16話 再誕
ルイ達フーリエ家が住んでいた村、ティリオ村。
そこは元の村の姿が分からなくなるほど悲惨な状態になっていた。
村には既に村人の姿はなく、火災によって焼け落ちた家屋の残骸がそこら中に転がっているだけで、言われなければ最近までこの場所で人々が生活していたとは分からないだろう。
そんなティリオ村の焼け跡を歩く者達がいた。
焼け落ちた家屋の残骸を足で退かしながら、一人を先頭に幾人かが元々は道であった場所を歩いていく。
歩く者達の格好は統一されており、立派な鎧を身に纏い、腰には同じく立派な剣を帯びている。
そしてその装備のどれもが緑色に塗装されており、非常に目立つ格好をしている。
鎧と剣を身に付けるその姿はまるでどこかの騎士のようである。
先頭を歩いていた人物は立ち止まると、被っていた兜を脱いで脇に抱える。兜を取った下からは綺麗な顔立ちの女性が姿を見せる。
その女性はその場で後ろを振り向き、後ろを歩いていた人達に声をかける。
「お前たち!このティリオ村で何が起きたか原因が分かったものはいるか!?」
「いえ!団長、まだ何も判明していません!原因は不明のままです!」
団長と呼ばれた女性の一番近くにいた団員と思われる人は敬礼し、答える。
何も分かっていない現実に腹を立てたのか、団長と呼ばれた女性はその綺麗な顔を歪め、焼け落ちた家屋の残骸を蹴り飛ばす。
「近くの都市からティリオ村で異変が起きたという知らせがあり、我ら騎士団が調査のために王都から派遣されたんだぞ!それなのにまだ、何も分からないだと!これではどのように陛下にご報告すればいいんだ!」
「まあまあ、落ち着いてください団長。まだ時間はあります。我々が調査すれば必ず何かしらの手がかりはつかめるでしょう。」
「……そうだな副団長。しかし、まだ何も判明していないのはおかしくはないか。村はこんな状態なのに村人の死体も一つもないし、この規模の村がたった一日で崩壊しているんだぞ?」
「そうですね。それも時間をかけて調査すれば何か見つかるでしょう。とにかく今は調査をするしかないんですから」
副団長と呼ばれた男は団長を落ち着かせるとそう進言する。
団長は深く呼吸をすると、声を張った。
「よし、お前たち!調査系のスキルを持っている者は魔力が枯渇するまでそのスキルを駆使し、それ以外の者はそのサポートをし、何が何でも原因を究明するんだ!それぞれが出せる限界を振り絞れ!」
「「「「はっ!」」」」
団員は敬礼をするとそれぞれ別の方向に散らばって行く。
団長は脇に抱えた兜を手にもつと再び被り、団員たちの後を追って行った。
◇
失っていたはずの意識が徐々に戻ってきた。
この感覚はもう何度目だろうか。
そんなことを思いながらルイは記憶をはっきりさせようとする。
……そうだ!母さんとリズは!父さんとレンスは!村は一体どうなったんだ!
記憶がはっきりしてくると意識を失う前のことを思い出した。
意識があるということは生きているのだろう。
早く教会に行かないと!
意識を失う前の記憶を思い出し、ルイは自分の体を起き上がらせようとする。
しかし、意識を失う前と違い、今度は全身に力が入らない。
瞼を開くこともできなく、はっきりとした音も聞こえない。
全身力が入らず、宙に浮いているような感覚に襲われる。
意識はあるが力が入らないため、もしかすると既に死んでいるのだろうかという不安に襲われる。
ここは天国のような場所で、ここでこのまま過ごすことになるのか。
そんなことを考えていると突然声が聞こえてきた。
その声はぼやけておりはっきりとは聞こえない。
しかし、それはルイを呼ぶ声だというのが分かる。
どうにかしてその声に反応をしようとするが、どうしても声がでない。
それでも諦めず、頑張ってお腹の奥から声を振り絞ると、
「オギャー、オギャー」
という声が自分の口から出てきた。
なんだ!?どういうことだ!?
