35話 ラッセル食堂‐2
再びルイとセシリアは馬車に乗り込むと、リチャードが声をかけてくる。
「お帰りなさいませルイ様。もうご用事は済まされたのですか?」
「うん、とりあえず今回はね。ただ、近いうちにまたラッセル食堂には来ることになると思うけど、その時は馬車の用意よろしくね」
「かしこまりました。それでは次の行き先はいかがなさいますか?」
次の行き先か……。どこへ行こうか。
最初の目的通り、冒険者ギルドに行くのもいいが、その前に王都の南側にある様々な店を見るのもいいかもしれない。
ルイはどちらから先に行こうか頭を悩ませている。
悩んだ挙句、どちらにするか決めたのか、顔を上げると、リチャードに声をかける。
「よし!次の行き先は冒険者ギルドに決めたよ!頼んだよリチャード!」
「は、かしこまりました!」
御者席にいるリチャードはそう言うと馬車を走らせる。
馬車が走り始めると俺は暇になったため、セシリアに質問を投げかける。
「ラッセル食堂のゴドフリーがドワーフってことは分かったんだけど、彼は何でドワーフの国を出たの?」
本当は直接本人に聞きたかったが、あまり時間もなかったためセシリアに聞いてみる。
セシリアは色々なことを知っているので、「もしかしたら知っているのでは?」という思いもある。
「そうですね……。彼の過去にも色々とあってこの国に辿り着いたということは以前にも聞いたことがあるんですが、いくらルイ様だからと言って、勝手に私の口からは申し上げられません。申し訳ございません」
「大丈夫、大丈夫!気にしないでよ!少し気になっただけだからさ!」
ゴドフリーが何かあってこの国に来たのは間違いないのだろう。
それにしても前のフーリエ家の当主がドワーフを見てもちゃんと一人の人として扱ってくれるような人で良かったな。
他国の人間に一度捕まっていたと言っていたが、行商人達のお陰で逃げ出すことが出来て、本当に良かった。
そこら辺の話も今度行った時に、ゴドフリーさえ良ければ少し聞いてみよう。
そんなことを考えていたが、セシリアの先程の言葉で気になる所があった。
……ん?以前にも聞いたことがあるって、さっきその話をしていた時にはセシリアには個室の外で待っていてもらったよな?聞こえていたのだろうか?
そのことについて問い詰めようとすると、セシリアが話を始めてきた。
「実は私は昔、あのラッセル食堂ができたばかりの頃に、よく店に通っていたんですよ。あの頃はまだ、今ほど店が繁盛しているわけでもなく、従業員がたくさんいるわけでもなく、ゴドフリーただ一人で店を切り盛りしていたんです。それが今ではあんな人気店になるとは……」
何か懐かしむような表情でセシリアは言う。
昔通っていたということは、彼女がまだ幼い頃に家族そろってあの店に行っていたということだろうか。
さっき会ったときにセシリアを見て何も反応はしなかったが、きっとセシリアが成長したことで、セシリアだったということに気付かなかったのだろう。
その時にゴドフリーから過去に色々とあったという話を聞いたのかもしれないな。
さっきのは俺の聞き間違いだったのかもしれない。
あんな個室だったら、扉に耳を当てたりしても聞こえないだろうからな。
「セシリアも昔はよくあの店に行っていたんだ!僕にはあまり素を見せてくれなかったけど、素の時のゴドフリーはどんな感じなの?」
「そうですねぇ……。かなりガサツな感じですね。それにとてもお酒が好きです」
「へ~!そうは見えなかったけどなぁ」
「それはお世話になっているフーリエ家の人の前だからですよ。ただ、本人が言うには、俺は他のドワーフと比べてガサツでもないし、そんなに酒も飲まねえ。って言っていましたけどね」
「ガサツなのに料理とかはするんだね」
「それが、料理に関してはとても繊細なんです。実際の話なんですが、従業員を雇い始めた時は料理を任せたこともあったそうなんですが、どうしても自分で作らなければ気が収まらなくて、今では料理は全て自分で作り、従業員を雇ってもホールの仕事だけをやらせているそうです」
あんなに人気店で、外に長蛇の列ができるほどの人数が並んでいたのに、料理は全部自分で作っているのか!
たくさんの注文を一人でさばいていることになるが、それでも店は回っているのだろう。
ドワーフという種族が凄いのか、単純にゴドフリーが凄いのか。
どちらにせよ、そんなに忙しいのに、時間をとってしまい、再び申し訳ない気持ちになる。
まあ、今更か。
今度行ったときは、あまり時間をとらないようにするか、店が閉まる時間に行こうと心に決める。
ゴドフリーを見て、この世界にドワーフが存在することは知ったが、そうなると前の世界では存在しなかった、他の種族も色々といるのだろうか。
移動中でどうせやることもないので、セシリアを質問攻めすることにする。
「ねえ、セシリア!」
「はい、ルイ様。なんでしょうか」
「ゴドフリーを見て、ドワーフがいることは知ったけど、人間とドワーフ以外にも他の種族っているの?」
「……そうですね。ほとんどの人間はドワーフが存在しているということも知らないと思いますが、実は人間以外にも他の種族と言うものはいます」
やはりいるのか!
そうなると、もしかしてあの種族もいるのだろうか!
「種族と言っても、ここでは人間やドワーフのように、お互い会話が成り立つものをまとめて人族と言います」
「人族には人間とドワーフ以外にはどの種族が属しているの?」
「……知られているのは人間とドワーフ意外には、エルフが存在していると言われております」
エ、エルフ!
