14話 与えられるもの
眩しい太陽の光と共に、今日も新たな一日が始まる。
ルイは両手でまだぼやけた目をこすり、目を覚ますためにまだ小さな両手で頬を叩くと、ペチッといい音が鳴った。
明るさにも目が慣れてきてようやくベッドから這いずり降りる。
まだ目は完全に覚めてはいないのか、少し眠たげな表情のまま朝食を食べに行く。
するとそこには既にルイ以外の家族が集合していた。
「おはよう、みんあ。今日は早いね」
ルイは少しあくび交じりになりながら家族にあいさつをする。
「おう、おはようルイ。どうした?まだ眠いのか?」
「うん。眠いよお父さん。僕が朝弱いのはいつものことだからね」
ラルバートは食卓につき、既に朝食をとっている。
家族みんなが食卓についているためルイもとりあえず、座ることにする。
ルイの目の前に同じくまだ眠そうで、食事にも手をつけずに目を瞑ってただ座っているレンスが口を開く。
「おう……。……おはよう…ルイ」
「おはようレンス兄ちゃん。まだ、僕よりも眠そうだね」
レンスはおはようとあいさつだけするとまた座ったまま黙り込んでしまった。
「ほんとレンスとルイは朝弱いよね!私を見習いなさい!」
こんな朝からハイテンションなリズが、元気な声でルイとレンスに向かって胸を張りながら言う。
そういえば、いつからかリズはレンスのことを呼び捨てで呼び始めた。
最近そのことに気づいたが、そういうお年頃なのだろうか?
リズももう10歳であるため、呼び方について何か思うことがあったのだろう。
ルイもこの世界に生れ落ちて二年目に突入していた。
意外と短いようで長いようなそんな微妙な感覚だったが、結構充実していた二年だったと思う。
主に、情報収集の方向で。
今日はそんな二年目ということだが、ルイにとって二年目ということでもあり、姉であるリズはちょうど10歳になるという記念すべき年なのだ。
こんなに朝早くに家族全員が集合しているのは滅多にないが、リズがスキルを与えられるために教会に行くおめでたい日ということで全員が朝から集合している。
そのため、朝に弱いレンスですらルイよりも早く起きているのだ。
今回はレンスの時と違い、ルイも外に出ることができるようになり、スキルを与えられる祝いの日の様子を教会まで見に行くことができる。
折角だからということでこうして家族全員で教会に向かうということになったのだ。
「リズ、あなたももう10歳なんだから静かに食べなさい!嬉しいのは分かるけれどそんなにはしゃいでいるとスキルを貰った後に喜ぶ元気が無くなるわよ。それに食事中に騒がしい子はスキルを与えられなくなるかもよ!」
「もう、お母さんったら!せっかくのスキルを与えられる日なのにそんなこと言わないでよ!」
「あら?リズもレンスの時に同じこと言ってたのをお母さんは真似しただけよ?」
「そ、そんなこと覚えてないし!」
リズは自分の過去の発言を思い出したのか少し大人しくなるも、ローズが笑っていたことで、自分がただからかわれたことを知ると、そっぽを向いて拗ねてしまった。
拗ねたリズの機嫌を直そうとするローズとそれを見て微笑んでいるラルバートに、まだ眠くて目が開いていないレンス。
そんな仲のいい家族の景色を見れたのもこの世界に来れたからこそだろう。
ルイは前世の幼少期の家庭では、こんな幸せそうな家庭で過ごすことはできず、一度でいいからこんな温かい家族に囲まれてみたいと思っていたが、この世界でその夢のような家庭に囲まれることができて幸せな気分を日々感じていた。
今もそんな幸せを感じながら家族の様子を見ていた。
「レンスとルイもそろそろ食べなさい!リズが教会でスキルを与えられる姿を見に行けなくなるよ!」
「「はーい」」
ローズに言われ、二人仲良く返事をするとようやく朝食を食べ始める。
ルイは感傷的な気分になっていたが、ローズの言葉によりすぐに現実に引き戻された。
