表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生後に繰り返す転生  作者: 久遠 甲斐
13/82

13話 歳の離れた友人

 生い茂る木々の幾重もの葉によって光が遮られた暗い森の奥地。

 そんな光の差し込まない空間の中、木々の間を歩いていく黒い影があった。

 その影は暗い森の中、自らの行き先を知っているかのように一方向へと向かって、ゆっくりとゆっくりと歩いていく。

 影が通った後に残る木々の周辺はより一層暗いものへと変化し、光の存在を一切感じさせることはない。

 どんどんと歩いた後が黒く染められていくその様は、森が闇に飲み込まれていくように見える。

 それでも影はその歩みを止めない。

 

 歩んでいく途中で同じような黒い影と合流を繰り返しながら、どんどんとその歩みを進めていく。

 歩んだその先にある何かを目的にしているかのように。


 ◇


 大量に買ったはずの本をすべて読み終わってしまった。

 流石にこの量を読み終わるのには時間がかかってしまうと思っていたが、ルイの想定していたよりは早く読み終わった。

 始めは徹夜する勢いでどんどん読み進めていたが、夜遅くになると自然と眠くなってしまうため、一日に読める本は前世に比べて自然と少なくなってしまう。

 一応魔鎧(まがい)を使いながら読んでいたため、手の疲れや同じ姿勢でいることの苦痛や疲れなどは回避していたが、それでも眠気だけは魔鎧でもどうすることもできなかった。

 それでも魔鎧のお陰で一日あたり読める冊数も想定よりは多く、一週間もかからずに全部読むことができた。


 ルイは買った大量の本を読んで、この世界についての新たな知識を色々と得ることができたと言えるだろう。

 しかし、買った本の分野に偏りが多くみられたり、情報の信憑性がいまいちだったりと、まだこの世界特有のことについて全てを知れたとは言い切れない。

 そのため、本を読んだだけでは知りうることができなかった足りない知識を補いに行こうと思う。


 

 ルイは知識を与えてくれるであろう人の下に行くために、この数日間本を読むために籠っていた家から出ることを決意する。

 ラルバートとレンスは今日も狩りに行っているため、今、家にはルイの他にローズとリズしかいない。

 

「母さん、リズ、少し出かけてくるからね!夕飯までには帰ると思うからよろしく!」

「あら?もう家で本を読むのは飽きちゃったの?とにかく気を付けて行ってらっしゃいね!」

「行ってらっしゃいルイ!そうだお母さん私も後で出かけてくる!」


 二人に出かけてくることを伝えると玄関に行き、扉を開ける。


 外に出ると、久々に見る気がする太陽が眼球を焼いてしまいそうなほど眩しく感じる。

 ルイは顔を手で隠すと、太陽の光に目を慣らしながらゆっくりと歩き出す。

 南の方へと歩き出したルイは、多少整備されているものの、でこぼこしている道をまだ慣れない足取りで歩いていく。

 

 慣れない足取りながらも南門の近くまであっという間に辿り着き、門付近で一度立ち止まる。

 周りを見渡し、呼び起こした記憶をもとに一軒の家の前まで歩き、家の前まで来るとその歩みを止める。

 ルイは扉の前に立つとその小さな右手で扉を三回ノックした。

 すると、ノックしてからすぐに野太い声と共に扉が開いた。


「おう、神童!久しぶりだな!とりあえず中に入れ!」



 中に入り、扉を閉じるとそこには人一人が住むには広すぎる空間が広がっていた。


「久しぶりだねジェイク。元気にしてた?」

「神童、よく来たな!前回会った時より背が伸びたか?少し大きくなってる気がするぞ?」

「そんなにすぐに大きくならないよ。ジェイクこそまた大きくなったんじゃない?」

「こんな老人が大きくなるわけねえだろう?これ以上大きくなったらこの家がさらに狭くなっちまう!」


 この家は一人で住むには広いと思ったが、ジェイクが家の中で動いているのを見るとジェイクの巨体からちょうどいいくらいの広さに見えてくる。

 ジェイクの言う通り、これ以上大きくなったら家の中で身動きしづらくなってしまいそうだ。

 成長したジェイクが家で窮屈そうに過ごす姿を想像してルイは吹き出してしまう。


「ん、なんだ?そんなに面白いことでも言ったか?」

「ごめんごめん!ジェイクの言ったことを想像したら面白くてさ」

 

