22話 エラールセの介入
セルカのお屋敷に転移して戻ると、姫様とギルガさん以外の人達が待機している様でした。
レッグさんとリディアさんの二人は私の姿を見つけると、慌てて駆け寄ってきました。
「おい。レティシア、帰って来たのはお前一人か? ドゥラークはどうした?」
「はい。鉱山に残り、鍛冶ギルドの人と一緒に鉱夫さん達に説明などをするそうです」
「そ、それって、ドゥラークさんに危険はないの!?」
「マイザーがせめて来るまでは時間もありますし、大丈夫ですよ」
ドゥラークさんの事を話すとリディアさんは心配そうな顔をしています。安心してください。ドゥラークさんはリーン・レイの中でも私を除いて一、二を争う強さなんですから。
「ドゥラークが強いとはいえ一人では心配だな。俺もあっちに行っておくか?」
「いえ、マイザーの進軍速度を考えて、鉱山に到着するのが一週間後だそうです。先行部隊が来たとしてもドゥラークさんが後れを取る事は無いでしょう」
私がそう言うとレッグさんは、少しだけ残念そうにしていました。もしかして、戦いたかったのですか?
私達が話をしていると、奥の部屋からギルガさんと姫様が疲れた顔で出てきます。
「レティシア、帰ってたのか」
「随分と疲れていますが、どうかしたのですか?」
「あぁ。今、グローリア陛下と話をしていた。レティシア、陛下からの伝言だ。今日中に執務室の方に顔を出してくれとの事だ」
「はい?」
「グローリア陛下……いや、エラールセ皇国としても、今回のマイザー王国軍の鉱山進軍は無視できるものじゃないらしい。もし、ギルドの監視の目がマイザーから無くなれば、次に奴等が考える事は聖女の奪取だ。そうなれば、マイザーはエラールセにも挙兵するだろうからな。そうなれば二国間が戦争になり無駄な犠牲者が出る」
なるほど。
これは、マイザーは滅ぼした方が良いという事ですね。
しかもエレンを欲しがるとは、よほど滅びたいようですね……今すぐ滅ぼしましょうか……。
「まぁ、戦争になってしまえばそれは仕方ありません。それは良いのですが、リーン・レイとしてはこれからはどうするんですか? 私達は冒険者のパーティであって、エラールセ軍ではありません。転移魔法が使えると言った事の冒険者ギルドの見解はどうなのですか?」
転移魔法の使い手がいると知れば、それを利用して鍛冶ギルドの鉱夫達を避難させる事も、マイザー王国のギルドに人を送る事も全て可能になるはずです。
「そうだな。カンダタさんには『ギルドの総本部に転移魔法を使うレティシアという少女がいると伝えてくれ』と言ったのだが、カンダタさんが頑なに『それはできないし、俺は報告するつもりがない』と言われた」
「なぜカンダタさんは拒否をしたのでしょうか? 鉱山などどうでも良いと?」
「いや、カンダタさんも可能な限りはマイザーのギルドを通してマイザー王を説得しようと動いているから、見捨てるつもりじゃないらしい。お前を使いたがらないのはな……」
私が疑問を口にすると、ギルガさんは少し考えて私を見てため息を吐きます。
そして、何かを決意したような顔になります。
「これはカンダタさんの話になるが、お前にも聞かせておいていいかもしれないな。実は……お前は幼い頃、カンダタさんと会っているそうだ」
「はて? 会った事がありましたかねぇ?」
私は思い出してみますが、全く覚えていません。よく考えたら、どうでも良い事はすぐに忘れるので記憶力には自信はなかったです。
あ、エレンやカチュアさんの事は出会いから今までしっかりと覚えていますよ。
「お前はカススの町を覚えているか?」
「覚えて……いえ、私の記憶にそのような町はありません」
「……」
アレ?
ギルガさんが意外そうな顔をしていますよ? なぜでしょう?
「お前が母親を殺されて……初めて滅ぼした町だ」
ギルガさんがそう言うと、ギルガさん以外の人達が驚愕の顔をしています。
初めて滅ぼした町ですか……。該当するのは一つしかありません。そもそも滅ぼしたのは一つだけです。
あの町はカスというのですね。カスとはあの町に相応しい名前ですね。
「それで、そのカスという町はどうなりましたか?」
「カスじゃない。カススだ。あの町で、カンダタさんはお前を見て冒険者を引退する決意をしたそうだ」
「そうなのですか?」
私を見た……ですか。
あの町の人間は皆殺しにしたはずですが、生き残りがいたんですね。殺しておきますか? しかし、カンダタさんはギルドマスターでお世話にもなっていますし……。
どうしましょう?
