24話 グローリアという男
誤字報告、いつもありがとうございます。
マイザー王国がミーレル鉱山に挙兵したと聞いて三日経ちました。
鉱夫さん達のエラールセへの避難の受け入れの準備も終わり、鉱夫さん達の鉱山の清掃も終わったそうなので、今日から転移が始まります。
百人以上いた鉱夫さん達は、鍛冶ギルドの職員さんに二列に整列させられて、二人ずつ転移魔法陣でエラールセに転移しています。
本来の魔法陣であれば一人ずつしか転移できず、かつ一人送る度に十分から二十分は時間を空けないと次の転移をする事ができません。
しかし、転移魔法陣はどうしてこんなに時間がかかるのかと思った私は、自分の使う転移魔法を参考に、新たに魔法陣を書き上げました。その結果、魔法陣の大きさにより二人同時に転移が可能になり、時間も一分以内に次の転移が可能になりました。
これにより、当初はかなりの時間を使う予定だった転移が二時間ほどで終える事ができました。
「レティシア、この魔法陣は凄いな。もしかしたら、これを商売にできるかもしれないぞ?」
「そうなのですか? 私は自分の転移魔法をそのまま魔法陣に書いただけですよ」
「それが凄いんだよ。お前は相変わらず自分のやっている事が良く分かっていないんだな」
「はぁ……? そういうモノなのですか?」
「そういうもんだよ」
私とドゥラークさんは次々に転移されていく鉱夫さん達を見送っていたのですが、ドゥラークさんが私の姿を見て苦笑いを浮かべています。
「なんですか?」
「しかし、お前の鉱夫姿は違和感しかねぇな。そもそも、マイザーが攻めてくるのはあと三日後だろ? なんで、もう鉱夫姿になっているんだ?」
「え? この場所に馴染むためですよ。最近、ギルガさんがうるさいので大人しくしているフリをしているんです。鉱夫姿が馴染んでおけば好き勝手に動いても怒られませんし」
「大人しくするフリって何だよ。お前、ギルガの旦那にチクるぞ?」
「そ、それはずるいです。そ、それよりも、ドゥラークさん。なぜか疲れていませんか?」
「まぁな。鉱夫を説得するのに疲れたんだよ」
「なぜです?」
「マイザー王国はこのミーレル鉱山を売り飛ばしているだろう? それで鉱夫達は「今更マイザー王が鉱山を欲しがると思えない」と言って挙兵した事を信じなかった。鍛冶ギルドの奴も説得するのを苦労したみたいでな……。結局は脅す事にしたんだ……」
「脅すですか……」
「あぁ。鍛冶ギルドの言う事を聞けない奴は、今後鉱山での仕事を受けさせないってな……。本来はこんな事を言ってはいけないんだが、いざ、戦闘になったら邪魔になるからな」
「そうですね。とはいえ、転移魔法陣がある以上、マイザー軍が攻めてきた後でも逃がす事は可能でしょうけどね」
「それはできない。マイザーの連中に転移魔法陣の事を万が一にでも知られてしまえば厄介になるからな」
「なぜです?」
「鍛冶ギルドや鉱山が転移魔法陣を持っていない事を知らない国はない。それなのに鉱夫が転移魔法陣を使っていたらおかしくなるだろう? 普通ならば、どこかの国が介入していると気づく」
「そうなのですか?」
「あぁ。だから、グローリア陛下も俺達に鉱夫に変装させるんだ」
しかし、マイザー軍の連中を皆殺しにするのですから、問題ないと思うのですが……。まぁ、良いですけど……。
おや?