 ルイの返答にジェイクは笑うと、その巨体を大きなソファへと沈める。

 ルイも勝手に近くにある椅子を引っ張り出して座る。

 身長が足りないため、座ると足が宙に浮いてしまうがそこは気にしない。


「ところでお前さん今日は何しに来たんだ?俺はこんな老人だから暇しているからいつでも歓迎だけどよ!」


 また大きな声でガッハッハと笑う。

 

「実は昨日まではこの前行商人から買った本を読んでいたんだけどさ、やっぱり本だけじゃ分からないことがあるから今日はそれをジェイクに聞きに来たんだよ。」

「なるほどなぁ?俺も伊達に長年生きてないからお前さんが知らないことを色々と知っているとは思うが、問題は何から話すかなんだよなぁ……」

「じゃあさ!王国のことは本に載ってたから、今度は王都のこととか冒険者のことについて教えてよ!」

「王都のことかぁ……。俺は王都を拠点に冒険者をしていただけであって王都にあまり滞在してなかったから、正直あまり王都のことは詳しくは知らないが、知っている範囲の知識だけなら教えてやるよ!ついでに俺が冒険者になるまでの話もな」


 ジェイクは真っ白に染まった顎髭を撫でながら、何から話そうか考えているのか上を見上げる。



 ◇



 まず、アークドラン王国の王都はジ・アークって言うんだが、ここはこの国の中で最大の都市だ。

 他にもそれなりに大きな都市はいくつかあるが、王都には人の数でも広さでも敵わないな。

 王都の広さはそうだな……。どんくらいって言えばいいんだろうな。

 王都は巨大な城壁によって囲まれているんだが、その城壁の周りを若い頃の俺の足で歩いて一日かかるくらいだな。もちろん休まずにだぞ?

 城壁の高さも他の都市と比べると段違いでめちゃくちゃ高い。どのくらいかと言うと、城壁の一番上まで見ようとして見上げ続けていると首が痛くなるくらいだな。

 城壁が高いくらいだから、王都に入るための門も物凄くでかくて、俺が初めて王都に行った時はそのでかさに口をあんぐりと開けて驚いたもんだ……。

 いやぁ、懐かしいなぁ。


 王都って名前通り、ここにはこの国の王様とその他にも領地を持たない貴族とかが住んでいる。

 王様が住んでいるのはもちろん中心にある王城で、中心から城壁に向かうにつれて住んでいる人の身分は低くなっていく。

 まあ、王様と貴族よりもそれ以外の人数の方が多いから、俺らみたいな平民が住んでいる場所の方が広いけどな。

 

 王様が住んでいるくらいだから王城はもちろんだが、王都に入るのですら厳しい条件がある。

 まずは王都に入るためには四方にある馬鹿でかい門から入んなきゃいけねえが、そこには警備隊の門番が大量にいて検査をしている。

 持ち込もうとしている荷物は全て厳重な検査を何重にもされ、そこで何もなければようやく王都の中に入ることができるって感じだな。

 けど入るとまた、そこでも驚きに包まれるな……。

 他では見たこともないようなたくさんの家や何かしらの店が綺麗にずらっと並び、そこらじゅうきちんと整理されており、道路なんか今まで見たことがないくらい綺麗に整っていて、あれには感動さえ覚えたな。

 

 宿とかも一番安い所でさえも凄い設備が整っていて、初めて泊まった時はふかふかのベッドやおいしい食事に驚いたもんだ……。


 

 俺は王都で冒険者になろうとして、王都に着いた次の日に冒険者ギルドに向かったんだが、王都は広いせいか冒険者ギルドが東西南北に4つ存在していて、最初は4つのうちどこで登録した方がいいのか迷ったな。

 どこで登録するか決めた後なんだが、王都が広すぎるせいで道に迷ってしまい、中々辿り着けなかったんだ。

 俺はやっとの思いで冒険者ギルドに辿り着いてみると、冒険者ギルドはとてもでかい建物で、誰でもすぐに分かるくらい目立っていた。

 なんで俺はすぐに見つけられなかったんだろう、と思いながら苦笑した。

 

 冒険者ギルドの扉を開けるとそこにはたくさんのいかにも冒険者という格好をした人がいて、みなそれぞれ好きなことを話あっているのか、かなり賑やかだった。

 冒険者になるにはまずは冒険者登録をする必要があるため、俺は初めて見るものばかりな周囲をチラチラ見渡しながら受付カウンターに近づいていった。


 カウンターに近づくと、そこにはギルドの職員と思われる人が大量の人の列をさばいていた。

 俺もその人の列に並ぶが、ギルド職員の仕事が早いのかあっという間に順番が回ってきた。

 俺の並んでいた列の担当の職員は美人なお姉さんで、……あの時は内心やった、って思ったな。

 職員のお姉さんが俺に声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?依頼のご報告でしょうか。それとも依頼のお願いでしょうか?」


