54話 食堂からギルドへ
「じゃあゴドフリー。試食してた途中で悪いけど、ハンスとセシリアを連れて行かせてもらうよ」
「いえいえ!もちろん!用事が終わったのならどうぞ連れて行ってくだせぇ!ルイ様がお二人を置いて行ってくれたおかげで、だいぶ新作料理のことについて意見が分かりましたから助かりました!」
「ただでご飯を食べさせてもらったことになるけど、そういうことならこっちも置いて行ってよかったよ」
まさか自分が行商人と話している間に、新作料理の試食をしていたとは思ってもいなかったが、ハンスを見ると、念願のラッセル食堂の料理を食べることができたのと、ただで新作料理を食べられたことから、とても満足した顔をしている。
俺もラッセル食堂に来るのはこれで二回目だが、そのどちらも料理を食べてはいないので、いつかお金を払って食べに来てみたいものだ。
「それじゃあ色々と本当にありがとうゴドフリー!」
「いえいえ!こちらこそお役に立てたなら光栄なことでございます!!是非いつでもお越しください!」
ルイはゴドフリーに感謝の言葉を告げると、セシリアとハンスを連れ、店を出る。
満足そうな顔をしたハンスが声をかけてくる。
「いやあ、それにしてもラッセル食堂の料理は本当にうまかったな~!最後に食べたやつを除いて。そうだ!そういえば、坊ちゃん。話はどうだったんだ?誰と話してたのかは知らないが、充実した話し合いはできたのかい?」
「うん、お陰で充実した話し合いをすることができて、これで少し悩み事が解決に近づいたよ」
まだ、完全に村人の行方がどうなったかを知ることはできていないが、それでも一歩ずつ行方に近づいているだろう。
「それならよかった!俺の最後の頑張りも無駄じゃなかったってことだな!?」
試食の件は完全に何も関係なかったが、余程ハンスにはきつかったらしく、そういうことにでもして、気を紛らわせたいのだろう。
「うん、ハンスの頑張りも無駄じゃなかったよ」
ルイはハンスをあしらうようにそう答える。
そんな返答に満足したのか、ハンスは機嫌を良くしながら馬車まで戻る。
馬車へ戻り、待たせていたリチャードと合流し、馬車へと乗り込む。
三人とも馬車へ乗り込んだのを確認し、リチャードが御者席から顔をのぞかせる。
「ルイ様、お疲れ様でございます。お次はどこへと参りましょうか?」
「ありがとうリチャード。そうだなぁ、次行く場所は元から決めていて、冒険者ギルドに行こうと思っているんだ」
「冒険者ギルドですか!?前回の外出時と全く同じところを回りますね!」
次は冒険者ギルドへと向かうと言うと、セシリアが何やら驚きの表情をこちらに向ける。
「どうしたのセシリア?前回と同じところに行くことになったのはたまたまだけど、冒険者ギルドに行くのがそんなに驚くこと?」
セシリアは凄い勢いで首を振る。
「いえいえ!そんなことございません!驚いたというよりは、前回あんなことがあったのにまたルイ様が同じ目に遭ってしまうのではと心配で……」
「それならきっと今回は大丈夫だよ!結局前回の冒険者達も悪い人ではなかったし、ゴドフリーがラッセル食堂を休みにしてくれたおかげで、きっと同じような目には合わないでしょ。それにハンスにこの格好をしてもらったのにも理由があるからさ」
色々と考えもあるし、きっと今回は大丈夫なはずだ。
「あと、今回冒険者ギルドにセシリアは連れて行かないから安心してよ」
「私を連れて行かないのですか!?なぜですか!?」
自分が連れて行かれないのが、先程の自分の発言のせいだと思ったのか、セシリアが慌てた様子で必死にルイへと詰め寄る。
そんなセシリアをなだめながら、ルイは言う。
