33話 外出
昨日は久々に外に出て疲れたのか、朝までぐっすりとよく寝ることができた。
昨日だけじゃなく、普段もぐっすりと寝れているが。
ただ、今日の朝は普段と違うことがあった。
それは、きちんと自分の力で目覚めて、さらに寝起きも良かったということだ。
普段なら早く起きたい時は、セシリアやリチャードに起こしてもらっていたが、今日は自分の力で起きることができた。
これには理由がある。
今日は、昨日は行けなかった屋敷の外に行くことに決めていたからだ。
屋敷だけでなく、王都の中も自由に行動できるようになってから、本当は真っ先に行きたかったところだが、いきなり屋敷の外に行くのはまだ早いと思い、最初は屋敷を見て回った。
しかし、今日はもう王都を見て回ろうと思う。
ただ、王都と言ってもとても広いため、今日は平民区画のフーリエ家と関わりが深い南側だけを見て回ろうと思う。
見て回るのも目的として大事だが、一番の目的は、村の情報を手に入れるため、ジェイクとセシリアがくれたお菓子を行商人が買っていたと思われる、ラッセル食堂。
そして情報が飛び交う場所と聞いた、冒険者ギルド。
この二つに行くことが、主な今日の目的だ。
そのため、時間をたっぷりと使えるように今日は早起きをした。
俺がきちんと自分で起きれたことが珍しく思えたのか、部屋にいたセシリアが驚く。
「ルイ様おはようございます!今日はきちんとご自分で起きれたのですね!」
「おはようセシリア。僕だって起きようと思えばきちんと起きれるんだよ」
そんな俺の言葉を半信半疑で聞いているセシリア。
「そういえば、昨日リチャードはちゃんと戻ってきた?」
「はい、ルイ様が御就寝なされてすぐに戻ってまいりました。それがどうかなされたのですか?」
「いや、何でもないよ」
どうやらリチャードはきちんと戻ってきたらしいな。
流石にあの状態の兵士達に訓練の続きをするなんてことは、流石のリチャードでもしなかったか。
「そうだセシリア。今日は平民区画に行くってことをリチャードに伝えててくれた?」
「はい、もちろんでございます」
「リチャードは今どこにいるの?」
「リチャード様は、ルイ様のご準備が出来次第、すぐに出かけられるように只今馬車を準備しているところでございます」
「分かった。ありがとう」
すぐに行けるように準備をしてくれているなら、俺も準備を済ませてしまおう。
ひとまず朝食をとる。
セシリアは俺の意図を汲んでくれたのか、食べながら俺の着替えをさせてくれる。
「ごめん、セシリア。後で僕の分の平民の服を用意しておいてくれない?」
「何にお使いになるのかは分かりませんが。かしこまりました、用意しておきます」
「平民の服は、昨日も服を着替えた服部屋から取ってくるだけでいいからね」
「かしこまりました」
セシリアに服を着せてもらいながら食べたため、あっという間に準備が終わる。
他の事もさっさと終わらせると、俺とセシリアはリチャードが馬車を準備して待っている、屋敷の外に向かう。
まだ、朝早いからか道中、誰にも出会うことなく馬車まで辿り着けた。
始めて屋敷の外に出たが、門ももちろん大きく、門の前には門番と思われる兵士が二人立っていた。
兵士達の前を通る時に、念のため、昨日俺が訓練場に行った時にも、その場にいた兵士かもしれないから、俺は顔を隠して通る。
セシリアが隣にいるからバレるかもしれないが、きっと大丈夫だろう。
前を通ると、兵士達は俺達に気づき敬礼する。
セシリアが俺の代わりに兵士達に挨拶をしてくれる。
ふと振り向くと、やはり昨日リチャードの訓練を受けた兵士だったのか、俺達が通り過ぎると、どこか痛いのか、体をさすったり、動かしたりしているのが見えた。
申し訳なかったと思いながら、兵士達の前を通り過ぎた後、俺たちは馬車に乗り込む。
