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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
32/82

32話 帰宅

 急いで元来た道を走っていく。


「おいおい坊主、なんでそんなに急いでるんだよ?」


 ハンスに笑いながら言われる。

 なぜ笑われているかと言うと、多分原因は、ハンスに魔鎧(まがい)を発動していることを気づかれないようにと、二歳児が走るようなスピードで走っているからだ。

 ハンスはそんな理由があるとは分かっていないが、本人は必死に走っているのに、セシリアでも早歩きで余裕で付いてこれている姿を見て面白くなったのだろう。


 俺がこんなに急いでいる理由を知らないハンスだが、笑っていられるのもきっと今のうちだろう。

 リチャードの所に着けばその笑みもきっと無くなるはずだ。

 

「できるだけ急がないと、兵士達がかわいそうかと思ってさ」

「兵士達がかわいそう?何を言ってんだ?」


 なぜ突然目の前の坊主が兵士の心配をし始めたのか分からないといった表情で、ハンスは首をかしげる。

 そりゃあ突然そんなことを言われても誰だって分からないだろう。


 「まあ、着けば分かるよ」


 そんなに距離が無かったのと、俺の必死の走りによって、あっという間に運動場に辿り着いた。

 「俺の予想が当たっていませんように」と願いながら中に入っていく。


 中に入るとリチャードが土煙の中一人で立っている姿が見えた。


「よかった、予想が外れてて。何も起きていなくてよかった~!」


 そう思った瞬間、ふと不思議に思うことが何個かあった。

 なぜ、リチャードは一人で運動場のど真ん中に立っているのだろうか。

 なぜ、周りにいたはずの兵士はどこにもいなくなっているのだろうか。

 なぜ、風もそんなにないのにここまで土煙が上がっているのだろうか。

 

 疑問に思うことが何個もあるが、俺はそこから予想してしまったものを認めたくないため、思考を放棄する。


「え?リチャード様が立っているところの周りに何か転がっていないか?」


 ハンスのその言葉を聞いて、リチャードの周りを見てみる。

 土煙のせいでよく見えないが、確かに何かがたくさん転がっている。

 先程放棄したはずの思考が戻ってくる。

 この状況は俺の予想が当たってしまったのだろうか。


「うん……。確かに転がっているね……」


 少しでもその現実を認めたくないという思いがありながらもハンスに返答する。

 まだ、その転がっているものが何かまでははっきりしていないから可能性はある。

 その可能性にかけよう。


 ルイは自分の予想が外れていることを願っていると、急にどこからか強い風が吹いて来て、土煙を晴らしていった。

 段々とその転がっていたものの正体が明らかとなっていく。


「おい?あの転がっているのって人じゃないか!?しかもよく見たら兵士達じゃねーか!!」


 ハンスは転がっているものの正体に気づく。

 ルイもそれを見てしまい、自分の予想があっていたことにショックを受ける。

 しかし、ハンスはまだ自分が見たものが本当だったのか理解できずにいる。


「本当に兵士達か?兵士達なのか?」


 それに俺とセシリアが答える。


「うん……。兵士達だね……」

「兵士達ですね」


 その言葉を聞いたハンスは自分の見たものが間違いじゃなかったことに気づき、急いで兵士達が転がっている方へと走っていく。

 俺とセシリアもその後を追う。


 転がっている兵士達の元に辿り着くと、ハンスは何が起きたのか兵士達に問い詰める。


「おい!!お前ら大丈夫か!?一体何があったんだ!?」


 そう尋ねられた地面に倒れている兵士は、息も絶え絶えに答える。


「……あ、あの執事が、私に訓練させて下さいと言って……突然訓練しだしてきたんだ。俺らも執事の爺さんの訓練なんて余裕だと思っていたからやってくれと頼んだ。ただあの爺さんの訓練が……ま、まるで地獄のようで……どんどん皆がバタバタと倒れていって……」

「おい!!やめろ!!お、思い出させるな!!」

「これ以上はやめてくれぇ!!」


 ハンスが尋ねた兵士達は地獄でも見たかのようにそれぞれ何があったのか答えていく。

 やはり原因はリチャードにあったらしいな。

 当の本人は、まだ立てなくて転がっている兵士達のど真ん中で立ちながら何かを考えている様子だった。

 ただ、何かに気づいたのかふとこちらを見てくる。

 そこに俺たちがいることに気づくと、転がっている兵士達を踏まないように近づいてきて俺の前に跪く。


「ルイ様お待たせいたしました。私のためにこのような機会を設けて頂きありがとうございます。ルイ様の今後のためにも兵士達はしっかりと訓練させておきました」


 まるで俺が命令して訓練をさせたかのような言い方をしてくる。

 あれ?俺はそんなこと一言も言ってないよね?

 ただ、リチャードがここを離れるのを名残惜しそうにしたから、残っていいと言ったつもりだったんだが、リチャードにはそう捉えられていなかったのか?