「まあまあ落ち着いてよセシリア。セシリアを連れて行かないのはちゃんとした理由があってそうするだけだから、大人しく馬車でリチャードと待っていてよ」
なんとかセシリアを納得させようとした結果、渋々とセシリアが引き下がってくれる。
ようやく落ち着いた所でリチャードに冒険者ギルドへと向かってもらうよう指示を出す。
「よしっ!それじゃあセシリアも納得したし、冒険者ギルドまでよろしくリチャード!」
「はっ!かしこまりました!」
ひと悶着あったものの、何とか目的地へと出発することが出来た。
そして移動中に、セシリアに持ってきてもらっていた平民の服を出してもらうよう頼むルイ。
「平民の服ですか?確かにお持ちしましたが……」
セシリアは平民の服をどこからか取り出す。
「もしかしてこれに着替えるのですか?」
「そうだよ!これなら馬車を降りるところさえ見られなければ、前回みたいなことにはならないでしょ!」
「なるほど!坊ちゃんは目立たないようにするため、俺に普段通りの格好で来いって言ったってことか!?」
「そう!ハンス、そういうことだよ!ハンスを選んだ理由は親子みたいに見えるかと思って選んだだけで、セシリアはまだ若いから、親子には見られないだろうし、姉弟にも見られないだろうから今回は留守番してもらうことにしただけなんだ」
ようやく完全に納得したセシリア。
ただ、今セシリアに説明した理由が全てではなく、セシリアにメイド服以外の服を着てくれと頼んでも、なかなか頑固な所がセシリアにはあるので絶対に着てくれないと思ったのも含まれているけどな。
そんなことを考えていると、セシリアが声をかけてくる。
「ところでルイ様はなぜ冒険者ギルドへと行こうとしているのですか?」
単純に疑問に思ったのだろう。
首を傾げながら素直に聞いてくる。
「う~ん。それは戻って来てからのお楽しみということで!」
冒険者ギルドへ行く目的ははっきりとしているが、それでも何か成果を持って帰れるかは分からないので、誤魔化しておく。
それに正直に言ったら反対されて、まためんどくさいやりとりをしなければいけなくなる可能性もある。
単純に説明するのがめんどくさいというのもあるが。
そんなやりとりをしていたら、窓の外に冒険者ギルドの大きな建物が見えてきた。
これで見るのは二回目だが、こんなに大きな建物が王都だけで四つもあると言うのだから驚きだ。
「おっ、冒険者ギルドが見えてきたな?ここに来るのも騎士団に所属していた以来だな」
「えっ!?ハンスも騎士団に所属していた時代に冒険者ギルドに来たことがあったの?」
騎士であったハンスが、冒険者ギルドに何の用があるのか疑問に思う。
「おう、あるぞ?坊ちゃんは知らないかもしれないが、王国三騎士団も自分達で全てできるわけじゃないから、冒険者ギルドと協力して何かを行ったり、騎士団が冒険者ギルドに依頼を出したりすることもあるんだぞ?」
「へ~!」
また知らない王国三騎士団の情報がここで手に入る。
ハンスから王国三騎士団の話が出てきて、一つ聞こうと思っていたことを思い出す。
「そう言えば、ずっと聞こうと思って色々とあって忘れていたけど、ハンスが王国三騎士団に所属していた時って、三つの騎士団のうちどこに所属していたの?」
「あれ?坊ちゃん達に言ってなかったか?」
どうやら本人は言ったつもりだったようだが、ハンスの口から聞いたことはない。
ようやく聞くことが出来たが、もしかすると、ハンスが翡翠騎士団に所属していた可能性もあるため、ドキドキしながらその返答を待つ。
「そっか、言ってなかったか。きっと俺が言ったと思ってたのは坊ちゃんじゃなくて、フーリエ男爵に言ったのと勘違いしてたんだな。坊ちゃんが知らないなら言っておいたほうがいいな」
どこだ!?翡翠騎士団か?
