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異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
22/82

22話 勉強会‐2

 長時間に及ぶお勉強会だったが、その時間もたった一つのノックで終了した。

 どうやらリチャードとセシリアが交代する時間が来たようだ。

 セシリアは椅子から立ち上がり、ルイに向かって頭を下げる。

 

「それでは今日はここまでですね。こんな長い時間集中力を切らさずによく聞いて下さいました」

「いや、これも全てセシリアの教え方のうまさのお陰だよ。ありがとう」

「お褒めの御言葉ありがとうございます。明日からも精一杯うまく教えられるように努力しますのでよろしくお願いいたします。では私はこれで失礼致します」


 そう言うとセシリアは頭を上げ、後ろに下がると扉の方へと向かう。

 扉を開けるとそこには交代の時間通りに来たリチャードがおり、セシリアと交代するように部屋に入ってくる。

 リチャードはルイの前まで来ると頭を下げる。


「ルイ様、セシリアと交代致しました。何かございましたら私めに何なりとお申し付けください」

「それじゃあ早速来たばかりで申し訳ないけど聞きたいことがあるんだ」

「はい、お答えできることならなんでもお答えします」

「リチャードって暗殺者を素手で返り討ちにしていたよね?」

「はい、それも私めの仕事なので」

「けど、リチャードって攻撃系のスキルを持っているわけではないんだよね?」

「はい、そうでございます」

「一体どうやって倒したのかなって思ってさ」

「それは格闘術を使用しただけでございます」


 やはりリチャードは格闘術を使用していたことが分かった。

 ルイの予想は間違っていなかった。


「その格闘術って僕にも覚えることってできるかな?」


 ルイの言葉にリチャードは少し驚いた反応を見せる。


「もちろん可能です。しかし、まさかルイ様からそのような提案をされるとは思ってもいなかったので少々驚いてしまいました」

「そう?そんなに驚くようなこと?」

「はい、以前ルイ様の兄君様達にもお教えしようとしたのですが、剣術の方が貴族らしいと言われ断られてしまったことがあったため、ルイ様にもお教えしないつもりでしたが、ルイ様から直接のご要望ならお教えしましょう」


 リチャードの言葉を聞いてルイは驚く。

 自分の兄達がそのような理由で格闘術を覚えるのを拒否したことに対してだ。

 もし、戦う機会があったとしても剣術だけ覚えていても意味がないだろう。

 戦場では剣を失うこともあるかもしれないのに、そういう場合はどうやって戦うつもりなのだろうか。

 まあ、貴族が直接戦場に立つことがあるのかどうかは分からないがな。

 

 ひとまず、これでリチャードからは格闘術を教えてもらえることになった。

 セシリアからは貴族として必要な知識や常識を、そしてリチャードからは戦いの術を教えてもらえる。

 こんな幼少期から学べる事を学んでおけば成長した後はかなり兄弟よりも優位に立て、彼らを気にすることなく俺の目的のために行動できるだろう。

 

「ところでルイ様。セシリアからは既に知識や学問について何か学んでいたようですが、本来このような教育はもう少し御成長された後に貴族の子どもとして恥じることのないように施されます。しかし、ルイ様はまだそのようなご年齢に達してないですがそれでも学ばれるのですか?」

「そうだね。今の内から色々と学んでおいた方が後々楽になるしね」

「左様ですか。それではルイ様のご意見を尊重致します。教育の要領については、ルイ様は赤ん坊にしては聡明であられるので普通の貴族のご子息と同じような要領で教育を行ってもよろしいでしょうか?」

