ、抱きしめ返す。
「ただいま、リズお姉ちゃん」
◇
「少しは落ち着いたか?二人とも?」
椅子に座りテーブルを囲む三人に、ルイの後ろに立っているハンスが、ルイとリズに声をかける。
感動の再会を果たしてから、しばらく冒険者ギルドの中で抱きしめ合っていたが、ギルドにいる他の人達に見られとても目立っていたので、三人が落ち着くと同時にハンスとジェイクに、このテーブルへと移動させられたのだ。
「大丈夫ハンス、落ち着いたよ」
色々と事情を聞きたそうだが、我慢しているであろうハンスにそう答える。
ここまでして説明しないわけにはいかないが、まずはリズとジェイクから自分が死んだ後の村の話を聞きたいので、ハンスには後で詳しく説明することを誓う。
「ハンスも色々と聞きたいことがあるだろうけど、少し待っていて欲しいんだ。このことはセシリアとリチャードにも話していないから、二人がいる時にまとめて話すよ」
ハンスは頷き、話の邪魔をしないように一歩後ろに下がる。
ハンスが下がった所で、二人に聞きたいことを聞く。
聞きたいことは色々とあるが、まずは俺が死んだ後、村で何があったのか、そしてどうしてここにいるのか経緯を話してもらう。
「ところで二人に聞きたいんだけど、村が何者かに襲われた後、何があったのか、他の家族はどうしたのか教えて欲しいんだ」
その言葉に、リズが答えようとするが、口を開こうとすると体が震え、答えられない。
まるでその時の記憶がトラウマになっているようだった。
そんなリズをジェイクが引き留める。
「嬢ちゃん、無理しなくていい。代わりに俺が知っていることを話そう」
そう言ってジェイクがリズの代わりに、村で何が起こって現在に至るか、その経緯を語り始めた。
◇
あの悲劇が起こった日、俺はいつも通り家にいた。
やることをやり、のんびりと過ごしていると、突然、外から爆音が鳴り響き、地面が揺れる。
「何が起こったんだ!?」
急いで外に出ると、村の北側の方から煙が立ち上っているのが見えた。
周りを見ると、近所の人達もその爆音を聞いたのか、外に出ていた。
「おい、あんたら!何が起こったか分かるか!?これはいつものことなのか?」
この村に住み始めてまだ数年しか経っていないので、自分より昔から村に住んでいるであろう村人に聞いてみる。
もしかしたら、自分の知らない何かの出来事かもしれないからだ。
だが、その村人もこの爆発は全く知らない様子だった。
そして、何か異常事態が起こっているのではないかと言う。
「異常事態!?この村では、こんな時どうするとか決まってるのか!?」
近所の村人が言うには、何か異常事態が起きた時は、女・子供・老人は村の中心にある教会に集まるようだ。
ただ、元冒険者であり、未だ老人としての意識があまりない俺は、爆発と共に煙が出ている場所へ様子を見に行こうとしたが、近所の若者に止められる。
どうやら村の男達だけで異常を確認しに行くらしく、俺は老人だから教会へ避難しろと言われる。
俺もまだまだ現役だと主張しようとしたが、教会にいる女・子供・老人を守るのも俺にしかできないことだと思い、踏みとどまる。
そして、近所の男達に別れを告げ、教会へと向かう。
教会へと向かっている途中に周りを見渡すと、東側だけでなく様々な方向から煙が立ち上っているのが見えた。
そこら中で火の手が上がっており、村人が教会へと逃げている。
村の男達は教会へと逃げていく村人と逆に、煙が立ち上っている方へと向かっていく。
村の男達とすれ違う度に、一緒にそちらの方向へ行きたくなるが、何度もその気持ちを押し殺す。
そして、急ぎ走っていると、ようやく近くに教会が見えてきた。
あと少しで辿り着く。そう思った瞬間、
教会から轟音が鳴り響く。
教会でも何か起こったのかと思い、さらに急いで教会へと向かう。
急ぎ走り、ついに教会へと辿り着くと、そこには教会の司祭である者の死体や、教会へ逃げ遅れた者の死体などが地面に転がっている、悲惨な状況であった。
さらに、頑丈な作りでできているはずの教会はところどころ崩れ、とても荘厳だった扉は、元々付いていたところから外れ、ひしゃげた状態で教会の階段の前に落ちている。
ジェイクは転がっている死体へと近づく。
悲惨な状態の死体が転がっているということは、この死体が出来た原因は何らかの生物の仕業ということが分かる。
火事が起こっただけなら、こうはならないだろう。
村の外だけじゃなく、教会でも何かが起こったようだ。
教会へと逃げた人々はどうなったんだ!?
