37話 冒険者ギルド
馬車を降りたルイとセシリアは冒険者ギルドの前に立つ。
「うわー。冒険者ギルドの建物ってとても大きいんだね」
ジェイクの話を聞いて、とても大きい建物ということは知っていたが、聞いたものと実際にそれを見るのとでは違って見えた。
流石にビルとかのような大きさはないが、それでもこの世界で見た建物ではかなり大きい方だと思う。
多分俺の身長が小さいってことも大きく見えるのに関係しているだろうが。
「そうですね。冒険者ギルドは王都にある平民区画の建物の中でもかなり大きい方であることには間違いないでしょう。他の三つの冒険者ギルドもここと同じくらい大きいので、依頼を頼みに来る人も、王都に慣れていない人でも、ギルドの場所はとても分かりやすいと思います」
大きいから目立つのは分かったが、俺が冒険者ギルドについて聞いた人はそれでも迷子になってたって言ってたけどな。
ジェイクはもしかしたら方向音痴だったのだろう。
元冒険者としてそれは大丈夫だったのか?
「よし!とりあえず中に入ってみよう!」
そう言ってルイは初めての冒険者ギルドに足を踏み入れる。
中に入ると、そこには広い空間が広がっていた。
入るとすぐの場所は待合室のようになっているのか、たくさんの椅子と机が置かれている。
ただ、そこに座ったりしている人は誰一人おらず、ギルドの中は閑散としていた。
「冒険者ギルドってこんなにも人がいないものなの?」
不思議に思い、セシリアに聞いてみる。
「いえ、この時間の冒険者は、ほとんどが既に依頼を受け終わり、依頼先に向かったりしているので、冒険者ギルドにはそんなに人はいないのです。」
なるほど。
つまり俺達は空いている時間に来てしまったという訳か。
もしかしたら、先程馬車に乗っている時、多くの冒険者とすれ違っていたのかもしれないが、俺はセシリアと話していて、外を見ていなかったため気付かなかった。
通勤ラッシュにちょうど当たらなかったような嬉しさを感じたが、人が少ないということは、情報を集めるという目的のためには良くなかったのではないだろうか。
始めは、ギルドなら多くの情報を持っていると思ったが、冒険者も自分の命に係わる可能性が高いため、情報は重要視しているはず、ということに先程気が付いた。
なら、冒険者がもっといる時間に来ればよかったな。
まあ、もしかしたら、ギルドの職員の人が何か情報を持っていれば、それで用は済む話だしな。
「それじゃあ、ギルド職員に話を聞きたいから、カウンターに行こうか」
そう言ってルイはカウンターを指さす。
カウンターは、冒険者がほとんどいないためか、何個もあるカウンターも全て人が並んでおらず、ギルド職員が暇そうに座っている。
とりあえず、どの職員もみんな暇そうだが、その中でも一番暇そうにしている女の職員の人を選んで、カウンターに近づく。
カウンターに近づくと、ギルド職員は誰か来たことに気づいたのか、顔を上げる。
ただ、ここで誤算だったのが、カウンターの高さが俺の身長よりも高いため、カウンターの目の前まで来ると、俺からギルド職員の顔は見えないし、多分向こうも俺の顔を見えていないことだ。
職員からすると、ただセシリア一人がカウンターに近づいてきたように見えるだろうから、セシリアが話しかけられた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?依頼についてのご報告でしょうか。それともご依頼しに来られましたか?」
人が来たことによって、明らかに営業テンションになった職員がセシリアに声をかけている。
「いえ!そのどちらでもなく、少し用件があるのですが……」
「かしこまりましたお伺いいたします。どのようなご用件でしょうか?」
「いえ!用件があるのは私ではなくてこちらの方なのですが……」
セシリアがギルドに何か用があると勘違いされるが、用があるのは自分ではないと言うと、一言俺に「失礼いたしますルイ様」と声をかけると、そのまま俺の両脇を両手で掴んで、俺と職員が互いに見える位置まで上げる。