馬車に乗ると、御者のいる席にリチャードが座っていた。
俺はリチャードに挨拶をする。
「おはようリチャード。朝早くからわざわざありがとうね!」
「おはようございますルイ様。お気遣いありがとうございます。しかし、これが私の仕事なのでお気になさらずに」
リチャードもセシリアもどこまでも仕事熱心だな。
俺の感謝もほとんどすべて、仕事ですのでの一言で済ませてしまう。
俺はそれを照れ隠しだと思って感謝し続けているけどな。
セシリアも馬車に乗り込んだ所で、最初の目的地を伝え、早速出発してくれとリチャードに頼む。
「かしこまりました。それでは出発致します」
馬車はゆっくりと走り始めた。
馬車の中は暇だろうから、目的地に着くまで窓の外の景色でも楽しもうと思っていた時に気づく。
「そういえば俺、馬車に乗ったことなんて人生で一回もなかったな」
これが人生(三回目)で初めて乗る馬車だったが、何も考えずに普通に乗り込んでしまった。
前世では平民だったこともあるが、森の中だったため、馬車なんて行商人の物以外に見たこともなかった。
車のような感覚で乗ってしまったが、景色を楽しむ余裕なんてあるのだろうか。
よく、座席が硬かったり、車輪の問題でガタガタするようなことを異世界転生もので見たことはあるが、そうなるのだろうか。
そう思っていたが、何の心配もいらなかった。
座席は柔らかいし、馬車が揺れるという心配も、王都だからか道の舗装がしっかりとされており、ほとんど揺れることはなかった。
流石に車ほどの乗り心地ではないが、それでもどうにか我慢できるほどでしかないだろう。
馬車については全く問題は無かった。
特に馬車に問題はないため、景色でも見ようかと思ったが、その前に気になったことを聞く。
「そういえば、セシリア。平民が着るような服を用意してって言ったけど、用意してくれた?」
いつも準備をきちんとしてくれるセシリアを疑っているわけではないが、馬車に乗り込むまで俺の近くを離れた様子が無かったため、本当に服を持ってきているのか心配になった。
「はい、きちんとお持ちしました。こちらでよろしかったでしょうか?」
そう言うと、セシリアはどこからか平民の着ているような服を取り出す。
その服は王都だからか、俺が前世で着ていた服よりもきちんとしているように見えたが、俺が前世で着ていた服が、ほとんどレンスのおさがりだったといこともあるだろう。
それより、本当にいつ服を持ってきてくれていたんだろう。
俺の傍を離れた時なんて無かったはずなのに。
まあ、持ってきてくれているのならそれでいいだろう。
「ありがとうセシリア!その服は後で着ることになると思うからしっかりと持っていてね」
「かしこまりました」
服もきちんとある。
そしてきちんと目的地も伝えた。
なら後は景色を見ることにするか。
そして俺は目的地に着くまで、景色を見ていることにする。
窓の外を見る限りまだ壁しか見えないが、これはフーリエ家の外壁なのだろう。
ただ、フーリエ家は貴族区画の外側に位置しているため、そろそろ平民区画に入ってもいいと思うんだが。
そう思っていると、御者席にいるリチャードに声をかけられる。
「ルイ様、そろそろ平民区画の主要道路に入ります。念のため窓からお顔を出さないようにお気をつけてください」
「分かったよ。ありがとう」
やはり、そろそろ平民区画に突入するみたいだな。
前世でジェイクに聞いた話では、王都を囲む城壁はとても高いと聞いたが、馬車に乗っていると、壁や建物が邪魔して見ることができない。
もう少し高い建物か、広い場所に出れば見れると思うが、俺の身長のせいもあり、難しいかもしれない。
ジェイクは平民区画しか行ったことはないと思うが、街並みも道路も綺麗に整っていると言っていたので、平民区画に入っても馬車の揺れに困らせられるという心配もいらないだろう。