そう思い、ゆっくりと教会へと近づくと、教会の中には避難したはずの村人であろう死体が、大量に転がっていた。
外は悲惨な状態だが、中は避難した人々の死体が重なり合ったり、まだ乾ききってもない血が大量に床を覆っていて外よりも悲惨な状態だった。
そんな中でも生存者がいることを願い、声をかける。
「おいっ!誰か生きている人はいないのか!」
教会の中に誰か生き残っている人がいないのか確認するため声をかける。
もしかしたら、まだこの場所にこの惨劇を起こした原因となる者がいるかもしれないが、生存者がいるなら黙って見過ごしてはおけないため、生存者を探すために声を出す。
「誰かいないのか!」
もう一度声をかけるが返事がないため、諦めてその場を後にしようとしたその時、教会の奥の方で微かな物音が聞こえた。
「誰かいるのか!俺は村の者だ!いるなら出てきてくれ!」
まだ生存者だと分かったわけじゃないが、一縷の望みをかけ、音がした方に声をかけると、奥の方から涙を流しながら体を震わせた少女が一人出てきた。
その少女は涙を流しながら、ふらついた足取りでジェイクの前へと出てくると、今まで頑張って保っていた緊張の糸が切れたように、倒れ込む。
ジェイクはその様子を見て、急いで少女へと駆け寄ると、教会の床に倒れ込む寸前で抱えることができた。
「おいっ!どうした大丈夫か!?一体何があったんだ!?」
こんな状態の少女に、これ以上の無理をさせるのはよくないと思いながらも、また同じ危険が迫ってくるかもしれないので、少女に無理をさせてまで状況を把握しようとする。
ジェイクの腕の中にいる少女は唇を震わせながら答える。
「……な、何かが襲ってきて……ルイが教会の外に吹き飛ばされるのが見えて……その後、教会にいたみんなも……お母さんも何かに襲われて……私だけが、私だけがぁああ!!」
自分だけが助かったことを責めるように、少女は頭を抱え、叫び始める。
「おいっ、お嬢ちゃん!悲しいのは分かるが、のんびりと悲しんでる暇はねえ!一刻も早くこの場を去らねえと!」
ジェイクの言葉を聞いても少女は動く気配が無い。
このくらいの少女には耐えきれないような、精神がやられてしまうような体験だったのだろう。
先程の少ない少女の話からでも、肉親を失っていることが分かる。
まだ幼い少女なのに、そのような体験はとてもきついものだっただろう。
まだ、落ち着いていないそんな少女を置いていくわけにもいかず、ジェイクは少女を掴み、背中へと担ぎ上げ、片手でその体が落ちないよう押さえながら、教会を後にする。
少女に触れている片手と、背中にはつらい思いをした少女の感情が震えとなって伝わってくる。
「嬢ちゃんには悪いが、少し急ぐから辛くても我慢してくれよな」
少女にそう声をかけると、ジェイクは急いで教会から離れ始める。
村を走りながら周囲の様子が見えるが、どこも悪化しており、そこら中から悲鳴や断末魔が聞こえてくる。
教会へと向かう途中に比べ、すれ違う人もほとんどいなくなり、地面に転がっている死体も増えているように感じた。
ジェイクは既にこの異常事態は対処できるものではないことを察し、村を捨てて近くの都市まで逃げることを決意する。
近くの都市へと向かうためにはまず村を出る必要があるが、そのためには都市までの道が繋がっている南側の門まで行かなければいけない。
まずは南側にある自分の家へと行き、道中必要になってくるかもしれない食料や道具などを取ってくることにする。
南側を見ると、幸いあまり煙は立ち上っておらず、他の方角よりは安全なことが分かる。
ただ、いつそちらにも被害が及ぶか分からないので、ジェイクはさらに急いで走る。
歳をとり、冒険者現役時代よりも衰えて、さらに少女を抱えているが、それでも老人とは思えないほどのスピードでジェイクは走る。
家に近づくと、まだ無事な村人が教会へと向かおうとしているのを見つける。
「お前たち、教会は危険だ!村を捨てて近くの都市まで逃げるんだ!」
自分も逃げることを伝えると、自分達とは反対方向から来たジェイクのその言葉を信じ、村人たちは必要な物を取りに自分の家へと戻って行く。
ジェイクも自身の家へ辿り着くと、急いで必要な物だけを片っ端から、近くにあった袋へと詰め込んでいく。
袋に詰め込んだ後、何かに気づくと、部屋の奥へと歩いていき、飾ってあった冒険者時代の装備を壁から外し、同じく袋へと詰め込んで行く。
そして急いで家を出た瞬間、
必要な物を取りに家に戻った村人達の家が、燃え盛る炎に包まれていた。