 まだ若かった頃の俺は少し緊張しながら冒険者登録をしに来たと伝えた。


「冒険者登録ですね?それではお名前とスキルをお教えください」


 自分の名前とスキルを職員のお姉さんに伝えると今の内容を紙に書いていき、ハンコを取り出し紙に押した。


「こちらの内容でお間違いないでしょうか?」


 内容を書いた紙を見せてきて確認を求めてくる。

 間違いがないと伝えると、紙をカウンターの裏に持っていき、しばらくすると戻ってきた。

 戻ってくる際に、持っていった紙の代わりに何やら小さな長方形のプレートを持ってくると、カウンターの椅子に座り、冒険者登録の際の注意事項を伝えられる。

 

「冒険者登録の際の注意事項をお伝えします。一つ目は、冒険者になった際、受けた依頼を無断で放棄することは禁じます。依頼を諦めたい時は必ず、冒険者ギルドのカウンターにて手続きをお願いいたします。この手続きをしないと、冒険者としての活動を停止させていただきます。二つ目は、全て自己責任になるということです。冒険者になると全て自己責任で管理していただくようになります。依頼者様との仲介役のようなこと以外は、何があっても冒険者ギルドは関わらないのでご注意ください。三つ目は、受けられる依頼は決められたランク以外は何があっても受けてはいけないということです。これも守らないと冒険者としての資格を剝奪させていただきます」

「最後になりますが、こちらのプレートをお渡しします。こちらのプレートは冒険者個人の情報が含まれており、冒険者ギルドをご利用の際は必ず使用するので紛失しないようお願いいたします。もし失くされた場合は、冒険者登録からやり直すことになるか、最悪の場合には冒険者として二度と活動できなくなるのでご注意ください」

「以上が冒険者登録の際の注意事項でございます。何か質問はございますか?」


 小さい頃から冒険者ってのは自由で気ままなもんかと思っていたため、最初にこの説明を聞かされた時にはビックリしたな……。

 自分の責任がかなり重要ってことが身に染みるほどよく伝えられたよ。

 しかも、職員のお姉さんが美人なのもあってか、その差でより怖く感じたな。

 絶対、冒険者を志して冒険者ギルドにまで来た少年に話すような話し方じゃなかったと思うぜ?


「質問が内容でしたら、次にランクの説明に入ります。冒険者にはそれぞれランクが定められており、下から、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの四つになります。それぞれのランクはさらに四段階に分かれており、例えば、下からブロンズ4、ブロンズ3、ブロンズ2、ブロンズ1となっております。冒険者登録を終えたばかりだとこのブロンズ4からのスタートになり、依頼を受けていくと段々とランクが上がっていくようになります。ランクについての説明は以上になります。より詳しく知りたい場合は後程、依頼を受けた際にお聞き下さい」

 「これで冒険者登録は終了です。これからあなたも冒険者として責任が問われますのでご注意ください」


 ◇


「まあ、王都の話と冒険者になるまでの話はこんなもんだな。どうだ?お前さんの聞きたかった話は聞けたか?」

「う~ん……。王都の話も冒険者の話もだいぶ聞きたいことは聞けたけど、冒険者って結構厳しそうな感じなんだね」

「まあ、俺も最初はそう思ったがな。案外自由だったぞ?」

「そうなんだぁ。僕も将来どうなるか分からないから今日は良い話を聞かせてもらったよ!」


 ルイ自身の将来がどうなるかはまだ分からないが、今後のことを考えると本当にためになる話ばかりだった。

 それに本ばかり読んで知識を得るよりも、人から聞いたことの無い話を聞くことも久々で楽しめた。


「おうっ!老人の長い話をこんなに集中して聞いてもらえるとは思ってなかったぜ!」

「また、他の話を聞かせてね。じゃあ、そろそろ帰らないとお母さんに怒られるからこの辺で」

「またな、いつでも来いよ」

「じゃあねジェイク」


 ジェイクはルイと一緒に玄関を出ると、ルイの姿が見えなくなるまで外で見送ってくれた。

 ルイも時々振り返りながら家までの道を歩いていく。

 やがて、ジェイクの姿が見えなくなると、ルイは家族が待つ家に向かって駆け出して行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