綺麗な街並みを見るのも楽しみだな。
そう考えていると、急に目の前が広く開けてきた。
「ルイ様、平民区画に入りました」
リチャードの知らせで、すでにここが平民区画だということを知る。
周りを見てみると、ジェイクが言っていたように家や店が綺麗に並んでいた。
また、平民の朝は早いのか、道を人がたくさん通っていた。
この話をしてくれていた時のジェイクの顔を思い出す。
「これが、王都の街並みか……。ジェイクが言ってた所に、こんな形になったけど俺も来ることができたよ……」
本当にまさかこんな形で王都に来るとは思ってもいなかったが、この話をしてくれたジェイクのことを思い出す。
あの楽しかった時間を取り戻すためにも、少しでも村の情報や手がかりとなるものを探さないとな。
「ルイ様、最初の目的地はラッセル食堂でよろしかったでしょうか?」
「うん、ラッセル食堂で頼むよ」
「かしこまりました。かなりの人気店なので混んでいるかもしれませんが、フーリエ家の名前を出せば大丈夫でしょう」
やはり、フーリエ家の平民区画への影響は強いのだろう。
混んでいたとしてもフーリエ家の名前を出せば取次ぎをしてもらえるという。
これが他の貴族だったら、きっと駄目だっただろう。
めんどくさいことに巻き込まれてもいるが、転生先がフーリエ家だったことに今は感謝しよう。
ラッセル食堂では村によく来ていた行商人の情報は手に入るだろうか。
もしかしたら、行商人が今日そこに来ているかもしれない。
そんなことをルイは考えていた。
「ルイ様到着いたしました」
長い道のりを馬車で走り、ついにラッセル食堂に到着する。
道中、セシリアに聞いたが、ラッセル食堂はとても大人気な食堂で、テーブルは常に満席で、行列もできるほどの人気で、貴族専用の席もあるほど、貴族にも人気がある食堂らしい。
前に食べたお菓子がとても有名なのもあるが、それ以外にも料理も有名らしい。
そんな大人気な店だからか、王都の主要道路に面した場所に店を構えていた。
実際に馬車の中からラッセル食堂を見てみると、人数がかなり入りそうなくらい大きな建物で、看板にはラッセル食堂と書かれている。
そしてその建物の前には、まだ朝だと言うのに大勢の人が並んでいた。
俺とセシリアは馬車を降りる。
リチャードは馬車を停めていてもらうため、馬車に残る。
大勢の人が並んでいるが、まだ店は開いていないようで、誰も中に入る様子が無かった。
並んでいる人は貴族が来ても、よく見る景色なのか、誰もこちらを珍しいものを見る目で見てくる気配がない。
俺もそんなに見られるのは前世で経験して懲りたため、助かった。
中に入りたいと思ったが、これはどうすればいいのだろうか?
俺も行列に並んだ方がいいのだろうか?
別に俺は何かを食べに来たわけじゃないんだが。
セシリアに聞いてみる。
「セシリア、これってどうすればいいの?」
「ルイ様はフーリエ家の者なので、先に入ってもらっても大丈夫です」
せっかく並んでいる人達の前を、申し訳ない気持ちで扉を開けて入って行く。
店の中に入ると、そこにはたくさんのテーブルと椅子がずらっと並んでいた。
扉に鈴でもついていたのか、開くと音が鳴る。
その音を聞いたのか、厨房と思われる方から声が聞こえてくる。
「まだ店は開けてないんだ!もう少し外で待っててくれ!」
それを聞いてどうしようかと悩むが、ルイは声を出す。
「フーリエ家の者なんですが、少しよろしいでしょうか?」
ついサラリーマン時代を思いだし、敬語で喋ってしまう。
「フーリエ家の者!?申し訳ございません少々お待ち下さい!すぐに参ります!!」
そう言うと何やら厨房の方から凄い音が聞こえてきた。
音が聞こえて数十秒後、俺の目の前に立っていたのは二歳の俺より、少し身長が高いくらいの男だった。