やっぱりすぐに感傷的になるのは前世の頃から変わらないな、と自分のことなのにどこか面白く感じてしまう。
「さあ、みんな食べ終わったか?準備ができ次第、教会に行くぞ!」
やっとのことで食事を終えたルイとレンスに対しラルバートが言う。
食事が終わるころにはルイもレンスもようやく目が覚めたのか、普段通りの顔をしている。
スキルを与えられる人以外は教会の外で待っているだけだが、それでもルイにとっては始めての体験なので、普段より急いで出かける準備を進める。
準備を終えると、家族全員で家を出て教会に向かう。
よく考えるとこうして家族全員で出かけるのは、ルイが喋れるようになった時の村への挨拶回り以来じゃないだろうか。
そう考えるとやはり、一年というのは長かったようにも感じる。
ルイが考え事をしていると、あっという間に教会に到着した。
教会に着くとそこには既に何組もの今年で10歳になる子どもたちと、その家族と思われる人々が集まっていた。
子どもたちは皆、スキルを与えられるのを楽しみにしているのか笑顔で、その時間が来るのを今か今かと待ち構えていた。
家族の方もスキルを与えられるのを楽しみにしており、一体どんなスキルを与えられるのかを話し合ったりしていた。
もちろんフーリエ家も他の家族と同じで、時間が来るまでリズがどのようなスキルを与えられるかを話していた。
「スキルは自分では選べないけど、リズは一体どんなスキルを望んでいるんだ?」
「そうだなぁ……。私はお母さんみたいな家事がうまくなる家事スキルはありふれているから、もっと多くの人のために役立つようなスキルを与えられたらいいなって思ってるんだ!」
「そうね、お母さんの家事スキルは私達一家にしか役に立っていないものね……」
「そういう意味で言ったんじゃないよお母さん!!」
「冗談よ冗談。リズらしくてとてもいい考えね。あなたならきっとその願い通りのスキルを与えられるわ」
スキルを与えられるという大事なイベントを前にリズが緊張しているのを見抜いてか、ローズが冗談を交えることでリズの緊張をほぐす。
流石は母さんだな。
子どものことはなんでもお見通しで、こんな細やかな気遣いを見せることもできる。
こういう小さい所で母親という存在の偉大さを感じる。
話している間に時間が来て、教会の扉がゆっくりと開かれる。
徐々に開いていく扉に集まっている人の視線が集まる。
扉が開いていく様子はどこか神聖さを感じさせ、見ている人々の視線を放すことは無い。
普段、神に祈りを捧げる人達が来るため、当たり前のように毎日開いている見慣れた扉だが、今日はその扉が何か特別なもののような感じがしてしまうのはルイだけではないだろう。
実際に周囲の人達は、皆何かに取りつかれているかのように扉だけを見つめている。
完全に扉が開くと、司祭がゆっくりと階段を下りてきて集まっている人々に聞こえる声で発す。
「今日、神よりスキルを与えられる皆さん。お時間になりました。教会の中へお入りください」
そう一言だけ言うと教会の中へと戻っていく。
司祭の後に続くように、周りにいた子供たちは家族の元を離れ、一人また一人と教会の中へと入って行く。
「それじゃ、私も行ってくるよ。どんなスキルを与えられるか楽しみにして待っててね!」
すっかり緊張の解けたリズは、晴れやかな顔をして教会の中へと向かって行った。
子ども達がいなくなり、教会の周りには残された家族達が心配そうに教会を見守っている。
やはり、スキルはこれからの人生に関わってくるため、自分の子どもがどんなスキルを与えられるのか不安になっているのだろう。
ラルバートとローズもドキドキしているのが周りから分かるくらい緊張した面持ちで教会を見つめている。
レンスも自分の時を思い出しているのか、必死になって教会の扉が再び開くのを待っている。
