閑話 高みの見物
今回の閑話もタロウ視点です。
俺は朝日で目を覚ます。
ここはマイザーから遠く離れた小さな国の宿屋だ。ここは朝方は寒いと聞いていたのだが、蒸し暑かった。その理由は俺の隣で寝ていたこの男だ……。
「おい。俺の部屋に忍び込むんじゃねぇよ」
「ふふっ。もう一月以上一緒にいるのにまだ私に心を許さないのね」
「許すわけねぇだろ」
こいつに襲われたのは初めて会った夜だけだったが、その日から毎日俺の部屋に忍び込んできやがる。当初は無理矢理毎日襲われてそっちの世界の扉を開かされると思ったが、アレは脅しだったのか?
「まぁ、良いわ。それよりも面白い噂を聞いたわよ」
「面白い噂だと?」
「えぇ。マイザーがミーレル鉱山に挙兵すると報告があったわ」
「鉱山に? マイザー国王はアホじゃねぇのか?」
確かあの鉱山は鍛冶ギルドに所有権を売り渡していたはずだ。それにもかかわらず挙兵したとなると、ギルドを敵に回す事になる。そうなれば国は終わる。
マイザー王は何を考えてやがる?
「アホなマイザー国王はミーレル鉱山を奪取するという理由を掲げているわ。自分で売り飛ばしたモノを奪取とは馬鹿以外のなんでもないわ。そもそも奪取しても鍛冶ギルドを敵に回すから、鉱石を手に入れても鍛冶師を雇えなかったら意味がないのにね」
「そうだな。しかし、マイザー国王はなぜ鉱山を手に入れようとしたんだ? 元は自分から売ったんだろう?」
「そうね。鉱山でミスリルを採掘できる事を、私がマイザー国王に報告したからじゃないの?」
ミスリルが採掘できるか。
確かに市販されている武器で一番高価で一番性能が良いのはミスリルの武器だ。オリハルコンの武器も存在はするが、滅多に市場には出回らない。
そのミスリルの鉱石が採掘できる鉱山の価値はかなり高い……。そこに目を付けたのか。
……しかし。
「結局お前が報告してんのかよ。鉱山が襲われたら鉱夫が無駄に死ぬんだぞ?」
「だから? 鉱夫の命なんて私には興味がないし、それに鉱山にレティシアちゃんがいるとの報告も聞いているわ」
「な、なに!? お、お前、レティシアを介入させたのか!?」
「そうよ。マイザーを確実に滅ぼすにはあの子を使った方が早いでしょう?」
「お、お前……。き、危険だぞ!?」
あの化け物を使う……。こいつには怖いものがないのか!?
「そうね。でも貴方にはSランクの本当の意味を教えたでしょ? 私には私の役目があるのよ」
「あぁ、まさかSランクにあんな意味があったとはな……しかし、レティシアもSランクなんだろう?」
「そうよ。あの子の場合はどういう意味でSランクなのかしらね」
「なに?」
「私の場合は【世界を撹乱させるため】……。他のSランクにもそれぞれの役目がある。あの子は【神殺し】これがどういう意味を持っているのか、これからが楽しみね」
「ふん。字の通り、神を殺すんだろうよ。なら、世界でも滅ぼすんじゃないのか?」
「ふふっ。それならそれでも構わないわ。こんな世界滅びても構わないもの……」
「あぁ。それも聞いたよ。クソっ。ジゼルの奴を生かしておくべきだったな」
アイツならSランクの事も詳しく知っていたかもしれねぇ……。ラロの奴はどこか含みを持たせてやがる。すべてを俺には教えてくれないのだろう……。気になる事が多すぎる。
気になる事と言えば……。ジゼルもSランクだったのか?