何やら不穏な気配を感じますね。
「どうした?」
「本部隊は森を抜けたくらいなのですが、先遣隊か何かは知りませんが、数人こちらに近付いていますね。山のふもとにまで来ています」
「不味いな。エラールセの兵士もギルガの旦那達もまだだ。鉱山に鉱夫がいない事がバレるかもしれないな」
確かに、そこがバレてしまうとすべての計画が水の泡になってしまいます。
どうしましょうか……。
そうですね。
「私が蹴散らしてきます。私なら死体を焼き尽くせますからね」
「死体の処理を困っているんじゃない。先遣隊が戻らないのをおかしいと感じるかもしれないから殺すわけにいかないんだ」
「なぜです? 帰ってこなくても、返り討ちに遭ったと考えませんか?」
「いや、相手は鉱夫だし、先遣隊はそもそも情報を集めるために来るから戦わない」
「そうなのですか? どちらにしても殺すしかないでしょう?」
「し、しかし……」
「俺にいい考えがある」
はて?
ここにいてはいけない人の声が聞こえたのですが?
私とドゥラークさんはゆっくりと振り向きます。
「よぉ。ドゥラークは久しぶりだな」
「どうして、あんたがここにいるんだよ!?」
私達の後ろにいたのは、グローリアさんでした。
「グロ―リアさんがどうしてここにいるんですか?」
「ん? 今回の作戦に俺も参加するからだよ」
「はぁ!? エラールセ皇王が何考えてんだよ!?」
「おいおい。ドゥラーク、大声で俺の正体をばらすんじゃねぇよ。大体よ、最近暴れてねぇから運動不足なんだよ」
「いや……そういう問題か?」
王様というのは運動不足を理由にして前線に立つモノなのでしょうか? まぁ、小さい事は気にしませんが……。
「それで、先遣隊をどうしますか?」
「だから、俺にいい考えがあると言っているだろう」
「いい考えですか?」
「あぁ」
グローリアさんの考えというのは、私と一緒に先遣隊を皆殺しにしてスパイを送り込むという事でした。
しかし、一つだけ腑に落ちない事があります。
「なぜです? 殺すのなら死体が残らないよう焼き尽くした方がいいのでは? 結界を張って、その中で焼くので煙も出ないですよ?」
「殺すとは言ってないだろう。俺としてはお前に人殺しをさせるつもりは無い」
「何をいまさら言っているんですか? 私は今まで人間を散々殺してきましたし、これからも敵は殺しますよ」
「それはお前の考えだから否定はしないさ。ただ、俺の前では殺させないと言っているんだ」
「なぜですか?」
「お前が十六歳という事は知っている。だけど、お前の見た目は必要以上に幼い。そんな奴に人殺しをさせる王になりたくねぇんだよ。俺のエゴだな」
「はぁ……。結局どうしたらいいのですか?」
「とりあえず、お前も一緒に来い。気配は消せるだろう?」
「当然です」
私とグローリアさんは崖の上から先遣隊を見下ろします。先遣隊は岩などに隠れながら近付いているみたいです。ただし、気配は消せていませんから、そこそこ強い人ならば、この気配に気付きます。
「アイツ等だな。しかし、あんな雑魚を先遣隊に使うとは笑えるな。気配すら消せてねぇ……」
「そうですね。それで、どうしますか?」
「アイツ等を殺さず捕らえる事は可能か?」
「殺すのなら簡単です」
「だから殺さねぇんだよ。さっき言った事をもう忘れたのか?」
うるさいですねぇ……。
とはいえ、ここは素直に言う事を聞いておきましょう。
「覚えていますよ。それで?」
「それでって……。まぁ、いい。それで、捕らえる事は可能か?」
「以前の私ならば不可能と嘘を吐いていましたが、今は【破壊】があるので簡単です」
「ちょっと待て。何を破壊するつもりだ?」
「え? 脳ですが?」
脳を壊してしまえば何もできなくなり大人しくなります。いえ、死んでいるのと変わりませんね。
私が笑顔でそう言うと、グローリアさんは呆れていました。
「お前は発想がいちいち怖ぇんだよ。普通に捕らえてくれ。ただし外傷は避けてくれよ」
「なぜですか?」
「アイツ等が着ている服が必要だからだよ」
服……ですか。
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レティシアの鉱夫姿。お父さんの衣装を着てきゃっきゃ言うてる子供のようww