「うん、僕はそれでいいよ」

「かしこまりました。ではそのようにさせて頂きます」


 貴族の子どもが受ける教育をこんな赤ん坊の頃から受ける。

 まるで虐待か何かにも思えるが、俺の精神は30代なため抵抗も何もない。

 むしろ新しいことをたくさん覚えられる、まだ柔軟な脳みそを得たお陰で何も苦ではない。

 リチャードもこんな赤ん坊には教育を施したことが無いようで少し戸惑ってはいるが、そのうち慣れてくるだろう。


「では、格闘術をお教えしようと思います」

「ごめん、リチャード。その前に聞きたいことがあるんだけどいい?」

「はい、どうぞ」

「リチャードが暗殺者を返り討ちにした時、魔鎧(まがい)を発動してた?」

「いいえ、発動していませんでした。私は元々魔力量が少ないのに加え、直前にスキルを使ってこの部屋にいたこともあり、魔鎧を発動できるほどの魔力量が残っていなかったのです」

「魔鎧を発動していなかったってことはその格闘術だけで撃退したってこと?」

「そうでございます」

「相手の刺客は魔鎧は発動していた?」

「はい、一瞬ですが使用していました」


 そうすると格闘術の力は相当凄いことになる。

 相手がスキルや魔鎧を発動していたとしても格闘術だけで倒せてしまうということになる。

 リチャードは魔力量が少ないから魔鎧を発動していなかったが、もしルイが魔鎧を発動して格闘術を使って戦えばかなり強くなれるのではないだろうか。

 ただ、リチャードはその人生でかなりの研鑽を積んで、鍛錬も繰り返しているだろうからこその強さなのかもしれない。

 そうだとしたら、そこまでの境地にはすぐには行けないだろうが、こうやって赤ん坊の頃から教えてもらい、鍛錬すれば成長と共に強くなれるだろう。

 後の足りない時間は魔鎧で補えば、リチャードを超える強さにもなれるかもしれない。

 俺の赤ん坊の頃から学べるという通常の人間には無い時間、手に入れたスキル、膨大な魔力をうまく使えるようになれば村を襲った何かにも負けることはないかもしれない。

 

「よし!質問は以上だ!早速、格闘術を教えてくれ!」

「かしこまりました。格闘術は剣術と違い、この部屋の中で覚えられることばかりなのでご安心ください」


 部屋を出る必要が無いのは非常に助かる。

 訓練をする上で場所を取らない点でも格闘術は優秀だな。


「格闘術をお教えする前にまずは最低限格闘術に必要なことを教えていきたいと思います」


 リチャードが真剣な顔をしながら言う。

 ルイもそれを真面目に聞いていく。


「肉体を鍛えることは最低限必要となる条件です。しかし、ルイ様はまだ赤ん坊なので体を鍛えることはなさらないでください。技のみを教えていきたいと思います」

「まあ、僕は魔鎧で体を強化しているし、鍛えたりは今の所はしないよ」

「成長なされたら肉体は鍛えておいた方がよろしいでしょう。魔鎧をいつでも発動できるとは限らないので、最終的に信じられるのは自分の肉体のみです」


 リチャードが急に筋肉大好きな人みたいなことを言い始めた。

 リチャードは執事用のタキシードを着ているが、格闘術をしていてこんなことを言い出すくらいだからその下は筋肉ムキムキなのだろうか。

 けどこんなことはリチャードよりも確実に筋肉があったジェイクでも言っていなかったぞ。

 そういえば、リチャードと言いジェイクと言い、この世界に来てからなんで俺の周りにはこんなに強そうな老人が多いのだろうか。

 この世界の全老人がそうではないだろうが、俺の身近な老人が若々しくたくましすぎる。

 不思議に思うがきっとたまたまだろう。

 縁起でもないが、次に転生することがあったら確かめてみよう。


「次は格闘術にも流派があるという説明をさせていただきます」


 この世界の格闘術にも流派が存在するんだ。

 

「私の流派でこれからルイ様にお教えしていく流派は、このアークドラン王国で生まれ発展していったその名もアーク流でございます」

「他にも流派はあるの?」

「もちろんございます。他にも各国の名前をとった流派や小さい流派などがございますが、このアーク流がこの国では一番主流でございます」


 国の名の一部を冠するほどの流派ということは、歴史が長い流派なのだろうか。

 そうだとすると、長い歴史の中でかなり技が極められていることだろう。

 期待しながらリチャードに聞いてみる。


「そのアーク流っていうのはどのくらいの歴史があるの?」

 