「あら? 魔導王ジゼルの事かしら? 私がいるのに他の女の名前を言うなんて、酷いわね」
「や、止めてくれ。ラロ、聞きたい事がある。ジゼルはSランクだったのか?」
「さぁ? 実際会った事は無いからね。まぁ、あの子の場合は自分の欲が勝っちゃったみたいだし、レティシアちゃんに喧嘩を売ったのが全ての間違いでしょう」
「間違い?」
「そうよ。あの子がもしSランクだったのなら、あの子の役目は【魔導の躍進】。まぁ、直接会っていないから見えたわけじゃないけどね。だから、あの子の取るべき行動は、貴方達をレティシアちゃんに売り飛ばし、レティシアちゃん側に付く事だったのでしょうね」
「それだと俺が死ぬんだが……」
「そうね。でも、そんな些細な事に何の問題があるの?」
「な、なんだと?」
「まさかと思うけど自分に価値があるとでも思っているの? 私にとって、今の貴方は体以外には価値がないのよ」
「くっ……」
こいつもそうだが、Sランクは他者の命を軽く見過ぎているのか?
こいつも、レティシアもジゼルも命を軽んじているところがある。
「ふふっ。私の前で隠し事はできないわよ。命を軽んじているのはその人その人の性格よ。私も命の重さくらいは知っているしね……ただ、貴方は私にとって奴隷と変わらないのよ」
ど、奴隷……。
怖すぎる……。
「と、ところでマイザーはどうなると思う?」
「ふふっ。話を変えたわね。そうね。流石にここからだと遠いから未来視はできないけど、マイザーは確実に滅びるでしょうね。今回の件でエラールセを敵に回すでしょうし」
「レティシアに喧嘩を売ったからじゃなく、エラールセなのか? どういう事だ?」
「レティシアちゃんが鉱山にいるのは偶然よぉ。私がやったのは冒険者ギルドに情報を流す事。当初の予定ではミーレル鉱山は滅び、これに対し鍛冶ギルドが怒り狂う。そうなればギルド連はマイザーから撤退する。マイザーは聖女を手に入れる為にエラールセに挙兵する。そうなればレティシアちゃんの怒りに触れる事になり介入すると思っていたのよ」
「はは。思惑が外れたのか?」
「ふふっ。結果的にはレティシアちゃんを巻き込めたのは良かったわ……無駄な血を流さずに済むからね」
「前にも聞いたが、お前はマイザーを滅ぼしたいのか?」
「これも前に言ったでしょ? 私は腐った国を滅ぼしたいと。それに……」
「あぁ。そうだったな」
こいつの役目は思っている以上に重い。
まぁ、俺としてはそろそろおさらばするつもりだがら関係ないのだがな。
「私達は遠いこの国で高みの見物をさせてもらいましょう」
「そうだな……。しかし、マイザー国王は本当にアホだったな」
「それはしょうがないわ。マイザー国王は貴方と同じで下半身に脳があるのだもの」
「誰が下半身に脳があるだ」
全く失礼な奴だ。
俺は純粋に女が好きなだけだ。
「ファビエで罪のない女の子を襲って楽しんでいた性犯罪者が偉そうな口きくんじゃないわよ。まぁ、いいわ。貴方は二度と女の子は抱けないし、こちら側の世界に来てもらうだけだから……。今日の夜からは楽しみにしておきなさい。本格的に調教してあげるわ」
「え?」
ラロがこの一ヵ月俺を襲わなかったのはもしかして……。
「ふふっ。考えている通りよ。安心させてから一気に絶望に堕として貴方の心もこちら側に連れて行こうとしているのよ。だから今日からは楽しみにしていなさい」
「ま、まて、こ、この国ならお前に保護してもらわなくていいはずだ……」
「何を言っているの? 力を無くした貴方如きが私から逃げられると思っているの? 貴方がこれから生きていくためにはこちら側に来るしかないの……逃がさないわよ」
「ひ、ひぃ!?」
俺は逃げ出そうとするが、腕を掴まれて逃げられない。
い、嫌だ……。
た、助けてくれぇえええええ!!
誤字報告、感想、いつもありがとうございます。
タロウ君はまだ綺麗なままでした。でも、この日から調教が始まります。次に登場するときは……きっと新しい扉を開いているでしょうww
ラロ姐さんがどんどん大物になっていくww




