31話 訓練場‐3
二つ目の施設もあっという間に見終わり、三人は最後の施設に移動する。
「三つ目の施設は魔力操作の訓練をする所だ。ただ最初に行った通り、ここが施設の中で一番施設とも呼べない所かもしれないからあまり期待はしないでくれ」
そう言ってハンスはあまり期待を持たせないようにしてくる。
最初にもそう言っていたが、再び言われるとさらに期待は無くなっていく。
まあ、言われなくても他二つの施設を先に見ていたからそんなに期待はしていないが、そこまで言われるくらいの施設とはどこまでひどいものなんだろう。
逆に気になってくる。
「分かったよ。あまり期待しないようにする」
「おう、そうした方がいいぞ」
それにしても魔力操作を鍛えるための施設か。
一体どんなところなんだろうか。
期待はしていないが興味はある。
「よし、着いたぞ。ここが魔力操作を鍛えるための施設だ」
また、先程の施設から少し歩いた所に三つ目の施設はあった。
今度は他二つと比べてあまり広い施設ではなく、室内にある施設のようだ。
中に入ってみると、施設の中は長い廊下みたいなのを挟んで、何個かの部屋が左右に並んでいて、まるでホテルのようになっていた。
ただホテルと違うのは、壁が全て真っ白に塗られていて、人が泊まったりする施設ではないということが分かる点だ。
「面白いものは何もないが、どうせなら部屋の中も見てみるか?」
ハンスはそう言いながら、近くにあった部屋の扉を開ける。
部屋の中に入ってみると、まず目に入ったのは、壁だけでなく床から天井まで真っ白に覆われた、全面真っ白な空間だった。
廊下だけが真っ白なのかと思っていたが、まさか部屋の中まで真っ白だとは……。
こんなに白いと、転生の女神と名乗っていた女がいた空間のことを思い出す。
なぜ、この部屋の中が全て真っ白なのか理由を聞く。
「なんでこの部屋が白いかって?それは周りが白い方が魔力を操作するのに集中しやすいだろ?他のことに気をとられないで、操作だけに気を使うようにするためさ」
「これって意味あるの?」
「まあ、魔力操作だけに集中できるっていう点では意味はあるんじゃないか?ただ、施設としては壁に色を塗っただけだから施設って呼んでいいのかは疑問だがな」
一番施設と呼べない理由はそれだったのか。
ハンス的にはただ部屋中に色を塗っただけの所を施設とは呼びたくなかったのかもしれないが、これでも一応訓練できているなら、施設なのだろう。
ただ、一つだけ確実に言えるのは、この施設も俺が使うことは無いということだ。
魔力操作はそこら辺の人よりも確実にうまい自信があるし、ここで魔力操作を鍛える必要はないだろう。
俺に魔力操作はまだ早いとハンスに言われたが、実は既にできているとは思いもしていないだろう。
それに俺はこんな真っ白な部屋を使わなくても、自分の部屋で十分集中して魔力操作をできると思う。
そう考えると、この訓練場全てが俺には必要の無かったものだということになるが、どうせならこの魔力操作を鍛えれる場所で試してみたいことがある。
「ねえ、ハンスもここで魔力操作を鍛えたりしてるの?」
「いや、俺くらいになるとわざわざこんなところでやる必要なんてないから使ってないな」
「どんな感じで鍛えるか少し見てみたいから、ここで実際に魔力操作をやってみてくれない?」
子どもの頃にしかできない、かわいらしい子どもを演じながらハンスに頼んでみる。
きっとハンスには、今の俺は憧れているものを見たくて目を輝かせている子どもに見えることだろう。
そんな俺の視線にやられたのかハンスは少し頭を悩ませる。
悩んだ挙句、答えをだす。
「ああ~!!しょうがねえな!!特別にやってやるよ!」
仕方ないという感じでやってもらえることになった。
やはり、子どもになって感じたが、子どものおねだりというのは強いものだな。
「まあ、見ても何も分からないとは思うが、本来ならこの魔力操作を教えるのも、もう少し大きくなってからじゃないといけないんだぞ?今回は特別だからな!?」
「分かったよ!ありがとうハンス!」
俺はハンスにお礼をすると、ハンスは少し嬉しそうにしながら、準備をするのか部屋の真ん中に座る。
「んじゃ、始めるからよく見とけよ」
魔力操作を開始するみたいだ。
俺はセシリアと共にハンスの魔力操作の様子を見る。
本来、魔力操作は自分の魔力を操る時には見ることができるが、他人の魔力は見ることができない。
そのため、目の前にいる相手の魔力量がどのくらいなのかを把握することはできない。
もしかしたらそういうスキルが存在していたら分かるかもしれないが、ほとんどの人はそんなスキルは持っていないはずだから分かるはずがない。
なら、今回もハンスが何をやっても見えないなら意味がないと思うかもしれないが、これをやってもらったのには訳がある。
実はこの二年間も常に魔力操作をしていた俺は、体の外に出て行った魔力を操り、魔鎧やスキルの発動の際に使うということは既にできていたが、その魔力を直接相手にくっつけることによって相手の魔力も見ることができることに気が付いた。
なぜ、気が付いたかと言うと、セシリアに知識を教えてもらっている時に、前世で既に知っていた知識を教える時があった。
ただ既に知ってはいるが、それを言うと前世のことを言わなければならないため、言えなかったが、ただ聞いているだけだと暇だと思い、やることを探していた。
