21話 勉強会
ルイはセシリア先生の下、まずはこの屋敷の知識から学んでいく。
「ではまず、このフーリエ男爵家の屋敷がある場所が王都ということは知っていますか?」
「うん、それはリチャードから聞いたよ」
「そこまではよろしいかもしれませんが、王都の区画が分けられていることも知っていますか?」
「区画分けはよく分からないけど、王都の中心から偉い人が住んでいて、城壁に近づくほど身分は低くなっていくんでしょ?」
「凄いですね!ルイ様は既に色々とご存知ですね!」
前世の記憶を持っているから知っていただけのことでそこまで凄くないと思うが、こんなに褒められるとなんか照れくさいな。
「それではその貴族や平民の住んでいる区画もさらに細かく区画分けされているのはご存知でしょうか?」
「うっ……。それは分からないな」
先程まで連続で分かっていたため、分からないことが来ると少し残念な気持ちになる。
こんなことなら前世で買った王国について書かれている本をもっと真剣に読んでおけばよかったな。
まあ、俺の買った本は既に全部燃えてしまっているかもしれないが。
本が燃えたことを考えると、さらに残念な気持ちになる。
そんルイの気持ちが顔に現れていたのか、何か勘違いしていそうなセシリアが励ますように言う。
「これは王都を実際に歩き回ってみるか、王都の設計を担当した人でもないと分からないことなのでしょうがないです」
「まずは、貴族区画からです。貴族区画も実は爵位に合わせて中心の方から外側に行くほど爵位の低い家となっております。そのため、フーリエ男爵家は貴族の中でも爵位は一番低いので、その屋敷は貴族区画の中でも外側に位置しています。」
「次に平民区画です。平民区画は貴族区画とは異なっていて、裕福さとかで家の場所が区画分けされておらず、お金持ちの商人の家なども、中心に近い場所にあるという訳ではなく、好きな場所に立っています。様々な業種のお店や民家も特に区画は関係はないですね」
セシリアは詳しく王都の区画分けを教えてくれる。
「ここまではよろしいでしょうか?」
「うん。大丈夫」
「かしこまりました。では次に行きます」
「次は、先程この屋敷が貴族区画の中でも外側にあると言いましたが、東西南北どの辺りの位置にあるかなどを教えていきたいと思います」
この情報は重要だな。
前世でジェイクから聞いた話からすると、王都はとてつもない広さらしいから大体の場所を知っておかないと、もしこの屋敷から出て色々な所に行くことになっても帰ってこれなくなってしまうかもしれない。
そういえば、家族の心配だけをしていたがジェイクはどうなったのだろうか。
老人や女子供が避難していたはずの教会だったが、老人に該当するはずのジェイクはあの場にはいなかった。
ジェイクは元々王都の冒険者をやっていたとか言っていたし、老いているとはいえあの肉体だったので、もしかしたら村の男衆と共に村の外の様子を見に行ったのかもしれない。
大勢の人が死んだとは思うが、ジェイクなら冒険者時代の経験を活かして生き延びているかもしれないな。
これからの目標として、家族だけでなくジェイクの行方も探すことにしよう。
「……ルイ様聞いていますか?」
「ああ、ごめん。考え事をしてたよ」
「それではもう一度説明させていただきます」
ジェイクのことを考えていたら、セシリアの説明を全く聞いていなかった。
いくらルイの専属メイドとはいえ何度も同じことを説明させるのは申し訳ないため、次は気をつけようと思う。
セシリアは話を聞いていなかったにもかかわらず呆れた顔の一つもせずに、もう一度説明してくれる。
「まず、この屋敷の位置は貴族区画の南側にあります。そして一番外側にある男爵家の中でもさらに外側に位置しています。ほとんど平民の区画の隣辺りにあると言っても過言ではないでしょう」
「なんでこの屋敷はそんなに外側に位置しているの?」
「それは、このフーリエ家が貴族間で担っている役割に関わっています」
「役割?貴族にも役割なんてあるの?」
「ございます。貴族として国を運営するための仕事とは別に、貴族ごとにそれぞれ貴族社会のための暗黙の役割がございます」
役割があることにも驚いたが、それ以前にこの国の貴族は国家の運営にきちんと関わっているのか。
俺の貴族のイメージだと、ただ代々受け継がれた爵位と金で自由に遊びまくっていると思っていたが、セシリアの言い方だとちゃんと仕事をしているみたいだな。
貴族の仕事についても後で聞いてみよう。
「このフーリエ男爵家の貴族社会での役割というのが、貴族の間での流行の品々を手に入れたり、流行となりそうなものを他の貴族家の方々に進めるというものです」
「貴族の方々というのは真新しいものや珍しいものなどがとても好きで、貴族で流行ったものが平民にも流れていき、王都全体だけでなく国中で流行るのですが、その真新しいものや珍しいものは平民区画で生み出されることがほとんどです」
「フーリエ家は平民区画からそれらをこのフーリエ男爵家が貴族区画に持ってきて広めていくという、流行の一旦を担うような役割を持っているのです」
「なので、平民区画にも貴族区画にも行きやすいように男爵家の中でも一番平民区画に近い場所に屋敷を構えているという訳でございます」