翡翠騎士団に所属していたことを願いつつ、ハンスが言うのを待つ。
「俺が所属していた騎士団は、紅玉騎士団だったな。俺のスキルが攻撃系とかっていう訳でもないのに、その素の実力だけで攻撃系の騎士団である紅玉騎士団に所属していたぜ」
「紅玉騎士団か……」
ここで翡翠騎士団に所属していたと聞いたなら、後でハンスの知り合いを呼んでもらい、村の話を聞こうと考えていたが、そんなにうまくは行かなかったか。
いや、村への繋がりは無かったことに少しがっかりしてしまったが、本来喜ぶべきだろう。
命を狙われている状況で、攻撃系の紅玉騎士団に所属していた騎士が俺の側に付いているのだから。
「おうっ!紅玉騎士団だ。あんときは俺も若かったからな……」
所属していた騎士団のことを聞かれ、過去を懐かしみ始めたハンス。
しかし、その途端に馬車が停まる。
御者席からリチャードが顔を出す。
「冒険者ギルドへ到着いたしましたルイ様」
「ありがとうリチャード」
どうやら建物が見えてからは、冒険者ギルドへはあっという間だったようだ。
過去を懐かしんでいるハンスを連れ、ルイは馬車を降り、冒険者ギルドへ向かう。
馬車を降り、少し歩いた先で、周りにいる人達と着替えた自分の姿を見比べてみるが、今の自分の姿を見ても貴族だとは誰も思わないだろう。
何の違和感もないくらい溶け込んでいる自信がある。
ただ、冒険者ギルドの近くということもあり、普通の平民だけじゃなく、冒険者達も歩いているので本当に溶け込めているか分からないが、多分大丈夫だろう。
ちなみに普通の王都にいる親子に見えるように、ハンスには普段持ってもらっている剣は置いて来てもらっている。
もし、何かあってもハンスなら木の枝一本ですぐに武器が作れてしまうので、きっと大丈夫だろう。
「さっ!そろそろ冒険者ギルドの建物に入りますか坊ちゃん!」
「よしっ!行こうか!」
ハンスに言われたので、周りと見比べるのをやめ、冒険者ギルドへと入って行く。
今回で二回目の冒険者ギルドだったが、今回は前回と違って大勢の人が建物内にいるという違いがあった。
冒険者ギルドはとても大きい建物だが、それでもかなりの大勢の人が密集しているのが分かる。
まるで何かのお祭りでもあるかのようだ。
「いやあ、やっぱり朝は人が多いなぁ!?」
「ハンスはこんなに人が多いってことを知ってたの?」
「坊ちゃん知らなかったのか?てっきり知ってると思って黙ってついてきたんだが、そうだったのか……」
いや、確かに前回来た時には人の少なさに驚き、セシリアに人が多い時はもっといるということは聞いたが、まさかこんなにもいるとは思っていなかったのだ。
予想外ではあったが、こんなに人が大勢いても、俺のやることは変わらない。
ルイはハンスとはぐれないように注意しながらカウンターの前にできている行列へと並ぶ。
「坊ちゃん!とりあえず列に並んだけど、並んでどうすんだ?坊ちゃん流石にまだ依頼は受けられないだろ?」
ハンスは何か勘違いしているが、別に俺は依頼を受けに来た訳ではない。
「違うよ!僕は依頼を受けに来たんじゃなくて、逆に依頼しに来たんだよ!」
「依頼しに来た?けど、坊ちゃん!依頼するにも報酬となる金持ってんのか?」
依頼をするのに報酬となる金が必要なのは分かってはいたが、俺は金を持っていない。
「持ってないよ?」
「持ってないのかよ!?じゃあ依頼できないぞ?どうすんだ?」
そう、金は持っていないがいい提案があるのだ。
ただ、その提案をギルド職員に伝えても了承されるかは分からない。
一か八かかけてみる。
「まあ、僕に任せてよ!」




