41話 危険地区
確かに俺の記憶が正しければ、王国三騎士団についての情報など載っていなかったはずだ。
それに前回読んだ時にも、前には無かったはずの地図が載っているという現象が起き、今回も前回読んだ時には載っていなかった内容が載っているという、同じような現象が起こっていた。
他の本でもこのような現象が起きていないか確認するために、一度手に取って読んでみるが、何も内容は変わっているようには思えない。
「この本だけは他の本とは何かが違うな」
この本は一体何なのだろうか。
もしかしたら、持ち主が王国について知りたいと思ったことが、本に反映されるマジックアイテムとかなのだろうか。
「いや、そんなことないか」
まさか、こんなところにマジックアイテムが眠っているわけないもんな。
そう思うが、念のため確認してみようと、以前この本に載っていなかった王国内危険地区の場所を知りたいと念じてみる。
念じてから、数分くらい経った後、本を開いてみる。
目次には何も変化はなく、王国内危険地区のことについての内容が書かれたページにも何の変化もなかった。
「なんだ、やっぱり気のせいだったか」
そう思い、最後に地図が載っているページを開くと、そこにはさっきまでには無かった文字が書かれている。
巨大な湖の所にはノロ湖と、そして切り立った山に囲まれている所にはサレント・デイ渓谷と赤い文字で書かれていた。
やっぱりこの本は自分の知りたいと思ったことが、本に反映されるようなマジックアイテムなのか!と驚いた次の瞬間、地図のある一か所を見て、驚愕した。
その一点とは、アンティグリオ大森林の文字が書いてある場所だった。
そもそも大森林と書いてあるため、大きな森だとは思っていたが、王国には森がかなりあり、どれも大森林のように見えていたから、あまり気にしていなかったが、これは想定外だった。
その場所とは、前世の村、つまりティリオ村の文字が書いてある上に大きな赤い文字でアンティグリオ大森林と書かれている。
俺達が住んでいたあの村が王国内危険地区だっただって!?
この本にも何があろうとも何人も立ち入りを禁ず。危険地区の中でも最大級に危険と書かれていた場所だろ!?
それなのに、なぜ危険地区に村があったんだ!?
何かの間違いじゃないか!?
ルイは目の前の本に書かれている情報が信じられなくて、頭が真っ白になる。
そんなルイの様子に気づいたのか、部屋にいるセシリアが声をかける。
「ルイ様。大丈夫でしょうか?本を持ったまま止まっておりますが……」
セシリアの声で、ルイは再び思考を開始する。
「あ、ああ大丈夫だよ……。ちょっとボーっとしてただけだからさ」
ルイがそう言うと、セシリアは少し心配しながらも、再び自分の仕事に戻った。
信じられない!あの村が王国内危険地区の中にあったなんて!
どうしても信じられないルイは、ページを変えたり、一度本を閉じてみたりしながら、何度も地図を見返す。
それでも地図に書かれている赤い文字は変わることは無かった。
「そんな……」
ただでさえこの本に書かれていた他二つの危険地区の内容でさえ、危険さが良く分かる恐ろしい内容だったのに、その二つよりも危険だと書かれている所が、ティリオ村があった場所だったなんて……。
衝撃の事実だった。
そして、ルイはあることに気づく。
「つまり、村を襲ったのも、このアンティグリオ大森林が危険地区となっている理由の何かなのか!」
最早そうとしか考えられない。
全く正体不明の何かだったものが、少しだけ情報を得られたことによって嬉しさが込み上げてきそうになるが、それと同時に気づいてはいけなかった他のことにも気づく。
「高ランク冒険者達が帰ってこれない場所よりも危険な場所ってことは、ただの村人達だった村の人達が生きている可能性は限りなく少ない……」
いや、まだ希望を捨ててはいけない。
まだ、みんなが死んだという確認も取れたわけじゃないから、生きている可能性はある。
高ランク冒険者達がどのくらいの強さかは知らないが、村の狩人達もみんな強かったため、もしかしたら撃退しているかもしれない。
俺の意識が失われる直前に、教会に避難した人達からの悲鳴が聞こえたが、その後にすぐ誰かが来てくれたかもしれない。
まだ、何も分かっていないため、俺は希望を持ち続け、今できることをやろう。
そう思い、先程追加された、王国三騎士団について書かれている項目を読む。
王国三騎士団について書かれている項目にはこう書かれてあった。
「王国三騎士団は、王国が出来た当初からある三つの騎士団であり、その存在は国のためにある。そして、それぞれの騎士団は特色を持っており、赤を冠する紅玉騎士団は国の剣として、青を冠する蒼玉騎士団は国の盾として、緑を冠する翡翠騎士団は国の賢として存在している」
なるほど、これが王国三騎士団の説明か。
王国三騎士団が国のためにあるのは分かった。
他にはどのようなことが書かれているだろうか。
「王国の騎士のほとんどはこの王国三騎士団に所属しており、騎士はそれぞれ得意な分野の団に入る。騎士は誰しも、戦えることは基本だが、攻撃が得意な者、防御が得意な者、考えるのが得意な者などがいる。そのため、国の剣として存在している紅玉騎士団には攻撃が得意な者が、国の盾として存在している蒼玉騎士団には防御が得意な者が、国の賢として存在している翡翠騎士団には考えたり、調べたりするのが得意な者が集まっている」
騎士団にはそれぞれこんな特色があったのか。
そういえば、ハンスはどの騎士団に所属していたのだろうか。
ハンスが持っていたスキルからは想像ができない。
どの騎士団の内容ももっと詳しく知りたくなるが、俺が今、用があるのは、この中でも翡翠騎士団だけのため、他の騎士団の詳しい内容は読み飛ばす。
ハンスの所属していた騎士団は後で直接聞くことにして、今は翡翠騎士団の内容を読んでみる。
「翡翠騎士団――翡翠騎士団は、主に騎士団の中でも、その頭脳を使い問題を解決したり、何か問題が起こると調査を行ったりしている。戦うことにあまり長けていなさそうで、実際に他の騎士団に比べると少し劣るが、騎士団としての戦闘力は高く、その実力は冒険者最高であるプラチナランク4のパーティーと遜色ないほどだ。騎士団としてゴールドランクほどの実力を持っているが、その中でも現在の翡翠騎士団団長であるイザベルは、一人でプラチナランクの冒険者パーティーと変わらない実力を持っている」
この本は、やはりマジックアイテムなのだろう。
本に書かれている内容は、現在の情報すら書いてある。
本当にこんなにも凄いものがなぜ、こんなところにあるのだろうか。
国宝級になってもおかしくないくらいのマジックアイテムだぞ?