そう考えると貴族社会での役割も結構大事なんだな。
流行の一旦を担っていると考えるとこのフーリエ男爵家の役割は相当大きなもので、その分収入的な面でもかなり稼げると思う。
そりゃあ兄弟達もその地位と経済力を手に入れようとするわけだ。
「ただ、このような役割を持っているのはフーリエ家だけでなく、他にも貴族区画の東、西、北の男爵家も同じような役割を持っている家がございます」
「え?うちだけじゃないの?」
「はい、四つの家がその役割を担っています。王都は広いので、平民区画を一つの家だけでは全部把握することはできないので四つの男爵家がそれぞれの方角の平民区画を担当し、珍しいものを探してくるのです」
「じゃあ、別に商売敵みたいなことになるわけではないんだ」
「いえ、互いの家は流行を生み出すきっかけとなることに誇りを持っているので、互いに敵視しています。しかし、相手を敵視しているからこそ相手よりよりいいものを探して持ってこようとするため、貴族社会はより優れているものばかりが集まるのです」
なるほどな。つまり、この貴族社会も会社とかのように独占は許しておらず、互いをライバル視させて競合させることにより、よりいいものを作ったりしているのと同じってことか。
これは会社員時代を思い出させるな。
「また、先程平民区画は特にこれといった区画分けはないと言ったのですが、この四つの貴族家の特色を受けたのか、四つの方角それぞれで発達している分野が違うと言った特徴がございます」
「例えば、北では優れた武器や防具や装飾品などを作るのに優れていて、東では服やアクセサリーなどの装身具が、西ではマジックアイテムを作るのに優れているのです」
「じゃあフーリエ家の南の地区は?」
「フーリエ家の担当する南の地区は主に料理などが優れていますね。普段食べる料理から珍しい料理までがたくさんあり、この国のほとんどの食べ物の流行はこの南側から生み出されていると言っても過言ではございません。」
「そうなんだ!けど、それぞれ特色があるならそこまで互いに敵視する必要はないんじゃないの?」
「先程行った分野が特に優れているということで、他の分野はそこまで優れていないかと言うと、そうではないのですよ。他の分野も他の都市に比べるとかなり優秀なので、いつ他の男爵家に抜かれるか分からないため敵視し続けているのです」
「まあ互いに切磋琢磨してるってことでいいのかな?」
「その認識で間違ってはいないですね」
このフーリエ男爵家の貴族社会での役割がこんなものだったとは知らなかったな。
このことを知っていればいい場面も出てくるかもしれないから知っておいて損はないだろう。
今はひとまず、各男爵家の役割をおおまかにしか聞いてはいないが、今後貴族として活動するならどの家の役割もより詳しく知っていた方がいいだろう。
とりあえず、今は聞いても意味がないため今度にしてもらう。
「ありがとう、セシリア。次はこの国の運営の仕方について聞きたいな」
「かしこまりました。では国の運営の仕方についてご説明いたします」
さっき気になった、貴族が仕事をしているという話に繋がることを説明してもらう。
「まず、この国の運営なのですが、王族と貴族によって執り行われております。もちろん統治の頂点には王様がおられるのですが、流石に全てをご自分でなさるのは厳しいため、貴族にも様々な役職を与え、国を治めています」
「まずは王族の方々なのですが、王太子や王女なども政治の場に参加し、王族の方々が行かなければいけない外交の場などに参加したりするのが仕事です。王様の補佐として置かれている宰相の席も基本的には王族の方がつきます」
「次は貴族なのですが、貴族は大きく分けて二つの種類があって、この王都に住み王城で働く領地を持たない貴族と、領地を持ってその領地を治めることを王様に定められている貴族がいます。」
「王都にいる貴族は基本的にその爵位ごとに役職を与えられ、国のために働きます。フーリエ家男爵家もこちらの種類の貴族に含まれます」
「領地を持っている貴族は、爵位が基本的に高い貴族で、それぞれの都市の政治などを王様より一任されています。なのでそれぞれの都市は税金や制度や法律なども統治する貴族によって多少違ったりします」
なるほど。つまりまとめると、
国の頂点には王様がいる。
その下にそれぞれ各地にある都市の政治を任された爵位の高い貴族と、王都に住んで王都やこの国全体の政治を担う貴族がいる。
こんな感じだろうか。
きっと~庁、~省みたいなもので分けられているのだろう。
ここまで様々な話を聞いてきたが、結構、いや、かなり国としてちゃんとしているな。
前世で話を聞いた限りでは、そこまで文化は発達してないと思ったが、そんなことはなさそうだ。
う~ん。それにしても色々な情報を得ることができるな。
ジェイクから教えてもらえなかったような王都の情報まで知ることができたため、やはり貴族の持っている情報量は違うな。
とりあえず、この調子でセシリアにもっと色々なことを教えてもらおう。
そう決めたルイは、その後もセシリアの話を真剣な顔で聞き続けていた。