これではまるで二年前に戻ったようではないか!
そう思い二年前の感覚を思いだすと、この感覚はまるっきり赤ん坊の頃と同じだった。
もしかして、時を遡ったのか?
そんな希望を抱いてみる。
それなら今度こそ家族を救えるかもしれない!
そう思いとりあえず前回と同じように自分のスキルの詳細と魔力量を確認してみる。
まずは魔力量を確認するために頭の中で思い浮かべてみる。
すると、魔力量が浮かんできた。
魔力量《60》
魔力量は最大値に変更したはずなのになぜか60になっている。
また最大値にしなくてはいけないな。
前回のようにイメージして魔力量を最大値に変更し直す。
魔力量が最大値になったところで、今度はスキルを確認してみる。
ルイは集中し、スキルの詳細をイメージする。
何度もやったことがあり、その感覚を覚えているため今度もすぐに成功した。
見慣れたスキル詳細を確認すると、そこには少しだが変化があった。
スキル 《転生∞ ――死後何度でも転生する・????》 階級ゴッド 熟練度1
《デスイーター ――生まれてから死ぬまでに一度だけ死んだ者のスキルを奪うことができる》 階級アブノーマル 熟練度1
《魔鎧強化 ――魔鎧の強化が可能になる》 階級ノーマル 熟練度3
デスイーターは分かる。しかし、転生∞と魔鎧強化というのが新たに加わっていた。
一番上にあるということは転生∞というのが元から持っていたスキルで、全て見ることができなかったあのスキルなのだろう。
問題はスキルのその効果だった。
死後何度でも転生する?
……つまり、時を遡り赤ん坊の頃に戻ったわけじゃなく、転生してまた別の赤ん坊として生まれ変わったということなのか?
その事実を知るとルイは絶望のどん底に叩き落された気分に打ちのめされる。
嘘だ……。
父さんは、母さんは、レンスは、リズは一体どうなったんだ!
村はあの後どうなったんだ!
こんな仕打ちあんまりだ!
泣きわめこうとしても口からは赤ん坊の泣く声しか出てこない。
その泣いている声を聞き、何かを勘違いしたのか誰かが近づいてくる気配がする。
今度の人生の母親なのだろうか。
近づいてきてルイを抱き上げると泣き止ませようとしているのか体を揺らしてくる。
ルイはほっといてもらおうと手で払いのけようとするが、まだ力がないため払いのけることができない。
前世の感覚を思い出し、魔鎧を発動させようとするが、今は精神が安定していないため発動させることができない。
ルイは今すぐにでも残された家族がどうなったのかを知りたいのに、この環境がそれをさせてくれない。
とにかく、落ち着いて今起きている状況を整理しよう。そうしないと家族を助けることもできない。
ルイは無理矢理自分の気持ちを落ち着かせ、冷静になろうとする。
しかし、脳裏には家族がどうなったのか、そのことだけが浮かんでくる。
……だめだ。落ち着いてなんかいられない。
ルイにとっては意識を失う前のことだからつい先ほどのことのように感じている。
すぐにでもあの惨劇を鮮明に思い出せるほど目の奥に焼き付いている。
けれど今のルイにできることは情報を整理することしかない。
なんとか気持ちを落ち着かせると情報を整理しようと試みる。
ルイを掴み上げていた母親と思われる人は、泣き止んだと思ったのか元いた場所に降ろす。
そう、まずはここからだ。
村で死んでまた転生し、別の人の子どもとして赤ん坊からやり直すことになってしまった。
そして、転生前にスキルを使ったことにより、スキルを司祭の死体から奪い、魔鎧強化という新しいスキルを手に入れた。
このスキルの情報を整理しよう。
デスイーターで奪いとったスキルは元の持ち主が持っていた時と同じ状態で俺のものになるのだろうか。
熟練度が3になっている。
そして、スキルを使ったからなのか、最初に神から授けられたスキルの表示が一部を除いて見えるようになっており、転生∞とデスイーターの熟練度も1に上がっている。
この二つのスキルは使用回数がそのまま熟練度に繋がっているのだろう。