急に下から現れた子どもに少し驚いた表情をする職員だが、俺も急に持ち上げられて驚いている。
何か気まずいような雰囲気になり、職員もセシリアのどちらも言葉を発さないため、俺が声をかける。
「実は用件があるのは僕の方なんですが、お話をお聞きしたいので少しお時間よろしいでしょうか?」
そう言うと、驚いた顔で止まったままだった職員が動き出す。
「か、かしこまりました。お時間は大丈夫ですが、どのようなことをお聞きしたいのでしょうか?お聞きする内容によっては、誰にも聞かれないように個室に移動することも可能でございますが……」
俺の着ている服で、こちらが貴族だと分かったのか、随分丁寧な対応をしてくる。
もしかしたら、他の人にもそのような対応をしているかもしれないが、俺は勝手に決めつける。
「いえ!お気遣いありがとうございます!多分誰かに聞かれても大丈夫だとは思うので……」
そもそも、このギルド職員が知っているかも分からないし、もし知っていたとしても、もうセシリアに一度ティリオ村のことについて聞いているため、怪しまれないだろうと判断する。
ラッセル食堂では行商人のことについて聞いたが、今回はティリオ村のことについて聞くため、バレる心配はないだろう。
「それじゃあ、まず一つ聞いていいですか?」
そうしてティリオ村のことについて聞こうとしたその時、後ろの方から声をかけられる。
「あの~?ちょっといいか?」
うん?誰だ?
俺に話しかけているのだろうか?
それともこのギルド職員に?
そう思って後ろを振り向くと、まだ若い一人の男が、同じく若い女性二人を連れて俺のことを見ている。
三人とも剣や鎧を身に付けており、一目で冒険者だということが分かる。
どこかの騎士や兵士なら、三人とも同じ剣や鎧を身に付けているはずなので、きっと冒険者だろう。
とにかく、この男は俺に話しかけているのだろうか?
勘違いだったら恥ずかしいので、恐る恐る確認してみる。
「僕のことですか?それともこのギルド職員の方に用があったのなら、場所を譲りますが……」
「ああ!ギルド職員じゃなくてあんたとそのメイドに少し用があるんだ!」
やはりこの男は俺に話しかけていたみたいだ。
それに俺に何か用があるようだ。
こんな三人組は見たことも会ったこともないが、俺に用件とは何だろうか?
こっちも早くティリオ村のことを聞きたいと言うのに。
どのようなことを言われるか身構えていると、予想外のことを言われる。
「あんたらさっきラッセル食堂にいたよな?あんたらが横入りしたお陰で、俺らが飯を食えた時間が遅くなって、さらにギルドのいい依頼を受けることもできなくなったんだが、どうしてくれるんだ!?」
男は俺に対して怒りをあらわにし、責任をとれとでも言いたげな顔をしている。
あー。この男はさっきラッセル食堂の行列に並んでいる人だったのか。
馬車を店の前に停めて、俺たちが店に入ってから明らかに開店する時間が遅くなっただろうから、これに関しては俺に責任があるだろう。
店に入る時も並んでいた人達に申し訳ない気持ちになったが、時間がかかってしまったことで、こんな所に被害が出ていたなんて。
もしかしたら、他にも俺のせいで予定が狂った人がいるのだろうか?
そう冷静に考えていると、セシリアが俺を抱きかかえながら、男に向かって口を開く。
「どちら様か分かりませんが、少しよろしいでしょうか?」
「な、なんだ!!」
「食事をするのに、別にラッセル食堂であった必要は必ずしもないですよね?それにどうしてそんなにいい依頼を受けたかったというのに行列に並ぶ時間はあっても、他の所で食事をとるという選択肢は無かったのですか?あなたの言っていることは少し無責任ではないでしょうか」
何を言うのかと思ったら、男に非があるということを本人に気づかせようとしているみたいだ。
そう言われると確かにその方法もあったかもしれないが、俺には分かる!