 わくわくしながらリチャードの返答を待っていたが、リチャードからの返答は意外なものだった。


「アーク流はここ十年で生み出され、発展した流派でございます」


 リチャードはいたって真面目な顔をして答えてくるので嘘ではないのだろう。

 これがこの世界では普通なのだろうか。

 もしかすると、戦闘の面でスキルに頼り過ぎて、このような戦闘技術が発達していなかったのかもしれない。魔鎧という技術もあるしな。

 そうなると先程リチャードが言っていた剣術もあまり期待はできなさそうだ。

 アーク流の歴史がそれほど長く無いことで、格闘術としての技術に少々不安を覚えるが、リチャードが格闘術を使ってスキルと魔鎧を発動していた相手に勝ったのは間違いない。

 きっとこのアーク流を生み出した人がとても優秀なのだろう。


「そのアーク流って誰が生み出したの?」

「私でございます」

「リチャードが創始者なの!?」

「恥ずかしながらそうでございます」


 まさかのリチャードが創始者だった。

 しかもここ十年に生み出してこの強さということは相当な才能があるのだろう。

 創始者に教えてもらうことになるとは思ってもいなかったが、この情報を聞いて先程の不安が一気に消え去った。


「ここ十年ほどでこんなに凄い格闘術を生み出すなんてすごいんだね」

「いいえ、そんなことはございません。このフーリエ男爵家の執事になる前に、王が王太子に何か護身術を教えろと言われたので作っただけでございます」

 

 簡単にここまですごい格闘術を生み出したのにも驚きだが、その格闘術を生み出した理由にも驚きだ。

 王様に言われ王太子に格闘術を教えていたということはリチャードは過去に王城で働いていたということなのだろう。

 そして王様に護衛術を作り出せと言われるほど王様の傍にも近かったということだ。

 なぜそんな凄い経歴の人が今は男爵家なんかの屋敷にいて、しかも三男なんかの専属執事をしているのだろうか。

 

 ルイはリチャードの凄い経歴に少し頭を整理する時間が欲しいと思ったものの、リチャードはそんなことお構いなしに何事もなかったかのように次のステップへと進む。


「そんな話はさておき、そろそろ技をお教えしていきましょうか。準備はよろしいですか?」


 正直まだよろしくはないが、一刻も早く覚えたいためルイは大丈夫だと頷く。


「それでは始めましょう。私の動きをよく見ていてください」


 リチャードはそう言うと、片腕を体の横につけ手を握り、まるで突きをするような構えになった。

 通常の立っている姿勢からスムーズに構えたと思った次の瞬間、


「シュッ」


 という音が鳴り、既に腕が何もない空中に向けて突き出されていた。

 その突きの速さはあまりにも素早く、近くにいたはずのルイの目にも見なかったほどだ。

 見えなかったにもかかわらず、拳を突き出したことによって巻き起こった風と音だけが既に突きが終わったことをルイに理解させる。

 

 ルイがあまりにも凄いものを見たため呆気に取られていると、


「どうでしょうかルイ様。これがこの格闘術の基本となる突きでございます」


 まだ呆気にとられているルイを見て心配になったのかリチャードが声をかける。


「ルイ様、大丈夫でしょうか?」


 少し間が空いてからルイが動き出す。

 

「はっはっ!凄いやリチャード!僕もこれができるようになるの?」


 あまりの凄さに笑いがこぼれてきながらルイは言う。


「そうでございますね。ルイ様もそのうちここまで上達するかと」


 この言葉を聞くと、ルイは再び黙り考え込む。

 こんなに格闘術が凄いだなんて思ってもいなかった。

 

 思った以上であったリチャードの格闘術の有用性によって、ルイはこれからの自身の成長についてかなりの成長が約束された気がした。

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