これが他国に渡ったら、全ての情報が筒抜けになってしまうくらいの代物だ。
この本のことも大事だが、翡翠騎士団の情報も大事なので、内容をしっかりと読む。
翡翠騎士団はやはり頭を使うような人が集まる騎士団なんだな。
ただ、騎士団として、しっかりと戦闘をこなすこともでき、その実力は冒険者のゴールドランクのパーティーと同等くらいらしい。
正直、俺は戦ったこともないので、ゴールドランクがどれほど凄いか分からないが、冒険者ランクの上の方だからかなり凄いのだろう。
それに団長に至っては一人で、冒険者ランクの一番上、プラチナランクの冒険者パーティーと変わらない実力を持っているらしい。
とにかく、凄いことは分かるが、強さの基準が分からないため、どれくらい強いのかが本当にわからない。
俺が知っている強さの基準だと、アンティグリオ大森林の正体不明の何かと、暗殺者とリチャードくらいだ。
その中でも暗殺者は一番弱かったが、その暗殺者でも冒険者ランクのどのくらいの実力を持っているかが分かっていたら、この冒険者ランクの強さのだいたいの基準が分かっていたんだけどな。
とりあえず、リチャードの強さが冒険者ランクのどのくらいに位置するか、ハンスに会ったときに聞いてみれば、強さのだいたいの基準も分かるだろう。
翡翠騎士団についての情報はある程度分かったが、もっと詳しい内容はハンスに聞くことにする。
それと、ハンスなら翡翠騎士団に知り合いとかがいるかもしれないからな。
騎士団のいる王城には、簡単に入ることはできないことは知っているから、逆に騎士団員に来てもらえばいい。
よし、ハンスに翡翠騎士団の知り合いでもいたら、紹介してくれと頼もう。
「ルイ様。少しよろしいでしょうか?」
そんなことを考えていると、セシリアが声をかけてくる。
「何だい?」
ルイは読んでいた本を閉じる。
「大変申し上げにくいことなのですが……」
「な、なに?いいから言って?」
突然、言いづらいことがありそうな雰囲気でセシリアが言うため、自分に何か問題があったのか不安になる。
気付かない間に俺が何かしてしまったのだろうか?
「今日のルイ様のディナーもいつも通りこちらでご用意する予定だったのですが、突然ルイ様のお父君であるフーリエ男爵様からの招待状が先程届きましたのでご報告させていただきました」
なんだって!?
ディナーの招待?
そんなこと今まで一回もなかったじゃないか!
そもそもこの家の人達は、各自で好きな時間に食事をとるんじゃなかったのか?
「どうして突然そんな招待が来たの?」
疑問に思い、セシリアに聞いてみる。
「御招待が突然来たのは分かりませんが、ルイ様のお顔をご兄弟の方々にもお見せする機会を設けるためだと、同封されている手紙には書かれておりました」
何でよりによって今更なんだ。
ほったらかしにされて二年も経っているのに、今日に限ってそんな招待を送ってくるなんて。
自由にできていたため、フーリエ男爵家の人々と関わる必要性は感じていなかったが、まさかこんな日が来てしまうとは……。
「断ることってできないよね?」
念のため聞いてみる。
「はい、御当主様からの御招待なので断ることは不可能でございます」
やっぱり駄目だったか。
このフーリエ男爵家が集まるディナーなんて俺には何の得もないじゃないか!?
ただ、わざわざ兄達に、まだ見られていない顔を見せに行くことになるじゃないか!?
父親のフーリエ男爵はもしかすると、それを分かっていてやっているのかもしれないな。
最近では全く暗殺者も送られていなかったが、このディナーを機に増えそうな予感がする。
「分かったよ。セシリア、行くって返事しておいてくれないかい?」
ルイはセシリアにそう言うと、これからどうすればいいのかを考え始める。
 