「お前の笑顔が不穏だから一応言っておくが、カンダタさんはカススの町の住民じゃないぞ。あの人は調査であの町に行ったんだ。そこでお前を目撃したそうだ」
「なるほど。それで生き残ったのですか。それなら納得です」
「あぁ。それで、あの人は当時のお前を見ている事もあってな、お前の事を保護できなかった事を後悔して、ものすごく心配しているんだ……。あの人はお前には、殺伐とした世界に生きるのではなく、幸せになって欲しいと願っている。だから、お前の事を隠しておきたいんだろうな……」
なぜカンダタさんがそこまで思ってくれるのかは知りませんが、そこまで思われて悪い気はしませんね。
「カンダタさんについてはわかりました。それならこれからどうするのですか? ドゥラークさんは現地にいます。無理やり連れて帰りますか? ただ、恨まれると思いますが……」
「あぁ。それでグローリア陛下に相談したところ、あの方はノリノリでな。お前と是非話がしたいと言っていた。だから、さっきの伝言なんだ」
ノリノリですか。
そういえば、グローリアさんはマイザーを滅ぼす事には反対だった気がするのですが……。
まぁ、その事を含めてグローリアさんに会いに行ってみましょう。
「では、私は一度エラールセに帰ります。ギルガさん。何も無いとは思いますが、ドゥラークさんから連絡が来るかもしれないので連絡用の魔宝玉は手放さないでくださいね」
「あぁ。分かっている」
私は直接エラールセ皇国の王様専用の執務室に転移します。
「グローリアさん。夜分遅くに失礼します」
「おぅ。ギルガに頼んでおいた伝言を聞いてくれたか。ミーレル鉱山の事でどうしてもお前の協力が必要でな」
協力?
それは既に国として介入する事が決定しているという事でしょうか?
「まぁ、いくつか聞きたい事もありますが、まずは話を聞きましょう」
「あぁ。お前は転移魔法陣を書く事ができるか? いや、お前が転移魔法を使う事ができるのは知っている」
まぁ、転移魔法が使えるのならば、転移魔法に使う魔力を使った魔法陣を紙に特殊なインクで書けばいいだけですから、可能です。
「書けますけど、どうしてですか?」
「転移魔法陣は鉱夫の転移に使う。そして、転移魔法陣を二枚書いて欲しいんだ」
二枚?
一枚の使い方は聞きましたが、もう一枚はどうするのでしょうか?
「なぜ二枚なのですか?」
「鉱山にいる鉱夫は百人程度だ。百人程度の避難なら三日もあれば終わるだろう?」
確かに、一般的な転移魔法陣は結構な欠点があって、一回に一人しか転移できずに、しかも発動に時間がかかってしまいます。百人を転移させようと思ったら、それなりに時間もかかるでしょう。
「そうですね。でも、それが理由であれば魔法陣一枚で問題ないはずです。なぜ二枚も?」
「あぁ。もう一枚でエラールセ皇国軍、一個中隊百名を鉱夫に変装させて待機させるためだ。入れ替えを同時進行で行う為だな」
なるほど。騙し討ちという事ですか。
しかし、マイザー軍がどれほどのモノかは知りませんが、エラールセ軍はかなり強いはずです。そんな騙し討ちなどせずともマイザー軍程度なら返り討ちにできると思うのですが……。
「なぜ変装までして騙し討ちをする必要があるのですか?」
「あぁ。今回の事はマイザー国内で起こる事だ。エラールセは介入できない」
「できない? 介入を決めているじゃないですか」
「まぁな。今回は鍛冶ギルドに極秘で協力するという形にしてある。そもそも鍛冶ギルドが冒険者ギルドに依頼する事は可能だが今回は時間がない。だからといって、ギルドが国に依頼する事はできない。だから極秘なんだ」
「そういう事ですか……。しかし、なぜ、わざわざ鉱夫に変装するのですか?」
撃退するだけならば、皆殺しにすればいいだけです。
「マイザー王国には泥水を被ってもらおうと思ってな」
「はい? 鉱山に水でも放つんですか?」
はて?
泥水をかけただけで帰ってくれるのですか? それなら、随分と軟弱な軍ですよね。しかも鉱夫である必要はありません。
「物理的にじゃない。マイザー王国軍には鍛冶ギルドの鉱夫に撃退されてもらう。正規の軍が鉱夫に撃退されたとあれば、マイザー王国は下手にどこにも手を出せなくなる」
「なぜです?」
「ははは。鉱夫というのは普通は戦えない。そんな鉱夫に正規の軍が負けてみろ。軍にとっては恥以外の何事でもないぞ。もし他の所に仕掛けて再び撃退されてみろ。周りの野心を持った国がマイザーを手に入れる為に動いてしまう。そうなればマイザー王は聖女どころの騒ぎではなくなるからな!」
「そういう事ですか……。なら、その鉱夫の中に私も入りましょう」
私は楽しそうなのでそう提案します。
「あぁ、それをお前達に頼もうと思っていたんだ。あ、俺も一緒に行くつもりだ」
「はい?」
一緒に行く?
この人は何を言っているのでしょうか?
誤字報告、感想、いつもありがとうございます。