俺もせっかく長時間並んだ人気店なのに、時間が遅れたとしてもそんな簡単に他の店に行こうとしないだろう!!
俺もサラリーマン時代に一人で、人気の店に並んだりしていたが、時間が遅れようとも、横入りされようとも、何があっても必ず最後まで並んで食べていた。
ただ、並んでいる時に横入りされる時の、あの何とも言えない苛立ちもよく分かる。
俺もさっき横入りした時は、とても罪悪感で胸が締め付けられていた。
男はセシリアに正論を言われ、何も言い返せなく、ただ歯を食いしばっているが、今回の件は完全に俺が悪いと思うので、この人達に謝らなければいけないと思う。
「セシリア!さっきのは確かに僕の方に非があるんだから僕が謝らなければいけないんだよ。セシリアは口を挟まなくていいよ」
「かしこまりました」
少しセシリアに当たりが強くなってしまったが、主人にきつく言われたことでセシリアもきっとこの人達に悪く思われないだろう。
セシリアを後ろに下がらせ、俺が直接三人に謝る。
「先程は貴重なお時間を奪ってしまい、申し訳ございませんでした。謝罪することしか僕にはできませんが、どうにか許してもらえないでしょうか」
これでいい依頼を受けれない分、弁償しろとか言われても、俺は貴族の子どもなのに金を持っていないからどうにもできないので、謝罪することしかできない。
頭を下げているから男の様子は分からないが、一緒だった女性二人はあたふたしていることは頭を下げていても分かった。
その二人の様子から男も悪い人では無いことが分かる。
きっと、つい強い口調になってしまったのだろう。
男から何の反応もないまま頭を下げて続けていると、居ても立っても居られなくなったのか、女性二人が口を開き、しきりに頭を上げさせようしてくる。
それでも俺は頭を上げない。
ついに男も申し訳無くなってきたのか、必死に俺の頭を上げさせようとしてくる。
それでも本当に申し訳ないことをしてしまったと思うので、まだ頭を上げない。
流石にこれ以上頭を下げていると、逆に相手の時間を奪ってしまうかもしれないので、ようやく頭を上げる。
頭を上げると、三人組は小さい子どもをいじめているような気持ちになったのか、慌てている。
この体だと、謝罪しすぎるのも良くないと学んだ所で、俺は三人に声をかける。
「本当に申し訳なかったです。ところで今更なんですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?今回のお詫びに今後、何かできることがあった時のために聞いておきたいので」
俺は三人の名前を聞く。
「いや!こちらこそ申し訳なかった!こんな小さい子相手に大人気なかったよ。俺の名前はアランだ。この三人のパーティーのリーダーをやらせてもらってる。一応ランクはシルバーの冒険者だ」
この男の名前はアランと言うらしいな……。いい名前だな。
「僕はクラリスと申します!アランが言うようにランクはシルバーで、三人でパーティーを汲んでます!」
そうショートカットの方の女性が言う。
これが僕っ子か……。
俺の人生の中で初めて見たが、こうして見てみるといいものだな。
俺が僕っ子に感動していると、もう一人も自己紹介をしてくる。
「私はリンダよ。私も二人と同じでランクはシルバーの冒険者よ。よろしくね坊や」
髪が長い方の女性はリンダと言うらしい。
何やら妖艶な感じで俺のことを坊やと言ってきたが、本当の俺の年齢は君よりも上なんだと言ったらどんな反応をするだろうか。
……絶対そんなことはしないが。
とりあえず三人の名前は聞けた。
なぜかみんな名前以外の情報も言ってきたが、それも覚えておくことにする。
三人の名前は聞けたが重要なことを忘れていた。
「そうだ!僕の名前を言ってなかった!」
「僕の名前はルイ、フーリエ家の三男のルイ・フーリエだ。よろしくね!」