そんな周りを見ていたらルイまでだんだんとドキドキし始めた。
「もしかしたら、神童物語のようなことが今この場で起きるかもしれないのか」
教会が急に眩い光に覆われるという伝説の一瞬をこの目で見ることができるかもしれない。始めての体験だからそんなことまで考えてしまう。
そんなことを考えると尚更ドキドキしてくる。
一時間ほどが経ち、待っている人たちに疲れも見えてきたころ、ようやく教会の扉が開いた。
教会の中にいる子どもを今か今かと出てくるのを待っていた人たちは皆、扉の方に視線を向けた。
「今年も無事にすべての子供たちがスキルを授かることができました。それではみなさん、神のご加護がありますように」
教会の中からは最初に司祭が出てきて、一言だけ言うと再び教会の中に戻っていった。
司祭が戻ると続々と子供たちが出てきた。
子供たちは待っていてくれた家族の元に戻ると、自分がどんなスキルを与えられたかを嬉しそうに話している。
フーリエ家もリズが出てくるのを待っていると、出て来る子ども達の最後の方に教会から出てきた。
リズはキョロキョロと見まわし、ルイ達家族を見つけると一目散に走ってきた。
近くまで来ると急ブレーキをかけて止まる。
走ってきたが息を切らしていない所を見ると魔鎧を使っていたのだろう。
「お疲れリズ……。ところで、スキルはど、どうだった?」
四人を代表して緊張した面持ちでラルバートが聞く。
単刀直入に聞く父さんだが、みんな気になっているため唾を飲み込みながらリズの返答を待つ。
ラルバートの質問に対し、リズは下を向いて黙り込んでいる。
もしかしたら、悪い結果だったのかと誰もが思った瞬間、
「バーン!!私が与えられたスキルはこれでした~!」
そう言うとリズは教会でスキルを与えられた時にもらってきたであろうスキルシートを見せる。
その紙をのぞき込むと、当たり前だがそこには文字が書かれていた。
スキル《縫合 ――何でも縫い合わせることができる》階級スペシャル 熟練度0
スキル縫合。
何でも縫い合わせることができるスキルは色々な使い道がありそうでもあり、前世で外科医や服飾関係の人が持っていたら役に立ちそうなものでもある。
さらに階級がスペシャルであり、ルイの知っているノーマルとアブノーマルよりも階級が上のスキルであることが予想できる。
ルイが一人で興奮していると、他の三人は体を震わせ、スキルシート見たままの状態で黙り込んでいた。
三人の様子を不思議に思っていると、突然、喜びの声を上げ始めた。
「リズ!!凄いなお前!!階級スペシャルのスキルじゃないか!!」
「よかったわねリズ!!お母さんもビックリよ!!」
「リズがスペシャル……。俺はノーマル……」
若干一名落ち込んでいる人がいるが、両親はとても喜んでいる。
父ラルバートはとても興奮しているのか、リズの肩を両手で掴み、前後にリズの首が折れそうなくらい振り、その後両手を掴んで回り始めた。
母ローズもその姿を見ながら泣いて喜んでいる。
レンスは自分よりも上の階級のスキルを与えられたのがショックだったのか、一人で空を見上げながら何かブツブツとつぶやいている。
「お父さんもお母さんも嬉しいのは分かったからひとまず家に帰ろう!ね?」
スキルを与えられて一番うれしいはずのリズが何故か、興奮している人達をなだめる側になっている。
それに周囲の人々がはしゃいでいるこちらを見ていて恥ずかしそうにしている。
「そうだな!ひとまず家に帰ってそれから話すか!」
「そうね!そうしましょ!今日の晩御飯はごちそうよ~!」
話がまとまったようで、家に帰ることになったが、皆が歩き始めてもまだレンスはその場にボーっと突っ立っていたためラルバートが首根っこを掴んでそのまま引きずっていく。
ルイもリズに聞きたいことがたくさんあるため早く帰ろうと急かす。
こうしてフーリエ一家は教会を後にし、帰路についた。