やっぱりこの世界には人間以外にドワーフもエルフも存在しているんだ!
こんなところで再びここが異世界だということを再認識させられるとは!
ドワーフに続き、エルフも存在するということを知り、ルイは興奮する。
「た、ただ!エルフはドワーフよりもさらに長寿で、その姿を見たことがある人はこの世に一人もいないと言われています。エルフだけの王国があるとも言われていますが、その場所もドワーフの国と同じでどこにあるかも分かっていません……」
さっきの興奮が一気に冷める。
エルフが存在していると言われているのに、その姿を見た人は誰もいないだって!
それじゃあ本当に存在するかも分からないじゃないか!
ドワーフがいることは、実際にこの目で見て確かめられたが、エルフはどこにいるかも分からない。
「人間の国とドワーフの国とエルフの国って、国交があったりしないの!?」
「遥か昔はあったと言われているのですが、その情報も現在では定かではないので……」
そ、そんな……。
ドワーフに続きエルフも見れると思ったのに……。
「それじゃあエルフは存在しないのか……」
「ルイ様、そう気を落とさないでください!私もゴドフリーを見るまではドワーフが存在しているとは思ってもいませんでしたが、実際にいました!もしかしたらエルフもいるかもしれないじゃないですか!」
セシリアはそう俺を慰めてくれる。
よし、家族の行方を探り、村を襲ったものも分かったら、エルフを探すことにしよう。
そうしよう。
これ以上エルフの話をしていると、期待が高まっていってしまい、いなかった時に傷つくことになるのが怖いので、この話はここまでにしておこう。
今、向かっている冒険者ギルドの話題にでも変えようか。
「所で、冒険者ギルドって何のためにあるの?」
前世で、ジェイクの冒険者ギルドに入るまでの話は聞いたことがあるが、その冒険者ギルドが実際に何をやるところなのかは分かっていない。
そんな基本中の基本だろうことをセシリアに聞く。
「ルイ様ならご存じかと思っていたのですが、ご存じなかったのですか!」
俺を何だと思っているのだろうか。
全知全能の神か?
確かに、この世界の基本的かもしれない知識は前世で色々と学んで、セシリアに教わっていたのは貴族としての知識ばかりだった気がするからしょうがないか。
「それでは冒険者ギルドについてご説明させていただきます」
セシリアは俺が知らないことを自分が教えれることに喜んでいるのか、普段よりも笑顔で説明してくる。
「まず、冒険者は様々なことをします。雑用のようなことから、住民のお手伝いや、貴族や王族の依頼を受けることもあります」
「ただ、ほとんどの冒険者は各々目的は違いますが、一つのものを目指しています」
「それは遺跡への冒険です!」
遺跡!!
これは以前にリチャードから聞いたことがあるな。
確か、この腕輪もその遺跡から手に入ったと聞いた。
遺跡とはどんな所なんだろうか。
「遺跡には様々な未知の世界が眠っています。滅多に手に入れることはできないですが、スキルのような効果を持つマジックアイテムがあったり、地上には存在しない未知の素材、誰も見たことが無いような美しい景色、そのような誰も見たことが無いものが色々と眠っています」
遺跡か……。
マジックアイテムが手に入る場所ということは知っていたが、そのような冒険心をくすぐるような場所だったなんて……。
王都へと転生してから色々とやりたいことが見つかってしまって、どれから手をつけていいのか分からなくなる。
魅力的な物ばかりだ。
「ほとんどの冒険者はそのような未知を求めたり、お金、名声、様々なものを求めて冒険者になります」
「遺跡で、成功を収めた冒険者の中には、一国を超える力を持った冒険者や、たくさんの財産を築いた冒険者、そして国を興すほどまでになった冒険者もいます」
「冒険者とはそんな夢のある職業なのですが、そのような冒険者になれるのも、生まれ持ったスキルが無いとなることが出来ない職業なのです」
スキルで冒険者になれるかなれないかが関係しているだと?
なんでだ?
「先程説明した、未知や魅力が溢れる遺跡ですが、実はいいことだけではないのです」
「遺跡には先程お話した、人族以外の様々な種族が住んでいるのですが、その種族達がなぜか遺跡に踏み入れた人間たちを攻撃してくるのです。会話もできず、ただ襲ってくるだけなので、冒険者も生き延びるためにそれらを撃退はしますが、そのような危険と常に隣合わせになります」
「その遺跡にいる人族以外の種族を通称モンスターと呼んでいて、冒険者はそれらを狩る依頼もでてきますが、それらのモンスターを追い払うにしても、倒すにしても、いいスキルを持っていないと戦うこともできません」
「そのため生まれもったスキルが重要なのです」
なるほど。
遺跡にはいいことだけではなく、人族に敵対する種族もいるから危険ということなのか。
それじゃあ、冒険者になれる人は攻撃系のスキルとかを持っている人達くらいに限られてくるんじゃないか?
「いえ!冒険者は遺跡に入るだけが仕事ではないので、どのようなスキルを持っていても冒険者にはなれます」
そうか、遺跡に潜るだけが仕事じゃないもんな。
「冒険者ギルドはそのような冒険者をサポートするためにある組織なんです」
なるほどな。
随分と詳しい説明だった。
「ルイ様。そろそろ冒険者ギルドに着きます」
冒険者ギルドの説明を聞き終わった頃にちょうど冒険者ギルドに着いたようだ。
「それじゃあ、行きますか!」
そう言ってルイは馬車から降りる。
 