そんな時に思いついたのが、膨大な魔力量だからこそできる大量の魔力の玉を作り、部屋中に浮かべると、それをどれだけセシリアに近づけつつも触れないほどの距離にできるかという暇つぶしだった。
最初は上手く行っていたが、全部同時に操作するのは、慣れていたと思っていた俺でも難しく、魔力の玉は何個かセシリアに触れてしまった。
発見は「うわぁ」と思ったその時だった。
セシリアの方を見ていたら、急にセシリアの体全体が薄い黄緑色に光り始めた。
俺は最初何が起きたか分からなくて、セシリアの話を遮りながら一人で焦っていた。
「セシリア……!!体中が何か光っているよ!!」
俺はそうセシリアに言ったが、本人は気づいていない。
「光ってるってどこがですか?どこも普通じゃないですか」
「え?光ってるよ」
「冗談はいいですからさっきの話の続きに戻りますよ」
俺の気のせいだったのかと思ったが、目の前のセシリアはずっと光っている。
もしかしてと思い、急にセシリアが光出した原因かもしれない、俺の魔力をセシリアから離してみると、セシリアの光は収まった。
この光は俺の魔力がセシリアに触れたことによって起きた現象だと気づいた後、色々と試した結果、魔力を操り相手に触れさせれば、相手の魔力の量が光ってどのくらいかを見れるということが分かった。
ただ、セシリアの魔力しか分かっていないし、魔力量がどのくらいかを把握していないので、相手の魔力量の正確な量を知ることはできない。
そのため、ここでハンスを使って比べてみようと思ったのだ。
セシリアに魔力量を聞いてみたこともあるが、頑なに答えてくれないので、ハンスなら答えてくれそうだと思い、俺の中でハンスを基準とした魔力量の値を作ろうと思う。
この結果次第では、セシリアの魔力量を知ることもできるだろう。
因みに魔力量は知っているリチャードに一度試そうと思ったが、リチャードは魔力の玉が近くに来るとスキルの効果なのか、元々の実力なのか、魔力の気配を感じるのか身構えてしまい、見ることができなかった。
……ほんとなんで執事なんかやっているんだ。
ということで、魔力操作を集中しながらやっているハンスの所に魔力を飛ばす。
ハンスも一応、元王国騎士団の一人だったが、きっと気づかれないと信じて近づける。
そっと近づけていって、後少しで触れそうな所で止める。
ハンスが気づいていないことを確認して、そこから一気に触れさせる。
すると、俺の魔力がくっついた所からハンスの体が黄色く光って行った。
まるで、魔鎧を発動した時の光のように光っているその体だったが、魔鎧を発動した時とは違って、ハンスは体全体は光ってはいなかった。
ただ、その光は魔鎧を発動した時よりも光っていたが、ハンスの場合は胴体辺りが光るくらいだった。
そんなことには気づかずに魔力操作に集中しているハンスを見ながら考えてみる。
セシリアはハンスと違い、体全体が光っていた。
それに魔力の光の色もハンスとは違っていた。
因みに俺の魔力の色もハンスと同じ黄色だった。
これは何か違いがあるのだろうか?
とりあえず、後はハンスに魔力量を聞くだけだな。
すると、ちょうど魔力操作を終わらせたのか、ハンスがゆっくりと目を開けていた。
「どうだ坊主?まあ、魔力操作はこんなもんだな。見ててもよく分かんなかっただろ?」
「うん、よく分かんなかったよ!僕の無茶を聞いてくれてありがとね!」
実際は俺の魔力をハンスに付けることで、魔力量からその魔力操作まで全て見えていたが、それは黙っておく。
それにしても、ハンスがやっている魔力操作を見てみたが、何か魔力が体の中で気持ち悪い動きをしていた。
他の人とも見比べてみないと分からないが、あれが本来の普通なのだろうか。
俺の魔力は体の外に出してから使うが、ハンスを見ていた限りそういう操作はしていなかった。
今度、他の人の魔力操作も見てみる必要があるな。
このことを胸の奥にしまっておき、俺は聞きたかったことをハンスに聞く。
「言いたくなかったら言わなくていいけど、ハンスの魔力量ってどのくらいなの?」
ハンスは言おうか言わないかで悩んでいるそぶりを見せる。
「坊主、そこのメイドの姉ちゃんは教えてくれなかったかもしれないがな?普通、自分の魔力量はむやみやたらに他人に教えるもんじゃねえんだよ」
え!?そんな事実があったなんて?
前世の村でもリチャードも皆簡単に教えてくれたけど、本当はそうじゃないのか!?
「特に俺たち騎士なんかは魔力量を知られるとまずいことになるから、基本は誰にも言わないんだ。だから気に入った坊主にでも教えることはできないな」
そうだったのか……。
それじゃあセシリアが教えてくれなかったのにも納得できる。
「ただ、普通に暮らしている平民とかは言っても支障が無いから、言ってるやつはいたけどな。だが、坊主は貴族でもあるし、あまり手の内を明かさないためにも言わない方がいいぞ」
ハンスにそう言われてルイは頷く。
言われなくてもこの魔力量は誰にも言うことなんてできないけどな。
「よし!じゃあここもこのくらいでいいだろう!そろそろリチャード様を迎えに行ってあげないとな!」
あっ!リチャードのことをすっかり忘れていた。
リチャードは心配していないが、あの場所にいた兵士達のことは心配なため早く行ってあげないと!
ルイは急いで二人を連れて、一つ目の訓練場の元に走って行った。
 