 

 それに兵士達の目の前で跪いたりしたら俺の正体がバレるだろ!と思ったが、兵士達は皆それどころじゃないのかこちらを見てすらいなかった。

 ただ、いつ見られるか分からないし、色々と状況を整理したいため一度立ってもらう。


「おいおい!!どういうことだ!?これはリチャード様がやったのか?説明してくれよ!!」


 兵士達の説明だけじゃ足らなくて、詳しく何が起きたのか事情を知りたいのだろう。

 ハンスがリチャードに説明を求める。


「僕も、僕達がいなくなった後、何が起こったのか知りたいな」


 まあ、俺の場合はだいたい想像できるが、それでも本人の口から何があったかをきちんと聞いておきたい。


「それではご説明させていただきます」


 リチャードは特に何も無かったかのように説明に入る。

 

「ルイ様達と別れた後、私は彼らの訓練を見て、まだまだ鍛えたりていないと思い、訓練を施して差し上げましょうと言って、彼らもそれに了承したので鍛えて差し上げたまでです。ただ、彼らには少しきつかったのか、皆さんあっという間に倒れ込んでしまい、そこにちょうどルイ様達が来られたという状況でございます」


 俺らがリチャードを置いてから、ここに戻ってくるまでそこまで時間は経っていなかったと思うが、それでも兵士達が倒れてしまうほどの訓練とはどれほどきつい内容の訓練だったのだろうか。

 心の底から、俺はまだ二歳で助かったと思う。


 リチャードの説明を聞いたハンスは何やら考え込み、一人で何やらブツブツと呟いている。


「これが王宮にいた際に噂に聞いたハンス様の訓練だったのか?地獄のような訓練だと聞いた時には同僚たちと冗談だろと笑いあっていたが、まさか本当だったとは……。王子もこの地獄の訓練をされていたと耳にしたこともあったが、まさかそれも本当だったのか?」


 何か呟いているのは分かるが、声が小さすぎてよく聞こえない。

 何か思い当たるふしでもあったのだろうか。


「ルイ様、訓練場は以上でよろしいのですか?」


 リチャードは俺達が戻ってきたことで、俺が訓練場を見終わったと察したのだろう。


「うん、入り口で集合する予定だったけど、あまりに早く見終わったからリチャードを迎えに戻ってきたんだ」

「それでは申し訳ないですが、私はこの不甲斐ない兵士達の片づけをしてから向かいますので、先にセシリアとハンスとお行き下さい」

「うん、分かったよ。じゃあ、セシリア行こうか」


 また、兵士達とリチャードを一緒にしておくと、また訓練が行われそうな気もするが、きっと大丈夫だろう。

 俺が訓練場を後にするから、リチャードもすぐに来るはずだ。

 

 俺達はリチャードと兵士達を置いて、訓練場の入り口に向かう。

 まだ入り口には、あの屈強な兵士がいるのが見える。


「じゃあ、ハンス。ここまで訓練場を紹介してくれてありがとう!」


 俺はここまで訓練場を紹介してくれたハンスにお礼を言う。

 ようやく先程の出来事を消化しきれたのか、元に戻ったハンスが答える。

 

「な~に、いいってことよ!俺もやりたくてやったわけだしな。それに最後にいいものを見ることもできたしな」


 兵士達が倒れているのを見ていいものと言っているのか、リチャードの姿を見れていいものと言っているのか分からないが、ハンスも良かったのならいいのだろう。

 

「じゃあ、僕とセシリアは屋敷の中に戻るからここでお別れだね」

「ああ、坊ちゃんのことは気に入ったから、何かあったら跡継ぎ争い以外ならいつでも手を貸すぜ!」


 ハンスは笑いながらそう言う。

 俺には何かと強いリチャードもいるが、元王国騎士団の力を得ることができるのはきっと助かる。

 今後どうなるか分からないからな。


「それじゃあ、俺は仕事に戻るから、またな!」


 ハンスはそう言うと先に訓練場から出て行った。

 

「じゃあ、僕達も出ようか」

「かしこまりました」


 ルイとセシリアはそう言うと、ハンスの後に続くように訓練場を出た。

 訓練場を出る際に、入り口にいた屈強な兵士が、訓練場はどうだったか聞いてきたが、一言良かったとだけ答えておいた。

 そこまでいい感想が浮かんでこなかったが、兵士はその感想に喜んでいたためそれで良かったのだろう。

 

「それじゃあ今日はもう遅いし、部屋に戻ろうか」

「かしこまりました。それではお部屋に戻りましょうか」


 こうして俺とセシリアは自分の部屋へと戻るため、来た道を帰る。


 訓練場まで来るときと違い、色々な所に寄り道をしていないためすぐに部屋まで辿り着く。

 途中、廊下で大きな鏡に映っている自分を見て、服を着替えていないことに気が付いたが、どうやらセシリアが回収していたらしく、部屋で着替えることにする。

 

 部屋の前まで来て、扉を開けると、一瞬自分の部屋と間違ってしまったのかと驚いたが、部屋に本棚ごと、本を持ってきてもらったのを忘れていた。

 一つの方向だけだが、壁一面に本棚が並んでおり、そこには本がたくさん詰まっていた。

 少し部屋は変わったが、本はひとまず置いておいて、俺はベッドに転がり込みたいため、着替えを済ませようとする。

 着替える際に体をセシリアに拭いてもらい、綺麗になった体でベッドに転がり込む。

 

「いやぁ、今日は色々とあって充実していたね!セシリアもそう思う?」

「はい、充実していました!ルイ様も初めてのお部屋の外はどうでしたか?」

「屋敷はかなり広くて色々な所があるってことが分かったよ。それに、こんなに外を歩くと疲れるものだね」


 ベッドに寝ころんでいると、魔鎧を発動していても疲れていたのか、段々と眠気が来る。

 その眠気に負けないよう、セシリアに明日の予定を伝える。


「明日は早速、平民区画に行ってみたいと思うから、そうリチャードにも伝えておいてね」

「かしこまりました。準備しておきます」


 そうセシリアに伝えると眠気が一気に来て、ルイは深い眠りの底に落ちて行った。

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