しかし、熟練度が上がるとどんな効果があるかまだ分からないためスキルについては今はここまでだ。
次は、俺の今の状況を確認したいと思う。
まずは赤ん坊になっているのは分かる。
問題は今、俺がどこにいるのか分からないということだ。
スキルがあったり、魔力量が分かったりするということは、俺が再び転生した先は別の世界ということはないだろう。
この転生∞スキルが同じ世界に転生するものならまだ望みがあるからいいだろう。
問題は、王国内に転生しているかどうかだ。
村があったのと同じアークドラン王国内だったら、情報も入ってくるため村がどうなったのか知ることもでき、対策も取りやすい。
しかし、アークドラン王国以外にも存在するであろう他の国々に転生していたら、確認するために様々な障害が立ちふさがる。
そのため俺はアークドラン王国内に転生している方が都合がいいが、このことについては今の俺には願うことしかできることはない。
そして俺が今寝転んでいる所だが、前回と同じで柔らかい布団のような所に寝かされているということは分かるが、その柔らかさが前回よりももっと柔らかい感じがする。
前世。いや、もう前世のさらに前世か。
その時に寝転んでいたベッド並みの柔らかさだと思われる。
この世界の文化レベルでこの柔らかさを出すのには相当お金がかかるはずだ。
つまり、俺が転生した先は金持ちの家なのか?
ルイはそんな推測を立ててみる。
どうにかして、確認することはできないだろうか。
もしかしたら精神の安定した今なら魔鎧を発動することができるかもしれない。
ルイはより精神を落ち着かせると魔鎧を発動させる。
その感覚から魔鎧は無事発動することができた。
しかし、魔鎧の力でも目を開くことはできず、耳も聞こえにくいままだった。
せめて目を開くことさえ出来れば色々と状況を確認することができるのに……。
……いや、待てよ。
司祭から奪った魔鎧強化のスキルを使えれば、魔鎧の力を強化することができるのではないだろうか。
魔鎧の強化というのがどのような強化を指しているのか分からないがやってみる価値はある。
早速、ルイはスキルを発動させる。
『スキル・《魔鎧強化》』
スキルは無事発動された。
しかし、効果は発揮したのかどうかは現時点ではよく分からない。
試しにもう一度魔鎧を発動してみる。
だが、スキルを使う前と後で何も変わった感じはしなかった。
もしかしてと思い、魔鎧の発動時により魔力を込めてみる。
すると、先ほどでは開かなかった瞼が開き、何も見えなかった状態から視界が開けた。
これでこのスキルのことがある程度分かった。
魔鎧強化という名前だが魔鎧の強度とかを強化するわけではなく、以前に通常時より魔鎧に込める魔力を多くしたときに身体能力を操作しきれなくなったが、それを操作できるようになる効果があるみたいだ。
このスキルは魔力量が多い俺にはありがたいようなスキルだが、前の持ち主の司祭はどのようにして使っていたのだろうか。
一瞬だけ爆発的な力を出していたのだろうか?
とにかく、スキルと魔鎧を駆使して目を開くことができた。
他にも体も動かすことができるし、耳もちゃんと聞こえる。
なんなら喋ることすらできそうだ。
色々と達成できたことの喜びで気づいていなかったが、目が見えるようになったルイは天井をよく見てみると、見知らぬ明らかに木造建てではありえない天井がそこにはあった。
魔鎧の力で強化された体で上半身を起こし、周りを見渡してみると、そこにはこの世界に来てから今まで見たこともないような綺麗な部屋があった。
この綺麗な部屋を見てルイはつい心の声を口にしてしまう。
「この綺麗な部屋は俺の部屋なのか?」
フーリエ家の部屋でも前々世とも比べ物にならないほどの綺麗で豪華な部屋に驚き、唖然としてしまう。
もしかすると、俺は思ってた以上の金持ちの家に転生してしまったようだな。
今の自分が置かれた状況を知り、ルイはようやく希望が見えてきた気がした。